第14話:街中で
花屋の店主に別れを告げ、モリヒトは街の中を歩いている。
「んー」
上の空である。
今日、モリヒトが持ち歩いている発動体は、ハチェーテとゼイゲンだ。
サラヴェラスも持っているが、こちらは、布で厳重にくるんだうえで、きつく縛ってある。
持ち出すとフェリがすごい嫌な顔をするが、かといって、洗脳の性質を持っている魔術具である以上は、そこらに放置するのも怖い。
というわけで、厳重に封印して持ち歩いている。
「・・・・・・あむ。おー」
先ほどの花屋で、モリヒトが実験的に咲かせまくった花は、花束になってフェリの手元にある。
大きさも色も形もばらばらに咲いており、なんともちぐはぐなものになっている。
とはいえ、フェリにとっては、見た目などどうでもいいようで、
「あむ」
一本一本、花を取りながら口にしている。
「おいしい?」
「あまーい」
それから、一本を取り、クルワに差し出して、
「はい」
「・・・・・・ありがとう」
小さい花を口に運び、クルワはもぐもぐと口を動かす。
「・・・・・・甘いわ」
「ふーむ・・・・・・」
基本的に、同じ花が咲くようにイメージしたはずだった。
だが、結局咲いた花は、何もかもばらばらだ。
「・・・・・・花の種類も、一種類のはずだったのに」
なぜ、こうもばらばらになってしまったのか。
その結果もそうだが、その中で、一本。
燃えてしまった花についても気になっている。
なんで燃えたのか。
燃える要素はなかった。
燃えるようなイメージもなかった。
あの時、あったことといえば、
「・・・・・・」
「なあに?」
フェリを挟んで向こうを歩くクルワを見る。
あの時、フェリが自分の肩に手を置いていた。
「・・・・・・んー?」
何か、引っかかるものがある。
だが、それが、妙にひっかかって、出てこない。
「・・・・・・クルワ」
「何かしら?」
「・・・・・・なんか、ついてきてる?」
「ああ、うん。そうね。なんかね」
やれやれ、とモリヒトはため息を吐いた。
考え事に、集中させてほしいものである。
「仕方ない。宿へ戻ろう」
「それまでに、襲われなければいいけれど」
「冗談じゃねえよ」
** ++ **
「・・・・・・ああいう感じかあ・・・・・・」
花屋の店主は、三人の背中を見送って、ふーむ、と考える。
その背中が見えなくなった後、桶の水を捨て、店の準備をしまう。
どうせ、今日はもうお客は来ないだろうし、と片付けを済ませたところで、
「アネゴ」
「はいはーい」
暗がりから、店主に声がかかる。
「護衛、ご苦労様ねー」
「いえ。カシラの大事な人、万が一があっちゃいけやせんで」
「ふふ。じゃあ、わがまま聞いてくれてありがとね」
「・・・・・・いかがです? あの客人について」
「悪い人じゃないし、あの人の敵になる人じゃないね」
うんうん、と店主はうなづく。
「だから、信用して大丈夫」
「ですかい。・・・・・・で、アネゴはここからどうしやすか?」
「うーん。いろいろ考えたんだけどね」
ふふ、と店主は笑う。
「ちょっとおとなしくするよ。その分、あの人のところに戦力送ってあげて」
「いいんですかい?」
「うん。ちょっと、足りなさそう。彼らの力も、借りられるだけ借りましょう」
店主は、店をしながら、この街で収集した情報を考えて、顔をしかめた。
「たぶん、今回の事件、みんなが思ってるより、大事件になりそうだから」
「そいつは・・・・・・」
「私も、戻ることにする。・・・・・・戦力を集めるよ」
「わかりやした。みんなにも伝達しやす」
「お願いね」
店主は、広場、噴水のまわりにある、活気のある人々を見つめる。
この国には、今、他の大陸からの戦力も来ている。
あの団体は、その大陸でも手配されているそうだし、協力を要請することもできるだろうが、
「この大陸のことは、この大陸で始末をつける。・・・・・・舐められないってのも、大事よね」
やれやれ、と店主はため息を吐いた。
** ++ **
「よう」
「・・・・・・・・・・・・」
追いかけられている、というのは感じていた。
せいぜいで、賞金稼ぎか何か、と踏んでいたのだが、
「まさか、お前かよ」
「街に来ているって聞いてなあ」
ははは、とその長身の男は笑う。
三色混じりの白い髪。
筋肉質の長身。
ごく当たり前の町民のような服を着ているが、かなり目立つ。
「おっと・・・・・・」
どこからか飛来した矢を、ぱしん、とつかんで、
「ちょっと待ってろ」
ミケイルは、走り出した。
** ++ **
ミケイルは、建物の屋根の上をかける。
「ふん」
色付きに対する賞金は、ミュグラ教団がかけているものだ。
いろいろ実験に使えるため、色付きを回収しているのである。
差別されている存在、というだけあり、回収率はそれほど悪くはない。
そういった存在を狩りだすものも、それなりにいる。
ミケイルに矢を射かけてきたのも、そういう手合いだ。
ミケイルはミュグラ教団の仲間だが、色付きそのものに賞金はかけられているため、髪を隠さないと街中ではすぐに襲ってくる。
退屈しないからいい、とは思っているものの、こういう時には面倒だ。
「やれやれだな」
屋根の上を駆け抜け、矢を飛ばしてきた敵に肉薄。
「ふん」
拳一つで、黙らせる。
だが、相手も一人ではない。
「次々、と」
ミケイルは、街中を駆け回って、賞金稼ぎ達を叩きつぶしていった。
「数が多いな」
面倒、とミケイルは思う。
ミュグラ教団の大半は、山の方に行っている。
そのせいか、賞金が増額されているという。
場合によっては、バンダッタに色付きを食わせるつもりもあるのだろう。
そのせいか、賞金稼ぎが多い。
街中に潜伏していると、あちらこちらから狙われて、休んでいる暇がない。
「・・・・・・しかしあいつ、何しに来たんだ?」
さっき見つけたモリヒトを思い出し、ふん、とうなる。
「まあいい。後で聞きゃあいいさ」
ミケイルは、さらに加速した。
賞金稼ぎ達を黙らせて、元の位置に戻った時、モリヒト達は消えていた。
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