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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第26話:龍殺し(2)

「どうやって、その『龍殺し』ってのをやるつもりなんだ?」

 モリヒトは、ハミルトンに、そう聞きつつも、妙な気分を味わっていた。

 ぶっ飛ばした方が早くないか、と思う。

 だが、ここで聞いておかないといけない、とも思う。

 不愉快だが、今は動いてほしくない。

「ふふふ。そのために、この『バンダッタ』を作り上げたのです!」

 バンダッタ、というのが、異形の魔獣の名前らしい。

「そんな魔獣一匹いたところで、真龍に届くとは思えないんだけど?」

 遠目に見える真龍は、山よりもはるかに大きい。

 異形の魔獣は、確かに大きくはあるが、それも人に比べて、という話だ。

 人の二倍程度の身長はあるものの、その身長に比べれば横幅は狭い。

 あのワニの魔獣に比べれば、非常に小さい。

 そして、ワニの魔獣は、おそらく『守り手』に負けている。

 異形の魔獣の方とて、大きさとしては、『守り手』とそう変わらない。

「・・・・・・あれに?」

 真龍の方と指さし、大きさを比べる。

「・・・・・・ムリだろ?」

「ふ。考えが甘い」

 ハミルトンが、やれやれ、と肩をすくめ、首を振る。

 それから、ハミルトンは、懐から何かの包みを出した。

 細長い包みをはぎ取り、中身を出してきた。

 それは、小さな短剣であった。

「そう。確かに今はまだ小さいものです」

「・・・・・・」

「ですが、今、これが『守り手』を取り込んだのは見えましたか? これを繰り返せば、いずれは真龍を越えるものとなるでしょう」

「・・・・・・」

 バンダッタを見る。

 その異形の魔獣は、先ほど『守り手』を取り込んでから、それほど大きさが変わったようには見えない。

 それに、

「いくら大きくしたところで、アレに勝てるとは思えないけどな」

「大きさ、というのは、あくまでも比喩表現ですよ」

 モリヒトからしてみると、そもそも、真龍と戦う、ということ自体が無謀、というか、無意味としか思えない。

 漆黒の真龍であるクロと話した時の印象だ。

 そもそも、真龍には、環境に対する支配と操作能力がある。

 真龍の領域、すなわち、大陸の上であれば、真龍はある程度、環境を好き勝手に操作できる。

 地脈が弱くなる大陸の端の方ならばある程度は弱くなるが、真龍のいる近辺だったら、その支配力は抗いようもない。

「・・・・・・非常識、だと思うがねえ」

 極端な話、魔獣では真龍には勝てない。

 なにせ、魔力で自らの体を維持しているのが、魔獣だ。

 そして、真龍ならば、その魔獣が自らの体を維持するために使っている魔力を、すべて奪ってしまえば、それで終わりである。

 挑むまでもなく終わる。

 何より、真龍は、生物というより、自然現象の方が近いと思っている。

 やり過ごすならともかく、真正面から挑む、というのは、無駄な努力だとしか思えない。

 だが、ハミルトンは本気のようであった。

 狂気すら感じる笑みを浮かべ、テンション高い様子が見て取れる。

「というか、そんな泥人形で何ができるってんだ?」

「泥人形。なるほど。言い得て妙です」

 ふっふっふ、とハミルトンは笑った。

「それに、どうしたところで、それじゃあ、真龍相手だと泥玉みたいなもんだろ。ちょっと汚れるかもしれんが、その程度だ」

「そうですな。・・・・・・真龍を相手にするのに、泥玉をいくらぶつけたところで無意味」

 ですが、とハミルトンは続ける。

「泥玉を多く集め、押しつぶすほどに大きくしたならば、いかがです?」

「・・・・・・」

 比喩表現とはいえ、そんなものをどうやってぶつける気だ、と思わなくもない。

「手のひらに載る程度のサイズの泥団子ならともかく・・・・・・」

 山よりも巨大な真龍。

