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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第27話:龍殺し(3)

 先に動いたのは、クルワだった。

 クルワは、魔術も使えなくもないが、基本は剣で斬る前衛である。

 だから、先に間合いを詰めるために動く。

 その動きを見て、合わせて動いたのがクリシャだ。

 クルワの動きを見て、対応の動きを見せた教団員に対し、杖を振って魔弾を叩き込む。

「モリヒト。あの泥人形の相手は頼むよ」

「・・・・・・あいよ」

 俺の相手は、あれかー、とモリヒトは唸りながらも、モリヒトは構える。

「やれやれ。できれば、けが人は出したくないのですが」

 ハミルトンが肩をすくめて、

「バンダッタ。行きなさい」

 ハミルトンが手を振ると、バンダッタがのしり、と歩き出した。

 その向かう先は、一番近いところにいたクルワだ。

 バンダッタは、腕を伸ばし、クルワを捕らえようとするが、クルワはその下をかいくぐってすり抜ける。

 クルワは、バンダッタに接触しないよう、一定の距離を取ったまま、周囲の教団員に斬りかかっていた。

 すり抜けざまに斬りつけ、一撃入れたらこだわらずに距離を開ける。

 クルワを追いかけようとする教団員は、クリシャからの援護射撃で足止めを受ける。

 その間に、クルワはまた走る。

 その繰り返しだ。

 それを追いかけるバンダッタは、身体が大きいために他の教団員を巻き込みそうになっている。

 そして、バンダッタは、他の教団員を気にしていない。

 そのため、教団員の方が、バンダッタの動きを気にして、動きが悪くなっている。

 結果として、クルワが走りまわる隙が大きくなっている。

 また、バンダッタがクルワに手を伸ばす。

 それは、単純な腕の長さだけではない。

 その腕が、さらに伸びる。

 粘土で作った人形の腕を、引っ張って伸ばすように、バンダッタの腕は伸び、クルワに迫る。

 それを、クリシャの魔弾が撃ち落とした。

 細くなった部分を撃たれたバンダッタの腕は、その部分でちぎれて落ちる。

 だが、それはうごめいたかと思えば、バンダッタのもとへと戻っていった。

 そして、取り込まれる。

 バンダッタは、足をほとんど動かさず、腕だけを伸ばしてクルワを追いかけていた。

「遅い遅い!」

 クルワは、その腕に追いかけられながら、余裕をもって回避行動を取り、教団員にダメージを与えていく。

 時折噴き上がる炎のおかげで、教団員は、次第に行動不能になる者が増えていく。

「何をしているのですか?! 早くとらえるなり、殺すなりしてしまいなさい!」

 ハミルトンが大声を出すが、それで状況が変わったりはしない。

 クルワが派手に振り回すおかげで、敵の注目はクルワに集まっていた。

 そこに、クリシャが混ざることで、戦場は確実に敵側に寄っていた。

「ふむ」

 クルワとクリシャで敵集団を振り回してくれているおかげで、モリヒトとフェリの方に来る敵がいない。

「フェリ、俺の後ろにいて、目立たないようにな?」

「じゃあモリヒト。その杖捨てて?」

「・・・・・・何でよ」

「気持ち悪いから」

「んー」

「それ、よくない」

「それは分かるけどな」

「それ、モリヒトによくない」

「俺には、影響出ないぞ?」

「それでも。・・・・・・それは、よくないのを呼ぶ」

「よくないの?」

「紅くて黒いの。あと、おほほと笑う」

 変に具体的なものが出た、と思う。

 それに当てはまりそうな知り合いなど、そうそう思い当たるものではない。

 ともあれ、今は戦闘中である。

 とはいえ、杖を構えるとフェリが気にするから、モリヒトは剣の方を構えた。

「―ゼイゲン―

 焔よ/集え/収束する/一撃は強く/重く/熱く/」

 やるべき、と考えて、詠唱を深くする。

 最近は、詠唱は簡単なものを多くして、それで済ませていた。

 周囲に多くの魔力があることで、それでも十分な威力を出せていたため、簡単な詠唱の方が早く出せることもあって、そうしていた。

 だが、今度は多くの詠唱を重ねて、威力をより高くする。

 そうすることで、バンダッタに対する攻撃力を上げる。

