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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
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第12話:カラジオル魔術事情

 モリヒトは、花売りの店主と会話をしていた。

 ちなみに、人気のない路地裏で商売をしているあたり、客は全くこない。

 店主もぶっちゃけ暇だったらしく、近くに座る場所を用意して、お茶まで淹れてくれた。

 魔術具ではなく、魔術を使っている。

 さらには、フェリを見て、桶の水を操ってみたり、咲いた花を浮かべて、水の像を作ってみたり、と魔術でずいぶんと器用に芸を見せてくれる。

「魔術師って嫌われてんの?」

 モリヒトとしては、先ほど店主が言ったことが気になっている。

 地脈が嫌われている、という話は聞いていたが、魔術師が嫌われている、という話は知らなかったからだ。

「・・・・・・あなたは、この大陸の人ではないんですか?」

 きょとん、とした口調で聞かれて、モリヒトはうなづいた。

「俺は、隣の大陸から来てる」

「・・・・・・大陸の間を渡るなんて、すごい・・・・・・」

 はあ、と感嘆のため息を吐かれた。

 それほどに感心されてしまうと、自分の手柄でもないために面はゆい。

 ヴェルミオン大陸、というか、テュールにいたときは、魔術師はむしろ優遇されているイメージだった。

 巫女衆、というものもいるくらいで、魔術が使える。特に優れた才能がある、というのは、あの大陸では有用なはずだ。

 オルクトの方でも、魔術師は専属の部隊があったし、魔術師が生活に組み込まれていた。

 あちらこちらで、魔術師が活躍していた。

 魔術が使えれば、食いはぐれることはない、というのが、ヴェルミオン大陸の常識である。

「こっちって、そんな魔術の扱い悪いのか?」

「そんなことはないですよ」

 ふふ、と店主は笑う。

「実際、あちらこちらで、魔術具ならたくさんあるでしょう?」

「まあ、それは見かけたけど」

 うーん、と悩む。

 確かに、街の中ではあちこちに魔術具があり、それが生活の助けになっている。

「魔術具はいいのに、魔術師はだめ、と?」

 そこは、奇妙、ともいえる。

 モリヒトは、魔術師が魔術を使うことと魔術具を使うことの違いがわからない。

 そのあたりの区別が、明確にあるものなのだろうか。

「魔術具は、別に魔術師じゃなくても作れるんですよ」

 店主は語る。

 魔術師が使う発動体は、韻晶核、発動機、触媒を組み合わせて作られる。

「魔術具は、そんなもの必要ないんですよね」

 かつて、ミュグラ・ミケイルは、黒の森で、魔力伝導率と保持力が極めて高い森の木々を使い、それを束ねたものに呼び水となる魔力を込めることで、簡易の魔術具を作った。

 なんの制御も施されていない魔術具であるため、その結果何が起こるかは予測がつかないが、あの時はデコイとしての役割さえ果たせればよかったから、そこで魔術が使われている形跡さえ偽装できればよかったのだろう。

 もちろん、きちんと制御ができる魔術具を作るときは、別の手順を使う。

「魔術具には、法陣盤という部品が必要です」

 法陣盤は、魔術を発動するための式を刻んだ板のことだ。

 形状は、組み込む魔術具に合わせて変えることができるため、決まった形はない。

 重要なのは、詠唱の形を刻むことができることだ。

「この法陣盤を作るのに、大陸中央の真龍の山の石は、とても相性がいいんです」

 モリヒトは知らないことだが、ヴェルミオン大陸の黒の森の木々は、法陣盤を作るには向いていない。

 一本一本の品質が違う樹木では、安定した品質の法陣盤を作ることはできないからだ。

 そういう点では、削りだせるカラジオルの石の方が向いている。

 石に掘り込みを入れ、そこに魔石を砕いた粉を使った塗料で回路を作る。

 これが、カラジオルの法陣盤の基本的な作り方だ。

 ここで、法陣盤に魔石を組み込めば、魔術師でなくても魔術具の発動ができるようになる。

「魔術の能力がなくても、法陣盤の作り方さえ知っていれば、魔術具は作れます」

「むしろ、変に魔術の知識ない方が、安定して作れるかもしれんな」

 判を押すような感じで、同じ式を刻めばいい。

 法陣盤の改良は難しいかもしれないが、作るだけならいらない、というわけだ。

 ちなみに、発動機、触媒を法陣盤に組み合わせることで、さらに安定した魔術具にすることもできる。

「魔術具は、誰でも使えますけど、魔術は誰でもは使えませんから、需要に違いがあるんです」

「それ、嫌われる理由にはならんだろ」

「んー・・・・・・」

 モリヒトのツッコミに、店主は困ったように頬をかいた。

 実際のところ、魔術、というのは極めて強力だ。

 イメージ次第、とはいえ、ことによってはありとあらゆる事象を引き起こせる。

 詠唱が必要、という欠点はあるものの、その威力は折り紙付きである。

「・・・・・・この大陸で、強力な魔術を使ってしまうと、地脈を引き寄せる、という迷信があるんです」

 それを聞けば、モリヒトも納得する。

 ただ、迷信、と店主が言う通り、根拠はなさそうだ。

「実際に、そんなことが起こることはないんですけれど」

 店主も苦笑している。

「どうなん?」

「ありえないわよ。地脈の近くで魔術が強化されるっていうならともかく、人が使う魔術に、地脈がそうそう左右されたりはしないでしょうね」

 クルワも、そううなづいた。

「地脈の近くでは、魔術具が不安定になることもありますし、この大陸では、地脈は嫌われています」

 本当に、この大陸では、地脈が嫌われている。

 モリヒトとしては、迷信ならどうでもいい、と思ってしまうのだが。

「もう、風習となってしまっていますから、今更原因を探っても仕方のないことでしょうね」

 ふふふ、と店主は笑っている。

 だが、

「だったら、あんたはなんで魔術師に?」

「んー。できる、と思ったからでしょうか」

 魔術を詠唱し、手をかざす。

 その動作で、桶の上の水が形を変える。

 その仕草は、

「魔術具だと、ここまでイメージを反映させることはできないのです」

 魔術具には、あらかじめ決められていた動作しかさせられない。

 そのあたりの自由さは、魔術の方が圧倒的に上だ。

「・・・・・・魔術師でなければ、魔術具に刻む式の改良はできませんし、需要はあるのですけれど」

 店主も、本業はそちらだという。

「このお店も、商売というより、魔術そのものに興味を持つ人を探すのが目的なんです」

 技術の継承、要は、弟子を探すため、だ。

 そこで、期待を込められた目で見られていることに、モリヒトは気が付いたが、

「あ、俺はほかにやることあるんで」

「・・・・・・残念です」

 ふう、と店主はため息を吐くのだった。

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