 その頭頂部に至っては、雲のかかる高度まで達しているように見える。

 ほんの僅かに身動ぎするだけで、地震すら発生させる質量。

 それを押しつぶすほどの泥玉となれば、それは大陸サイズだろう。

「あんなもんを押しつぶすような泥玉なんぞ、どうやって投げるつもりだ?」

「ふ。投げる? 何を言っているのですか?」

 やれやれ、とため息を吐かれた。

「そもそも、投げる必要などありませんよ。高いところに持って行って、泥玉を作り、必要な大きさになったら転がせばよい」

「・・・・・・・・・・・・あれより、高いところ? それこそむりだろ」

 この世界で、空より高いところにものを持っている方法があるとは思えない。

 魔術を使うにしても、空より高いところに何かを飛ばすイメージは困難だろう。

 そして、その高さからものを落としたところで、真龍ならば落ちる前にどうにかするか、下手すると耐える。

「位置的な話ではありません」

 だが、そんなモリヒトの想像とは、ハミルトンの計画は違うらしい。

 ハミルトンは、手の中の小さな短剣を見た。

 そして、それから、フェリを見た。

「位階的な話ですよ」

「あ?」

「ウェキアス。そして、アートリア。ご存じですよね?」

「知っているが。それがどうした?」

「あれらはね。真龍よりも、位階が上なのですよ」

「何だよ。位階って」

「存在の価値、みたいなものかな? あくまでも、ミュグラ教団内での概念で、あいつらが勝手に言ってることだけどね」

 ミュグラ教団には、そもそも、人より優れたものになる、という目的がある。

 その優れたもの、という判断のために、基準を設けている。

 それが、位階だ。

 そこまでを説明を受けて、モリヒトは、ふうん、と頷いた。

「・・・・・・で?」

「ふ。あなた方は知らないでしょう! 我々ミュグラ教団には、人造のアートリアを制作する力がある!!」

「・・・・・・」

 知ってる、とモリヒトは言いそうになった。

 かつて戦った、アリーエ・クティアス。

 あれは、自らを人造のアートリアと名乗っていた。

「まさかとは思うけど、その泥人形が、アートリア。女神の似姿とまで呼ばれる、あれの代わりとか言わないよな?」

「それこそまさか! 我々がアートリアとするのは、あなたの後ろにいる、『ソレ』ですよ!」

 そう言って、ハミルトンは、フェリを指さした。

 それを見て、モリヒトは、眉をひそめる。

「それと、その泥人形が何だってんだ?」

「まだ不完全なのですよ。それなのに、クリシャさんに連れ去られてしまった」

 だからこそ、とハミルトンは言う。

「返していただきたいのです」

「返したら、どうするんだ?」

「もちろん。これと融合させます。そして・・・・・・」

 手に持った短剣を示し、

「これを使えば、完成です。あとは、必要量の素材を取り込ませれば、やがては真龍を超えるでしょう」

 ば、とハミルトンは、手を広げた。

「・・・・・・まあ、大体わかった」

「おお。おわかりいただけましたか」

「お前らが、頭悪いことと、狂ってること。あと、人騒がせで迷惑なやつであることもな」

「・・・・・・ふう。まあ、おわかりいただけなかったようで」

 肩を落としたハミルトンは、それから右手を挙げた。

 その仕草に従って、ぞろぞろと教団員が姿を現す。

「まあ、力づくで、構いませんか」

「・・・・・・いや、帰れよ。その程度じゃあ、ものの数にもならん」

 半分強がりで、モリヒトは告げる。

 実際、数は少々厄介ではある。

 敵は、それほど強そうには見えないが、十人ほどはいる。

 クリシャは捕まらないだろうし、クルワもどうにかなるだろう。

 ただ、モリヒト自身と、フェリが不安だ。

 それに、バンダッタの存在もある。

「ち」

 舌打ちを一つして、モリヒトは構えを取った。

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