第2話:筋肉の頭
声を掛けられ、あれよあれよという間に囲まれた。
そして、汗くさい、というか、乾いた気候のはずのこの山で、なぜか、湿度が高い空間を味わっている。
「・・・・・・空気に色がついていそうだ」
「においと水気はあるね」
とはいえ、ひるんでいても話はすすまない。
「結局、あんたらなんなん?」
聞かないと始まらないだろう、とモリヒトが声をかける。
すると、一番先頭にいた、ひときわ立派に輝く筋肉(?)をまとった男が、びしり、とポーズを決めた。
両腕を直角に曲げて上に、胸を張り、両足はきちんとそろえて立っているため、姿勢がいい。
なんかどっかで見たことあるポーズだな、名前なんだっけ、とモリヒトがどうでもいいことを疑問に思っていると、男は声を張り上げた。
「我らは! 秩序である!!」
腰を捻り、体は右向き、左腕を直角に曲げたまま下に向け、足もポーズを取る。
「・・・・・・」
「我らは! 秩序の規範を示すため!! 肉体を鍛え、健全な魂を磨く!!」
ふん、という気合とともに、今度は正面を向き直り、拳を腹の前あたりで突合せたポーズ。
胸とか肩とかの筋肉がぴくぴく動いている。
「・・・・・・・・・・・・」
「人々は我らを称して、こう呼ぶ!!!」
一度、ポーズを解き、すうううう、と息を吸って、
「『肉体に情熱を宿す傭兵団』! そう、我らは!!!」
今度は、周囲を囲んでいた筋肉全員が、びしり、とそれぞれにポーズを決めた。
特にこれ、と決まったポーズはないのか、全員の取ったポーズはばらばらだ。
ただ、全員が自らの筋肉を誇示するポーズを取っていることと、よく言えば輝く、悪く言うと暑苦しい笑みを浮かべている。
「赤熱の轟天団!!!」
どごーん、と彼らの背後で爆発が起きた。
「? なんで爆発が・・・・・・」
爆発が収まった後には、後光が差すように彼らの背後が輝いている。
ちょっとのぞきこむと、ポーズを取っていない筋肉が数人、発動体と思しき物品を持って、何か集中している。
どうやら、そういう演出であるらしい。
「・・・・・・・・・・・・どう対応したらいい?」
クルワが、くいくい、とモリヒトの服の裾を引っ張って聞いてくる。
「面白いからもうちょっと見てていいか?」
「気持ちはわからないでもないけど、話が進まないからね」
モリヒトが、集団を指さして言うと、クリシャが苦笑して首を振った。
確かに、と思う。
「とりあえず、ちゃんと話をしてみるか」
「通じるかしら?」
「大丈夫。筋肉は、人の話をよく聞くものだ」
「・・・・・・なんて?」
クルワが、モリヒトの吐いたセリフに理解しがたいものを見る目を向けてくるが、気にしていてもしょうがないだろう。
ただ、筋肉を鍛えている人に、悪い人はいないと思うのだ。
「赤熱の轟天団ね。俺はモリヒト。こっちは、クリシャとクルワ。さっきからそっちで遊んでもらってる子供は、フェリという。よろしく」
モリヒトが、自己紹介とともに右手を差し出す。
すると、先頭に立っていた男が、ふ、と笑い、その右手を握った。
「なるほど。細いが、筋肉の芽はある。どうやら、悪筋ではないようだ」
にか、と笑われ、上下に腕を一往復した後、腕を離される。
「・・・・・・まあ、とにかく、いきなり囲まれたわけだけど、何の用なのか、聞いてもいいか?」
「うむ。我々、赤熱の轟天団は、先も言った通り傭兵団である」
「・・・・・・傭兵ってことは、誰かにやとわれてるのか?」
「いや、ここには勝手に来た」
「・・・・・・そうか、勝手に来たのか」
ツッコミを入れたいところを我慢して、先を促す。
「我々は、傭兵団であるがゆえに、基本的には、やはり金で仕事を請け負う。だが、その仕事は、主に治安維持だ」
「ちあんいじぃ?」
上半身がほぼ裸。
様々な統一感のない、だが、あきらかに荒くれっぽい、どう見ても暴力集団の恰好。
武器だって、統一感がない。
剣や槍などの正統派、とも呼べる武器は少なく、大体が、とげのついたこん棒。
中には、丸太をそのまま持っている者もいる。
「ふ。我々が街中を歩いていると、悪いやつはおとなしくなり、よい子は皆喜ぶ」
「え、マジで?」
「うむ。悪そうだったら捕まえて、筋肉を鍛えるのだ。筋肉が鍛えられれば、魂も健全となり、悪くなくなる」
「めちゃくちゃな理論だ」
「だが、我々の半分くらいは、大体そうやって仲間になったぞ」
「思ったよりやばい集団だった」
だが、
「治安維持って、国の軍隊とか、そういうところでやるもんだろ? なんで傭兵団が・・・・・・」
「それは、我々の雇い主が、主に王室だからだな」
「・・・・・・あれ? もしかして、あんたらって、実はすごいエリートなのか?」
「いやいや。すごいのは我らのカシラであって、我らの大半は、ただの平民よ」
はっはっは、と男は笑う。
「おっと、申し遅れた。我は、この傭兵団の第一分隊の分隊長を務めている、グレイソンと申す」
「ああ、これはご丁寧にどうも」
グレイソンは、周囲を見回し、それからモリヒトに目をやった。
「それで、モリヒト殿、とおっしゃられたな。あなたがたは、なぜこの山に?」
「拾い屋の爺さんに世話になってて、その仕事の手伝いと、魔獣退治で腕を鍛えるためだな。俺、魔術優先で、近接が弱くて」
「なんと。鍛えるため! それは、誤解をして、取り囲んでしまい、申し訳なかった」
うむ、と頭を手を当て、グレイソンは頭を下げる。
周囲にいる筋肉も、どうやらこちらが警戒するべき相手ではない、とわかったのか、囲みを解いて、三々五々散っている。
どうやら、周囲の魔獣を警戒しているらしい。
一部は、フェリを肩にのせて高い高いしていたりするが。
「そっちは、なんでここに? 山登りで筋トレか?」
「そちらはついでだな」
「・・・・・・冗談のつもりだったんだが、ついででもやはり筋トレか」
グレイソンは、ふ、と無駄にキメ顔で笑う。
「この山で、不遜な輩が悪事を働いている、とそんな噂がある」
「ほう?」
「我ら、治安維持を第一としている。ならば、いかねば」
「なるほど」
「そこで、情報を集めたいのだが」
「知ってる知ってる。なんだったら、ぶっちゃけそいつらと戦うための訓練だったりする」
「ほう!!」
グレイソンの顔が、喜んだ。
そして、がしり、とモリヒトの手をつかむ。
「ぜひとも、協力を願いたい」
「いいぜ。こっちとしてもありがたいくらいだ」
うんうん、とモリヒトが笑顔でグレイソンと握手しているのを、後ろでクルワが胡散臭そうに見ていた。
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