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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第35話:若紫色の真龍、女神の種

 翌朝、目を覚ましたモリヒトは、ぐい、と伸びをする。

「・・・・・・おはようさん」

 先に起きていたクリシャやクルワに挨拶をしながら、のそのそとモリヒトは歩く。

 このあたりには水はない。

 一応、ヤガルに頼めばどうにかなるが、今のところは手持ちでどうにかできている。

「ちなみに、水とかの残りは?」

「食料含めて、まだもう余裕はあるよ。帰りの分を引くと、残りは三日分くらい」

 食料などを詰めておいた袋を開いて、クリシャは答えた。

 ちなみに、荷物は全部クルワが持っていたものである。

 こういう山地を歩きまわるのに、クルワが一番体力があるからだ。

 いくらかの分はモリヒト自身も持ち歩いていたが、そのあたりはすでに消費している。

「んー」

 ちなみに、残りの物資の計算をしているが、やはり全部ヤガルに頼んだらどうにかできるだろう、と思っている。

 ここに残るかどうかはまだ決めかねているが、もうしばらくいてもいいし、もう帰ってもいい。

 さてどうしようかな、とモリヒトは考える。

「クリシャ。これからどうするんだ?」

「何がだい?」

「今日の予定とか、今後の予定とか」

「ボクの方は、もう用事は済んだよ」 

 ふん、と、クリシャは息を吐いた。

 かなり不機嫌そうだ。

「フェリの件、ボクとしては不本意なんだけどね」

「で?」

「どうしようもないでしょ。・・・・・・だから、できることするだけ」

「割とあきらめいいのな」

「真龍相手だったら、こんなもん」

 クリシャは、モリヒトに向かって指を突き付けて、

「モリヒト君ならわかってると思うけど、あいつら、結論ありきでしかしゃべらないから」

「まあ、なんとなくわかる」

 真龍は、自然の化身のようなものだ。

 言葉を投げかければ、悩むような姿や考えるような動きを見せることはあるが、基本的に結論ありきである。

 この世界の真理、あるいは、自然法則に則った答えは、ほぼ確実に正確なものを返してくれる。

 この世界のルールについてなら、すべてを知っているから、正しく問えば、正しく答えてくれる。

 ただ、そのルールは、変わらない。

 だから、問い方を変えたり、経緯を説明したり、といろいろやったとしても、彼らの答え、その結論は変わらない。

「フェリのことを救う方法、絶対にないってわけじゃないから」

「だろうなあ。・・・・・・ぶっちゃけ、フェリの誕生は、真龍の知っているルールの外だろ。そのあと、フェリが今ここにいることに関しては、どうも真龍がかかわってるっぽいから、ヤガルでも答えられるだろうけど」

