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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第25話:魔獣登山

 山を下りようとするモリヒト達は、今足止めを食らっていた。

 モリヒト達にとって予想外だったのは、バンダッタ以外の魔獣の存在だ。

 山にいる魔獣は、軒並みバンダッタの餌になったと思っていた。

 ただ、

「これ、麓の魔獣が、山の魔獣がいなくなったのを察知して移動してきたんだね」

 クリシャの見立てはともかくとして、麓側から、複数の魔獣が登ってくる。

 それを回避しようとしても、行く先行く先、どこに行っても魔獣の姿があった。

「・・・・・・おかしかないか?」

 岩陰に隠れ、様子をうかがいつつ、モリヒトは疑問を口にする。

「何が?」

「魔獣のいる範囲が広すぎる」

 どう移動しても魔獣と行き会うなど、尋常な事態ではない。

「・・・・・・正直、よくわからないね。ボクも、魔獣の生態を全部知っているわけではないし」

「モリヒト。それより、あんまり止まるのもよくないかも」

 クルワが、後ろを見て言う。

「追いかけてきてるか?」

「いいえ。気配は感じない。・・・・・・だけど、何か、雰囲気が変わった感じはあるわ」

「うん?」

 どういうことだろうか、とモリヒトは首をかしげるが、クルワもわからない、と首を振る。

 モリヒトは、あまり変わったことは感じ取れていない。

 周囲は、相変わらず真龍由来の魔力に満ちているし、その流れは、大まかに山の中央、真龍のいる場所から、大陸端へ向かっての放射状の流れのままだ。

「・・・・・・とりあえず、あれらのいくらかを片付ける必要はあるか」

「じゃないと、突破はできなさそうだよね」

 少し前までなら、山の魔獣はミュグラ教団が狩りつくしていた。

 麓から登ってきたものも含めて、すべてだ。

 だが、モリヒト達は知らないことだが、先ほど、ミュグラ教団はすべて集められ、そしてバンダッタによって蹂躙された。

 それにより、今まで魔獣を狩っていた者たちが減り、状況が変わりつつある。

 十日もしていない話だが、状況が大きく変化している。

「・・・・・・よし、とりあえず、適当なところをぶっ飛ばして突破」

 魔術を少し大きめなのを使えば、魔獣を突破するのは難しくないだろう。

「・・・・・・あ」

 そこまで考えたところで、モリヒトはあることに気づいた。

「どうしたんだい?」

「この状況、山に住んでる拾い屋がやばくね?」

「やばいね。でも、ボクらにはどうしようもない」

「手が足りないわ。たぶん、あのウェブルストって人たちが気づいているでしょう」

「そっちに期待するしかないか」

 駆け回ったところで、モリヒト達では、すべてに危機を知らせるのは無理だ。

「それに、拾い屋の小屋は全部魔獣に見つかりづらいようになってるから、中にこもる分には、たぶん安全じゃないかな」

「なるほど」

 よし、とモリヒトは武器を抜く。

「フェリ。大丈夫だな?」

「うん」

「よし、じゃあ、突っ込んで抜ける」

 モリヒト達は、身を隠していた物陰から飛び出した。


** ++ **


 魔獣の群れは、狂暴性は高くない。

 魔力に満ちた空間にいる場合、その空間から吸収できる魔力があるため、魔獣は率先して何かを襲う必要もなくなる。

 だから、先制攻撃だけなら、モリヒト達側からできる、はずだった。

「狂暴性高くねえ?!」

「おかしいねえ」

 モリヒトが、先制で魔術を叩き込んだ。

 威力重視で派手な炎、というか、爆発の魔術だ。

 群れの中央にぶっ放し、魔獣の流れに穴を開けた。

 そこまでは予定通り。

 あとは、開いた穴を通り抜ければ、それで済む、はずだった。

 だが、そうはならなかった。

 開いた穴に向かって、別の魔獣たちが殺到してきたからだ。

 おかげで、穴へ飛び込んだモリヒト達は、周囲を魔獣に囲まれることになった。

「なんでよ!」

「文句言ってもしょうがないよ!」

 モリヒトが思わず叫んだところで、クリシャは杖を振るって魔獣を吹き飛ばす。

 クルワが剣を振るって魔獣を切り払い、モリヒトはとにかく周囲に魔術を放った。

 フェリもまた、自分の体を変化させ、周囲の魔獣を倒している。

 だが、

「・・・・・・なんか、集まってきてないかあ? おい」

 モリヒトの見立て通り、周囲から魔獣が集まってきている。

 明らかに、魔獣の行動原理には合わない行動だ。

「なんでー」

「モリヒト君のせいかなあ」

「なんでー」

「モリヒト君が、魔力を吸収するから、それに惹かれてる?」

「なんでー・・・・・・」

 ここでそれかあ、とモリヒトはうめく。

 とにかく、

「方向がわからん!」

 周りを全部囲まれているため、その中心にいるモリヒトは、方向を見失っている。

 魔力の流れも、周囲の魔獣たちが魔力を使うせいで、しっちゃかめっちゃかになってしまい、流れが見えない。

「クリシャ! 麓はどっちだ?!」

「・・・・・・!」

 クリシャが高く跳躍し、包囲を一時的に抜け出した。

 そして、麓の方角を確認し、

「・・・・・・あっちだ! ・・・・・・けど、悪い知らせだよ!」

「これ以上でか?!」

「ああ、来た!!」

 どん、と轟音が響いた。

 それは、モリヒト達を囲む魔獣の群れの向こうから聞こえた。

 そして、囲みの一角が崩れる。

 外側から、ぶちまけるように粘性のある何かが魔獣たちを絡め取り、引きずり込んだ。

「ち! 時間をかけすぎたか」

 そして、囲みの向こうから、バンダッタが姿を現した。


** ++ **


 バンダッタは、フェリを連れて逃げた時より、さらに巨大化していた。

 もはや、見上げるほどの巨体となっている。

 そのまま、バンダッタは周囲に体を伸ばし、囲んでいる魔獣を捕まえ、取り込んでいく。

「・・・・・・く」

 その度、濃くなる魔力の気配に、モリヒトは呻く。

「・・・・・・逃げれるか?」

「今度は無理だと思うよ?」

 隣に下りて来たクリシャは、険しい顔でバンダッタをにらんでいる。

「大分、強化されてるっぽいわね」

 周りの魔獣が、軒並みバンダッタに食われたおかげで、周りの魔獣は少なくなった。

 だが、バンダッタににらまれて、動けなくなっている。

「顔があるかどうかわからんが」

「ふざけている場合じゃないね」

「冗談でも言いてえよ」

 くそ、とモリヒトは構える。

「・・・・・・足止めしながら、とにかくふもとまで逃げる」

「それしかないね」

 うなづき合い、逃げるための行動に出ようとした。

 その瞬間だった。

「あう」

 ぼごん、とフェリの足元が爆発した。

「あ?」

 誰もが不意を突かれた。

 フェリが、弾き飛ばされる。

「ははは! 見つけましたよ!」

「ハミルトン?!」

 下から現れたのは、顔を半分つぶされたハミルトンだった。

「さあバンダッタ! その餌を食らい、完全な存在になりなさい!!」

 ははは、と狂った笑いを浮かべるハミルトンは、そのまま動かなくなる。

 一方で、弾き飛ばされたフェリは、

「フェリ!」

 モリヒトが手を伸ばすも、届かない。

 そのまま、フェリの体にバンダッタの体から伸びた触手が巻き付いて、

「あ」

 そのまま中へと取り込まれた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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