第21話:『守り手』を倒したい
『守り手』は、異常なほど強力な魔獣である。
正直、魔獣としての性質は、異常とも言えるくらいに強い。
魔獣は、総じてただの獣より頑丈ではあるが、『守り手』のそれは、まさしく異常だ。
その能力が、周辺環境の豊富な魔力によって支えられている。
それは、前提事項である。
「実はね。この大陸で、一番『守り手』の討伐方法が実現性高いのは、ミュグラ教団だったりする」
「なんで?」
「あいつらをやるのに、一番いい手段は、この周りの濃い魔力をどうにかすること」
それは道理だろう。
どうあがいても、周りに使用可能な真龍の魔力が多量にあるこの状況では、魔獣の方が能力が高くなる。
周囲の魔力を使いこなす、という点では、圧倒的に魔獣の方が、人間より優れているからだ。
「なんだかんだ言ったところで、ミュグラ教団は、地脈に関する技術力なら一番だよ」
ミュグラ教団は、地脈を利用することを研究しているが、この大陸では、地脈を遠ざける方が研究としては進んでいる。
この大陸に派生したミュグラ教団も、下地はそこだ。
だからこそ、両方の技術のいいとこ取りができるのが、カラジオル大陸のミュグラ教団の強みだという。
そういう意味で、環境によって強化されている『守り手』の強化を解除することができるのが、ミュグラ教団の技術だ。
「・・・・・・そこらへん、ちょっと取りに行っただけだったんだけどねー」
「なんか成果は?」
「なし! あいつら、そこらへんの技術退化してやがった」
け、とクリシャは吐き捨てた。
** ++ **
そういうわけで、戦闘は、ほぼ正面からの突撃一択だ。
モリヒトは、フェリと一緒に後方。
正面への攻撃は、クルワの担当。
クリシャは、その援護になる。
ただし、
「攻撃の要点は、モリヒトだからね?」
「うん。俺がどこまで近づけるか、だよな」
『守り手』にかかっている、環境にバフ。
それの解除に必要なのは、周囲の魔力をどうにかすることだ。
その担当は、モリヒトである。
といっても、やることは単純で、
「とにかく、ある意味無駄に魔術を使いまくる、と」
「それだけじゃ足りないから、ボクの方でも、地脈を吸い上げるけどね」
人間のそれだけで取れる分は、それほど多いものでもないし、ないよりはマシ程度ではある。
ただ、それ以上に重要なのは、
「『守り手』から、魔力を奪う、だよな」
できるだけ『守り手』に近づき、『守り手』が身体強化にまわしている魔力を奪う。
どれだけ奪えるかが、そのまま勝率に繋がるわけだ。
「さて、じゃあ、やろうか」
クリシャの合図で、クルワが飛び出していった。
** ++ **
戦闘の開始は、やはりクルワの突撃から始まった。
ただ、その前に、モリヒトは水筒をひっくり返す。
「その量の水で足りるかい?」
「足りない分は、足せばいい」
周囲は乾燥した空間で、水気を集める、というのは、確かにありえなさそうだ。
だが、水のない空間に水が滲み出る、というのは、モリヒトはもう知っている。
呼び水、という意味での水。
そして、イメージ。
あとは、それらの現象を成すための、膨大な魔力だ。
「では、やってみるかね」
こほん、と咳払い。
それから、サラヴェラスを構える。
「―サラヴェラス―
水よ/具現せよ」
なければ、魔力を使って具現化すればいい。
魔力を物質に変換するのは、すさまじく魔力を消費するが、それを周囲に溢れる真龍の魔力で補っていく。
「満たせ/具現せよ/広がれ/我が剣」
一度見ている。
足首にまで届かないほどの、薄い、水の層が広がっていく。
足りないものは、蓮の花だけ。
かつて、『花香水景蓮花』が呼び出した、蓮の花の乱れ咲く、水の流域。
その水部分だけの再現だ。
「・・・・・・クリシャ。これで行けるか?」
「十分十分」
言いながら、クリシャは飛んだ。
そして、杖を一振り。
周囲ににじみ出た水が、その一振りで持ち上げられる。
「よっし、じゃあ、弱点突いて、いってみようか」
さらに一振り。
それで、水が散弾のように、『守り手』へと向かっていく。
クリシャが杖を振るう度、その動きは複雑に変わりながら、『守り手』へと殺到する。
体が濡れるのを嫌がって、『守り手』は体をよじる。
だが、それを追い、クルワが斬りかかる。
そして、斬れて、血が流れる。
『守り手』は叫ぶ。
だが、
「足りねーよ、と」
モリヒトが呼び出した水だ。
モリヒトにも操れる。
「で、水は、お前の足元にもあるぞ、と」
水をからめ、足を取る。
動きを鈍らせ、クルワに斬りかからせる。
そして、水が地表を覆うため、周囲に溢れる魔力量は一時的に少なくなっている。
「ち、きっついな」
単純に魔力を水に変えているだけだが、異様に魔力の消費が重い。
周囲の魔力は使えるが、ただ操るだけでもまったく足りていない。
だが、
「勝機あり。なら、勝つまでくらいは、耐えて見せるさ」
モリヒトは、魔力を使うために集中した。
** ++ **
三人の闘いを、フェリは見ていた。
モリヒトのさらに後ろの安全圏だ。
だが、フェリは、じっと、闘いを見ている。
特に、モリヒトが広げた水の景色。
それをフェリはじっと見ている。
「・・・・・・ん」
不意に一つを頷いて、フェリは一歩を踏み出した。
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