第6話:おとり
屋台巡り、とモリヒト、クルワ、フェリの三人は並んで歩いていた。
まだ幼いフェリを間に挟んで、その両側をモリヒトとクルワが手をつないで歩く形だ。
まったく似通っていないとしても、若夫婦と子供一人、という組み合わせに見えなくもない。
鍋で腹を膨らませ、木串に刺した焼肉をかじりつつだ。
屋台で並ぶものには、意外と野菜類が多い。
「・・・・・・ふむ?」
純粋に肉だけを焼いている屋台は少ないイメージだ。
穀物の粉を練って伸ばした皮に、野菜やひき肉を包んで、焼いたもの。
餃子か春巻きに近いように思うが、粉にしている穀物の味わいが濃い。
トウモロコシか何かぐらいの甘味と香ばしさがある。
紙で包む、というようなことはない。
屋台飯は、屋台が集まっているあたりの入り口付近にある、石の器を持ち歩く。
平べったい石に、浅くくぼみができる程度に削ったような、簡単な器である。
一枚一枚の形も微妙に違う。
この石の器自体は、あちらこちらに置き場所がある。
どうやら汚れたら、そこらに放置してもいいものっぽい。
足元がじゃりじゃりとしたいくつかの石片で舗装されているのかと思ったが、石の器の割れた欠片がばらまかれているだけのようだ。
汁物もあるし、肉の油などもあるから、きたなくないのか、と思うが、
「たぶん、屋台の店主さんたちが、定期的にさらってるんじゃないかしら。それに、砂まいてるみたい」
砂を蹴飛ばしながら、屋台を冷やかしつつ歩く。
今は、ちょっと生っぽい肉の薄切りと、酒の入った盃を片手にのんびりしていた。
酒は、かなり薄い。
代わりに、なんだか出汁みたいな味がする。
「なんていうか、酒っていうか、こう、酒を入れて料理したスープみたいな味が・・・・・・」
「味石酒って言ってたわねえ」
クルワが言う。
「どういうこと?」
「ほら、食べられる石があるって、そういう話は知ってるでしょ?」
「おう」
「あれを、お酒に漬けて、じっくりすると、味がつくそうよ?」
調味酒として使うこともできるし、こうして飲むこともできる。
温めると、なかなかおいしいらしい。
その温めた味石酒を出汁にしての煮物、というか、おでんみたいな料理もある。
「酒がうめえ」
「好きなの?」
「いや、ただ、味がうめえ」
それほど強いわけではないおかげか、ぐいぐいいける。
一応、ものすごく強い酒もあるっぽいが、モリヒトが飲めるのは、こういう味石酒くらいがちょうどいい。
フェリが一緒にいるから、あんまり酔っぱらうわけにもいかないし。
「しかし、クリシャ、いったいどこまで行ったんだか」
宿を取ってくる、と言って去っていったが、いまだに戻ってこない。
まさか、何か問題にまきこまれているのだろうか。
いや、さすがにそれはあるまい。
モリヒトは、そんなことを考えていて、
「あ」
「ん?」
不意に横から声をかけられて、モリヒトはそちらを向いた。
見知らぬ少年が、こちらを見ている。
その視線は、フェリの方を向いている。
大体同年代だろうか。
「なんだ少年。一目ぼれか?」
ほろ酔いの感じでふわふわしている頭で、モリヒトは少年にからかい混じりに声をかけた。
それに対し、少年の方は、顔をしかめた。
「違う、ます。あの、白い女の子と地味な男と、派手な女の組み合合わせ。合ってる」
「うん?」
こちらの顔ぶれを見て、少年はうなづいた。
「あの、オレ、キースって言います」
「うん。それで?」
「クリシャって人に言われてきました」
「お? わざわざメッセンジャーを飛ばしたのか? 手間だなあ」
モリヒトは、のんきに笑っている。
それに対して、クルワはなんだかいやな予感がしていた。
「なんで、クリシャは自分で来なかったの?」
「ええっと・・・・・・」
それから、キースから、何があったか説明があった。
** ++ **
「ほうほう。つまり、あれか。キース。君の妹は混ざり髪で? なんかあやしいやつらに狙われていた、と」
「はい。さらわれそうになって、それで、クリシャ、さんが助けてくれて、ました」
敬語が慣れていない感じだ。
擦り切れとつぎはぎで服を作っているような、ぼろの服をまとった少年である。
クリシャは、
「問題に巻き込まれている、と」
宿とかどうすんだよ、とモリヒトが思っているが、問題はそこではなかった。
「で? なんでキース君はこっち来たんだ? 妹さんと一緒に、クリシャに守ってもらった方がよくないか?」
クリシャなら、子供の一人や二人、きっちりと守って見せるだろう、と思う。
だが、
「クリシャさんは、妹連れて、隠れるって」
「ほう」
「でも、完全に隠れちゃうと、相手が何するかわからないって」
「・・・・・・ほう?」
「だから、アニキのオレは、別に分かれてた方がいいって」
ふむふむ、とうなづきつつも、モリヒトは嫌な予感がし始めた。
クルワは、腰の剣に手を当て、険しい顔をしている。
「妹を守るためにも、妹から目を逸らすものが必要だって」
「つまり?」
「オトリになれって」
がたん、とモリヒトは立ち上がる。
クルワも同じように立ち上がった。
「フェリ。ついてこい」
「あーい」
のんきに手を挙げて応じるフェリを引きつれ、モリヒトとクルワは屋台街から離れる。
「キース。お前もだ」
「あ、はい」
面倒ごとを増やしてくれる、と思いながら、モリヒトは街中を歩く。
そうしている間に、クルワが首を振った。
「つけられてる」
「マジカー」
はえーよ、とうめくも、キースがここまで移動してくるのも、途中でつけられていたんだろう、とそう思う。
「モリヒト」
「おう。何とか逃げ切る」
クルワの呼びかけに、モリヒトは、フェリの手を握った。
「キース。お前、俺の後をしっかりついて来いよ?」
「え、あ、うん。おう」
きょどきょどとした仕草ながら、キースははっきりとうなづいた。
「行くぞ」
モリヒトが言った瞬間に、暗がりからキースに向かって手が伸びた。
それを、クルワが素早く反応して、剣で打った。
手が引っ込むと同時に、モリヒトは走り出す。
その後ろから、追いかけてくる気配がする。
「くっそ、あの年齢詐称若作りロリババア。面倒ごと引き寄せやがって!!」
悪態をつきながら、モリヒトは街の中を疾走する。
** ++ **
「む」
クリシャは、顔をしかめた。
「いま、なんだか不当な悪口を言われた気がする」
あとでモリヒト君しめておこう、とクリシャは理不尽なことを考えていた。
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