第24話:血まみれではない跡地
ソレは、意思を求めている。
目的はある。真龍を殺すため、作られた目的が。
欲求はある。魔獣としての生存本能が。
名前はある。バンダッタ、と名付けられた。
だが、意思はない。
その内側には、無数の遺思が残っている。
** ++ **
バンダッタの作成方法は、フェリのそれと似ている。
フェリは、色付きの子供をベースとして、様々な魔獣を混ぜ合わせて作られた。
地脈の中を流れる高濃度な魔力の奔流は、真龍付近の高濃度領域とは異なる性質を持っている。
わかりやすく言うと、この奔流にさらされた存在は、魔力として溶ける。
オルクト魔帝国の研究では、この現象こそ、真龍によってこの世界が作り出された証拠である、としている学説もある。
どんな存在でも魔力になるなら、真龍から生み出される魔力こそ、世界の始まりである、という考え方だ。
この考えが正しいかどうかはともかく、高濃度の魔力を高速に流している場所では、ありとあらゆるものが魔力へと変化してしまう。
フェリは、この状態を利用して作成されたものだ。
魔力の濃い領域を作り出し、その内部で魔力を加速させる。
その状態で、魔力が外に出ないようにすると、まるで魔力の渦のようなものが出来上がる。
あとは、ひたすらに材料をその魔力の渦の中へと放り込む。
この繰り返しである。
これらによって、魔力の総量が飽和したとき、そこに何かが生まれる。
フェリは、そうして生まれたものだ。
フェリやバンダッタは、そうして生まれたものだ。
フェリは、いつからフェリになったのかは覚えていない。
自分の体ができる前から、フェリにはフェリの意識があった。
バンダッタはどうか、といえば、それはない。
フェリとバンダッタの違いは、素材の質だろう。
フェリの素材として選ばれたのは、すべて色付きの人間である。
一方で、バンダッタは、素材が選別されていない。
魔力を多少でも持っていれば、とりあえず放り込まれたものだ。
この差が、フェリとバンダッタの差を生んだ。
フェリとちがい、バンダッタには、個の意識が存在しない。
だから、命令に従う。
ハミルトンが放つ命令も、断る理由がないのだから、受ければいい。
ハミルトンは、理解していない。
バンダッタが、なぜハミルトンの命令を理解できるのか、ということを。
ハミルトンは、ベリガル・アジンから受け取った理論をもとに作り出した理論で、フェリとバンダッタを生み出した。
正確に言えば、バンダッタは、ハミルトンが生み出したものだが、フェリに行った材料の選別は、ベリガル・アジンからの助言を受けて行ったものだ。
だから、ハミルトンの中では、バンダッタよりフェリの方が価値は低い。
ただ、仕込みはある。
実体を持ち始めたあたりから、フェリは素材の吸収ができなくなり、バンダッタはその肉体を不安定なスライム状にすることで、ありとあらゆるものを吸収するようになった。
さらに、バンダッタは、その肉体をいくつかに分割し、他で吸収したものも、一つに統合する段階ですべて吸収することがわかった。
だから、ハミルトンはバンダッタを分割し、大陸中の支部に分配、素材の吸収を進めさせ、定期的に統合する、ということを繰り返した。
その最中に、サラヴェラスのような意識を操作するタイプの魔術具を作り、バンダッタに埋め込むことで、バンダッタに命令が通じるようにした。
** ++ **
バンダッタは、ぼう、としている。
その足元には、若紫色の山肌がある。
先ほどまで、ここでは蹂躙があった。
ミュグラ教団の教団員たちを、バンダッタが残さず叩き潰していたのだ。
だが、その痕跡は、今はない。
せいぜいで、地面の数か所にへこみや傷があるくらいだ。
あった遺体は、すべてバンダッタが吸収してしまった。
そして、バンダッタは動く。
目指す先は、モリヒト達が逃げた方向。
フェリだ。
** ++ **
ウェブルストが率いる赤熱の轟天団が、その場に到着したとき、すべては終わっていた。
ミュグラ教団がバンダッタによって蹂躙された痕跡はすでに消え、バンダッタも姿を消している。
「・・・・・・むう」
万全の準備を整えていたウェブルストはうなる。
準備が無駄になったことではない。
バンダッタの危険性を理解したからだ。
「偵察はもう出せんな。危険すぎる」
「カシラ」
「オレが直接出る。上の奴だけ選別して、魔力量が高いやつは下がらせろ。周辺の拾い屋に警告。それと、ふもとの街にもな」
「へい!」
ウェブルストはしゃがみこみ、地面にできたへこみに手を添える。
「・・・・・・・・・・・・オレが、この一撃を出そうと思えば・・・・・・」
ウェブルストは、己が鍛え上げてきた武術の知識に照らし合わせて、地面に与えられた衝撃を計算する。
その一撃は、
「・・・・・・街壁くらいなら、軽く粉砕するな」
もし、街に侵攻すれば、止めるすべはないだろう。
「仕留める。追うぞ」
ウェブルストは、走り出す。
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ぼこり、と地面が動いた。
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