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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第13話:水の上の花

 ともあれ、特にすることを思いつかないモリヒトは、そのまま花屋の店主と会話をすることにした。

 隣に腰を下ろし、予備の桶をもらって、そこに水をくむ。

 そして、

「んー・・・・・・」

 魔術の詠唱は、適当でいい。

 発動体は、貸してもらうことにした。

 小さな杖である。

「刃の発動体って多いんですけどね」

 やはり、魔術は戦闘用として使われることが多いためか、発動体は武器の形に加工されることが多い。

 この大陸では、その傾向はもっと強いという。

 日常で魔術を使うことはまずないので、魔術を使う場面があるとすると、魔獣退治などの戦闘の場面だ。

 だから、こういうちょっとした杖は珍しい。

 需要がないため、珍しいからと言って、価値があるかといえば、全くないが。

「―ワンド―

 水よ/・・・・・・」

 詠唱は、割と適当でいいらしい。

 花の種の中に水が入り、その水を使って花が咲く。

 そのイメージをしっかりできれば、

「お?」

 ぴょこん、と種から芽が出て、

「あれ?」

 しな、と垂れて、そのまま枯れてしまった。

「・・・・・・おや?」

「うまくいってないわねえ」

「芽が出たところで、イメージがぶれたんでしょうね」

 それから、

「どんな花が咲くか、というところまでイメージできていないのも理由でしょう」

 店主は、ふふふ、と笑っている。

「ん? どんな花かって・・・・・・」

 それで、店主が指さしたのは、モリヒトがフェリに渡していた店主から買った花束だ。

 フェリは、その花を一本一本眺めては、

「あーむ」

「あ・・・・・・」

 ぱくん、と花を口にくわえて、むぐむぐと噛んでいる。

「大丈夫、食べられる花ですから」

 おいおい、と思っているモリヒトに、店主は苦笑しながら告げる。

「おいしいですか?」

「あまーい」

「ふふ。そうでしょうね」

 フェリは、にこにこと嬉しそうだ。

「甘いの?」

「甘いですね。水に蜜を混ぜてありますから、花全体に甘味があると思います」

 花自体も、甘味のある花であるらしい。

 岩場にも咲くような生命力の強い花で、適当に土に播いただけでも育つため、そこらで生えているし、この辺の子供たちにとっては、ちょうどいいおやつでもあるらしい。

 店主の花は、吸わせる水にさらに甘味のある蜜を混ぜているそうで、育つ際にその甘味を吸い上げるため、花どころか、茎や葉に至るまで甘いらしい。

「一応、炒め物に野菜の代わりに使われることもあるくらいです」

「ほう」

「ほら、あそこの窓とか」

 店主の指さす先を見ると、窓の下に鉢植えがあり、そこに花が揺れている。

「あんな風に育ちます。それに、年中咲く花でもありますし」

「都合のいい花だ」

 ともあれ、花の姿をよく確認する。

 それから、水の上に種を落とし、

「むむむ・・・・・・」

 イメージをしっかりしてから、詠唱。

「お?」

「小さい花が咲きましたね」

「確かに、かわいい花ね」

 クルワが、モリヒトの肩に手を置いて、肩越しに桶の中の花を覗き込む。

 店主が咲かせたものに比べると、花自体が小さい。

「でも、きれいに咲きましたね」

「ふうむ・・・・・・」

 魔力をそれほど使うわけでもなく、だが、イメージは重要なことがわかる。

 魔術を使えるかどうか、というのを探るには、ちょうどいいのかもしれない。

 しかし、

「・・・・・・むうう」

 水の上に浮かぶ花。

 一つを手に取り、口に運ぶ。

 ほんのりとした甘みを感じながら、モリヒトは、うむむ、と考える。

「・・・・・・」

 水の上の花を見ていると、蓮の花を思い出す。

「蓮? どんな花ですか?」

 こんなん、と地面に描いて見せると、店主は、うーん、と考えて、

「このあたりでは、そういう水場は少ないですから。少なくとも、私は見たことがありません」

 そうか、とうなづく。

 もしかすると、この大陸にはない花かもしれない。

「何か、思い入れのある花なんですか?」

「・・・・・・そういえば、なんであれ蓮の花なんだろうか」

 そんなことをふと思う。

 モリヒトの人生で、蓮の花に何か思い出あっただろうか。

 ウェキアスの力で出てきただけだから、実際のところモリヒトの人生とは関係のないことかもしれない。

 ミカゲは、そういえば、以前からモリヒトを待っていた、みたいなことを言っていたような気もする。

「・・・・・・おや?」

 今、ふと何かが引っかかった。

 んん? と首を傾げつつ、杖を傍らに置く。

「あら、どうしたの?」

 クルワが、モリヒトの肩に手を置いたまま、モリヒトに尋ねた。

 ふと思いついたことがある。

 モリヒトは、桶の上に手をかざして、

「―ミカゲ―

 花よ/咲け」

 種が水を吸う。

 そして、

「おや?」

 ひょこん、と芽が出て、先端が膨らみ、花が咲いた、と思ったところで、いきなり燃えた。

「ええ?! なんで?」

 この結果は、モリヒト自身が一番驚いた。

 イメージとして、火などまったくもっていない。

 だが、結果として花は燃えた。

 今も、まるでろうそくのように、花は燃えたまま揺れている。

 やがて、花は燃え尽き、桶の上に落ちた。

「・・・・・・なんでぇ??」

 心底不思議である。

 モリヒトが首をかしげると、横から店主が手を伸ばし、水の上に浮かぶ燃えカスを手に取った。

「確かに、燃えていますね」

「ううん?」

 そもそも、発動したこと自体が不思議、ではある。

 何せ今、モリヒトは発動体としてのウェキアスを持っていない。

 だが、確かに魔術は発動したのだ。

「・・・・・・なんかわかる?」

「そうですね・・・・・・」

 うーん、と店主は考える。

「たまに、こういう、意図したものと違う現象が起こることがある、というのは聞いたことがあります」

「あるんだ」

「そうですね。例えば、火の魔術を使うことに特化した発動体で、普段から火を使い慣れている人が、水を出そうとして詠唱して、火が出た、という程度の話ですが」

「それは、魔術として水を使おうとして、慣れている火が出ちゃった、だけ、とかそういうのでは?」

「そうかも、なんですけれど」

 店主は、うーん、と考える。

「それ以外にも、やはり発動体の適性が違いすぎていると、やはりほしい結果が出ない、というのはよくある話です」

 店主の言葉を聞き、自分の手を見て、

「うーん?」

 モリヒトは、何かをつかめそうだ、と思いつつも、もやもやしていた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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