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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第25話:龍殺し(1)

 ソレにとって、『声』との会話は楽しみとなった。

 『声』は、地下の暗いところから動けないソレに、様々な『外』のことを教えてくれた。

 『声』が教えてくれたことが、ソレに知識と知性を与えた。

 教えてくれたことをその内に蓄え、反芻する。

 そうすることで、ソレは自我を保った。

 ソレは、知性を得たことで、自らにいずれ訪れる運命を悟った。

 その運命から逃れるには、『声』の頼みを聞くしかない。

 だが、『声』の頼みを聞いても、ソレは消滅してしまうだろう。

 どちらを選択しても、ソレに未来はない。

 だが、ソレは『声』の頼みを聞くことを選んだ。

 その選択は、ソレにとって、何より大事なものになった。

 

** ++ **


 モリヒトの呈した疑問に対して、ハミルトンはにたり、と笑った。

 口の端がつり上がる、人を嘲笑するような笑み。

 あるいは、策略がうまくいくことを期待する、悪辣な笑みか。

 ともあれ、ハミルトンにとっては、何か会心の計略があるのだろう。

 それが、ロクなものでないことは、明白だった。

「これを使って、何を計画しているのか、ですか」

 ふっふっふ、とハミルトンは、抑えきれない笑いをこぼす。

 そして、両手を広げた。


「『龍殺し』です!!」


 大声で告げられた内容に、しばらく沈黙が訪れる。

 モリヒトは、その言葉に、ヴェルミオン大陸で見た儀式を思い出し、それが異形の魔獣と繋がらず、困惑する。

 それに対し、クルワとクリシャは、『龍殺し』に込められた意味に気づき、眉をひそめた。

「・・・・・・正気かい、と問うのも馬鹿らしいね」

 クリシャの反応は、冷ややかですらあった。

 モリヒトは、クリシャの反応を見て、込められている意味が違うようだ、と察したが、詳しい意味が分からない。

 そして、ハミルトンは得意げに頷く。

「正気か、と問われれば、自身ですら、正気の沙汰ではない、と答えましょう!」

 その答えに、クリシャの眉間のしわはなお濃くなった。

 分かっていてやろうとする、そのモチベーションが分からないからだ。

「ですが、興味がある」

「・・・・・・『龍殺し』って、なんだ? 結局、何をする気なんだ?」

「おや、素直ですね。聞かれて素直に答えるとでも?」

 煽るような物言いに、モリヒトはイラっとしたものの、動きはしなかった。

 『守り手』を取り込み終えた異形の魔獣が、どう動くかがわからない。

 ハミルトンの護りについているようにも見えるし、こちらに襲い掛かろうとしているようにも見える。

 どちらにせよ、何か動きがあれば、モリヒトはフェリを抱えて逃げるつもりだった。

「答えたくないなら・・・・・・」

「いえいえ。お答えしますとも」

 奇妙にテンションの高いハミルトンは、その吐く言葉のすべてがこちらへの煽りに聞こえてイラっとする。

 だが、そのイラつきを飲み込み、モリヒトはハミルトンの言葉の先を待った。

「まず、おそらくあなたは、我々の目的を勘違いしている」

「はあ?」

 ハミルトンの口調は、諭すようなものだった。

 もっとも、自慢げな顔と、見下すような視線のせいで、甚だ不愉快なものだったが。

「あなた方は、こう考えているのではないですか? 『ミュグラ教団の行うことは、悪事である』と」

「迷惑行為なのは確かだろ」

「いえいえ。そこから誤解がある。我々、ミュグラ教団は、このカラジオル大陸に住まうすべての民衆のために、行動を起こしているのです」

「・・・・・・・・・・・・」

 両手を広げ、極まった様子で、ハミルトンは言う。

 舞台役者のような、大げさな仕草だ。

「この土地において、地脈とは、どのような存在か、ご存じですか?」

「地脈なんて、どの土地に行っても、魔力の通り道だろう? 真龍の魔力が通っている」

「いいえ。それでは、理解が浅い!」

 モリヒトに指を突きつけ、ハミルトンは首を振った。

「いいですか? この土地では、魔力の溢れる土地は、決して歓迎されるものではない!」

「・・・・・・どういうことだ?」

「この土地の特性だね」

 モリヒトの疑問に、クリシャは足元を蹴って応えた。

