第25話:魔獣登山
山を下りようとするモリヒト達は、今足止めを食らっていた。
モリヒト達にとって予想外だったのは、バンダッタ以外の魔獣の存在だ。
山にいる魔獣は、軒並みバンダッタの餌になったと思っていた。
ただ、
「これ、麓の魔獣が、山の魔獣がいなくなったのを察知して移動してきたんだね」
クリシャの見立てはともかくとして、麓側から、複数の魔獣が登ってくる。
それを回避しようとしても、行く先行く先、どこに行っても魔獣の姿があった。
「・・・・・・おかしかないか?」
岩陰に隠れ、様子をうかがいつつ、モリヒトは疑問を口にする。
「何が?」
「魔獣のいる範囲が広すぎる」
どう移動しても魔獣と行き会うなど、尋常な事態ではない。
「・・・・・・正直、よくわからないね。ボクも、魔獣の生態を全部知っているわけではないし」
「モリヒト。それより、あんまり止まるのもよくないかも」
クルワが、後ろを見て言う。
「追いかけてきてるか?」
「いいえ。気配は感じない。・・・・・・だけど、何か、雰囲気が変わった感じはあるわ」
「うん?」
どういうことだろうか、とモリヒトは首をかしげるが、クルワもわからない、と首を振る。
モリヒトは、あまり変わったことは感じ取れていない。
周囲は、相変わらず真龍由来の魔力に満ちているし、その流れは、大まかに山の中央、真龍のいる場所から、大陸端へ向かっての放射状の流れのままだ。
「・・・・・・とりあえず、あれらのいくらかを片付ける必要はあるか」
「じゃないと、突破はできなさそうだよね」
少し前までなら、山の魔獣はミュグラ教団が狩りつくしていた。
麓から登ってきたものも含めて、すべてだ。
だが、モリヒト達は知らないことだが、先ほど、ミュグラ教団はすべて集められ、そしてバンダッタによって蹂躙された。
それにより、今まで魔獣を狩っていた者たちが減り、状況が変わりつつある。
十日もしていない話だが、状況が大きく変化している。
「・・・・・・よし、とりあえず、適当なところをぶっ飛ばして突破」
魔術を少し大きめなのを使えば、魔獣を突破するのは難しくないだろう。
「・・・・・・あ」
そこまで考えたところで、モリヒトはあることに気づいた。
「どうしたんだい?」
「この状況、山に住んでる拾い屋がやばくね?」
「やばいね。でも、ボクらにはどうしようもない」
「手が足りないわ。たぶん、あのウェブルストって人たちが気づいているでしょう」
「そっちに期待するしかないか」
駆け回ったところで、モリヒト達では、すべてに危機を知らせるのは無理だ。
「それに、拾い屋の小屋は全部魔獣に見つかりづらいようになってるから、中にこもる分には、たぶん安全じゃないかな」
「なるほど」
よし、とモリヒトは武器を抜く。
「フェリ。大丈夫だな?」
「うん」
「よし、じゃあ、突っ込んで抜ける」
モリヒト達は、身を隠していた物陰から飛び出した。
** ++ **
魔獣の群れは、狂暴性は高くない。
魔力に満ちた空間にいる場合、その空間から吸収できる魔力があるため、魔獣は率先して何かを襲う必要もなくなる。
だから、先制攻撃だけなら、モリヒト達側からできる、はずだった。
「狂暴性高くねえ?!」
「おかしいねえ」
モリヒトが、先制で魔術を叩き込んだ。
威力重視で派手な炎、というか、爆発の魔術だ。
群れの中央にぶっ放し、魔獣の流れに穴を開けた。
そこまでは予定通り。
あとは、開いた穴を通り抜ければ、それで済む、はずだった。
だが、そうはならなかった。
開いた穴に向かって、別の魔獣たちが殺到してきたからだ。
おかげで、穴へ飛び込んだモリヒト達は、周囲を魔獣に囲まれることになった。
「なんでよ!」
「文句言ってもしょうがないよ!」
モリヒトが思わず叫んだところで、クリシャは杖を振るって魔獣を吹き飛ばす。
クルワが剣を振るって魔獣を切り払い、モリヒトはとにかく周囲に魔術を放った。
フェリもまた、自分の体を変化させ、周囲の魔獣を倒している。
だが、
「・・・・・・なんか、集まってきてないかあ? おい」
モリヒトの見立て通り、周囲から魔獣が集まってきている。
明らかに、魔獣の行動原理には合わない行動だ。
「なんでー」
「モリヒト君のせいかなあ」
「なんでー」
「モリヒト君が、魔力を吸収するから、それに惹かれてる?」
「なんでー・・・・・・」
ここでそれかあ、とモリヒトはうめく。
とにかく、
「方向がわからん!」
周りを全部囲まれているため、その中心にいるモリヒトは、方向を見失っている。
魔力の流れも、周囲の魔獣たちが魔力を使うせいで、しっちゃかめっちゃかになってしまい、流れが見えない。
「クリシャ! 麓はどっちだ?!」
「・・・・・・!」
クリシャが高く跳躍し、包囲を一時的に抜け出した。
そして、麓の方角を確認し、
「・・・・・・あっちだ! ・・・・・・けど、悪い知らせだよ!」
「これ以上でか?!」
「ああ、来た!!」
どん、と轟音が響いた。
それは、モリヒト達を囲む魔獣の群れの向こうから聞こえた。
そして、囲みの一角が崩れる。
外側から、ぶちまけるように粘性のある何かが魔獣たちを絡め取り、引きずり込んだ。
「ち! 時間をかけすぎたか」
そして、囲みの向こうから、バンダッタが姿を現した。
** ++ **
バンダッタは、フェリを連れて逃げた時より、さらに巨大化していた。
もはや、見上げるほどの巨体となっている。
そのまま、バンダッタは周囲に体を伸ばし、囲んでいる魔獣を捕まえ、取り込んでいく。
「・・・・・・く」
その度、濃くなる魔力の気配に、モリヒトは呻く。
「・・・・・・逃げれるか?」
「今度は無理だと思うよ?」
隣に下りて来たクリシャは、険しい顔でバンダッタをにらんでいる。
「大分、強化されてるっぽいわね」
周りの魔獣が、軒並みバンダッタに食われたおかげで、周りの魔獣は少なくなった。
だが、バンダッタににらまれて、動けなくなっている。
「顔があるかどうかわからんが」
「ふざけている場合じゃないね」
「冗談でも言いてえよ」
くそ、とモリヒトは構える。
「・・・・・・足止めしながら、とにかくふもとまで逃げる」
「それしかないね」
うなづき合い、逃げるための行動に出ようとした。
その瞬間だった。
「あう」
ぼごん、とフェリの足元が爆発した。
「あ?」
誰もが不意を突かれた。
フェリが、弾き飛ばされる。
「ははは! 見つけましたよ!」
「ハミルトン?!」
下から現れたのは、顔を半分つぶされたハミルトンだった。
「さあバンダッタ! その餌を食らい、完全な存在になりなさい!!」
ははは、と狂った笑いを浮かべるハミルトンは、そのまま動かなくなる。
一方で、弾き飛ばされたフェリは、
「フェリ!」
モリヒトが手を伸ばすも、届かない。
そのまま、フェリの体にバンダッタの体から伸びた触手が巻き付いて、
「あ」
そのまま中へと取り込まれた。
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