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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第15話:宿に戻って

 モリヒトは、ふいー、と息を吐いて、汗をぬぐう。

 ちょっと走ってしまった。

「・・・・・・いいの? 逃げちゃって」

 クルワはそう聞いてくるが、モリヒトに後悔はない。

「じゃあ、あれとやりあいたいと?」

「うーん」

 聞けば、クルワもうなってしまった。

 街中でばったり会うとしては、最悪の相手だよ、とモリヒトは思う。

 ミュグラ・ミケイルは、割と単純な思考で動いている人間だと、モリヒトは思っている。

 ミュグラ教団にいるのも、たまたま、環境がそうだった、というだけの話だろう。

 じゃあ、説得したら仲良くなって仲間になるか、といえば、そんなことはない、と思う。

 ミケイルは、間違いなく敵なのだ。

 もしかしたら、場合によっては、食事の席を共にするくらいはできるかもしれない。

 だが、それも一時のことだ。

「あいつは、もう絶対に敵なんだと思ってる」

 あちらにとって、モリヒトは天敵だから、仕方ない、と思う。

 単純に、一緒にいるだけでもあちらにとっては、命の危険があるのだから。

「なんか、すごく嫌いなのね」

「殴られて死にかけた思い出ばっかりだぞ。好きになる理由がない」

 俺には特殊性癖なんぞありません、とモリヒトの鼻息は荒い。

 フェリは、モリヒトのそんな様子をきょとん、とした目で見上げている。

「モリヒト。あの人きらいー?」

「嫌いっていうより、苦手。・・・・・・あっちにとっても、俺はいい人間じゃないからな。お互い不干渉が一番よいのだ」

「よいのだ、って」

 あらら、とクルワは苦笑している。

 フェリは、やはりきょとん、と首をかしげる。

「なんだ。フェリはあいつ気になるか?」

「ん-。・・・・・・あの人、フェリに似ている気がする」

「・・・・・・あー・・・・・・」

 それについては、心当たりがなくもない。

 ミケイルもフェリも、どちらもミュグラ教団の実験によって生まれた存在だ。

 ただ、成り立ちは違う。

 フェリの頭をそっと撫でる。

「んう・・・・・・」

 撫でられたフェリは、目を閉じてんー、とされるがままになっている。

 その撫でる感触は、普通の子供のそれと大差ない。

「あれはあれで、フェリと似たところ、あるといえばある」

「モリヒトとも似てるー」

「なんだと?」

 モリヒトにとって、それはなんだか受け入れがたい。

 モリヒトは、あそこまで狂暴ではないはず。

「どのあたりが似てるの?」

 ショックを受けて止まったモリヒトを見つつ、クルワがフェリに聞いた。

 すると、んー、と悩んだ後で、フェリは言った。

「誰かに守られてる感じ?」

「はい?」

 なんだそれは、とモリヒトは思う。

 モリヒトとしては、確かに、いつも誰かに守られている、というのは否定できない。

 ヴェルミオン大陸にいたときは、いつもルイホウに守られていた。

 今は、クルワに守られている。

 だから、誰かに守られている、というのもわからなくはない。

 だが、ミケイルはどうだろうか。

 ふと、

「そういや、ミケイルの相方いなかったな」

「相方?」

 名前をなんというのかは覚えていないが、赤毛の美人がそばにいた気がする。

「まあ、分かれて行動しているのかもしれんが」

 ただ、分かれて行動できる、というなら、やはりミケイルが誰かに守られている、というのは違うのではなかろうか。

 モリヒトから見ると、なんだかんだ、ミケイルは好き勝手をしている、と思うのだ。

 しかし、

「フェリって、あいつと会ったのは、初じゃなかったか?」

「うん?」

 どうなのだろうか。

