第26話:バンダッタの逃走
「フェリ!!」
クリシャが叫ぶ。
だが、フェリの姿はもう見えない。
バンダッタの中へと引きずり込まれ、その奥へと入ってしまった。
「ハミルトン!!」
クリシャが、ハミルトンをにらむが、すでにハミルトンは動かない。
狂った笑みを浮かべたまま、ハミルトンは死んでいた。
「・・・・・・・・・・・・」
クルワが、バンダッタをにらんで、剣を構える。
その先で、バンダッタは、動かず、体の表面を波打たせている。
クリシャは、焦燥のにじんだ顔で、ハミルトンとバンダッタとで視線を行き来させている。
「・・・・・・どこだ?」
モリヒトは、といえば、フェリの行方を追っていた。
触手につかまり、引きずり込まれたフェリの位置だ。
「首より上だったよな?」
「・・・・・・ええ。でも・・・・・・」
「だったら、足先から吹っ飛ばす!!」
バンダッタにとって、フェリを取り込むのは重要なことのようだ。
だとすれば、位置は中央付近じゃないだろうか、とあたりをつける。
「とにかく、吸収される前に中から引きずり出す」
「・・・・・・じゃあ、モリヒトは左」
「おう。じゃあ、クルワは右な」
言い合って、クルワは走りだす。
「―ゼイゲン―
音よ/砕いて/貫け」
魔術の詠唱とともに突き。
狙いは、バンダッタの左足だ。
崩れかけの不定形なバンダッタだ。
足はぐよぐよとしていて、足部分はかなり太い。
だが、目に見えない波の塊を飛ばすイメージで、モリヒトの放った突きは、左足に着弾。
着弾した左足は、大きく波打ち、そして、内側からはじけた。
「よし!」
クルワは、その足元へと踏み込んだ。
そして、振りかぶった刃が炎をまとう。
そこから、交差するように振るわれた刃が、バンダッタの右足を切り裂く。
さらに、傷口が発火。
燃え上がり、傷口を炭化させ、ぼろぼろと崩れていく。
「・・・・・・んー?」
モリヒトは、首を傾げた。
怪訝な顔のモリヒトを見て、
「どうかしたのかい?」
「・・・・・・いや、今・・・・・・」
妙な感覚が、モリヒトの中で発した。
想定していたものとは違う、何かの感覚だ。
「クルワ。もっとやって」
「簡単に、言ってくれるわ!」
言い返しながらも、クルワはさらに飛び回って剣を振るっていく。
その都度、バンダッタの体が、端から順に炭になって崩れていくのだが、
「・・・・・・なんだ? 再生しない?」
バンダッタは、攻撃を入れてもまったくダメージにならない魔獣だった。
攻撃を入れても、不定形のためにそこからすぐに元に戻ってしまう魔獣だった。
だから、多少攻撃を入れたとしても、そこの傷はすぐ治る、と踏んでいた。
だが、クルワが端から削っていって、その分が再生しない。
その結果、だんだんとバンダッタの体が丸くなっていく。
「・・・・・・これ、フェリを取り込んだ影響か?」
「もしかしたら、フェリを助けられるかも」
クリシャは、期待を込めてつぶやくが、モリヒトはそうは思えない。
むしろ、感覚的に、妙に危機感が高まっていく気がした。
「・・・・・・クリシャ。攻撃する。急いで削らないと、なんか危ない気がする」
「うん。わかった!」
クリシャも杖を抜いて、バンダッタにとびかかっていく。
モリヒトも、もう一度武器を構え、魔術の詠唱を始めた。
** ++ **
バンダッタは、ぶよぶよとうごめいていた。
ハミルトンの命令通り、白いモノを取り込んだ。
だが、内側へと引きこんだそれを、どうするべきなのか、バンダッタは迷っていた。
コレを取り込んでしまったら、バンダッタはバンダッタではなくなる気がする。
バンダッタが欲するのは、意思だ。
バンダッタ自身でもそれがなんなのかはわかっていないが、やはり意思を求めている。
だが、白いモノは、取り込んでしまえば、バンダッタは変わってしまう、と感じていた。
コレを、そのまま取り込んではいけない。
そう感じる感覚に、バンダッタは動きを止めていた。
体が削られていくのを感じるが、そこには危機感はない。
ただ、
「・・・・・・」
少し遠くから魔術を撃ってくる存在。
それが、あぶない、とバンダッタは感じる。
だから、バンダッタは体をたわめて、跳んだ。
** ++ **
「あ」
「待て!!」
バンダッタがぐにょり、と歪むと、びょーん、と跳んで行った。
その向きは、山の中央方向だ。
より魔力の濃い領域へと向かったのだろう。
「くそ。逃げられた」
「追わないと!!」
クリシャが、焦って叫ぶが、モリヒトはその手を引いて止める。
「下手に追っても、また逃げられるか、返り討ちにあう」
「でも! フェリが・・・・・・!!」
「それなんだよな」
うーん、とモリヒトは悩む。
バンダッタから、敵意らしいものを感じない。
そして、
「攻撃入れても、魔力的な揺らぎが感じられない」
「どういうこと?」
「・・・・・・わからん。でも、なんだろう? フェリを取り込んでる気配もないんだよな」
モリヒトのそれは、感覚的なもので、正直説明のしようがない。
ただ、
「追いかけても、今のままだとフェリは助けられなさそうな気がする」
「じゃあ、どうするの?!」
クリシャが、叫ぶように問う。
だが、モリヒトに、その答えは返せなかった。
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