 ゼイゲンの方は、サラヴェラスに比べて、発動体としての能力はそれほど劣ってはいない。

 ただ、サラヴェラスが持つ、使用者に対する洗脳能力が、モリヒトの場合は集中力の向上につながるため、モリヒトとしては有効なものと感じるだけだ。

 だが、それは一旦無視して、ゼイゲンに魔力を強く流す。

「それは針のように細く/それは道のように長く/それは柱のように強固である/」

 生まれた炎は、小さく球形だ。

 詠唱を長く、イメージを強く。

 そうして、威力と精密さを上げる。

 求める結果は、一撃必殺だ。

「貫くな/打ち据えろ/切り裂くな/砕き尽くせ/撃滅を以て/結果と成す/」

 ゼイゲンの剣先で、小さく収束してた焔が、急速に温度を上げ、拡大する。

「焼滅せよ/焔の竜よ」

 そして、剣で焔の玉を突いた。

 その瞬間、弾けるように焔の玉が拡大する。

 それは、二メートルほどの直径を持つ、蛇のような胴体を持った炎の竜だ。

 思い起こすイメージは、『竜殺しの大祭』で現れた、『竜』のイメージだ。

 不意に現れたその炎の竜の姿と熱量に、敵の注目が集められた。

 クルワとクリシャは、その隙を突いて、さっと離脱する。

 そして、炎の竜が、動いた。

 ごう、と口を開き、向かう。

 向かう先は、バンダッタだ。

「焼き尽くせ」

 大きく開かれた顎が、バンダッタへと襲い掛かる。

 ごう、と熱量が吹き荒れ、かみついた竜はそのままその場でとぐろを巻いていく。

 結果、周囲にいた教団員たちを巻き込み、炎の旋風が吹き荒れる。

「・・・・・・はでだねー」

 クリシャが、モリヒトの近くまで戻ってきて、モリヒトに言った。

 モリヒトは、制御に集中していて、答えるところではない。

 そして、炎の竜が消えていく。

 残っていたのは、ハミルトン。

 教団員は、炎に巻かれて、地面に倒れている。

 そして、肝心のバンダッタは、

「黒焦げだねえ」

「・・・・・・・・・・・・」

 全身からぶすぶすと焦げた煙を上げて、バンダッタは立ち尽くしている。

「芯まで焼けたかね?」

 それなら、これで終わり、と見ることもできるが、

「何をしているのですか? バンダッタ。魔術による攻撃なぞ、効かないでしょう!」

 その声に応じたものか、バンダッタが震えた。

 そして、焦げた表皮に罅が入り、ぽろぽろと崩れ落ちる。

 その下から現れるのは、元通りの表皮である。

「焼けたのは表面だけ」

「だけど、教団員は全滅だねえ」

「・・・・・・失敗したかもな」

「え?」

 モリヒトが顔をしかめたところで、ハミルトンがやれやれ、と嘆息した。

「意外とダメージを受けましたね。仕方がない」

 そして、周囲に倒れている教団員を指して、

「食って補給なさい」

 そして、その言葉通りに、バンダッタは動いた。


** ++ **


「・・・・・・うわ」

 その光景を見て、クリシャはうめいた。

 見ている間に、バンダッタは近くに倒れていた教団員たちに腕を伸ばし、それを体へと取り込んでしまった。

 そして、ハミルトンは、こちらへ向いた。

「やれやれ。どうやら、まだこれでは少々足りないようですな」

「あん?」

「今日は、引かせていただきますよ」

「・・・・・・どういうつもりだ」

「何。簡単な話ですよ」

 ふ、とハミルトンは笑った。

「バンダッタは、食えば食うほど強くなる。・・・・・・確実にあなた方をどうにかするためには、もう少し、いろいろ食わせてからの方がよさそうですから」

 では、と言って、ハミルトンは背を向け、山を下りていく。

 バンダッタは、しばらくこちらを見ているようにじっとしていたが、しばらくして振り返り、ハミルトンのあとを追っていった。

 後に残ったモリヒト、クリシャ、クルワは、その後ろ姿が見えなくなってから、ふう、と息を吐いた。

「・・・・・・追いかけるべきかね」

「やめとこうよ。薮蛇ついてもつまらないし」

「そうだな。目的は違うし」

「でも、次は、もっと厄介かも」

「その時はその時だ。今ですら、面倒だしな」

 ともあれ、モリヒト達は、敵を退けたのだった。


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