表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
268/436

第14話:かまど

 カラジオル大陸は、ヴェルミオン大陸に比べると乾燥した地域が多い。

 大型化した動植物が多いのも特徴だ。

 それらを食事とするからか、この辺りの粉もの、というと、トウモロコシに似た穀物が主食となる。

「これを練る」

 水を混ぜて、ひたすらに寝る。

 ぐにぐにぐにぐに、と練っていると、段々と固くなってくる。

 練っていた鉢に布をかけ、日陰で一日放置する。

 そして、かまどに入れて焼く。

「・・・・・・力仕事だなあ・・・・・・」

 モリヒトは、ぐるぐると肩を回しながら、うめいた。

 食事の用意は非常に面倒だ。

 何せ、それらをやっているだけで、半日が過ぎていく。

 慣れていないモリヒトの手際が悪い、というのは、確かにある。

 ただ、それでも、一日のほぼすべてを食料確保に費やすのは、一種のサバイバルと言えるのではなかろうか。

 とはいえ、備蓄の食料は多数あるし、クルワが定期的に獣を狩って来てくれるし、料理も大半はクルワが引き受けてくれている。

 主食のパンもどきを焼くくらいは、大した手間ではない、と言えば、その通りだ。

 かまどの火を入れ、焼き上がるまで待たないといけない。

 そうでないと、焦げるからだ。

 電気オーブンではないのだ。

 時間が来たら止まってくれるような機能なんて、当然あるわけがない。

「・・・・・・うーむ・・・・・・」

 だが、この火加減は、未だにモリヒトにはよくわからない。

 モリヒトの胸ほどの高さに石を積み上げて作られたかまどは、簡単な作りのものだ。

 火加減は、薪の量と位置で調節するらしい。

 だが結局、どうしたら火力が上がって、どうやったら弱められるのか、なんとなくやっているだけだ。

 だから、この火加減は、クルワに任せた方がうまくいく。

 のだけれど、

「今度は焦がさないでねー」

 にやにやとした笑みを浮かべて、クルワがモリヒトの手際を見ている。

 一回やってみたい、といった結果、見事に炭が出来上がった。

 これを放り込んだら、火力が上がるかしらねえ、と煽られた。

 もう一回の挑戦である。

 食料には、余裕があるからできる、一種の無駄遣いだ。

「・・・・・・アバントに怒られるかな?」

「大丈夫でしょ。ぶっちゃけ、その粉古いし」

「・・・・・・そうなのか?」

「うん。少し湿気てた。もう少し放って置いたら、多分、カビ生えるんじゃないかしら?」

「マジか」

「一ヶ月くらい先の話だろうけど」

 しっかり保存すれば、数年は余裕で持つらしい。

 ただ、環境が悪い。

「・・・・・・真龍の魔力って、こんな粉末に対しても有効なのな・・・・・・」

「そうね。平地だと年単位で持つような保存食も、この辺で放置しておくとその内目を出す、どころか、手足でも生えて歩き出すかも?」

「シャレになってねえ・・・・・・」

 あり得ない、とは思うが、なんとなく光景は想像できた。

 実際には、食品についている微生物の類が、魔力を受けて活性化しているだけだと思うが、魔力の濃い地域では食べ物の痛みが早い、というのは、有名なことらしい。

「なんというか、便利なばっかりじゃないってことか」

 ぼんやりしていると、かまどから、いい匂いが漂ってくる。

 食欲を刺激する、香ばしさと甘さを含んだ匂いだ。

「・・・・・・もういいか?」

「まだ」

 むう、とモリヒトは唸る。

 においはいいのだし、これで出してもよさそうなものだが、

「今出すと、多分生焼け」

「よくわからん」

「火加減なんて、カンよ。カン」

 そういうのが分かる人はいいねえ、と思う。

 向こうの世界にいたころは、パンを焼くこともケーキを焼くことも、あるいはお好み焼きになんなりと、粉ものを焼くことも、いろいろやっていたものだが、かまどはやはり勝手が違う。

「・・・・・・まあ、できるならいいんだが」

「おいしいのをつくってねー」

 くっそ、とわめきながらも、じっとかまどを見つめて待つ。


** ++ **


 かまどは、便利だよなあ、と思う。

 食材を放り込んで火をつければ、とりあえず焼ける。

 今も、買ってきた獣肉の塊に、調味料で味をつけたものをしっかりと焼いている。

 パンを焼き終わった後の余熱で、じっくりと加熱するらしい。

 モリヒトがパンをじっくりと焼いている間、クルワが何かしている、と思えば、そんな下準備をしていたらしい。

「ロースト・・・・・・何の肉だ?」

「たぶん鹿」

「鹿か」

 ともあれ、今度は肉の焼ける匂いである。

「・・・・・・晩飯」

「はいはい。もう少し待ってなさいな」

 モリヒトの方は、と言えば、鍋の中身をかき混ぜている。

 どろりとした液体のソースだ。

 蓋を取り、かき混ぜ、蓋をする。

 さっきから、その繰り返しである。

 ちなみに、ソースの下ごしらえも、クルワが手早く終わらせていた。

 その手際の良さは、モリヒトには真似ができない。

 モリヒトとしては、それなりに食べられるものを作れるつもりはあるが、自分が食べられるだけ作ればいい、というやり方だと、あまり要領を気にしないのかもしれない。

「・・・・・・」

 なんだかんだ、この山小屋に二人でいると、クルワが一通りの家事を済ませてくれる。

 見た目が派手で、おおらかで悪く言えば大雑把な性格に見えるだけに、細かな気遣いをするクルワには、意外、という思いも強い。

「はい。こんなところ」

 かまどから出してきた肉を切り分けると、赤味の強い肉が見える。

「美味しそうなのがなあ・・・・・・」

「はいはい」

 肉を盛り付け、モリヒトがかき混ぜていた鍋から、肉の上へとソースをあける。

「はい、できあがり」

 モリヒトが焼いたパンと、クルワが作った焼肉。

 それで、晩飯である。

「・・・・・・なんだかんだ、のんきにやってるなあ、おい」

 『守り手』とか、どうしようかねえ、と山小屋にいる間、二人で考えてみた。

 時折、作戦を考えつつ、訓練などもしている。

 だが、やはりどうにも決定打に欠ける。

 それで煮詰まったから、今日は、二人で家のことをしている。

 掃除をして埃を吐き出す。

 洗濯をする。

 倉庫の整理をする。

 そうしたら、古い食材が出て来たので、まとめて消費したのである。

「もう、あれだ。トンネルでも掘って、下を行くか」

「できるかしらね」

「やってやれないことはない、と思いたい」

 なんだか、少々やけくそになっているモリヒトであった。

「・・・・・・アバントが帰ってきたら、また何か意見を聞いてみましょう?」

 もうそろそろ帰ってくるはず、とクルワは言う。

 そうだな、とモリヒトも頷いて、食事を再開した。


 数日後、アバントが帰ってきた。

 ただそこで、モリヒトは予想外の再会をするのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別のも書いてます

DE&FP&MA⇒MS

https://ncode.syosetu.com/n1890if/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