第14話:かまど
カラジオル大陸は、ヴェルミオン大陸に比べると乾燥した地域が多い。
大型化した動植物が多いのも特徴だ。
それらを食事とするからか、この辺りの粉もの、というと、トウモロコシに似た穀物が主食となる。
「これを練る」
水を混ぜて、ひたすらに寝る。
ぐにぐにぐにぐに、と練っていると、段々と固くなってくる。
練っていた鉢に布をかけ、日陰で一日放置する。
そして、かまどに入れて焼く。
「・・・・・・力仕事だなあ・・・・・・」
モリヒトは、ぐるぐると肩を回しながら、うめいた。
食事の用意は非常に面倒だ。
何せ、それらをやっているだけで、半日が過ぎていく。
慣れていないモリヒトの手際が悪い、というのは、確かにある。
ただ、それでも、一日のほぼすべてを食料確保に費やすのは、一種のサバイバルと言えるのではなかろうか。
とはいえ、備蓄の食料は多数あるし、クルワが定期的に獣を狩って来てくれるし、料理も大半はクルワが引き受けてくれている。
主食のパンもどきを焼くくらいは、大した手間ではない、と言えば、その通りだ。
かまどの火を入れ、焼き上がるまで待たないといけない。
そうでないと、焦げるからだ。
電気オーブンではないのだ。
時間が来たら止まってくれるような機能なんて、当然あるわけがない。
「・・・・・・うーむ・・・・・・」
だが、この火加減は、未だにモリヒトにはよくわからない。
モリヒトの胸ほどの高さに石を積み上げて作られたかまどは、簡単な作りのものだ。
火加減は、薪の量と位置で調節するらしい。
だが結局、どうしたら火力が上がって、どうやったら弱められるのか、なんとなくやっているだけだ。
だから、この火加減は、クルワに任せた方がうまくいく。
のだけれど、
「今度は焦がさないでねー」
にやにやとした笑みを浮かべて、クルワがモリヒトの手際を見ている。
一回やってみたい、といった結果、見事に炭が出来上がった。
これを放り込んだら、火力が上がるかしらねえ、と煽られた。
もう一回の挑戦である。
食料には、余裕があるからできる、一種の無駄遣いだ。
「・・・・・・アバントに怒られるかな?」
「大丈夫でしょ。ぶっちゃけ、その粉古いし」
「・・・・・・そうなのか?」
「うん。少し湿気てた。もう少し放って置いたら、多分、カビ生えるんじゃないかしら?」
「マジか」
「一ヶ月くらい先の話だろうけど」
しっかり保存すれば、数年は余裕で持つらしい。
ただ、環境が悪い。
「・・・・・・真龍の魔力って、こんな粉末に対しても有効なのな・・・・・・」
「そうね。平地だと年単位で持つような保存食も、この辺で放置しておくとその内目を出す、どころか、手足でも生えて歩き出すかも?」
「シャレになってねえ・・・・・・」
あり得ない、とは思うが、なんとなく光景は想像できた。
実際には、食品についている微生物の類が、魔力を受けて活性化しているだけだと思うが、魔力の濃い地域では食べ物の痛みが早い、というのは、有名なことらしい。
「なんというか、便利なばっかりじゃないってことか」
ぼんやりしていると、かまどから、いい匂いが漂ってくる。
食欲を刺激する、香ばしさと甘さを含んだ匂いだ。
「・・・・・・もういいか?」
「まだ」
むう、とモリヒトは唸る。
においはいいのだし、これで出してもよさそうなものだが、
「今出すと、多分生焼け」
「よくわからん」
「火加減なんて、カンよ。カン」
そういうのが分かる人はいいねえ、と思う。
向こうの世界にいたころは、パンを焼くこともケーキを焼くことも、あるいはお好み焼きになんなりと、粉ものを焼くことも、いろいろやっていたものだが、かまどはやはり勝手が違う。
「・・・・・・まあ、できるならいいんだが」
「おいしいのをつくってねー」
くっそ、とわめきながらも、じっとかまどを見つめて待つ。
** ++ **
かまどは、便利だよなあ、と思う。
食材を放り込んで火をつければ、とりあえず焼ける。
今も、買ってきた獣肉の塊に、調味料で味をつけたものをしっかりと焼いている。
パンを焼き終わった後の余熱で、じっくりと加熱するらしい。
モリヒトがパンをじっくりと焼いている間、クルワが何かしている、と思えば、そんな下準備をしていたらしい。
「ロースト・・・・・・何の肉だ?」
「たぶん鹿」
「鹿か」
ともあれ、今度は肉の焼ける匂いである。
「・・・・・・晩飯」
「はいはい。もう少し待ってなさいな」
モリヒトの方は、と言えば、鍋の中身をかき混ぜている。
どろりとした液体のソースだ。
蓋を取り、かき混ぜ、蓋をする。
さっきから、その繰り返しである。
ちなみに、ソースの下ごしらえも、クルワが手早く終わらせていた。
その手際の良さは、モリヒトには真似ができない。
モリヒトとしては、それなりに食べられるものを作れるつもりはあるが、自分が食べられるだけ作ればいい、というやり方だと、あまり要領を気にしないのかもしれない。
「・・・・・・」
なんだかんだ、この山小屋に二人でいると、クルワが一通りの家事を済ませてくれる。
見た目が派手で、おおらかで悪く言えば大雑把な性格に見えるだけに、細かな気遣いをするクルワには、意外、という思いも強い。
「はい。こんなところ」
かまどから出してきた肉を切り分けると、赤味の強い肉が見える。
「美味しそうなのがなあ・・・・・・」
「はいはい」
肉を盛り付け、モリヒトがかき混ぜていた鍋から、肉の上へとソースをあける。
「はい、できあがり」
モリヒトが焼いたパンと、クルワが作った焼肉。
それで、晩飯である。
「・・・・・・なんだかんだ、のんきにやってるなあ、おい」
『守り手』とか、どうしようかねえ、と山小屋にいる間、二人で考えてみた。
時折、作戦を考えつつ、訓練などもしている。
だが、やはりどうにも決定打に欠ける。
それで煮詰まったから、今日は、二人で家のことをしている。
掃除をして埃を吐き出す。
洗濯をする。
倉庫の整理をする。
そうしたら、古い食材が出て来たので、まとめて消費したのである。
「もう、あれだ。トンネルでも掘って、下を行くか」
「できるかしらね」
「やってやれないことはない、と思いたい」
なんだか、少々やけくそになっているモリヒトであった。
「・・・・・・アバントが帰ってきたら、また何か意見を聞いてみましょう?」
もうそろそろ帰ってくるはず、とクルワは言う。
そうだな、とモリヒトも頷いて、食事を再開した。
数日後、アバントが帰ってきた。
ただそこで、モリヒトは予想外の再会をするのであった。
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