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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第13話:うごめく

「・・・・・・うおお!」

 がばり、とミケイルは身を起こした。

 そこは、ミケイルがこちらの大陸で隠れ家としている場所の一室だ。

 服は着ていない。

「・・・・・・あ? いつ帰ってきたんだ?」

 最後の記憶は、クリシャの一撃によって、どろどろのぐちゃぐちゃの中へと突き飛ばされるところまでだ。

 くそおんな、と叫んだことまでは覚えているが、それ以降の記憶がない。

「起きたのね」

 声を聞いて、振り向けば、戸の前にサラが立っていた。

「サラか。・・・・・・お前は俺をここに?」

「大変だったわ。ぶっちゃけ、助け出した時点で、ほとんど人の形をしてなかったし。よく生きてたわね」

「・・・・・・どういう状況だったんだよ」

「最後に、魔獣のなりそこないに突き落とされたことは?」

「覚えてる」

「で、あなた、アレに取り込まれかけてたのよ」

 言われて、ミケイルは自分の手へと視線を落とす。

 ぐっぱぐっぱと握ってみるが、違和感はない。

「溶けてたのか?」

「手足の方は、ほとんどなくなってた。体の方も、骨が見えるくらいまでは溶けてたわ。なんとか引っ張り出したところで、再生が始まったけど」

「お、おお・・・・・・」

 ミケイルとしては、正直マジか、という驚きがある。

 あの魔獣に、取り込んだものを溶かす力がある、ということよりも、半分ほど溶かされた状態から自分が復活したことについてだ。

 自分の再生能力が、化物じみている、というのは分かっていたが、致命傷のはずの肉体まで再生するとは。

「ぶっちゃけ、溶けた肉の隙間から、心臓が動いているのが見えなかったら、もう死んだと思ってたわ」

「そこまでかよ・・・・・・」

 うへえ、とミケイルは、うめく。

「生きててよかったわね」

「・・・・・・助かった。ありがとう」

「いいわ。相棒だもの」

 サラは、肩をすくめた。

 そんな姿に苦笑し、ミケイルはベッドから降りる。

「・・・・・・服は?」

「そこにあるでしょ」

 ミケイルがサラに聞けば、サラはミケイルの全裸を見ていながら、全く動じずに、ミケイルが寝ていた寝台を指さす。

 確かに、そこに服が置いてある。

 服を着ながら、ミケイルはサラを窺う。

 戸から離れ、サラは部屋の隅に置いてある七輪を使って、湯を沸かしている。

 茶でも入れるつもりなのだろう。

「しっかし、捕まえろって言われたもんを取り逃がしたことは、どうすっかね?」

「向こうだって捕まえられてない。別に気にすることはないと思うけれど」

「それもそうか」

 ふん、と頷いたミケイルに、サラはちら、と目を向けて、 

「なんか予想外の成果、とか言って喜んでたからね。こっちには何も言ってこないでしょ」

「予想外? 成果?」

「ええ」

 こく、と頷いたサラに対し、ミケイルは首を傾げたのだった。


** ++ **


「いやいや、まさかこうなるとは」

 はっはっは、と笑い声が漏れる。

 痩身の男だ。

 クリシャを追うための援護に、魔獣の解放を指示した男である。

 その男の前で、うごめく影がある。

「回収できたのは一部ですが」

「構いません。この一部で十分でしょう」

 ふふふ、と男は笑っている。

 その背後、うごめく影を見る部下は、顔をしかめている。

「そういえば、残りはどうなりました?」

「山を登るところは確認しました。途中、いくらかの魔獣を吸収、そのまま山を登っていきました」

「では、『守り手』に当たったのではないですか?」

「はい」

「ほう? どうなりました?」

「方向で周囲の粘液を吹き飛ばされ、その後岩を投げつけられて中核を潰され、それで終わりです」

「おや、あっけのない」

 拍子抜けした、と痩身の男がぼやくのに、部下もまた頷く。

「正直、見ていた側としても意外でした。直接接触でもしていれば、何かしらの痛痒を与えたのかもしれないのですが」

「実際には、触れることなく倒されてしまった、と」

「はい」

「『守り手』は、通常の魔獣とはどうも違いますからね。案外、そうすることが最適解、とバレたのかもしれませんね」

「・・・・・・あり得る、のでしょうか?」

「さあ? 『守り手』に知性があるかどうかなど、どうでもよろしい。それよりも、あなた方が回収してきてくれた、コレの方が重要ですよ」

 うごめく影に、男はバケツの中身をぶちまける。

 それは、さまざまな魔獣の部位の破片である。

 うごめく影は、それらを取りこみ、質量を増した。

「これは、制御が効きます」

「・・・・・・では」

「ええ。魔力を持ったものを集めて来てください。魔獣のものだと、なおよいでしょう」

「かしこまりました」

 部下が礼をする。

 そして、退出しようとしたところに、男はもうひと声をかけた。

「例の彼女については?」

「そちらは、取り逃がした、とのことです」

「そうですか。・・・・・・現在の行方は?」

「不明です。完全に撒かれました」

「分かりました。そちらについては、行方が分かり次第、追いかけなさい」

「かしこまりました」

 今度こそ、部下が退出する。

 それを見送ることなく、男はうごめく影に目を向ける。

「いやはや、望外の成果です」

 にや、と男は笑みを浮かべるのであった。


** ++ **


 ごう、と風が吹いた。

 それを感じて、巨大な存在は、うっすらと意識を目覚めさせる。

 地脈を通じて、そこに触れるものを感じる。

 そして、それが何かを知りつつも、その存在は、眠りについた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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