第19話:すんなりとはいかない
剣を振るう、という動作は、とても簡単だとモリヒトは思う。
たぶん、素人だからだ。
ただ、金属の棒きれを、右に左に振り回すだけなのだから。
魔術を放つ、ということは、とても簡単だとモリヒトは思う。
そこそこ使いこなせている、と自惚れでなければそう思う。
イメージをしっかりと固めていれば、適当な詠唱でもどうにかなる。
モリヒトは、体質のこともあるおかげか、魔力に対する親和性も高い。
それが理由かはともかく、魔術のイメージで、狙いを外したことは一度もない。
「さて・・・・・・」
だからこそ、モリヒトは、戸惑っていた。
モリヒトにとって、魔術は、ルイホウに教わった時から、なんとなく使えていたものだ。
身体強化魔術で自爆じみたことをしてしまったことはあるが、それでも問題なく使えている。
そんなモリヒトが、今、魔術でできないことがある。
自分の中の魔力の流れを感じ取り、その違和感をたどる。
一つ目に、サラヴェラスは邪魔だった。
内部に魔術具としての機能も持つためか、奇妙に魔力の流れを捻じ曲げてくる。
だから、放り捨てる。
発動体自体が、少々魔力を吸っているように感じるが、言われてみればそんな気もする、という程度で、大まかな流れをつかむには邪魔にはならない。
必要なのは、自分の体の中から出て、どこかへとつながっている流れだ。
モリヒトの予想では、その流れの先に、モリヒトのウェキアスがある。
「ようし」
ふん、と気合を入れて、イメージを強くする。
「ようし」
自分の中から、魔力の糸が外へつながっているのを感じる。
それを、静かに、確実に手繰る。
急ぐと、途中でふつ、と切れてしまうから、ゆっくりと、確実に、だ。
「・・・・・・・・・・・・」
目を閉じて、集中して、ゆっくりと。
そして、
「分かれてる」
もしかしたら、と思っていたことではあった。
だが、糸のつながる先が、二股に分かれている。
「・・・・・・ああ、そういうことなんだな」
そのつながる先をそれぞれに感じて、モリヒトは、納得した。
** ++ **
クリシャは、筋肉の一団、もとい、赤熱の轟天団と別れて、山を登っていた。
もうすぐ、『守り手』の領域にさしかかる。
そんなときだった。
「なるほど。すんなりとはいかないね」
困った、という表情をしながらも、クリシャは杖を抜く。
「おやおや。こんなところで会えるとは」
「なんでここにいるのかな?」
ハミルトンが、そこにいた。
** ++ **
ウェブルストは、山中に設営された轟天団の拠点に戻り、報告を受けていた。
「そうか」
見失った、と斥候の面々は言う。
ミュグラ教団のことだ。
バンダッタは、とても目立つはずだが、目撃情報が少なくなっているらしい。
もともと、『守り手』の領域の奥地の偵察は困難ではある。
だが、それにしても、痕跡すら消えているのはどういうことか。
「魔獣自体が、狩りつくされたか?」
魔獣は、決して無尽蔵に発生するものではない。
魔獣の多くは、もともといた動物が、魔力によって変質したものだ。
だから、狩りすぎれば、減ることもあり得る。
「・・・・・・最後の目撃地点は?」
「ここから、西に数キロ、というところです」
ウェブルストは、しばし考えて、
「移動だ。戦力を動かせ」
「は。西ですか?」
「いや、『守り手』の領域近くに陣取る。姿が見えなくなったってことは、やつらの目的が最終に近づいているってことかもしれん」
「なるほど」
指示を出された轟天団は、あわただしく動き出した。
** ++ **
クリシャが杖を抜いているのを見て、ハミルトンは、大げさなまでに肩をすくめ、ため息を吐いた。
そのわざとらしい態度に、クリシャは眉を顰める。
そして、周囲を見回し、
「あの、悪趣味な魔獣はどうしたんだい?」
「はて? 何のことでしょうか」
くっくっく、とハミルトンは笑う。
「まあ、安心してください。貴女は、アレの目標ではありませんから」
それがなんだというんだろうか、とクリシャは思う。
目の前にいるこの不審な男が、フェリにとっての危険人物であることは変わらない。
だったら、
「ぶっ飛ばしておこう」
とりあえず、それでいいと思う。
「物騒ですね」
クリシャが杖を振り、放たれた魔弾ははじかれた。
「・・・・・・」
クリシャは、いぶかしむ。
ハミルトンは、詠唱のようなものはしていない。
だとすると、
「魔術具?」
「もちろんですとも。自衛の術もなく、こんなところにくるわけもありません」
ふふふ、とハミルトンは笑う。
クリシャが、杖を振る。
その度、見えない壁が、見えない魔弾をはじく。
その音と衝撃だけが、数度響く。
「なるほど」
ふうん、とうなづくと、クリシャは後ろへと下がった。
「何かしようとしているってわけだ」
「ふ。まあ、そういうことです」
ハミルトンは、にやりと笑うのだった。
** ++ **
モリヒトは、糸の端を見つけていた。
そして、その端へと手を伸ばそうとして、
「あ?」
どん、と衝撃があった。
それは、重量のあるものが、上から降ってきたことによるものだ。
「・・・・・・なんだと?」
それは、不定形の魔獣であった。
それは、モリヒトより、フェリに近いところに落ちた。
そして、クルワが反応するより早く、
「フェリ!」
にゅるり、と伸びたバンダッタの体の一部が、フェリの体へと巻き付いた。
そのまま、どん、と再度の衝撃が起こり、
「・・・・・・くそ」
魔力のない領域から外へと飛び出たモリヒトが見たときには、フェリは連れ去られた後だった。
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
DE&FP&MA⇒MS
https://ncode.syosetu.com/n1890if/