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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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閑話:ルイホウさん、着替える

「・・・・・・許可、下りたわ」

 テュール異王国の首都の城。

 その中にあり、王の執務室で、ルイホウはユキオの言葉を聞いていた。

 ユキオの前の机の上には、書類の束が置いてある。

「・・・・・・意外とすんなり通るものね」

「前例がないわけではないですから。はい」

 書類の内容は、テュール異王国とオルクト魔帝国の間での技術交換である。

 今回は、テュール側からの申し込みで、オルクトに人員を派遣することになっている。

 この手の人員交換は、昔からよく行われてきた。

 地脈関連の研究で、源流に近いオルクト側と界境域に近いテュール側では、地脈から得られるものには大きな違いがある。

 加えて、オルクト国内に比べると、テュール国内には魔力的に異常な地帯も多く、魔術関連の研究ではオルクトよりテュールの方が進んでいる。

 このあたりは、源流に近い地脈を扱えるために、豊富に魔力を使うことのできるオルクトと、界境域にせき止められているために魔力自体はあふれるほどあるが、その大部分が再利用できないために、少ない魔力で高い魔力濃度故に不安定になりがちな魔術を制御する技術を磨かねばならなかったテュールとの差、ともいえる。

 ともあれ、方向性が違う状態で伸びてきた両国の魔術技術は、定期的に魔術師や技術士官を交換して、互いに高め合っている。

 このあたり、どちらの国もどちらにとっても必要な、オルクトとテュールの関係性を現している、とも言える。

「それに、こういう場合、派遣されるのは大体巫女衆の誰かですから。はい」

 テュール国内において、もっともすぐれた魔術師集団は、巫女衆である。

 幼いころからの英才教育に、国家予算によるいい教育環境。

 選別の段階から、かなり厳しい基準を設けていることもあって、巫女衆の魔術能力は群を抜いている。

 例外があるとすれば、巫女衆から騎士団などに転属している場合だろうか。

 だが、騎士団はこういった人材交換では対象にならない。

「でも、ルイホウ。今までこういうの行ってなかったんでしょう?」

「そうですね。今までは、巫女衆の仕事が忙しかったものですから。はい」

 ルイホウは、少し前まで、巫女衆の中心人物であった。

 もともとは、次期巫女長、として教育されていた人物だ。

 だが、ユエルが現れたことで、その役目はなくなった。

 ルイホウの方に、そのことで思うことはなにもない。

 むしろ、そのおかげで、モリヒトの付き人をやれたくらいだから、ルイホウにとっては結果オーライの話である。

 とはいえ、そのモリヒトがいない現状、ルイホウとしては、今更巫女衆の仕事に戻るのもどうか、という感じがあるのも事実だ。

「・・・・・・モリヒトを探したいの?」

「現状、テュール国内ではもう探す当てがありませんから。次はオルクトの方かと。はい」

 ユキオの問いに、ルイホウはうなづいた。

 そういうところは、隠す気もない。

「モリヒト様は、おそらく界境域の向こうに消えたものと思います。居場所を知っているとなれば、真龍の他ないかと。はい」

 調査をした結果だ。

 海などに落ちた可能性は、もうない。

 もしそうだったら、もう助かっていない。

 だが、もし地脈の流れに沿って、界境域の向こうに飛ばされたのならば、まだ望みはある。

 何せ、そうして生きてこの世界に戻ってきた実例は、ルイホウの目の前にいるのだから。

「だから、探しに行きます。はい」

「さすがに、もう一度真龍に会えるかどうかは、わからないんじゃない?」

「それでも、可能性はありますから。はい」

「・・・・・・そっか」

 ユキオは、ただ静かにうなづいた。


** ++ **


「いやあ、楽しいですねえ」

 バーバラの言葉に、少し物思いにふけっていたルイホウは、はっとした。

 試着室の中で、着替えている最中だ。

