第7章:エピローグ
若紫色の山のある、カラジオル大陸。
当然だが、この大陸にだって、国はある。
ヴェルミオン大陸は、中央を黒の山が真っ二つに割っているため、東西で大陸の勢力図が分かれており、国家の成り立ちも東西で別々に成り立っている。
近年こそ、オルクト魔帝国の技術力が上がって、東側を制圧しつつあるが、それでも東西で文化的に隔たりが大きいのが、ヴェルミオン大陸だ。
それに対し、カラジオル大陸は、若紫の山が中心となり、輪の形に人の住める土地がある。
そのため、人の行き来が割と自由である。
特に、若紫色の山が、『守り手』の存在によって、危険な魔獣が少なめとなっている。
また、段上になっている形状のおかげで、平坦な部分が多いため、山道がそれほど険しくないこともあって、人の行き来がそれなりにある。
カラジオル大陸は、大陸内で、それほど文化的な差がない。
カラジオル大陸の国家は、一つである。
正確には、連環国家を名乗っており、四つの王家が持ち回りで代表統治を行う、という形式で、ここ数百年は安定した治世を行っている。
「山が、騒がしいと?」
その王家のうちの一つ。
東側に王宮を持つ、ジグラード領の王宮で、会議が行われていた。
会議室には円卓が置かれており、四人の王が集っていた。
「四王会議の時期で、ある意味よかったかもしれない。対策を素早く打てる」
「何か、わかっているのですか?」
円卓は、四人の王が対等な立場であることを示すもの。
この円卓が置かれる土地こそ、その時期の代表、というのが、連環国家の取り決めだ。
その中で、西に腰を下ろす、ラファールの王が告げる。
「どうやら、例の教団が動いているようで」
「ミュグラ教団か」
その名に、ううむ、と王たちからうめき声が上がる。
彼らが成した事件は、彼らの記憶にも新しい。
彼らが地脈に対して行った実験により発生した、地脈の瘤。
そして、その瘤から発生した魔獣は、連環国家の軍勢に多大な被害を与えた。
さらには、魔獣が移動した先では、岩石化現象が起こり、いくらかの農地が石地に飲まれた。
地脈からあふれる魔力は、周囲を若紫色の岩石地帯に変えてしまうこの大陸で、魔力の濃い、というのは、決して歓迎されることではない。
だが、被害が広がり、今もその対策に追われている現状なのだ。
急務として、地脈に関する技術の進むヴェルミオン大陸へと、技術者を派遣したりもしたが、そちらで得たことも今はまだ研究中の段階だ。
「やつらがまたことを起こせば、以前の二の舞にもなりかねぬ」
「それは、警戒が必要ですな」
「山のふもとの街の一つで、やつらの使役する魔獣が暴れた、という報告も入っておる」
四人の王がそれぞれに意見を言い合い、あるいは情報を出し合う。
それを部屋の隅に控える書記官たちが、それぞれに記録していく。
そうして、会議は日が暮れるまで続いた。
** ++ **
「・・・・・・ふう」
今回の代表、ジグラード王は、自室で酒を傾けつつ、深くため息を吐いた。
「やれやれ、ワシの代で、このような事態になるとはのう」
「心中、お察ししますわ」
傍に控える王妃から、盃に酒を注がれ、ジグラード王は盃を呷った。
「まったく、面倒ごとは避けたいものじゃが・・・・・・」
カラジオル大陸は、真龍の魔力の特性か、農地にできる土地が少なく、民は厳しい生活を強いられている。
決して豊かではないにしても、民はその厳しい土地に適応し、自らを律することで発展してきた。
だが、それらを一瞬で壊滅しかねない、と危機感を煽ったのが、ミュグラ教団の起こした事件だった。
あの事件以来、ミュグラ教団の存在は、民の間では憎むべき敵として認知されている。
もちろん、そのことを国家側でも認めている。
だが、それでも壊滅はできていないのが現状だ。
「・・・・・・あやつはどうしておる?」
「今も、あちらこちらと走り回っているようです」
「・・・・・・まあ、よいか」
ふう、と王はため息を吐いた。
その様を見て、王妃は苦笑した。
「頼りになる子ですよ?」
「まあ、力は認めるとも。だが、王としてはどうなのだ?」
「ですが、あの子の代は、代表は別の王です。ならば、力を示せるだけ、よいとも思えますわ」
「お前の言うこともわかるがな」
「それに、こういうときには、やはり頼りになります」
「・・・・・・そうだな。無力、無能よりはよほどにマシ、か」
ふ、と王は笑う。
「鼻も効くことだし、のう」
「まあ、ご自分の息子に、そのような」
「事実ではないか。いつ間違いを起こすか、とひやひやしておるというに」
「でも、それで間違いを犯したことはないではありませんか」
「・・・・・・まあ、そうなのだが、な」
はあ、と再度、王はため息を吐いた。
「時折、あやつがうらやましくもなる。ワシも、ああして大地を自由に駆けられたら、と」
「次の代へと引き継がれたら、隠居してそうなさってはいかがです?」
「・・・・・・お前は、ついてきてくれるか?」
「ええ。どうせなら、大陸の反対側に行ってみたいですねえ」
「そうか。・・・・・・そうだな」
王と王妃は、そうして静かに語り合った。
** ++ **
「なんてえことを、オヤジとオフクロは言い合ってんだろうねえ」
「カシラァッ!! そろそろ、見えますぜ」
「おう! しっかりやれよ!!」
「へい!!」
がんがん、と拳を打ち合わせて、大柄な男が一団を率いて荒野を駆ける。
向かう先にいるのは、魔獣の群れだ。
「ふん。普通の魔獣だな!」
「へい!」
「だが、腹の足しにはなる! 確実に仕留めろ!!」
「へい!!!」
威勢のいい声を上げて、一団は魔獣の群れへと襲い掛かった。
魔獣の群れが狩りつくされるまで、さほどの時間はかからなかった。
** ++ **
「ミュグラ教団、か」
「へい。どうも、派手に動いているようで」
「ふん。気に入らんな」
ぶちり、と焼いた肉を嚙み千切り、頭目の男は顔をゆがめる。
しばらく、じっと山の方をにらんでいたが、
「準備させろ。明日、山に入るぞ」
「いいんですかい?」
「気になる。やつら、『守り手』なんかともやりあってんだろう?」
「そういう話でさ。なんでも、やつらが従えている魔獣が、『守り手』を食ってる、とかって」
「放っておいて、ロクなことにはなるまい。派手なことをやってんなら、捕まえてぶっ潰してやる!」
「はは。カシラらしいや」
ふん、と鼻息も荒くうなる頭目に、手下たちは歓声を上げるのだった。
** ++ **
「・・・・・・ふむ。足りませんかね」
ハミルトンは、バンダッタの成長を見ながら、ぽつり、とつぶやく。
『守り手』を食わせながら進んできたが、確認されている『守り手』の総数をすべて食わせたとしても、計算上必要としている大きさまで届かないかもしれない。
道中に出会う魔獣なども食わせてはいるが、
「・・・・・・場合によっては・・・・・・」
懐から取り出し、広げたのは大陸の地図だ。
中央にある山から、大陸の端へ、放射状に線が描かれ、その線の上の何か所かには、何かの印があった。
「ふうむ」
しばし、ハミルトンは考えに耽る。
そして、近くにいた教団員を呼び、何事かを指示した。
「では、そのように」
「はい」
こうして、企みは進む。
** ++ **
「・・・・・・ふ」
ヤガル・ベルトラシュは、大陸各地で起こることを見て、笑う。
そして、静かにたたずむのであった。
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