第19話:人の魔獣化
ごう、と燃える。
「・・・・・・ほう」
よく燃えますなあ、とそんなことをのんきに思った。
** ++ **
『守り手』と戦う人手が揃った、ということで、偵察に来た。
「うわ懐かしい。あれ変わってないなあ」
「見るのは何年振りだ?」
「・・・・・・んー。何十年ぶりだろ・・・・・・?」
スケールの大きい話である。
「・・・・・・なんか、ちょっと暴れた跡があるな」
「この間、街に押し寄せてた魔獣だね。あれとの戦闘跡って感じ?」
「・・・・・・ここまで来たのか」
「それで終わったんだろうね。大したやつらじゃなさそうだったし」
あちらこちらに開いた陥没した穴とか、なんか吹き飛ばされたらしき砂の跡などが見える。
どうであったにせよ、あんな遅い動きしかしないものでは、敵ではなかったのではないだろうか。
岩陰に隠れて偵察をする三人の背後で、フェリがのんきに砂遊びをしている。
置いておくのも心配だし、そもそもフェリのことを聞きに行きたい、というのが目的だから、連れてきている。
戦わせるわけではない。
クリシャ曰く、まったく戦えないわけではなく、むしろ戦闘能力だけならかなりのものを持っている、とは言っていた。
人の姿をした魔獣、というそれは、本当のことらしい。
** ++ **
「戦えるのかって?」
フェリを連れていく、とクリシャが言い出したことに、モリヒトとクルワは心配した。
十を越えたかどうか、というくらいにしか見えない少女だ。
それを危険地帯に連れていっていいのかどうか、それは迷う。
そして、見せられた。
そこらを歩いていた魔獣を相手に、フェリが向かっていき、
「ぼー」
そんな気の抜けた声とともに、フェリの前にいた魔獣が燃えた。
「・・・・・・何あれ?」
「魔獣の力、ってやつだねえ」
クリシャは、ふう、とため息を吐いた。
「あいつら、あれを見て、フェリの力はボクのそれに似ているって思ったみたい」
「・・・・・・違うんだろ?」
「そりゃそうだよ。あれは、あくまでもあの子の固有の能力だね」
「魔力の動きがほとんどないわ」
クルワも、その炎を見て、頷いた。
魔術として、炎なり雷なり水なり、そういうものを放って攻撃を行う場合、杖から魔力が魔術の現象に向かって流れる。
感覚が鋭ければ、そういうものを感じ取ることはできる。
実際、モリヒトもその体質から、そういう感覚はある。
他人が魔術を使おうとしている時には、なんとなくわかる。
クリシャの、無詠唱での魔術でも、その流れは感じ取れる。
だが、フェリが行ったあれに、そういう流れは感じ取れない。
「せいぜいで、身体強化レベルね」
「ああ、あの感じはそれなのか」
「そ。言ったと思うけれど、フェリは人の形をした魔獣だよ。・・・・・・いや、魔獣化した人って言った方がいいのかな?」
「人は、魔獣化しないんじゃなかったか?」
「・・・・・・そのはずだね」
クリシャが見ている先、フェリは、燃えている魔獣に向かって、拾った石を投げつけた。
それで、炎に穴が開いた。
すさまじい勢いで飛んだ石が、燃えている魔獣に穴を開けたのだ。
「・・・・・・うーむ。すごい」
それで、燃えている魔獣は完全に息絶えたのか、崩れ落ちる。
それから、フェリはこちらを向いて、大きく手を振った。
笑顔である。
「人は、魔獣化しないんじゃなかったっけ?」
もう一度、疑問を口にする。
「理論的には、ありえない、と否定することはできないんだよね。魔獣っていうのは、基本的に魔力の許容量を越えた魔力にさらされた生物だからね。・・・・・・人間は、その許容量が極めて多い。人間より多い生き物は、今のところ確認されてないくらいだ」
「そうなのか?」
「魔力の許容量は、頭の良さに関わるって言われているわ」
モリヒトの疑問に対し、クルワは補足を入れる。
「魔術を使う時にイメージが極めて重要になるわけだけど、動物はそのためのイメージ力がなくて、逆に人間にはあり得ないものすらイメージする力がある。その差が、魔力の許容量に影響しているっていう学説はあるね」
クリシャの言葉通り、それは通説になっている。
だからこそ、魔獣となっても、魔術を扱うものはほとんどおらず、逆に魔術を扱うほどの魔獣になると、人と変わらない頭の良さを見せるという。
「で、その人間の許容量っていうのは、一番魔力濃度が高い真龍のすぐそばであっても、全然平気なの。だから、現実的な問題として、人間が魔獣化するほどの魔力濃度なんて、存在しないっていうのが通説」
「加えて言えば、そんな魔力濃度の中でしか生きられない魔獣なんて、発生してもすぐ死んじゃうわ。だから、人の魔獣化はありえないっていうのが結論ね」
「だが、それをひっくり返す例が、まさにあそこにいる、と」
「そういうことだね」
クリシャは、やれやれ、と首を振った。
フェリは、魔力の薄い領域に連れて行っても、まったく問題ない。
通常、魔獣は生存に魔力が必要だ。
だから、魔力濃度の薄い領域に出てくると、周囲のものを壊して魔力を補おうと、暴れまわる。
それでも足りなければ、いずれ死ぬ。
だが、フェリは街中に数日放置しても全く問題なかった。
どうやら、
「ボクたちと同じだね。食べ物を食べて、眠って、そうやってすることで、魔力を回復しているみたい。自力で魔力回復できる魔獣とか、ボクも初めて見るよ」
はあ、とクリシャはため息を吐いた。
「・・・・・・なんで、あの子がそんな状態になっているのか、正直分からない。作ったあいつら自身、どうして上手くいったのか分かってなかったみたいでね」
クリシャが見つけた時、彼女は人体実験の実験動物だった。
どうしてそんな体になったのか、ありとあらゆる方法で調べられていたらしい。
それこそ、本当に手段を選ばずに。
「胸糞悪い」
「だから、思わず攫っちゃったんだよね」
クリシャは肩をすくめた。
ともあれ、
「まあ、自分の身くらいは、自分で守れる、と」
「ていうか、状況によっては、すごく強いかもね」
ともあれ、それが、フェリの話である。
** ++ **
「では、作戦」
「うん」
「クルワが突っ込んで、目を引く」
「はいはい」
「クリシャが、なんか攻撃する」
「はいはい」
「俺も、遠くでなんか攻撃する」
「・・・・・・」
「で、フェリはとりあえず隠れてろ」
よし、とモリヒトは頷く。
「作戦適当すぎ」
「て言っても、これ以上はちょっとなあ・・・・・・」
とりあえず、
「死なない程度に頑張る、だな」
「はいはい」
ともあれ、再戦が決まった。
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