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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第33話:若紫色の真龍、真白の真龍

 ソレは、まだ生きていた。

 次々と投げ込まれる、かつて同じ立場だった者たち。

 それを吸収しながら、魔力を吸い上げ、かろうじて、生きていた。

 だが、そこに魂はない。

 どろどろに溶けた意識の中、ソレは深いところから響く声を聴いていた。

 その声は、ゆるやかにソレを導いていた。

 そして、どろどろに溶け合い、混ざり合ったソレの意識の中から、一つの意識が浮かび上がる。


―こんにちは。お名前は?―


 その浮かび上がった意識に向かって、深いところから響く声が問う。

 ソレは、答えた。


「フェリツェーラ・クル・ジェベリエータ」


 フェリが、フェリになった瞬間だった。


** ++ **


「フェリは、あの瞬間にフェリになったの」

 フェリは、にこにこしている。

「フェリになってから、たくさんのことをお話ししたの。たくさんのことを教えてもらったの」

 その中には、クリシャのこともあったらしい。

「だから、クリシャが来たときに、一緒についていったの」

「その声って何者なんだい?」

 クリシャがフェリのことを知ったのは、なかば偶然だ。

 ミュグラ教団で、カラジオル大陸の最近の状況を探ろうとしたところで、たまたま見つけたにすぎない。

 放っておけないから引っ張り出したが、フェリが素直についてきたその理由に、驚いていた。

 声、というものの正体がわからないと、不安なのだろう。

「此方と同じもの。すなわち、真龍だろう」

 だが、そのクリシャの問いには、ヤガルがなんでもないことのように答えた。

「真龍? どこの?」

「いまだ色のない、すなわち、真白だ」

 以前、モリヒトがルイホウから聞いた真龍の数は、八。

 漆黒、黄丹、黄金、真紅、群青、若紫、常盤、銀煤

 それぞれの色を持つ真龍達だ。

「真白って真龍は、聞いたことないなあ」

「そうだろう。人間たちの間では、おそらく知られてはいまい」

「なんで?」

「真龍というものは、すべからく自らの大陸を持っている。それが人間の常識だろう?」

「真白は」

「真白の真龍とは、すなわち何色にも染まっていない真龍。いまだ自らの大陸を持たない真龍のことだ」

「そんなのいるのかよ」

「いるとも。・・・・・・といっても、新しい真白の真龍が生まれるなど、ずいぶんと久しぶりのことだが」

 うーむ、とヤガルは懐かしむようにうなる。

「お前らの感覚で久しぶりって、どんなもんよ」

「さて? 人間の暦など、時代によって変わるからな。此方としても、どう伝えたものか」

 とりあえず、数えることもできないくらい昔らしい。

「ていうか、ひょっとしてあれか? 俺は、真龍ってのは、世界の始まりからずっといるもんだと思ってたが、もしかして年齢順とかあるのか?」

「生まれた順、という意味ならば、一応はある」

 もっとも、

「そんなものは、真龍である身からすれば、どうでもいいことだ。あるし、ない。真龍は、それぞれに交流を持つものでもない」

 真龍にとっては、他者などどうでもいいものなのだろう。

 だからこそ、ヤガルはどうでもいいこと、と語る。

「・・・・・・まあ、とにかく、フェリに関しては、もうそんなに時間はないってことか?」

「フェリツェ-ラには、すでに魂はない。だが、そのありようには、どうやら役目が与えられている」

「役目?」

「まあ、人間で言うところの余興に近いものだがな」

 モリヒトが首をかしげている間にも、ヤガルは自分勝手に語る。

 何かをモリヒトに伝えよう、ということも持っていないからだろう。

 だから、モリヒトは、ヤガルが言うことから勝手に読み取るしかない。

「フェリ。どういうことなんだ?」

「フェリは、もうすぐ消えちゃうでしょ? でも、それは意識だけで、体は残るから、体をあげるの」

「あげるって」

「そういう約束だから。フェリの魂とか、フェリを作っているいろいろな友達の魂とか、全部きれいにして、地脈に戻してくれるから、代わりに抜け殻になるまで体を大事にすることが、役目なの」

