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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第26話:バンダッタの逃走

「フェリ!!」

 クリシャが叫ぶ。

 だが、フェリの姿はもう見えない。

 バンダッタの中へと引きずり込まれ、その奥へと入ってしまった。

「ハミルトン!!」

 クリシャが、ハミルトンをにらむが、すでにハミルトンは動かない。

 狂った笑みを浮かべたまま、ハミルトンは死んでいた。

「・・・・・・・・・・・・」

 クルワが、バンダッタをにらんで、剣を構える。

 その先で、バンダッタは、動かず、体の表面を波打たせている。

 クリシャは、焦燥のにじんだ顔で、ハミルトンとバンダッタとで視線を行き来させている。

「・・・・・・どこだ?」

 モリヒトは、といえば、フェリの行方を追っていた。

 触手につかまり、引きずり込まれたフェリの位置だ。

「首より上だったよな?」

「・・・・・・ええ。でも・・・・・・」

「だったら、足先から吹っ飛ばす!!」

 バンダッタにとって、フェリを取り込むのは重要なことのようだ。

 だとすれば、位置は中央付近じゃないだろうか、とあたりをつける。

「とにかく、吸収される前に中から引きずり出す」

「・・・・・・じゃあ、モリヒトは左」

「おう。じゃあ、クルワは右な」

 言い合って、クルワは走りだす。

「―ゼイゲン―

 音よ/砕いて/貫け」

 魔術の詠唱とともに突き。

 狙いは、バンダッタの左足だ。

 崩れかけの不定形なバンダッタだ。

 足はぐよぐよとしていて、足部分はかなり太い。

 だが、目に見えない波の塊を飛ばすイメージで、モリヒトの放った突きは、左足に着弾。

 着弾した左足は、大きく波打ち、そして、内側からはじけた。

「よし!」

 クルワは、その足元へと踏み込んだ。

 そして、振りかぶった刃が炎をまとう。

 そこから、交差するように振るわれた刃が、バンダッタの右足を切り裂く。

 さらに、傷口が発火。

 燃え上がり、傷口を炭化させ、ぼろぼろと崩れていく。

「・・・・・・んー?」

 モリヒトは、首を傾げた。

 怪訝な顔のモリヒトを見て、

「どうかしたのかい?」

「・・・・・・いや、今・・・・・・」

 妙な感覚が、モリヒトの中で発した。

 想定していたものとは違う、何かの感覚だ。

「クルワ。もっとやって」

「簡単に、言ってくれるわ!」

 言い返しながらも、クルワはさらに飛び回って剣を振るっていく。

 その都度、バンダッタの体が、端から順に炭になって崩れていくのだが、

「・・・・・・なんだ? 再生しない?」

 バンダッタは、攻撃を入れてもまったくダメージにならない魔獣だった。

 攻撃を入れても、不定形のためにそこからすぐに元に戻ってしまう魔獣だった。

 だから、多少攻撃を入れたとしても、そこの傷はすぐ治る、と踏んでいた。

 だが、クルワが端から削っていって、その分が再生しない。

 その結果、だんだんとバンダッタの体が丸くなっていく。

「・・・・・・これ、フェリを取り込んだ影響か?」

「もしかしたら、フェリを助けられるかも」

 クリシャは、期待を込めてつぶやくが、モリヒトはそうは思えない。

 むしろ、感覚的に、妙に危機感が高まっていく気がした。

「・・・・・・クリシャ。攻撃する。急いで削らないと、なんか危ない気がする」

「うん。わかった!」

 クリシャも杖を抜いて、バンダッタにとびかかっていく。

 モリヒトも、もう一度武器を構え、魔術の詠唱を始めた。


** ++ **


 バンダッタは、ぶよぶよとうごめいていた。

 ハミルトンの命令通り、白いモノを取り込んだ。

 だが、内側へと引きこんだそれを、どうするべきなのか、バンダッタは迷っていた。

 コレを取り込んでしまったら、バンダッタはバンダッタではなくなる気がする。

 バンダッタが欲するのは、意思だ。

 バンダッタ自身でもそれがなんなのかはわかっていないが、やはり意思を求めている。

 だが、白いモノは、取り込んでしまえば、バンダッタは変わってしまう、と感じていた。

 コレを、そのまま取り込んではいけない。

 そう感じる感覚に、バンダッタは動きを止めていた。

 体が削られていくのを感じるが、そこには危機感はない。

 ただ、

「・・・・・・」

 少し遠くから魔術を撃ってくる存在。

 それが、あぶない、とバンダッタは感じる。

 だから、バンダッタは体をたわめて、跳んだ。


** ++ **


「あ」

「待て!!」

 バンダッタがぐにょり、と歪むと、びょーん、と跳んで行った。

 その向きは、山の中央方向だ。

 より魔力の濃い領域へと向かったのだろう。

「くそ。逃げられた」

「追わないと!!」

 クリシャが、焦って叫ぶが、モリヒトはその手を引いて止める。

「下手に追っても、また逃げられるか、返り討ちにあう」

「でも! フェリが・・・・・・!!」

「それなんだよな」

 うーん、とモリヒトは悩む。

 バンダッタから、敵意らしいものを感じない。

 そして、

「攻撃入れても、魔力的な揺らぎが感じられない」

「どういうこと?」

「・・・・・・わからん。でも、なんだろう? フェリを取り込んでる気配もないんだよな」

 モリヒトのそれは、感覚的なもので、正直説明のしようがない。

 ただ、

「追いかけても、今のままだとフェリは助けられなさそうな気がする」

「じゃあ、どうするの?!」

 クリシャが、叫ぶように問う。

 だが、モリヒトに、その答えは返せなかった。

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よろしくお願いします。


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