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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第24話:血まみれではない跡地

 ソレは、意思を求めている。

 目的はある。真龍を殺すため、作られた目的が。

 欲求はある。魔獣としての生存本能が。

 名前はある。バンダッタ、と名付けられた。

 だが、意思はない。

 その内側には、無数の遺思が残っている。


** ++ **


 バンダッタの作成方法は、フェリのそれと似ている。

 フェリは、色付きの子供をベースとして、様々な魔獣を混ぜ合わせて作られた。

 地脈の中を流れる高濃度な魔力の奔流は、真龍付近の高濃度領域とは異なる性質を持っている。

 わかりやすく言うと、この奔流にさらされた存在は、魔力として溶ける。

 オルクト魔帝国の研究では、この現象こそ、真龍によってこの世界が作り出された証拠である、としている学説もある。

 どんな存在でも魔力になるなら、真龍から生み出される魔力こそ、世界の始まりである、という考え方だ。

 この考えが正しいかどうかはともかく、高濃度の魔力を高速に流している場所では、ありとあらゆるものが魔力へと変化してしまう。

 フェリは、この状態を利用して作成されたものだ。

 魔力の濃い領域を作り出し、その内部で魔力を加速させる。

 その状態で、魔力が外に出ないようにすると、まるで魔力の渦のようなものが出来上がる。

 あとは、ひたすらに材料をその魔力の渦の中へと放り込む。

 この繰り返しである。

 これらによって、魔力の総量が飽和したとき、そこに何かが生まれる。

 フェリは、そうして生まれたものだ。

 フェリやバンダッタは、そうして生まれたものだ。

 フェリは、いつからフェリになったのかは覚えていない。

 自分の体ができる前から、フェリにはフェリの意識があった。

 バンダッタはどうか、といえば、それはない。

 フェリとバンダッタの違いは、素材の質だろう。

 フェリの素材として選ばれたのは、すべて色付きの人間である。

 一方で、バンダッタは、素材が選別されていない。

 魔力を多少でも持っていれば、とりあえず放り込まれたものだ。

 この差が、フェリとバンダッタの差を生んだ。

 フェリとちがい、バンダッタには、個の意識が存在しない。

 だから、命令に従う。

 ハミルトンが放つ命令も、断る理由がないのだから、受ければいい。

 ハミルトンは、理解していない。

 バンダッタが、なぜハミルトンの命令を理解できるのか、ということを。

 ハミルトンは、ベリガル・アジンから受け取った理論をもとに作り出した理論で、フェリとバンダッタを生み出した。

 正確に言えば、バンダッタは、ハミルトンが生み出したものだが、フェリに行った材料の選別は、ベリガル・アジンからの助言を受けて行ったものだ。

 だから、ハミルトンの中では、バンダッタよりフェリの方が価値は低い。

 ただ、仕込みはある。

 実体を持ち始めたあたりから、フェリは素材の吸収ができなくなり、バンダッタはその肉体を不安定なスライム状にすることで、ありとあらゆるものを吸収するようになった。

 さらに、バンダッタは、その肉体をいくつかに分割し、他で吸収したものも、一つに統合する段階ですべて吸収することがわかった。

 だから、ハミルトンはバンダッタを分割し、大陸中の支部に分配、素材の吸収を進めさせ、定期的に統合する、ということを繰り返した。

 その最中に、サラヴェラスのような意識を操作するタイプの魔術具を作り、バンダッタに埋め込むことで、バンダッタに命令が通じるようにした。


** ++ **


 バンダッタは、ぼう、としている。

 その足元には、若紫色の山肌がある。

 先ほどまで、ここでは蹂躙があった。

 ミュグラ教団の教団員たちを、バンダッタが残さず叩き潰していたのだ。

 だが、その痕跡は、今はない。

 せいぜいで、地面の数か所にへこみや傷があるくらいだ。

 あった遺体は、すべてバンダッタが吸収してしまった。

 そして、バンダッタは動く。

 目指す先は、モリヒト達が逃げた方向。

 フェリだ。


** ++ **


 ウェブルストが率いる赤熱の轟天団が、その場に到着したとき、すべては終わっていた。

 ミュグラ教団がバンダッタによって蹂躙された痕跡はすでに消え、バンダッタも姿を消している。

「・・・・・・むう」

 万全の準備を整えていたウェブルストはうなる。

 準備が無駄になったことではない。

 バンダッタの危険性を理解したからだ。

「偵察はもう出せんな。危険すぎる」

「カシラ」

「オレが直接出る。上の奴だけ選別して、魔力量が高いやつは下がらせろ。周辺の拾い屋に警告。それと、ふもとの街にもな」

「へい!」

 ウェブルストはしゃがみこみ、地面にできたへこみに手を添える。

「・・・・・・・・・・・・オレが、この一撃を出そうと思えば・・・・・・」

 ウェブルストは、己が鍛え上げてきた武術の知識に照らし合わせて、地面に与えられた衝撃を計算する。

 その一撃は、

「・・・・・・街壁くらいなら、軽く粉砕するな」

 もし、街に侵攻すれば、止めるすべはないだろう。

「仕留める。追うぞ」

 ウェブルストは、走り出す。


** ++ **


 ぼこり、と地面が動いた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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