 服屋に連れてこられたルイホウは、その品揃えに驚いていた。

 テュールの衣服は、仕立てが多い。

 既製服は、新品はなく、大体が古着。

 それを仕立て直して着る、というのが一般的だ。

 新しい服を手に入れるなら、店で生地を選んで仕立てる、というのが普通である。

 ルイホウの場合、巫女衆であることもあって、その衣服は全部オーダーメイドである。

 一方で、オルクトはむしろ既製服の方が多い。

 店で売っているのは、すでに形のある服だ。

 それを買い、各々のセンスで組み合わせるのが、オルクトの衣服事情である。

 流行によって、街を行く人々の服装がごっそりと変わる。

「どうですか? ルイホウさん」

「ええ。ちょっと待ってください。はい」

「それ終わったら、次はこっちも試してみましょう」

 バーバラは、テンション高くいろいろ進めてくる。

 ブラウスとひざ丈のスカート。

 シンプルで、楽なスタイルだが、巫女服の重みに慣れているルイホウからすると、軽くて落ち着かない。

 次に渡されたのは、薄手のシャツと体に張り付くようなぴっちりとした脚絆。

 これは、体のラインが出すぎていて恥ずかしい。

「まあ、慣れている服が一番っていうのはわかりますけどね」

 バーバラは苦笑している。

「でも、挑戦も大事ですよ?」

「おちつかないですね。はい」

「そこは、慣れるまで我慢で」

「・・・・・・」

 それはさすがに、と閉口したところで、次にバーバラが持ってきたのは、上から羽織るコートだった。

「ちょっと今の季節だと暑いかもしれませんけど」

 羽織ってみれば、肩にかかる重みがちょうどよく感じる。

 ただ、

「んー・・・・・・」

「気に入りませんか?」

「落ち着きませんね。はい」

 単純に、服の軽さとか、露出の多さとか、そういうものよりも、着心地が悪い。

「まあ、あの服は特注品ですものね」

 腕のいい職人によって、体に合わせて仕立てられた服、というものは、着心地がいいものだ。

「・・・・・・でも、似あってますよ?」

「そうですか? それはうれしいですね。はい」

 鏡の中のルイホウは、普段は着ない服を着ている。

 その姿に、自分で見慣れない、という感じを受けて、笑ってしまう。

「・・・・・・あとは、アクセサリー、とか?」

 言われ、首にかけたネックレスに手を触れる。

 基本的に、ルイホウが身に着けるアクセサリーは、衣服に仕込まれた魔術式に干渉しないような小物ばかりだ。

 あるいは、魔術式の仕込みもかねての作りになっている、というか。

 モリヒトには、贈り物に困る、と言われたが、巫女衆としての役目もあって、そうせざるを得ない状態だった。

 そんな状態でも、いくつかの贈り物をモリヒトはくれた。

 そういう贈り物を、その日の気分でローテーションして使うのが、最近のルイホウの装飾品の使い方になっている。

 基本的に、どれか一つは、モリヒトからもらった贈り物をつけている。

 今首にかけているものもそうだし、ブレスレットやペンダントもある。

 それほど長い間いたわけでもないのに、モリヒトは結構いろいろくれた。

 どこから金を出していたのかはともかくとして。

「・・・・・・贈り物ですか?」

「え?」

「いえ、そのアクセサリーとか。・・・・・・大体同じものを使いまわしてますよね」

「・・・・・・ああ、まあ、そうです。お気に入りなので。はい」

「そうなんですね」

 バーバラは、むふふ、と笑っている。

 何か、いろいろ想像しているのだろうが、ルイホウとしては微笑を浮かべて流すしかない。

「じゃあ、その人に見せるためにも、いろいろ着てみましょう」

「結局それですか? はい」

「ここで買わないにしても、似合うデザインを覚えておけば、後で仕立ててもらうことだってできると思いますよ?」

「・・・・・・なるほど。一理ありますね。はい」

 うなづき、ルイホウは、バーバラから差し出される服を受け取るのだった。

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よろしくお願いします。


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