 フェリの肉体は、ミュグラ教団が何かしらやってできたものだ。

 あるものを真白の真龍が利用しようとしているようだが、その肉体そのものは、彼らが独自に作り出したものだから、真龍には作れないだろう。

「でも、フェリは結末に納得しているっぽいけど?」

「・・・・・・まあ、それに関しては、またあとで考えるよ」

「そうか」

 モリヒトとしては、フェリが自分の結末を納得しているなら、それはもうそれでしょうがない、と思っている。

 ただ、クリシャとしては、どうなんだろうか、とも思う。

「モリヒト君は、フェリのことについては、もう考えないでいいよ。残りは、フェリの意思に任せたらいいさ」

「そうかい。じゃあ、俺はもう考えない」

 さて、後はどうするか。

「クルワは?」

「あたし? あたしは、もうモリヒトに付き合うくらいよ」

「そうか」

 うーん、と悩む。

 朝ごはんとなるものを用意している間も、うんうん、とうなったが、結論は出てこない。

 そうこうして、朝食を食べ終わった後に、またヤガルが現れた。

「帰るかね?」

「・・・・・・そうすっかなあ」

 今、ここで聞くべきことはない、と思う。

 あとは、帰り道のことだ。

 それで、思いついた。

「そういや、俺らがここに来るまでに会った連中。あれが連れてる魔獣とか」

「・・・・・・ふむ。あの、ごちゃごちゃとした混沌か」

 真龍の目から見てもめちゃくちゃに見えるのか、ヤガルはふむ、とうなった。

「あれ、この辺にいるのか?」

「いるな。あれから、周囲をめぐって、山にいる魔獣や『守り手』を襲っている」

「・・・・・・むう」

 放っておいていいものだろうか。

 ミュグラ教団のハミルトンは、魔獣を使って真龍を殺す、と言っていたが、

「あ」

 そうか、と思う。

 聞きたいことがあった。

「あいつら、真龍を殺すとか言ってたが、可能なのか?」

「さて? 今のところ、死んだ真龍というものはいない。そうである以上、こちらとしても断言はできない」

「そう、なのか?」

「今、ここにいる、『ヤガル・ベルトラシュ』としてのこの身を滅する、というのなら、可能だ。だが、大陸に根ざしている『真龍』、地脈の源泉である『真龍』を殺す、となると、そんな方法は存在しない」

 のっぺりした顔で、胸に当たる部分に手を当てて、ヤガルは言う。

 その内容に、モリヒトはなるほど、とうなづく。

 今までにそんなことが起きていない、というのもあるが、少なくとも、自然に、あるいは時間の流れなどで真龍が死ぬことはないのだろう。

「ていうか、あいつら、アートリアは真龍より上、とか言ってたんだが、それってどうなんだ?」

「それはない」

 ヤガルは、そこはきっぱりと否定した。

「アートリア。人間たちが、『女神のウェキアス』と呼んでいるものから現れる、雌性体の姿をした意識体だな」

 ウェキアス。女神の種の意味を持つ言葉。

 人間の社会では、これが宿る器物は、すべて性能の高い宝物として扱われる。

 確かにあれは、魔術的にも、超越した力を持っている。

「あれは、別に何ら奇跡の産物というわけでもない。・・・・・・君たちが、『混ざり髪』と呼んでいる存在。そこにいるクリシャなどだな」

 髪色に、複数の色が混ざった存在。

 生まれつきそういう色付きで生まれてくる存在は、魔術的に優れた存在になる。

「あれは、精霊が混ざったからだ、と言われているな?」

「ああ」

「それが器物で発生したものが、ウェキアス。そして、そこから意識体を実体化したものが、アートリアだ」

「全部女の人の姿なのは?」

「そちらの方が安定するからだ。自然とそうなる、という程度の話だ。それ以外には、特に理由はない」

「そういうものか」

 へー、とうなづく。

「あいつら、女神は真龍より上だから、アートリアなら真龍を殺せる、とか言ってたけどなあ」

「最初に行った通り、地脈に根ざしている『真龍』を殺すことはできない。何か勘違いか、思い上がりがあるのではないか?」

「そういうものか」

 そうだったらいいなあ、とモリヒトは思う。

 それなら、結局、やつらがことを起こしても、何もない、で終わるからだ。

「うーん・・・・・・」

 そこまでを聞いて、モリヒトはうなった。

「どうしたの?」

「なあ、クリシャは、もう帰るか?」

「うん?」

「クルワは? もう帰るか?」

「あたし?」

「フェリは、どうだ? もう帰りたいか?」

「んうー?」

 三者三葉に首をかしげる中、モリヒトは、うーん、ともう一度うなって、

「俺は、もう少しここにいたいんだよ」

「なんでだい?」

「ちょっと、試したいことがある。ここの、めっちゃ濃い魔力を使えると、できるんじゃないか、と思ってな」

「ふうん?」

 クリシャとクルワは、モリヒトのその言葉を聞いて、それぞれに目配せをする。

「まあ、用はないし、物資にも余裕はあるし、ここに残りたいっていうなら、付き合うよ。ボクはね」

「あたしもいいわよ。ここを出た後のことは特に決めてないし、しばらく付き合うくらい」

「フェリもー。フェリは、ここの方が楽、だからー」

 魔獣であるフェリとしては、濃密な魔力が渦巻くこの空間は、居心地がいいのだろう。

 三人の賛成が得られたことで、モリヒトはうなづいた。

「じゃあ、頼む。しばらくここにいさせてくれ」

 ぺこ、と頭を下げて頼むモリヒトに、三人はうなづくのだった。

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