第13話:うごめく
「・・・・・・うおお!」
がばり、とミケイルは身を起こした。
そこは、ミケイルがこちらの大陸で隠れ家としている場所の一室だ。
服は着ていない。
「・・・・・・あ? いつ帰ってきたんだ?」
最後の記憶は、クリシャの一撃によって、どろどろのぐちゃぐちゃの中へと突き飛ばされるところまでだ。
くそおんな、と叫んだことまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。
「起きたのね」
声を聞いて、振り向けば、戸の前にサラが立っていた。
「サラか。・・・・・・お前は俺をここに?」
「大変だったわ。ぶっちゃけ、助け出した時点で、ほとんど人の形をしてなかったし。よく生きてたわね」
「・・・・・・どういう状況だったんだよ」
「最後に、魔獣のなりそこないに突き落とされたことは?」
「覚えてる」
「で、あなた、アレに取り込まれかけてたのよ」
言われて、ミケイルは自分の手へと視線を落とす。
ぐっぱぐっぱと握ってみるが、違和感はない。
「溶けてたのか?」
「手足の方は、ほとんどなくなってた。体の方も、骨が見えるくらいまでは溶けてたわ。なんとか引っ張り出したところで、再生が始まったけど」
「お、おお・・・・・・」
ミケイルとしては、正直マジか、という驚きがある。
あの魔獣に、取り込んだものを溶かす力がある、ということよりも、半分ほど溶かされた状態から自分が復活したことについてだ。
自分の再生能力が、化物じみている、というのは分かっていたが、致命傷のはずの肉体まで再生するとは。
「ぶっちゃけ、溶けた肉の隙間から、心臓が動いているのが見えなかったら、もう死んだと思ってたわ」
「そこまでかよ・・・・・・」
うへえ、とミケイルは、うめく。
「生きててよかったわね」
「・・・・・・助かった。ありがとう」
「いいわ。相棒だもの」
サラは、肩をすくめた。
そんな姿に苦笑し、ミケイルはベッドから降りる。
「・・・・・・服は?」
「そこにあるでしょ」
ミケイルがサラに聞けば、サラはミケイルの全裸を見ていながら、全く動じずに、ミケイルが寝ていた寝台を指さす。
確かに、そこに服が置いてある。
服を着ながら、ミケイルはサラを窺う。
戸から離れ、サラは部屋の隅に置いてある七輪を使って、湯を沸かしている。
茶でも入れるつもりなのだろう。
「しっかし、捕まえろって言われたもんを取り逃がしたことは、どうすっかね?」
「向こうだって捕まえられてない。別に気にすることはないと思うけれど」
「それもそうか」
ふん、と頷いたミケイルに、サラはちら、と目を向けて、
「なんか予想外の成果、とか言って喜んでたからね。こっちには何も言ってこないでしょ」
「予想外? 成果?」
「ええ」
こく、と頷いたサラに対し、ミケイルは首を傾げたのだった。
** ++ **
「いやいや、まさかこうなるとは」
はっはっは、と笑い声が漏れる。
痩身の男だ。
クリシャを追うための援護に、魔獣の解放を指示した男である。
その男の前で、うごめく影がある。
「回収できたのは一部ですが」
「構いません。この一部で十分でしょう」
ふふふ、と男は笑っている。
その背後、うごめく影を見る部下は、顔をしかめている。
「そういえば、残りはどうなりました?」
「山を登るところは確認しました。途中、いくらかの魔獣を吸収、そのまま山を登っていきました」
「では、『守り手』に当たったのではないですか?」
「はい」
「ほう? どうなりました?」
「方向で周囲の粘液を吹き飛ばされ、その後岩を投げつけられて中核を潰され、それで終わりです」
「おや、あっけのない」
拍子抜けした、と痩身の男がぼやくのに、部下もまた頷く。
「正直、見ていた側としても意外でした。直接接触でもしていれば、何かしらの痛痒を与えたのかもしれないのですが」
「実際には、触れることなく倒されてしまった、と」
「はい」
「『守り手』は、通常の魔獣とはどうも違いますからね。案外、そうすることが最適解、とバレたのかもしれませんね」
「・・・・・・あり得る、のでしょうか?」
「さあ? 『守り手』に知性があるかどうかなど、どうでもよろしい。それよりも、あなた方が回収してきてくれた、コレの方が重要ですよ」
うごめく影に、男はバケツの中身をぶちまける。
それは、さまざまな魔獣の部位の破片である。
うごめく影は、それらを取りこみ、質量を増した。
「これは、制御が効きます」
「・・・・・・では」
「ええ。魔力を持ったものを集めて来てください。魔獣のものだと、なおよいでしょう」
「かしこまりました」
部下が礼をする。
そして、退出しようとしたところに、男はもうひと声をかけた。
「例の彼女については?」
「そちらは、取り逃がした、とのことです」
「そうですか。・・・・・・現在の行方は?」
「不明です。完全に撒かれました」
「分かりました。そちらについては、行方が分かり次第、追いかけなさい」
「かしこまりました」
今度こそ、部下が退出する。
それを見送ることなく、男はうごめく影に目を向ける。
「いやはや、望外の成果です」
にや、と男は笑みを浮かべるのであった。
** ++ **
ごう、と風が吹いた。
それを感じて、巨大な存在は、うっすらと意識を目覚めさせる。
地脈を通じて、そこに触れるものを感じる。
そして、それが何かを知りつつも、その存在は、眠りについた。
評価などいただけると励みになります。
よろしくお願いします。
別のも書いてます
DE&FP&MA⇒MS
https://ncode.syosetu.com/n1890if/