表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第8章:誘蛾の火、水景の蓮
311/436

第11話:路地裏の花売り

 モリヒトは、のんびりしていた。

 椅子に腰を下ろし、冷えた茶をすすっている。

「・・・・・・お茶がうめえ」

「何をのんきをやっているの?」

 クルワが、のんびりとしているモリヒトに、呆れの目を向ける。

 割といろいろ詰まっている状況のはずだが、モリヒトはのんびりとしていた。

 なお、今いるのは、轟天団の拠点近くの茶屋である。

 氷が浮いた茶、というのが、普通に飲める。

 氷を作っているのは、魔術具らしい。

 こういうのが、割と普通にあるのがこの街だ。

「ちなみに、こういうのを普及させたの、ミュグラ教団らしいぞ?」

 数十年前の、まだ穏やかな時期の教団の仕事らしい。

 そういうこともあるから、この国では、教団の人員に対しては、あまり悪印象がないものも多いという。

 といっても、最近の変節を知る者たちは、最大級に警戒しているが。

「・・・・・・で? 今日はどうするの?」

 キースは、そのまま轟天団に預けてきた。

 クリシャが戻ってきて、妹を連れていくなら、キースの方へ連れていくだろうし、そうなると轟天団が拠点としている宿の方が安心だろう。

 フェリの方はどうかというと、

「おー・・・・・・」

 普通に、モリヒトと同行している。

 今は、店員が出してくれた飴菓子をいじって遊んでいる。

 固まっているような飴ではなく、水飴のように粘り気のある飴だ。

 それを棒で絡め取り、自分の口に運ぶ。

 そうやって食べるものらしい。

「ねるねる。おー」

 フェリが棒を器の中でくるくると回し、そして持ち上げると、にゅー、と飴が伸びる。

 それをフェリは面白そうに見ては、また飴を練る作業に戻る。

 味わっていないのが笑えるが、子供っぽいので、それはそれでほほえましい。

 しかし、

「とりあえず、街をのんびりと歩きまわろうか」

「フェリを連れて回ったら、問題起きない? 襲撃とか」

「それな・・・・・・」

 確かに、フェリを狙うミュグラ教団が来る可能性はあるが、

「来ない気もする」

「気もする、で危ないことしない方がいいと思うけど?」

「・・・・・・うーん。とはいえ、フェリも戦えなくはないしなあ」

「フェリの戦い方は人間離れしてるから、人に見られると厄介よ?」

「ああ、それもそうか」

 ふむ、と考える。

 正直、モリヒトとしては、人通りの多いところを歩いていれば、そうそうあぶないことはないと思っている。

 フェリやキースの妹にかけられている賞金は、裏のもので、公式のものではない。

 賞金自体が違法だから、それを狙っての襲撃は、逆に犯罪行為になる。

「昨日のは?」

「夜だったからな。暗い中だと、言い訳なんぞいくらでもきくだろうし」

 だが、今は昼の明るい時間帯である。

 それに、

「・・・・・・クルワ。なんかいるか?」

「・・・・・・まあ、いないわね。少なくとも、今ここをうかがっている人間はいないと思う」

 それを聞いて、モリヒトはうなづく。

「だったら、あんまり気にしないようにしよう。・・・・・・ぶっちゃけ、俺らも襲われる要素あるし」

 モリヒトとしては、もうなるようになれ、という感じである。

「それでいいのかしら?」

 クルワは首をかしげているが、モリヒトはのんびりと茶をすするのだった。


** ++ **


 のんびりと街を歩く。

 モリヒトとしては、この街並みも割と興味深い。

 石ばかりだが、ふしぎと無骨な印象はない。

 石をきれいに削っているためか、あるいは風化によって角が取れてなめらかな線が出ているせいか、石で作られた街並みがどこかやわらかい。

 色合いが、若紫色が薄れて白っぽくなっている色であるのも、またそういう印象に一役買っているのだろう。

「ふうむ?」

