第27話:龍殺し(3)
先に動いたのは、クルワだった。
クルワは、魔術も使えなくもないが、基本は剣で斬る前衛である。
だから、先に間合いを詰めるために動く。
その動きを見て、合わせて動いたのがクリシャだ。
クルワの動きを見て、対応の動きを見せた教団員に対し、杖を振って魔弾を叩き込む。
「モリヒト。あの泥人形の相手は頼むよ」
「・・・・・・あいよ」
俺の相手は、あれかー、とモリヒトは唸りながらも、モリヒトは構える。
「やれやれ。できれば、けが人は出したくないのですが」
ハミルトンが肩をすくめて、
「バンダッタ。行きなさい」
ハミルトンが手を振ると、バンダッタがのしり、と歩き出した。
その向かう先は、一番近いところにいたクルワだ。
バンダッタは、腕を伸ばし、クルワを捕らえようとするが、クルワはその下をかいくぐってすり抜ける。
クルワは、バンダッタに接触しないよう、一定の距離を取ったまま、周囲の教団員に斬りかかっていた。
すり抜けざまに斬りつけ、一撃入れたらこだわらずに距離を開ける。
クルワを追いかけようとする教団員は、クリシャからの援護射撃で足止めを受ける。
その間に、クルワはまた走る。
その繰り返しだ。
それを追いかけるバンダッタは、身体が大きいために他の教団員を巻き込みそうになっている。
そして、バンダッタは、他の教団員を気にしていない。
そのため、教団員の方が、バンダッタの動きを気にして、動きが悪くなっている。
結果として、クルワが走りまわる隙が大きくなっている。
また、バンダッタがクルワに手を伸ばす。
それは、単純な腕の長さだけではない。
その腕が、さらに伸びる。
粘土で作った人形の腕を、引っ張って伸ばすように、バンダッタの腕は伸び、クルワに迫る。
それを、クリシャの魔弾が撃ち落とした。
細くなった部分を撃たれたバンダッタの腕は、その部分でちぎれて落ちる。
だが、それはうごめいたかと思えば、バンダッタのもとへと戻っていった。
そして、取り込まれる。
バンダッタは、足をほとんど動かさず、腕だけを伸ばしてクルワを追いかけていた。
「遅い遅い!」
クルワは、その腕に追いかけられながら、余裕をもって回避行動を取り、教団員にダメージを与えていく。
時折噴き上がる炎のおかげで、教団員は、次第に行動不能になる者が増えていく。
「何をしているのですか?! 早くとらえるなり、殺すなりしてしまいなさい!」
ハミルトンが大声を出すが、それで状況が変わったりはしない。
クルワが派手に振り回すおかげで、敵の注目はクルワに集まっていた。
そこに、クリシャが混ざることで、戦場は確実に敵側に寄っていた。
「ふむ」
クルワとクリシャで敵集団を振り回してくれているおかげで、モリヒトとフェリの方に来る敵がいない。
「フェリ、俺の後ろにいて、目立たないようにな?」
「じゃあモリヒト。その杖捨てて?」
「・・・・・・何でよ」
「気持ち悪いから」
「んー」
「それ、よくない」
「それは分かるけどな」
「それ、モリヒトによくない」
「俺には、影響出ないぞ?」
「それでも。・・・・・・それは、よくないのを呼ぶ」
「よくないの?」
「紅くて黒いの。あと、おほほと笑う」
変に具体的なものが出た、と思う。
それに当てはまりそうな知り合いなど、そうそう思い当たるものではない。
ともあれ、今は戦闘中である。
とはいえ、杖を構えるとフェリが気にするから、モリヒトは剣の方を構えた。
「―ゼイゲン―
焔よ/集え/収束する/一撃は強く/重く/熱く/」
やるべき、と考えて、詠唱を深くする。
最近は、詠唱は簡単なものを多くして、それで済ませていた。
周囲に多くの魔力があることで、それでも十分な威力を出せていたため、簡単な詠唱の方が早く出せることもあって、そうしていた。
だが、今度は多くの詠唱を重ねて、威力をより高くする。
そうすることで、バンダッタに対する攻撃力を上げる。
ゼイゲンの方は、サラヴェラスに比べて、発動体としての能力はそれほど劣ってはいない。