「そいつに体をやるために?」

「ううん。この体が、ちゃんと形を持ってるのも、全部その声のおかげだから。フェリの方が、ちょっと借りてるだけだから。返すの」

「そうか。うん。よくわからん」

 結局、モリヒトは理解を放棄した。

 クリシャは、うーん、と悩んでいるが、

「結局、フェリの体は、いずれ真龍の入れ物になるってことかい?」

「そういうことになる。・・・・・・真白の真龍は、どうやら人の影響を強く受けているようだな。まあ、仕方ないが」

 ヤガルの視線が自分に向いているように見えて、モリヒトはどうも居心地が悪い。

「・・・・・・クリシャ。知りたいことは知れたのか?」

「うん。まあ、納得はしづらいけど、でも、フェリはそれでいい、と思ってるみたいだし」

 うーん、とクリシャはうなっている。

 モリヒトは、そんなクリシャを置いて、

「クルワ。お前の方は?」

「特に何も。なんていうか、聞いているだけで、割とおなか一杯な感じ」

「そうか」

 うーん、とモリヒトは悩む。

 真龍と接触できる機会は、それほど多くない。

 モリヒトとしては、さらに何か聞くべきか、とも思うが、さて、と頭を悩ませる。

「あ、そうだ」

 一つ思い出した。

「ここから、漆黒の真龍のいるヴェルミオン大陸に渡る方法って、なんかあるか?」

「海を船で渡る以外で、ということか」

「そう」

「人の身では難しいな。界境域を通じて、世界の外に出て回りこむ、という方法もあるが、人間では流れを制御できまい」

「む。となると、やはり船に乗るしかないか」

「人の身ならば、それが確実だろう」

 世界の外を回り込むとか、イメージはできなくもないが、うまく目的の場所にたどり着けるか、という点で不安がある。

「しかし、モリヒト」

「俺?」

 うーむ、とうなっているモリヒトに、不意に真龍が声をかけた。

「どうやらそちらも、かなり奇特な人間だな。長く人間を見てきたが、モリヒトほどおかしい人間は初めて見た」

「おかしいとな」

「不思議ではある。真龍の持つ魔力吸収能力を持つこともそうだが、それ以外にもアートリアのこともある」

「・・・・・・ミカゲ?」

「あれは、この世界由来のものではない。あれもまた、モリヒトと同じく、他の世界から来たものだ」

「他の世界から?」

「そうだ。・・・・・・正確には、あれはモリヒトの世界にわたってから、モリヒトと一緒にこちらの世界に来たものだ」

「・・・・・・待てよ? その言い方からすると、ミカゲって、俺がこの世界に来る前から、俺と一緒にいたのか?」

「そのようだな。他の世界のことゆえ、深くは探れぬが、モリヒトの中には、何か深いつながりがある」

「ほうほう」

 朗報、と聞いてもいいのだろうか。

「俺は、ミカゲを呼び出せるか?」

「さあ? 問題は、モリヒト一人のうちに収まるものでもない。方法に気づきさえすればすぐだろうが、その方法については、此方の感知できる領域外のことだ」

「・・・・・・ふーん」

 だが、それはいいことを聞いた、とモリヒトは明るくなる。

 ミカゲは、モリヒトのアートリアだ。

 ミカゲがいるなら、発動体がどうこう、ということに悩まなくてもよくなる。

「なるほど」

「嬉しそうね」

 そんなうきうきしているモリヒトに、クルワが声をかけてきた。

「そう見えるか?」

「ええ」

「俺も、あまりミカゲと接した時間が長いとは言えないんだけどなあ。でも、なんかあるとうれしい」

「そうなんだ」

 ふーん、とクルワは何か、含むところのあるうなづきを返すのだった。

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