 だが、街を歩いていると、目につくものがある。

 この街には、魔術具が多い。

 茶屋で、茶に浮いていた氷を作っているものもそれだが、風を生み出している送風機の魔術具や、コンロのような魔術具。

 戸口には明かりの魔術具がついているし、水を出すのも魔術具だ。

 あちらこちらに魔術具は多く見えるが、

「・・・・・・ふむ?」

「どうしたのよ」

「いや、魔術具はたくさん見えるんだが、魔術を使っている人は、見えんな、と思ってよ」

 オルクトの帝都にせよ、テュールの王都にせよ、大きな街では、魔術を使った大道芸人が多くいた。

 そうでなくとも、それなりの人数が、独自に魔術を使っていた。

 魔術具が、割と高価な品なこともあり、魔術を自分たちで使う人たちが多かったのだ。

 だが、こちらの街では、魔術を使うものの姿が見えない。

「そういえばそうねえ?」

 クルワも、しばらく首を傾げた。

 そうしている間に、中央に噴水のある広場へと到達した。

 噴水が水を吹き出すのも、やはり魔術具によるものだろう。

「ふうむ?」

 夜は、食べ物を売る屋台が多かったと思うが、昼間は屋台の顔ぶれが違う。

 花や水、果実、細工物を売っている店などが多い。

 大道芸人もいるが、魔術などは一切使わず、自分の技量のみによる芸をしているようだ。

「・・・・・・なんでだろうね?」

 とりあえず、いくつかの屋台を冷やかしながら、ふらふらとして、

「お?」

 モリヒトは、一つの路地に、それを見つけた。


** ++ **


 それは、こじんまりとした露店だった。

 日陰と日向のぎりぎりのところに、むしろを広げて座っている。

 ローブをまとった姿で、老若男女はわかりづらい。

 おいてあるのは、水を張った桶一つ。

 そして、その周りに、押し花と思わしきものが並んでいる。

「・・・・・・」

 なんとなく気になって、モリヒトはそちらへと近づく。

「・・・・・・・・・・・・いらっしゃいませ」

 うっすらと聞こえた声は、まだ若い女性の声だった。

「何を売ってる店なんだ?」

「花を」

「花?」

 ちら、と見れば、押し花がある。

「これ?」

「それは、サンプルです」

「お?」

「気に入ったものがあれば、ここで咲かせますから」

「・・・・・・?」

 よくわからない、と思うが、なんとなく気になる。

 だから、なんとなくこれ、と思った花を指さし、

「じゃあ、これで」

 それは、赤に近い橙色の花弁を持つ花だ。

「では・・・・・・」

 そっと手を差し出されたので、持っていた硬貨を数枚乗せた。

 ふふ、と笑う声が聞こえた。

 それから、その店主は、傍らの小さな袋に指を入れ、中から黒い粒を取り出した。

 それを、そっと、水の上に散らす。

「・・・・・・・・・・・・」

 そして、桶の上に手を広げ、

「―――」

 小さくて聞き取れなかったが、それは魔術の詠唱だった。

 そして、

「お?」

 桶に散った粒が、不意に発芽し、そのまま伸びて、ぽん、と花が咲いた。

「・・・・・・では」

 店主は、数本咲いたそれらの花を摘み取ると、根本を縛って、モリヒトへと差し出す。

「どうぞ」

「・・・・・・お、おお」

 思わず受け取る。

 瑞々しく咲いた花の束である。

「・・・・・・へえ」

 大道芸としても売れそうな花の売り方だ。

 モリヒトは、感心した。

 それと同時に、疑問も浮かぶ。

「なんでこんな目立たないところで、商売しているんだ?」

「この大陸では、魔術師は嫌われますから」

 店主から言われた言葉に、モリヒトはきょとん、とするのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

DE&FP&MA⇒MS

https://ncode.syosetu.com/n1890if/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