ただ、サラヴェラスが持つ、使用者に対する洗脳能力が、モリヒトの場合は集中力の向上につながるため、モリヒトとしては有効なものと感じるだけだ。
だが、それは一旦無視して、ゼイゲンに魔力を強く流す。
「それは針のように細く/それは道のように長く/それは柱のように強固である/」
生まれた炎は、小さく球形だ。
詠唱を長く、イメージを強く。
そうして、威力と精密さを上げる。
求める結果は、一撃必殺だ。
「貫くな/打ち据えろ/切り裂くな/砕き尽くせ/撃滅を以て/結果と成す/」
ゼイゲンの剣先で、小さく収束してた焔が、急速に温度を上げ、拡大する。
「焼滅せよ/焔の竜よ」
そして、剣で焔の玉を突いた。
その瞬間、弾けるように焔の玉が拡大する。
それは、二メートルほどの直径を持つ、蛇のような胴体を持った炎の竜だ。
思い起こすイメージは、『竜殺しの大祭』で現れた、『竜』のイメージだ。
不意に現れたその炎の竜の姿と熱量に、敵の注目が集められた。
クルワとクリシャは、その隙を突いて、さっと離脱する。
そして、炎の竜が、動いた。
ごう、と口を開き、向かう。
向かう先は、バンダッタだ。
「焼き尽くせ」
大きく開かれた顎が、バンダッタへと襲い掛かる。
ごう、と熱量が吹き荒れ、かみついた竜はそのままその場でとぐろを巻いていく。
結果、周囲にいた教団員たちを巻き込み、炎の旋風が吹き荒れる。
「・・・・・・はでだねー」
クリシャが、モリヒトの近くまで戻ってきて、モリヒトに言った。
モリヒトは、制御に集中していて、答えるところではない。
そして、炎の竜が消えていく。
残っていたのは、ハミルトン。
教団員は、炎に巻かれて、地面に倒れている。
そして、肝心のバンダッタは、
「黒焦げだねえ」
「・・・・・・・・・・・・」
全身からぶすぶすと焦げた煙を上げて、バンダッタは立ち尽くしている。
「芯まで焼けたかね?」
それなら、これで終わり、と見ることもできるが、
「何をしているのですか? バンダッタ。魔術による攻撃なぞ、効かないでしょう!」
その声に応じたものか、バンダッタが震えた。
そして、焦げた表皮に罅が入り、ぽろぽろと崩れ落ちる。
その下から現れるのは、元通りの表皮である。
「焼けたのは表面だけ」
「だけど、教団員は全滅だねえ」
「・・・・・・失敗したかもな」
「え?」
モリヒトが顔をしかめたところで、ハミルトンがやれやれ、と嘆息した。
「意外とダメージを受けましたね。仕方がない」
そして、周囲に倒れている教団員を指して、
「食って補給なさい」
そして、その言葉通りに、バンダッタは動いた。
** ++ **
「・・・・・・うわ」
その光景を見て、クリシャはうめいた。
見ている間に、バンダッタは近くに倒れていた教団員たちに腕を伸ばし、それを体へと取り込んでしまった。
そして、ハミルトンは、こちらへ向いた。
「やれやれ。どうやら、まだこれでは少々足りないようですな」
「あん?」
「今日は、引かせていただきますよ」
「・・・・・・どういうつもりだ」
「何。簡単な話ですよ」
ふ、とハミルトンは笑った。
「バンダッタは、食えば食うほど強くなる。・・・・・・確実にあなた方をどうにかするためには、もう少し、いろいろ食わせてからの方がよさそうですから」
では、と言って、ハミルトンは背を向け、山を下りていく。
バンダッタは、しばらくこちらを見ているようにじっとしていたが、しばらくして振り返り、ハミルトンのあとを追っていった。
後に残ったモリヒト、クリシャ、クルワは、その後ろ姿が見えなくなってから、ふう、と息を吐いた。
「・・・・・・追いかけるべきかね」
「やめとこうよ。薮蛇ついてもつまらないし」
「そうだな。目的は違うし」
「でも、次は、もっと厄介かも」
「その時はその時だ。今ですら、面倒だしな」
ともあれ、モリヒト達は、敵を退けたのだった。
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