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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第19話:すんなりとはいかない

 剣を振るう、という動作は、とても簡単だとモリヒトは思う。

 たぶん、素人だからだ。

 ただ、金属の棒きれを、右に左に振り回すだけなのだから。

 魔術を放つ、ということは、とても簡単だとモリヒトは思う。

 そこそこ使いこなせている、と自惚れでなければそう思う。

 イメージをしっかりと固めていれば、適当な詠唱でもどうにかなる。

 モリヒトは、体質のこともあるおかげか、魔力に対する親和性も高い。

 それが理由かはともかく、魔術のイメージで、狙いを外したことは一度もない。

「さて・・・・・・」

 だからこそ、モリヒトは、戸惑っていた。

 モリヒトにとって、魔術は、ルイホウに教わった時から、なんとなく使えていたものだ。

 身体強化魔術で自爆じみたことをしてしまったことはあるが、それでも問題なく使えている。

 そんなモリヒトが、今、魔術でできないことがある。

 自分の中の魔力の流れを感じ取り、その違和感をたどる。

 一つ目に、サラヴェラスは邪魔だった。

 内部に魔術具としての機能も持つためか、奇妙に魔力の流れを捻じ曲げてくる。

 だから、放り捨てる。

 発動体自体が、少々魔力を吸っているように感じるが、言われてみればそんな気もする、という程度で、大まかな流れをつかむには邪魔にはならない。

 必要なのは、自分の体の中から出て、どこかへとつながっている流れだ。

 モリヒトの予想では、その流れの先に、モリヒトのウェキアスがある。

「ようし」

 ふん、と気合を入れて、イメージを強くする。

「ようし」

 自分の中から、魔力の糸が外へつながっているのを感じる。

 それを、静かに、確実に手繰る。

 急ぐと、途中でふつ、と切れてしまうから、ゆっくりと、確実に、だ。

「・・・・・・・・・・・・」

 目を閉じて、集中して、ゆっくりと。

 そして、

「分かれてる」

 もしかしたら、と思っていたことではあった。

 だが、糸のつながる先が、二股に分かれている。

「・・・・・・ああ、そういうことなんだな」

 そのつながる先をそれぞれに感じて、モリヒトは、納得した。


** ++ **


 クリシャは、筋肉の一団、もとい、赤熱の轟天団と別れて、山を登っていた。

 もうすぐ、『守り手』の領域にさしかかる。

 そんなときだった。

「なるほど。すんなりとはいかないね」

 困った、という表情をしながらも、クリシャは杖を抜く。

「おやおや。こんなところで会えるとは」

「なんでここにいるのかな?」

 ハミルトンが、そこにいた。


** ++ **


 ウェブルストは、山中に設営された轟天団の拠点に戻り、報告を受けていた。

「そうか」

 見失った、と斥候の面々は言う。

 ミュグラ教団のことだ。

 バンダッタは、とても目立つはずだが、目撃情報が少なくなっているらしい。

 もともと、『守り手』の領域の奥地の偵察は困難ではある。

 だが、それにしても、痕跡すら消えているのはどういうことか。

「魔獣自体が、狩りつくされたか?」

 魔獣は、決して無尽蔵に発生するものではない。

 魔獣の多くは、もともといた動物が、魔力によって変質したものだ。

 だから、狩りすぎれば、減ることもあり得る。

「・・・・・・最後の目撃地点は?」

「ここから、西に数キロ、というところです」

 ウェブルストは、しばし考えて、

「移動だ。戦力を動かせ」

「は。西ですか?」

「いや、『守り手』の領域近くに陣取る。姿が見えなくなったってことは、やつらの目的が最終に近づいているってことかもしれん」

「なるほど」

 指示を出された轟天団は、あわただしく動き出した。


** ++ **


 クリシャが杖を抜いているのを見て、ハミルトンは、大げさなまでに肩をすくめ、ため息を吐いた。

 そのわざとらしい態度に、クリシャは眉を顰める。

 そして、周囲を見回し、

「あの、悪趣味な魔獣はどうしたんだい?」

「はて? 何のことでしょうか」

 くっくっく、とハミルトンは笑う。

「まあ、安心してください。貴女は、アレの目標ではありませんから」

 それがなんだというんだろうか、とクリシャは思う。

 目の前にいるこの不審な男が、フェリにとっての危険人物であることは変わらない。

 だったら、

「ぶっ飛ばしておこう」

 とりあえず、それでいいと思う。

「物騒ですね」

 クリシャが杖を振り、放たれた魔弾ははじかれた。

「・・・・・・」

 クリシャは、いぶかしむ。

 ハミルトンは、詠唱のようなものはしていない。

 だとすると、

「魔術具?」

「もちろんですとも。自衛の術もなく、こんなところにくるわけもありません」

 ふふふ、とハミルトンは笑う。

 クリシャが、杖を振る。

 その度、見えない壁が、見えない魔弾をはじく。

 その音と衝撃だけが、数度響く。

「なるほど」

 ふうん、とうなづくと、クリシャは後ろへと下がった。

「何かしようとしているってわけだ」

「ふ。まあ、そういうことです」

 ハミルトンは、にやりと笑うのだった。


** ++ **


 モリヒトは、糸の端を見つけていた。

 そして、その端へと手を伸ばそうとして、

「あ?」

 どん、と衝撃があった。

 それは、重量のあるものが、上から降ってきたことによるものだ。

「・・・・・・なんだと?」

 それは、不定形の魔獣であった。

 それは、モリヒトより、フェリに近いところに落ちた。

 そして、クルワが反応するより早く、

「フェリ!」

 にゅるり、と伸びたバンダッタの体の一部が、フェリの体へと巻き付いた。

 そのまま、どん、と再度の衝撃が起こり、

「・・・・・・くそ」

 魔力のない領域から外へと飛び出たモリヒトが見たときには、フェリは連れ去られた後だった。

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よろしくお願いします。


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