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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第20話:ざわめく

 ソレには、意思はなかった。

 かつては、自らの姿すら一定には保てないほどに、虚弱で、弱いソレだった。

 だが、ソレは、ある時、形を保つ力を得た。

 投げ込まれ、そして、溶かし、取り込んだもの。

 それが全体に持っていた、奇妙で強力な、身体強化術式。

 自らの体が崩れるほどの、濃密な魔力を有していたその存在は、その存在を受け入れ、取り込むことで、自らの身体が崩れないような強固さを持てた。


** ++ **


「ははははは!」

 高笑いが響いていた。

 機嫌のいい、とわかる、テンションの高い笑い声だ。

 ミュグラ教団のまとめ役である、痩せた男だ。

 カラジオル大陸の、ミュグラ教団、主教ハミルトン。

 それが、男の名である。

 そのハミルトンが、狂ったように高笑いを上げている。

 その前には、陣に囲まれた領域の中に囚われた、魔獣がいる。

「大成功! ですね!」

 異様なテンションの高さを見せながら、ハミルトンは大きく笑う。

 やせた体に、血色の悪い顔が、今日ばかりは興奮のためか顔色が良くなっている。

 だが、それがむしろ気味が悪い。

「それでは・・・・・・」

 背後に控えていた教団員が声を発すると、ハミルトンは頷く。

「ええ、準備は整った! 各支部に連絡を。かねてよりの作戦通りに、動きます!」

「了解いたしました」

 そして、ことは動き出す。


** ++ **


「・・・・・・面倒だなあ、おい」

 ミケイルは、回ってきた指令書を見て、ち、と舌打ちをした。

「なんだって?」

「何でもないってよ」

「? どういうこと?」

「要は、何もするな、だとさ」

 は、とミケイルは、指令書を放り投げる。

 それを拾い上げ、サラは一読した。

「・・・・・・観測員の護衛、ね」

「観測員が、現場に行くかよ。要は、適当に遠くで、黙って見てろってことだな」

「・・・・・・で、どうするの?」

「放っておけばいい。別に、行かなくてもいいんじゃないか? それならそれで、何も言わんだろ」

「要は、『ベリガルの手下』を、自分の実験に関わらせたくない、と」

「そういうことだな」

 ミケイルは、け、と吐き捨てる。

「まあ、正直、今は山には入りたくねえ感じだな」

「モリヒトに会うから?」

「ああ。それでいいよもう」

「ふーん」

 サラは、しばらく考えて、それから、茶を淹れた。

 それをミケイルに渡す。

「少し、休憩、ということね」

「・・・・・・まあ、山の方はいい。そっちよりも、だ」

「うん?」

「探しといてくれって言ったやつ。どうなった?」

 ミケイルがサラを見れば、サラは茶を口に運び、少し喉を潤してから、

「こっち側じゃないってことは分かったわ。とりあえず、この街の近辺じゃない」

「・・・・・・移動する必要があるか」

「どうするの?」

「移動しよう。あいつらに付き合うこともねえしな」

 ミケイルは、立ち上がった。

「・・・・・・一応、別れは言っておく?」

「置手紙ももったいねえよ」


** ++ **


 ざわり、と空気が揺れた。


** ++ **


 結局のところ、このカラジオル大陸では、『守り手』の存在が、真龍を護っている。

「念のためだが」

 モリヒトが、準備を整えながら、ふと口を開いた。

 『守り手』に挑む前の、最後の調整だ。

「一応、聞いておきたいんだけど」

「何よ?」

 クルワが応じたので、モリヒトは頷いて、

「『守り手』って、倒せるんだよな?」

「いきなり何よ?」

「いやあ。だって、あいつ、無駄に頑丈で、タフだからなー」

 前に入れた攻撃の傷も、もう、跡形も残っていない。

 それどころか、前の戦闘でも、それなりにダメージを与えていたはずだが、動きがなまったようには見えなかった。

 うーん、とモリヒトは考える。

「クリシャは、前に真龍と会ったことがあるんだよな?」

「まあねえ」

「・・・・・・どうやったんだ?」

「空を飛んだ」

「・・・・・・・・・・・・それだけか?」

「それだけだよ? 『守り手』は、空は飛べないからね」

 クリシャは、あっけらかんと言う。

 空は、砂塵は待っているにしても、いい天気だ。

 何かが空を飛んでいれば、すぐにわかる。

 だが、鳥の類は、一羽も空を飛んでいない。

「・・・・・・空を飛んだところで、撃ち落とされるんじゃないか?」

「そんなの届かないくらい、高くに行けばいいじゃないか」

「冴えていそうで、極めて脳筋」

「シンプルに押し込めるなら、それが一番さ」

 ふふん、とクリシャは胸を張った。

「とはいえ、今回はフェリがいるから、簡単にはいかないからね。ちょっとどうしようか、見てから考えようと思ってたんだ」

「で、俺らがいた、と」

「ラッキーだったね。お互い」

 クリシャは明るく笑い、よし、と手を叩いて立ち上がる。

「準備はいいかい?」

「おう」

「大丈夫」

 二人は頷き、

「よし、行こう!」

 クリシャの合図で、飛び出した。


** ++ **


 どごん、という音とともに、振動が伝わってきた。

「ほう。やっておるのう・・・・・・」

 ほっほっほ、とアバントは笑う。

 山小屋の中、振動に揺れる棚の上のカップなどが落ちて割れないように下に移したりしつつ、アバントは山の奥へと視線を向ける。

 実際には見えはしないが、だが、何が起こっているのか、は、なんとなく推測できる。

「さて、無事に帰ってくるのじゃぞ」

 そう、小さく祈った。

 そして、視線をふい、と外したところで、

「む」

 ソレを、見つけてしまった。


** ++ **


 ソレは、かつては不定形のどろどろであった。

 魔獣の形を持たない魔獣。

 だが、それは今、形を持っていた。

 とはいえ、明確に、形というわけではない。

 かろうじて、人型と分かる。

 だが、それだけだ。

 体中に、何かの生物の部品、と思しき何かが生えている。

 いろいろな獣の体をねじってこねてくっつけて、それをむりやり人間の形にしたような、そういう見た目だ。

 だから、ソレは、あきらかに尋常な生き物ではなかった。

 そして、ソレは、ゆっくりと、山を登っていった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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