 クリシャの蹴りによって、砂と石粒が舞う。

「ヴェルミオン大陸では、漆黒の真龍の魔力があふれる土地は、黒い森になる。そうでなくても、魔力の豊かな土地は、土壌もいいから、畑なんかにするとよく育つんだ」

 だからこそ、オルクト魔帝国は地脈を汚染する可能性がありながらも、地脈の魔力の利用に踏み切った。

 そうすることで、土地全体の農業生産力を上げ、国力そのものの増強が出来たからだ。

 そして、それによって発生するデメリットを解消するために、『竜殺しの大祭』を作り出した。

「然り! では、このカラジオル大陸ではどうか!?」

「違うのか?」

「このカラジオル大陸ではね。魔力が豊富な土地っていうのは、総じてこの山みたいな感じになる。要は、岩と石と砂の乾いた土地。・・・・・・畑にすることはできないし、牧草が育つわけでもないから、放牧にも向かない」

 しいて言うなら、質のいい石材が取れるようになるが、石材など食べられない。

 その上、大陸全体のどこでも取れるものだから、売り物にはならないし、売れそうな他大陸へ持ち出そうにも、この世界では航路は未発達なせいで、交易もままならない。

「カラジオル大陸はね。他の大陸に比べると、ひもじいんだ」

 この大陸で、メインの食材となると、魚か魔獣の肉である。

 穀物や野菜などは、土地自体が乾燥しているため、あまり収量が多くない。

「そう、その通り! だから、この大陸では昔から、畑になる土地、人の住む土地から、地脈を遠ざける研究がされてきました」

 ハミルトンの語る歴史を、クリシャも肯定した。

 それでも、大陸全体がそうだから、今までは問題なかった。

 問題になってきたのは、より豊かな土地があることが知れ渡ってきたからだ。

 言うまでもなく、ヴェルミオン大陸、オルクト魔帝国が、飛空艇による安定した交易路の開拓に乗り出したためである。

「このままでは、やがてこの土地は、他大陸の国家によって支配される土地となるでしょう」

「食料生産力が低いこの大陸では、蓄えられる国力にも限界がある。あながち、間違ってはいない予想だね」

「そして、その果てに待つものは? 支配だ。支配する側が、される側から搾取する体制。もちろん、この大陸が、搾取される側です」

 ハミルトンは、大げさな仕草で、嘆かわしい、と息を吐いた。

 芝居がかったその仕草では、どこか空虚な印象が付きまとう。

 少なくとも、モリヒトは、ハミルトンを疑いを持って見ていた。

「では、どうするか」

 ハミルトンは語る。

「この大陸では、魔力に頼らずに、農作物の生産量を上げる研究が行われ、それは一定の成果を挙げています。ですが、その農法も、地脈によって濃度の高い魔力があふれてくれば無駄となる」

 ならば、

「この土地から、魔力を消してしまえばいい!!」

「・・・・・・だから、『龍殺し』かい?」

「その通り! 魔力を生み出しているのは、あの真龍だ。ならば、真龍を殺し、魔力の発生を止め、この土地を魔力に頼らない土地に変える! こうすることで、この土地は救われる!!」

 ば、と両手を広げ、高らかに宣言するハミルトン。

 それを見て、モリヒトは、顔をしかめた。

「『龍殺し』って、真龍を殺すことかよ。・・・・・・そんなにうまくいくかね?」

「ボクは、否定的かな?」

 モリヒトが首を傾げれば、クリシャは肩をすくめた。

「そもそも、真龍がいなくなった土地がどうなるか、分かったものじゃない。大陸は、真龍がいるから生まれたんだ。真龍がいなくなった途端、大陸が海に沈んだとしても、ボクは驚かないよ」

「・・・・・・じゃ、実現させたらまずいやつだな」

「まったくだね」

 うん、とモリヒトとクリシャは頷き合った。

 その中で、クルワが首を傾げた。

「ていうか、そもそも、『真龍』って、殺せるの?」

「・・・・・・あー」

「・・・・・・確かに」

 ちら、と三人は、真龍へと目をやった。

 そこに、人間などおよびもつかない。

 まさしく巨大な山、としか言いようのない、真龍の巨体が見える。

「・・・・・・無理だろ」

「だねえ」

 だから、モリヒトは、ハミルトンへ次の質問をすることにした。

「どうやって、その『龍殺し』ってのをやるつもりなんだ?」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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