第1話:汗くさい筋肉
モリヒトは、困惑していた。
「なんだてめえ!」
「おうおう!! 誰の許可得てここにいんだあっ?!」
「なよなよしやがって! 何見てやがんだこらぁ!!」
ほぼ半裸でたくましい筋肉を見せつけるような男の集団が、モリヒトをにらみつけて何やらわめいている。
男どもの恰好は、豪快といえばいいが、不良、というか、ギャングっぽい。
それも、世紀末系の漫画でヒャッハーしていそうな感じだ。
ズボンこそ、厚手の布地になめし皮を貼り付けた、というような感じで、ある程度統一感がある。
だが、上半身がめちゃくちゃだ。
とりあえず共通していることは、全員がひたすら筋肉を盛っている、ということだ。
にらみつけわめいている最前列以外は、何やら後ろで筋肉を見せつけるポーズを決めている。
威圧のつもりだろうか。
肌の見えるところが半分以上だが、一応装備はつけている。
革の胸当てをつけている者がいる。
あるいは、肩当をつけている者がいる。
ベルトのようなものを、交差するように巻き付けている者がいる。
腹にさらしを巻いている以外は、何も身に着けていない者もいる。
中には、なぜかとげのついた肩当を突けていたり、肘やひざあてにとげをつけている者がいたり、髪を剃り上げて革ベルトを頭に巻き付けていたり。
バリエーション豊か、と思いたいが、なんというか、やはり感じる世紀末のヒャッハー感。
こんな世界で、なんでこんなものを見ているんだ、とそんな思いもする。
男たちが、全員背も高いし、横にも太いし、で、威圧感、というより、汗くさい、というか。
砂埃舞う山の雰囲気も相まって、なんだか非常に絵になる。
乗っている馬車も、なんだかものものしく改造されているし、
「・・・・・・うーむ」
どう対応したものか、とモリヒトは悩む。
モリヒトとクルワ、クリシャは、その集団に取り囲まれて、にらみつけられていた。
「・・・・・・暑苦しいわ」
クルワは、なんともいやそうな顔をしている。
剣に手をかけていないだけ、まだマシかもしれない。
「たくましくていいじゃないか」
クリシャはといえば、平然としている。
クリシャからすると、こういう筋肉はなんとも思わないものらしい。
「いやあ、なんだか、昔の仲間を思い出すねえ」
「そんなのいたのか」
「いたんだよ。あいつが、身体強化魔術の効率的な運用と、それを利用した魔術鎧の開発をするために集めた実験兵団があってねえ」
「なんか、やばい薬とかで強化されてそうだな」
「いやいや、そうじゃなく、身体強化の反動とかに耐えられるように、きちんと鍛え上げた人員しか入れない兵団だったよ」
むしろ、健康的な筋肉しか入れなかったらしい。
安定しない身体強化魔術のおかげで、生傷の絶えない兵団だったらしいが、
「暑苦しい笑顔が懐かしいね」
クリシャがちょっと遠い目をしている。
実は、この汗臭さに、現実逃避しているのかもしれない。
フェリは、といえば、
「かたーい」
さすがに子供を囲むことはできなかったか、ちょっと離れたところで筋肉をたたいて、きゃっきゃ、と喜んでいる。
無邪気に喜ぶ子供相手に、集団の方も強気には出れないのか、なにやら和やかな雰囲気だ。
ああいうところを見るに、悪いやつらではないんだろうなあ、と思ってしまえるので、なんとも緊張感を保てない。
「・・・・・・なんでこんなことに?」
モリヒトは、うーむ、と考えていた。
** ++ **
モリヒトは、朝目覚め、顔を洗い、さてどうしようか、と考えた。
自分のウェキアスを呼び出す瞑想は、ちょっと成果が出ていない。
クルワが何度か偵察に出てくれているが、ハミルトン達の移動は速度を落としているらしい。
現在は、半分を回ったくらいだそうだ。
特に心配することもない、とは思うが、
「・・・・・・むう」
さて、どうしたものか、と思う。
「適当に、魔獣と戦ってみるとかどう?」
クルワからはそう提案もされている。
実際、そうしてみるのもいいかもしれない、とは思っている。
水をイメージしてミカゲを呼び出そうとすると、かならず火のイメージに邪魔をされる。
どうしても、引っかかってしまう。
「あるいは、気分転換に山を下りてみる、というのもいいかもね」
クリシャなどは、そう言っていた。
この大陸に来てから、一度も山を下りて人里に行っていないモリヒトだ。
この大陸の街にも興味があるし、それもいいか、とも思う。
これからに頭を悩ませていたところで、
「どちらにせよ、外に行って石でも掘ってきたらどうじゃ?」
とアバントに言われて、かごとつるはしを持って、山を登っている。
「『守り手』いないし、ちょっと奥の方を取りに行く、とかどうよ?」
「そうね。奥の方が、質のいい石あるでしょうし」
石はどこでも取れば重い。
だったら、少しでも質のいいものを取ってきたい。
そういう思いで、少し山の上の方へと足を伸ばした。
そして、適当に見つけた石につるはしをたたきつけ、いい具合の塊をいくつかかごにいれた。
行き来の道中では、ほとんど魔獣と会うこともなかった。
バンダッタに食われているのかと思ったが、
「・・・・・・ああ、あれか」
近くで、魔術の反応がある、とクリシャが言った。
それで見に行ったところで、答えを見た。
そこでは、ミュグラ教団と思しき人員が、魔獣を狩っていた。
その死体を山と積み上げた後、まとめて魔術で浮かしてどこかへと運んでいく。
「なるほど。あれ、例のあいつの餌だろうね」
「だな。・・・・・・で、ああいうのを山全体でやっているから、合流しないといけなくなって、動きも遅くなっている、と」
「なるほど」
バンダッタは、順調に餌を食っているのだろう。
だが、
「・・・・・・まあ、魔獣が減っている分には、ありがたい、ということで」
無駄な戦闘が少なくなって、周囲は安全になっている。
なんだったら、ミュグラ教団の連中は、道中で行き会った石を拾いに来た拾い屋とは、むしろ和やかに会話をしている。
「・・・・・・あいつらの道理からすると、悪いことをしているってわけじゃないものな」
真龍を殺そうとしているのも、この大陸ではむしろ正義かもしれないのだ。
拾い屋から見れば、危険な魔獣を狩ってくれる相手。
しかも、自分たちが拾いに行く石に関しては、特に占有権を主張するわけでもない。
そうなると、拾い屋としても拒む理由はない。
「ああいうのだけ見てると、いい集団なんだけどなあ」
「というか、ぶっちゃけ、本当に放っておいてもいい気はするんだよね」
「あいつらが、フェリを狙ってないなら、な」
フェリを手に入れられないままに、バンダッタを若紫の真龍であるヤガルにけしかける分には、どうでもいい。
どうせ失敗するからだ。
だが、その途中で、バンダッタのさらなる強化のために、フェリを使おう、というなら、モリヒト達にとっては敵だ。
「んー。最悪、下の街に逃げ込むってのは、ありかもなあ」
「まあ、山の下までは連れてこれないだろうし、あっちで逃げて隠れておくっていうのは、手の一つだよね」
などと、モリヒト、クルワ、クリシャの三人で相談しながらの帰り道だった。
「そこを行く者ども!!」
そんな大声を聞き、ふと足を止めた瞬間に、汗くさい筋肉に囲まれることとなった。
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