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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第18話:魔力のない領域

 かつての『守り手』の領域の一歩手前。

 そこで、ウェブルストとは別れた。

 遠くの空に、真龍の巨体が見える。

 それは、変わらず、不動のものとしてそこにあった。

「・・・・・・行くか」

 領域に踏み込み、その先へと進む。

 以前は『守り手』が襲い掛かってきたが、今回は静かだ。

「・・・・・・ヤガルと会ったからか。この辺にもう『守り手』はいないのか・・・・・・」

「両方じゃないかしら?」

 クルワのいう通り、ではあるのだろう。

 もしかしたら、『守り手』がいたら、顔くらいは出したかもしれない、などと、ちょっと冗談交じりに考えつつ、モリヒトは歩く。

「・・・・・・ここからだな」

 そして、ある程度進んだところで、その先の領域がおかしいことに気づいた。

 よく見ると、遠くが歪んで、その歪んだ景色の向こうに真龍の体が見える。

「・・・・・・・・・・・・」

 モリヒトは、目を閉じる。

 イメージは、たどり着くこと。

「よし」

 イメージは固まった。

 モリヒトは、前へと進む。


** ++ **


「おや、また来たか」

 ヤガル・ベルトラシュは、変わらずモリヒト達を出迎えた。

 それほど、歩かずにここまでたどり着けたところで、モリヒトはのんきに歩く。

「おう。ちょっと来た」

「ふむ。・・・・・・何か、聞きたいことでも?」

「いや、ぶっちゃけ聞くことはない」

 ない、というか、

「どっちかというと、ここをちょっと利用させてほしいんだ」

 正確には、

「頼んだら、ちょっと用意してくれるか?」

「ふむ? まあ、面倒なものでなければ」

 やろうと思えば、おそらくなんでもできるであろう真龍が、面倒でなければ、という。

 そんなことを頼むな、という人もいるかもしれないが、モリヒトはいけるだろう、と思っている。

 真龍は、ほぼ自然現象ではあるが、一応意思がある。

 周囲の環境を変に影響が出ない程度の場所を用意してもらう、というくらいは、通る範囲と踏んでいる。

「頼みたいのは、魔力のない領域」

「魔力がまったくない領域を作ればよいのか?」

「うん。そんな感じ」

「ふむ。よいだろう」

 うなづき、ヤガルが、何かやった。

 何をやったのかわからなくとも、何かやったことはわかる。

 そういう存在感の移動、とでもいうものを感じた。

「それで?」

「いや、それだけでいい」

 そして、その中へと、モリヒトは入った。


** ++ **


 不思議な感覚だった。

 この世界には、どこにでも魔力があるのだな、ということを、何もなくなったからこそ、逆に肌で感じ取る。

 モリヒトには、周囲に漂う魔力を吸収する性質がある。

 ただ、この体質で吸収できる魔力には、真龍が放出した魔力は含まれない。

 地脈を流れる、誰でも使える魔力を、モリヒトの体質は吸収できない。

 だから、真龍の魔力に満ちたこの地でなら、体質による吸収魔力は最小限になる。

 ここまで来たのは、それを見越してのことである。

 魔力の真空地帯まで用意してもらえる、というのは、少々高望みか、とは思っていたのだ。

 だが、用意してもらえた。

「・・・・・・ふむ」

 体質では吸収できずとも、人間として、生命として、真龍の魔力は吸収する。

 その最低限の吸収すらもなくなった今、モリヒトは自分の魔力をしっかりと感じ取れていた。

「・・・・・・これ、か」

 腰を下ろす。

 地面からも、魔力は来ない。

 だから、目を閉じて、自分の中へと意識を集中する。

「やってみよう」

 魔力の流れ。

 それを放出し、吸収する。

 自分の中で魔力を作り、流れを意識する。

「・・・・・・ああ、これだ」

 その流れの中に、一つ、異質なものを見つけた。

 モリヒトは、笑みを浮かべる。


** ++ **


 魔力のない空間の中に入ったモリヒトを見て、クルワは腕を組む。

 その目に浮かぶのは、期待であり、希望だ。

 フェリは、そんなクルワを見上げ、それからモリヒトを見て、首を傾げた。


** ++ **


 クリシャは、山を登っていた。

 飛行魔術による移動は、速い。

 魔獣はいない。

 魔力は、山の上にいるといくらでも湧いてくる。

 だから、消耗は気にせずに飛ばしていた。

 その途中で、

「おや」

「む」

 ウェブルストを見かけ、クリシャは降下する。

「なるほど。君が王子か」

「クリシャ、という、やつらが手配している女か」

「よろしく。初めまして、だよね?」

「・・・・・・情報だけは聞いている。我々の団でも、貴女の薫陶を受けた組織の意思を継ぐものは多い」

「いやあ、照れるねえ」

 ははは、とクリシャは笑う。

 クリシャは、自分のわがままでいろいろなことをやってきた。

 この大陸での色付きの保護も、贖罪を含めたわがままだ。

 それが称賛されている、あるいは、敬愛されている、という状況は、面はゆい。

「モリヒト君と一緒に、山を登ってきた、と聞いているけれど、彼は?」

「『守り手』の領域の手前で別れた。真龍に会いに行く、ということだったからな」

「そっか」

 ふんふん、とうなづく。

「そちらこそ、色付きの子供を一人連れているのでは?」

「街にいた、君の団に預けてきたよ。一晩過ぎれば、落ち着くでしょう?」

「・・・・・・そうか」

 ウェブルストは、頷く。

「まあ、この山のやつらをどうにかすれば、大体安全になるだろうし」

「それはそうだ」

 ふ、とウェブルストは笑う。

 ミュグラ教団の位置はつかめている。

 これから、ウェブルストは団を率いて、そこに向かうつもりでいた。

「・・・・・・教えておくが、やつらは今、ここから西の方にいる」

「西、かあ」

 なるほど、とクリシャはうなづく。

「ボクは、モリヒト君たちに合流するよ。・・・・・・なんだかんだ、彼らは中心になりそうだから」

「そうか」

 そういって、クリシャは、魔術を起動する。

「じゃあね」

「・・・・・・さらばだ」

 そして、二人は別れた。

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よろしくお願いします。


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