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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第21話:通信

「という感じらしい」

 街の近くの夜の森の中。

 暗闇の中に焚火の明かりがある。

 その焚火に照らされて、一人の巨漢がいた。

 ミケイルだ。

 焚火には、串に刺したなにがしかの肉が当てられており、時折油のはじける音がする。

「・・・・・・」

 調子を見つつ、手元に会った壺から、調味料を一つまみ、それぞれの肉へと振りかける。

「・・・・・・ああ?」

 ミケイルは、不意に耳元へと意識を寄せた。

 肩と首で挟んでいた、板状の物体を手で取る。

「いや、そういう感じじゃなかったな」

 ミケイルは今、手に持った魔術具を使って、とある人物と通話状態にあった。

「ふん。情報だろ? 抜いてある。慣れたもんさ。アンタの仕事はな」

 いつものことじゃねえか、と傍らの荷物を見る。

 そこには、この大陸のミュグラ教団に保存されている、様々な研究資料、その写しがまとめられていた。

 ヴェルミオン大陸にいたときから、この手の仕事はミケイルの仕事としては時折あった。

 その依頼主は、常に同じ人物だ。

 ベリガル・アジンである。

〈しかし、やはり想定を超えないな。そちらは〉

「俺が、ここに来る必要あったのか?」

 ミケイルが、カラジオル大陸に来たのは、ヴェルミオン大陸での手配が厳しくなったため、そのほとぼりを冷ますため、という理由がある。

 だがそれは表向きの理由で、真実は、ベリガル・アジンの密命を受けての移動である。

〈何か不満でも?〉

「強いやつがすくねえ。こっちで強いやつは、下手にケンカ売ると、面倒なことになるしな」

 ヴェルミオン大陸は、なんだかんだ言ったところで、時折国家間の戦争が起こることがある。

 その分、対人でもなんでも、戦闘の機会は多い。

 また、オルクト魔帝国側では、魔獣のレベルが平均して高い。

 これは、おそらく地脈に干渉をしているための影響だろう。

 瘤の被害も多く、強い相手には事欠かない。

 一方で、カラジオル大陸は、そうでもない。

 まず、国家間の紛争がほぼない。

 また、それほど強い魔獣もいない。

 そもそも、魔獣のいる場所に踏み込む理由がないため、魔獣相手の戦いがそれほど発生しない。

「総じて、こっちは平和だよ」

〈知っているとも。正直、様々なことの研究も遅れていて、うまみの少ない土地だ〉

「だったら、なんで俺をこっちへ送ったんだよ?」

〈他に仕事がなかったからだが? 遊ばせておくには、惜しいのでな〉

 ベリガルの返事はそっけない。

「結局、いいように使われてるってことかよ。俺も」

〈いい骨休めにはなっただろう〉

 け、とミケイルは吐き捨てる。

「じゃあ、もしかして、あれか? アンタ、こっちにあいつが来ること知っていたのか?」

〈アイツ? 誰のことかね?〉

「モリヒトだよ」

〈・・・・・・・・・・・・〉

 ミケイルがその名を告げた途端、ベリガルからの返事が途絶えた。

「おい? どうした?」

〈・・・・・・それは、本物か?〉

「少なくとも、見た目と能力はな」

〈・・・・・・〉

 しばらく、ベリガルは何事かを考え込んでいるのか、沈黙を保っていた。

 その間に、焼いていた肉をミケイルは食いちぎる。

 脂身の少ない、肉の味の強い肉だ。

 近くで狩ったばかりの獣の肉だが、それほどクセもなく、うまい。

「・・・・・・なあ、おいオッサンよ」

〈何かね?〉

「こっちのやつらの目的、真龍を殺すってやつよ。可能なのか?」

〈不可能だ〉

 即答だった。

 だからこそ、ミケイルは眉をしかめる。

「あの方法、アンタが教えたんじゃなかったか?」

〈そうだ。だが、最強の魔獣の作り方、であって、真龍の殺し方、などではない〉

 ベリガルが教えたのは、魔獣を際限なく強化する理論だ。

 とはいえ、

〈いずれ制御できなくなる。それがわかり切っていたため、こちらでは試せなかったやり方だ。それを、代わりにやってデータをとれる、となれば、教えて損はないだろう?〉

 その結果、何人死んだところで構わない、という言い方だ。

 ベリガル・アジンは、そういう研究者だ、とわかっていても、へどが出る。

 へ、と吐き捨てるミケイルは、ふと思い出した。

「おい、そういえばよ。俺、アレに一回食われてるんだが」

〈食われたか。・・・・・・なるほど、それで人型か〉

「どういうことだよ?」

〈おそらく、お前の体の術式情報を吸収して、自分に適応しているのだろう〉

「なんか変わるのか?」

〈魔獣としての厄介さが変わる〉

「強くなる、と」

〈いや、逆だ。弱くなる〉

「あ?」

 自分の情報を取られて、それで弱くなる、というのは、納得のいかないことだ。

「どういうことだ?」

〈お前の術式を読み込んだのだとすれば、バンダッタの身体情報が強化されすぎる。・・・・・・そうなれば、バンダッタの特性である捕食吸収の能力が低下する〉

「つまり、何でもかんでも食えなくなる、と?」

〈魔獣ならばどうにかなるだろう。無機物もまあ、大丈夫か。だが、自力で魔術を使えるレベルの生物は、もはや食えまい〉

 それは、もう弱体化どころの話ではない気がする。

 ミケイルとしても、真龍というものを殺すには、単純な力では無理だと思う。

 あれは、世界の仕組みそのものだ。

 それを殺すには、世界の仕組みを壊す何かが櫃四津あ。

 今、この世界で一番それに近いのは、『竜殺しの大祭』ではないだろうか。

 だからこそ、ベリガル・アジンはヴェルミオン大陸にいるのだと思っている。

「・・・・・・で? こうして連絡してきたってことは、何か指示があるんだろう?」

 ミケイルは、問う。

 今回のこの通信は、ベリガルの方から来たものだ。

 無駄なことで連絡をしてくる存在ではない。

〈そうだな。前回の調査で知ったことがある。それを試してほしい〉

「なんだよ?」

〈それは・・・・・・〉

 しばらく、黙って話を聞いた後、ミケイルは思い切り顔をしかめた。

「めんどうくせえ」

〈できる範囲でよいとも〉

「・・・・・・正直、片方はきついかもしれん。材料が、俺の手の入るところにない」

 それから、いくらかの現状の相談を終え、指示を受ける。

「・・・・・・なるほど。わかった」

 ミケイルは、頷いた。

〈あとは、うまく使うことだ〉

 そうして、通信は切れた。

 用をなさなくなった魔術具をしまい込む。

 大陸間で通信ができる魔術具など、おそらくはベリガルしか持っていないもの。

 誰もが欲しがるものだろう。

 どうやって作ったのか。どういう仕組みなのか。

 それはベリガルしか知らない。

「・・・・・・ち」

 その存在を知らされるくらいには、重用されている。

 一方で、知ってしまっているからには、逃げられない。

「・・・・・・まあ、やるか」

 食事を終え、ミケイルは立ち上がる。

 行く先は、山だ。

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よろしくお願いします。


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