 ミケイルがこちらにいた時期、フェリはまだミュグラ教団の中に囚われていたはずだから、その時期に会っていてもおかしくはない。

 フェリに聞いても、首をかしげるばかりで、思い出はなさそうだ。

 ともあれ、宿に帰りつき、モリヒトは息を吐く。

「ふー」

「どうした? 何か騒ぎがあったようだが」

「ん?」

 見れば、

「えーと・・・・・・。王子殿下」

「・・・・・・やめてくれ。こんなところでそんな呼び方をされると、背中がかゆくなる」

 茶をすすっていたこの国の王子が、なんとも気持ち悪そうな顔をした。


** ++ **


「ほう? ミュグラ教団の刺客か」

 ミケイルのことを話すと、ウェブルストは、腕を組んでうなる。

 それから、なんともわくわくした顔で、

「強いのか?」

「強いか、と聞かれれば強いけど。・・・・・・あれ、体の丈夫さと再生力からくるタフさが売りだからなあ」

「なんだ。体の資質任せか・・・・・・」

「拳闘の技も持ってそうだけど、大体がそれでカタがつくから、あんまり使わなさそう? でも、身体強化もかなり強めに入ってるから、下手な技を使うより、普通にぶん殴る方が強いタイプ」

 モリヒトは、今までに聞いたミケイルの特徴と、自分が見てきたものを合わせて、そう報告する。

「ただ、あいつどっちかっていうと、食客って感じだと思う。ミュグラ教団所属、ではあるんだろうけど、大陸が違うから、たぶんここの奴らからはあんまり信用されてないんじゃないかね」

 以前、ミュグラ教団のものと思しき魔獣に飲み込まれていたし、今だって、教団にとっては割と重要な仕事の最中に、街中で遊んでいるようだったし。

「なるほど、なるほど」

 ふうむ、と何かよくわからない顔で、ウェブルストは頷いている。

 モリヒトは、ウェブルストがどういう人間かをあまり知らないから、何を考えているか、まではわからない。

 ただ、なんだか楽しそうに見える。

「・・・・・・ひょっとして、戦闘好きか?」

「強い男は好きだとも」

 むん、と腕に力瘤を見せつけるウェブルストに、ふうん、とモリヒトはうなづいておく。

「しかし、なんで街に? あっちの指揮はいいのか?」

「ああ、捜索に少々手間取っていてな」

「・・・・・・なんで?」

「以前まで、『守り手』の領域になっていた場所が問題でな。いなくなっているなら探索もできるが、もしも生き残っていて、戦闘にでもなれば勝ち目がない」

 『守り手』は、決して倒せない敵ではない、とウェブルストは語る。

 ただ、被害なく勝とうとすれば、必要な戦力は多大なものになる。

 なにより、一体を倒すと、その部分は別の『守り手』の領域になる、という。

「真龍へと謁見するのでもなければ、その場にとどまるのは、大変危険なんだ」

「もしかして、『守り手』って補充されるのか?」

「あれも魔獣だが、真龍の生み出したものだろう? 足りなくなれば、真龍がまた生み出すのではないか?」

 ヤガル・ベルトラシュ、若紫色の真龍が言ったことを思い出すに、単純にそうとも限らない、とは思うが、

「そういうものなのか」

 この土地をより知っているのは、ウェブルストの方だ。

 だったら、そちらの言うことが正しいのだろう、とモリヒトはうなづく。

 そうしていたら、手下がウェブルストに近づき、耳打ちした。

「・・・・・・カシラ、準備整いました」

「おう、そうか」

 うむ、と満足そうにウェブルストがうなづく。

「やれやれ。どうやって聞きつけたんだか」

 聞こえたのは、モリヒトが先ほど聞いた覚えのある声で。

「おや?」

「あ、花屋の店主」

「おー、お客さん」

 広場の端で、水桶に花を咲かせて売っていた女性店主が、そこにいた。

「うん? なんだ知り合いか?」

 そして、その様子を見て、ウェブルストは首をかしげるのだった。

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