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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第19話:人の魔獣化

 ごう、と燃える。

「・・・・・・ほう」

 よく燃えますなあ、とそんなことをのんきに思った。


** ++ **


 『守り手』と戦う人手が揃った、ということで、偵察に来た。

「うわ懐かしい。あれ変わってないなあ」

「見るのは何年振りだ?」

「・・・・・・んー。何十年ぶりだろ・・・・・・?」

 スケールの大きい話である。

「・・・・・・なんか、ちょっと暴れた跡があるな」

「この間、街に押し寄せてた魔獣だね。あれとの戦闘跡って感じ?」

「・・・・・・ここまで来たのか」

「それで終わったんだろうね。大したやつらじゃなさそうだったし」

 あちらこちらに開いた陥没した穴とか、なんか吹き飛ばされたらしき砂の跡などが見える。

 どうであったにせよ、あんな遅い動きしかしないものでは、敵ではなかったのではないだろうか。

 岩陰に隠れて偵察をする三人の背後で、フェリがのんきに砂遊びをしている。

 置いておくのも心配だし、そもそもフェリのことを聞きに行きたい、というのが目的だから、連れてきている。

 戦わせるわけではない。

 クリシャ曰く、まったく戦えないわけではなく、むしろ戦闘能力だけならかなりのものを持っている、とは言っていた。

 人の姿をした魔獣、というそれは、本当のことらしい。


** ++ **


「戦えるのかって?」

 フェリを連れていく、とクリシャが言い出したことに、モリヒトとクルワは心配した。

 十を越えたかどうか、というくらいにしか見えない少女だ。

 それを危険地帯に連れていっていいのかどうか、それは迷う。

 そして、見せられた。

 そこらを歩いていた魔獣を相手に、フェリが向かっていき、

「ぼー」

 そんな気の抜けた声とともに、フェリの前にいた魔獣が燃えた。

「・・・・・・何あれ?」

「魔獣の力、ってやつだねえ」

 クリシャは、ふう、とため息を吐いた。

「あいつら、あれを見て、フェリの力はボクのそれに似ているって思ったみたい」

「・・・・・・違うんだろ?」

「そりゃそうだよ。あれは、あくまでもあの子の固有の能力だね」

「魔力の動きがほとんどないわ」

 クルワも、その炎を見て、頷いた。

 魔術として、炎なり雷なり水なり、そういうものを放って攻撃を行う場合、杖から魔力が魔術の現象に向かって流れる。

 感覚が鋭ければ、そういうものを感じ取ることはできる。

 実際、モリヒトもその体質から、そういう感覚はある。

 他人が魔術を使おうとしている時には、なんとなくわかる。

 クリシャの、無詠唱での魔術でも、その流れは感じ取れる。

 だが、フェリが行ったあれに、そういう流れは感じ取れない。

「せいぜいで、身体強化レベルね」

「ああ、あの感じはそれなのか」

「そ。言ったと思うけれど、フェリは人の形をした魔獣だよ。・・・・・・いや、魔獣化した人って言った方がいいのかな?」

「人は、魔獣化しないんじゃなかったか?」

「・・・・・・そのはずだね」

 クリシャが見ている先、フェリは、燃えている魔獣に向かって、拾った石を投げつけた。

 それで、炎に穴が開いた。

 すさまじい勢いで飛んだ石が、燃えている魔獣に穴を開けたのだ。

「・・・・・・うーむ。すごい」

 それで、燃えている魔獣は完全に息絶えたのか、崩れ落ちる。

 それから、フェリはこちらを向いて、大きく手を振った。

 笑顔である。

「人は、魔獣化しないんじゃなかったっけ?」

 もう一度、疑問を口にする。

「理論的には、ありえない、と否定することはできないんだよね。魔獣っていうのは、基本的に魔力の許容量を越えた魔力にさらされた生物だからね。・・・・・・人間は、その許容量が極めて多い。人間より多い生き物は、今のところ確認されてないくらいだ」

「そうなのか?」

「魔力の許容量は、頭の良さに関わるって言われているわ」

 モリヒトの疑問に対し、クルワは補足を入れる。

「魔術を使う時にイメージが極めて重要になるわけだけど、動物はそのためのイメージ力がなくて、逆に人間にはあり得ないものすらイメージする力がある。その差が、魔力の許容量に影響しているっていう学説はあるね」

 クリシャの言葉通り、それは通説になっている。

 だからこそ、魔獣となっても、魔術を扱うものはほとんどおらず、逆に魔術を扱うほどの魔獣になると、人と変わらない頭の良さを見せるという。

「で、その人間の許容量っていうのは、一番魔力濃度が高い真龍のすぐそばであっても、全然平気なの。だから、現実的な問題として、人間が魔獣化するほどの魔力濃度なんて、存在しないっていうのが通説」

「加えて言えば、そんな魔力濃度の中でしか生きられない魔獣なんて、発生してもすぐ死んじゃうわ。だから、人の魔獣化はありえないっていうのが結論ね」

「だが、それをひっくり返す例が、まさにあそこにいる、と」

「そういうことだね」

 クリシャは、やれやれ、と首を振った。

 フェリは、魔力の薄い領域に連れて行っても、まったく問題ない。

 通常、魔獣は生存に魔力が必要だ。

 だから、魔力濃度の薄い領域に出てくると、周囲のものを壊して魔力を補おうと、暴れまわる。

 それでも足りなければ、いずれ死ぬ。

 だが、フェリは街中に数日放置しても全く問題なかった。

 どうやら、

「ボクたちと同じだね。食べ物を食べて、眠って、そうやってすることで、魔力を回復しているみたい。自力で魔力回復できる魔獣とか、ボクも初めて見るよ」

 はあ、とクリシャはため息を吐いた。

「・・・・・・なんで、あの子がそんな状態になっているのか、正直分からない。作ったあいつら自身、どうして上手くいったのか分かってなかったみたいでね」

 クリシャが見つけた時、彼女は人体実験の実験動物だった。

 どうしてそんな体になったのか、ありとあらゆる方法で調べられていたらしい。

 それこそ、本当に手段を選ばずに。

「胸糞悪い」

「だから、思わず攫っちゃったんだよね」

 クリシャは肩をすくめた。

 ともあれ、

「まあ、自分の身くらいは、自分で守れる、と」

「ていうか、状況によっては、すごく強いかもね」

 ともあれ、それが、フェリの話である。


** ++ **


「では、作戦」

「うん」

「クルワが突っ込んで、目を引く」

「はいはい」

「クリシャが、なんか攻撃する」

「はいはい」

「俺も、遠くでなんか攻撃する」

「・・・・・・」

「で、フェリはとりあえず隠れてろ」

 よし、とモリヒトは頷く。

「作戦適当すぎ」

「て言っても、これ以上はちょっとなあ・・・・・・」

 とりあえず、

「死なない程度に頑張る、だな」

「はいはい」

 ともあれ、再戦が決まった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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