表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
263/436

第9話;そのころののんき

 肉の脂が弾ける音がする。

「いいねえ」

 コメがないのは不満だが、少々硬いパンを火で炙ったものをおともにする。

 味付けは、塩と少々の香辛料。

 あとは、そこらで取れる香草の類。

 野菜は少量だし、正直脂っこいことこの上ないのだが、モリヒトとしては満足だ。

 これでも、まだまだ若い男である。

 肉の脂は、大好物なのである。

「では、いただきます」

 むしろおごそかに手を合わせ、モリヒトは鉄板の上で脂をはじけさせる肉を取った。


** ++ **


 麓の街で、騒ぎが起こっているころ。

 山小屋にいるモリヒトは、がっしがっしと鉄板を金たわしで洗っていた。

 焦げを、落としているのである。

「・・・・・・落ちない・・・・・・」

 しばらく擦った後、井戸から汲んだ水をかけるが、その結果を見て、力なく肩を落とす。

 それから、もう一度、と擦る。

「モリヒト」

「うん?」

 しばらくそうしてこげと格闘していたところで、クルワがモリヒトを呼んだ。

「・・・・・・まだやってたの?」

「気になる」

 とはいえ、もうどうしようもないかもしれない。

「こんだけこすっても落ちないとなるとなあ・・・・・・」

「しょうがないじゃないの」

 クルワの言う通り、しょうがない。

「焼肉とか、やらなきゃよかったなあ」

「やらかしたわね」

 なんでこんなに焦げ付いたか、と言えば、焼肉のせいである。

 なんというか、ものすごくお肉を食べたい気分になったのだ。

 焼いて、脂の滴る、味のいい肉を食べたい、と思ったのだ。

 だから、山小屋のすみに置かれていた鉄板を見つけた時、よっしゃ、と思った。

 石を積んでかまどを作り、その上に鉄板を置いて、クルワと一緒に獣を狩った。

 魔獣になってしまったのは仕方がないが、それはそれである。

 魔獣といえど、味は悪くないやつのはずだ。

 捌いて、切って、よし、と思った。

 ちょっと焼いただけで脂がそれなりに出て来たので、それを使って、肉や、山小屋に保存してあった干し野菜を水で戻したものなどを焼いた。

 焼いている間は良かったのだ。

 なんだか途中で焦げ付き始めている気はしていたが、まあ、そんなものだろうと、気にせずにやった。

 結果として、食べ終わった後の処理に困っているわけだ。

「まあ、片隅に置いてあるようなボロの鉄板だし、怒られることはないと思うけどね」

 それはそうだが、意外にこの辺りでは、鉄というのは貴重品なのだ。

「ああ、ていうか、あれな。わざわざ鉄板使わんでも、そこらの石を平たく切り出して、その上で焼けばよかったなあ」

「ああ」

 魔術を使えば、そういう風に石材を整えることもできただろう。

 形を変えることはできなくても、平たい石板を切り出すぐらいは行けたはずだ。

 下で火を炊けば、一応焼けただろう。

「この辺の石は、火にも強いしなあ」

 火で炙って、上で肉を焼いた程度で焼けるようなものでもない。

「・・・・・・で? なんかあったか?」

「ああ、うん。そうそう」

 結局焦げの取れない鉄板を置いて、モリヒトは立ち上がり、手を洗う。

 煤で黒く、脂でギトつく手を、井戸水と手洗い用の草木灰を使って、丁寧に洗う。

「肉の始末、先に手伝ってよ」

「ああ、そっちか。干し肉の方」

「この辺、雨が降らないから、干すのには困らないけれど、砂を落とさないと取り込めないのよね」

「いっそ、砂に埋めちまったらどうだ?」

 壺でも持ってきて、その中に砂と食材を入れていく。

「あるわよ? そういうの」

「あるのか」

「この山には、岩塩の地層があってね。まあ、見た目で区別つけるのは難しいけれど」

 その岩塩を削り出し、砕く。

 砂と混じってしまうそれを、壺などの入れ物に、食材と交互に入れていく、壺漬けがあるらしい。

「うまいの?」

「一週間くらい漬けておくと、水分が抜けて干物みたいになるんだって」

 それを取り出し、今度は干して、それからしまうらしい。

「ただ、まあ、岩塩は余分はないから」

「昨日、味付けに派手に使ったしなあ」

 ははは、とモリヒトは笑う。

「とにかく、干して、あと、燻製もあるから、全部取り込んで、保管庫に運びたいの」

「なんか、運よく狩れたよな」

「そうね」

 移動すれば、並べられた肉片が見える。

 塩やら香草やらをすり込み、紐で縛った肉塊である。

 一抱えあるものもある。

「・・・・・・やっぱり、石焼を試すか。結構量あるし」

「なんだかんだで、消費しておかないと余るでしょうね。・・・・・・アタシが売りに行ってきてもいいけど」

「それもありな」

「ていうか、だったらモリヒトも来なさいよ。一回くらい、山下りたら?」

 言われて、ふむ、と考える。

「それもありなんだが、一回下りると、ここの山小屋を使う理由が薄くなる気がする」

「だから何よ?」

「いや、だから何、と言われるとまあ、大したことじゃないんだが」

 単純に、流れが悪いなあ、と思うだけだ。

 どうせなら、一回真龍に会ってからにしておきたい。

「ていうか、街に下りたら、ほぼ確実に面倒ごとに巻き込まれる予感がする」

「大げさな」

「俺を甘くみるなよ?」

「何を自慢げにしているんだか」

 やれやれ、と肩をすくめ、クルワは肉を担いで運んでいく。

 モリヒトも同じように肉を担いでいく。

 街に下りたら、何かが起こるかも、という予感は、決して大げさではない、とモリヒトは思っている。

 おそらく、モリヒトなら確実に何かが起こるからだ。

「んー・・・・・・?」

 そんな予感があったから、ふと、目線を麓の方へと向けた。

「・・・・・・んー?」

「どうしたの?」

 モリヒトが唸ったのを聞いて、クルワが振り返った。

 だが、モリヒトは、じっと麓の方を見る。

 クルワもそれにつられて、モリヒトと同じ方向を見る。

 だが、何も見えない。

 山小屋からは、麓の様子を直接見ることはできない。

 傾斜とか、そういうのが影響しているのだが、真っすぐに麓を見るには、山小屋のある位置からもう少し山を下りる必要がある。

「いや、なんか聞こえたような・・・・・・」

 モリヒトは、空耳か、と首を傾げる。

 だが、何かが聞こえた気がする。

「んー・・・・・・?」

 どうにも、何か、感じるところがある。

 ざわつく感じ。

「はて? こういう感じは、前にもどこかで・・・・・・」

 さて、どこだったかね、と首をひねっているところで、モリヒトの持っていた肉塊を、クルワが取った。

「とりあえず、片付け」

「ああ、そうだな」

 違和感を感じつつも、モリヒトは作業に戻るのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


新しいのをはじめました。

DE&FP&MA⇒MS

https://ncode.syosetu.com/n1890if/


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