第29話:金色の杖
ミケイルから教えられた情報は、不明な点が多い。
サラヴェラスの知らない機能がある、ということははっきりしたが、もうミケイルはいないから、追加で聞くことも難しい。
サラヴェラスは、それそのものに洗脳の機能がある、というのは、やはり間違いないらしい。
しかし、宝石を付け替えたから、なんだというのか。
「・・・・・・というか、なんかバンダッタの状態を知っているのか?」
ミケイルが残していった情報がただしいのかどうか。
ともあれ、
「付け替えをしてみる、と」
宝石を外し、付け替える。
そうして、持ってみる。
「・・・・・・ん」
「どうかしたの?」
「なんか、確かに感覚が変わった気がする」
サラヴェラスを持っているとき、集中力が異常に高まる気はしていた。
だが、今はそうではない。
どちらかというと、注意力が散漫になる気がする。
「・・・・・・んー。まあ、とにかく、やってみよう」
「あいつ、信じられるかい?」
クリシャは、懐疑的だ。
その気持ちはモリヒトにもよくわかる。
だが、
「さて? ベリガルの手だからなあ。たぶん、それでうまくいくような気はしている」
信じていいのか、と言われれば、なんとなく大丈夫な気はする。
他に信じられるものもないし、やってみるしかないだろう。
「・・・・・・ただ、あのフェリが取り込まれていないってのは、なんとなくそうかもしれない、とは思うんだよね」
「どうして?」
「カンみたいなもんだが、気配っていうのかな。バンダッタの中から、割とはっきりとフェリの気配を感じている」
バンダッタは、妙な動きをしていた。
そもそも、フェリが言っていたが、バンダッタは単独で行動していた時、フェリを連れていきはしたが、取り込もうとはしていなかった。
ミケイルの情報と合わせると、今のバンダッタには、フェリは取り込めない、ということだ。
それでも、フェリを内部にさらっていったのは、おそらくハミルトンがそう命令したからではないだろうか。
ハミルトンは、フェリをバンダッタが取り込むことが重要、と思っていたようだし。
「まあ、とにかく、やることは決まったし、バンダッタを追いかけたいな」
「でも、どうするの? 見つける方法がわからないわ」
クルワは、遠くを見ながら言った。
バンダッタの逃げた方向へと追いかけているが、そのままだと、真龍のいる方向へと向かうことになる。
だが、その手前の領域に差し掛かったら、そこからどこに行ったらいいかはわからないだろう。
「・・・・・・まあ、あの領域まで到達したら、真龍のところまで行っちまう方が早いかもしれん」
場所を聞くだけなら、たぶんヤガルも話を聞いてくれそうな気がする。
** ++ **
ふ、と息を吐いて踏み込む。
そして、拳を振るう。
拳は、魔獣の腹へとめり込み、内部を破壊しながら、魔獣を吹き飛ばした。
「ち。数が多いな」
ウェブルストは、周囲を見ながら、部下たちに指示を出す。
精鋭のみ連れてきているが、数の暴力はいかんともしがたい。
「・・・・・・この状況は・・・・・・」
幸い、強い魔獣が来ないからどうにかなっているが、これで少しでも強い魔獣が来るようになると、対応しきれなくなる可能性がある。
「カシラァ! 次、来ます!!」
「おう! まともに相手してんなよ!! やつら、こっちが狙いってわけじゃなさそうだからな!!」
できるだけ、突進の軌道上に入らず、横へと逸らすことを優先する。
魔獣たちは、山の中央部へと向かうことを優先しているようで、あえて進路上に立たなければ、積極的に襲いに来ることもない。
だが、
「正直、面倒なことになっているな」
山の安全状況は、とても悪化してしまっている。
もし、この状況が落ち着いたとして、では、山に到達した魔獣はどうなるか。
『守り手』が復活するのが一番早いだろうが、
「・・・・・・数を減らすより、あのバンダッタとかいうのを倒すのが先か」
あれが生きている限り、『守り手』が狩り続けられるだろう。
ウェブルストは、そう判断した。
実際のところ、バンダッタがどう動くのかは、ハミルトンも死んだ今、どうなるかわからないし、どうなってもおかしくない。
だが、ウェブルストは、まだハミルトンが死んだ情報を得ていない。
「とにかく、お前ら! 今は移動を・・・・・・」
優先しろ、と叫ぼうとしたところで、ウェブルストは三つの人影を認めた。
「モリヒトども!」
「なんだその呼び方・・・・・・」
モリヒト達は、三人で魔獣の流れに沿って山の中央へと向かっていた。
見れば、人数が減っている。
モリヒト達も、ウェブルストへと近寄ってくる。
「あのちっこいのはどうした?」
足りない一人について言及すると、クリシャが悔しそうな顔をした。
「バンダッタに持っていかれた。今は追いかけてる」
「む。取り戻せるのか?」
「たぶん? 手はあるんだが、本当にうまくいくかは、ちょっと確証はない」
モリヒトは、手に握りこんだ金色の杖に目を落としながら言った。
「それは?」
「触んなよ? ある程度は無効化できるけど、触れると洗脳される」
「・・・・・・物騒なものを持っているな」
「俺が作ったんじゃないがね」
それを持てるお前はなんだ、とウェブルストは問いたいが、その疑問は飲み込んだ。
「それで、お前らは・・・・・・」
「バンダッタを追っている」
「この魔獣どもは?」
「山で魔獣を狩ってたミュグラ教団が全滅したっぽい。魔獣が狩られて空いたから、そこを狙って麓の弱い魔獣が大移動しているんだろうさ」
「全滅? そうか」
む、とその情報を飲み込んで、ウェブルストはうなる。
「俺たちは行く。あんたらは?」
「状況が不透明に過ぎる。だが、ミュグラ教団が全滅したというなら・・・・・・」
ウェブルストが考えに沈んだのはほんの数秒。
それから顔を上げて、
「魔獣を狩る。この数の魔獣は、放っておくと妙な被害が出かねない」
「そうかい」
そして、モリヒト達は別れた。
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