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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第8話:追いかけっこと襲撃

「なんでいるんだい!?」

「こっちのせりふだってええの!!」

 おらあ、という掛け声とともに、拳が振るわれる。

 魔術で自分の身を飛ばして間合いを開けた後、複数の衝撃を放つも、頑丈な身には一切の痛痒は与えられず。

「ああ、もう! 面倒だねえ!!」

「そっちこそ、ちょこまかやってんじゃねえぞ!!」

 クリシャとミケイルは、追いかけっこをしていた。

 クリシャは逃げるが、時折先回りしたミュグラ教団が襲い掛かってくる。

 それに対処すると、後ろから追うミケイルに追いつかれるため、魔術で距離を開ける。

 そして逃げれば、またミュグラ教団に襲われ、足止めを食らう。

 その繰り返しだ。

「ボクは、君に用はないのだけれど?」

「俺もねえよ! 頼まれてなきゃ、追わねえっての」

 先ほどから起こる騒ぎに、街の警邏などが出てくるが、そちらはミュグラ教団に邪魔をされて、二人に近づけない。

「ああ、もう! 面倒な相手とは縁を切りなよ!!」

「そうしてえんだけどなああ!!」

 振りかぶられた拳の一撃が、地面を砕く。

 それをかわし、また宙を飛んで、距離を取る。

「・・・・・・!? 何だい?!」

 その最中、唐突に発生した騒ぎを耳にして、クリシャは周囲を見回す。

「あれは・・・・・・?」

 遠目に、何かが地面へと這いずり出しているのが見えた。

「魔獣か!?」

「おん? 何だありゃ?」

 魔獣、と呼ぶには、異様な姿をした、不定形の怪物たちが、何か所かから現れている。

 向かう先は、山だ。

 魔獣らしく、魔力に惹かれているのだろうが、

「あれは、まずいね」

 その中の数体の出現位置がまずい。

 山へと真っすぐに向かうには、途中に街がある。

 そのまま直進すれば、街に踏み込んでくるだろう。

 その時、街には確実に被害が出る。

「ち!」

 クリシャとしても不本意だし、警邏もそちらに手を取られることになるだろう。

 どちらにしても、よくない。

「まったく、ここまでやるとか、何を考えているんだい!!」

 見捨てられないね、と帽子を深くかぶり直し、クリシャは飛ぶ方向を変えた。


** ++ **


 その少し前。


 なぜか、悪だくみをする人間というのは、暗がりを好む。


 街はずれの廃屋。

 その地下に、空間があった。

 そこで、うごめくものがある。

「やれやれ」

 嘆息したのは、細身の男であった。

 細身、というより、病的に痩せている、と言う方が正しいか。

 顔色は悪く、クマも濃い。

「やっと、ここまでですか・・・・・・」

 ふう、と深いため息とともに、男は前でうごめく何かに向かって、手に持った箱から何かを振りかけた。

 奇妙な光と音を発しつつ、振りかけられた何かを吸収していく、うごめく何か。

「ふう。やはり、例のあれを逃がしてしまったのは、少々失策でしたか」

 思い返すのは、魔獣についてだ。

 行動を抑制するために差していたはずの魔術が、効果をなくしていた。

 魔力を食い過ぎて肥大化したために、その巨体に対して効果が行き渡らなくなった結果だろう。

 その結果、まるでワニのような形になって、より多くの魔力を求め、山へと突撃していった。

 その際に、実験に使っていた隠れ家が破壊されてしまい、こんなところに移動してきたわけだが。

 『守り手』か何かに倒されるだろうと思えば、実際山にいた狩人か何かによって討伐されたらしい。

 結果、あれに差していた剣も回収されたろう。

 魔術が特殊なのであって、剣自体はただの発動体だから、回収されたところで痛いものでもない。

 使っていた素材が、他大陸由来のものであるため、簡単に手に入るものではないことが、惜しいと言えば惜しいか。

「ああそうか、あれの回収こそ、彼に頼めばよかったですね」

 後悔先に立たず、などと自嘲しながらも、ほい、ほい、と次々に何かを振りかけていく。

 そのたびに、男の前でうごめく何かは、その動きの激しさを増していた。

 時折、男の方へ何かを伸ばす素振りを見せるが、それは見えない壁のようなものに弾かれる。

 見れば、そのうごめくもの下には、陣が敷かれていた。

 それが結界を構築し、男への接触を阻んでいるのだろう。

「ふうむ・・・・・・。こうやると、実体が構築できないのでしょうか」

 うごめくものは、不定形だ。

 スライムのようでもあり、だが、時折はっきりとした生物の形が見えることもある。

 振りかけるものがなくなり、うごめくものの様子を観察しては、様子を手元の用紙に書きつけていた男に、背後から声がかかった。

「失礼します」

「・・・・・・どうしました?」

 目の前の観察対象から視線を外すことなく、男は背後からの声に応える。

「はい。件の人物が、街に入ったようです」

「・・・・・・ほう?」

 そこで手を止め、男は背後を振り返った。

「それで?」

「現在、手の空いている者で包囲を進めています。包囲が完了次第・・・・・・」

「足りませんね」

「は?」

 続く報告をぴしゃりと遮り、男は報告者に告げる。

「手の空いている者、ではなく、全員で向かいなさい」

「は? よろしいのですか? それでは、警護などが・・・・・・」

「この辺りに、護らなければならないような拠点はありません。放棄しても結構。それより、件の人物の方が、よほどに価値が高い。間に合うものはすべて使いなさい」

 男は、指示を出す。

「は。分かりました。急ぎ、指示を出します」

「ああ、それと、彼に連絡は?」

「はい。もともと、件の人物の情報をもたらしたのは彼ですし、既に伝え、捕縛の協力を依頼しています」

「よろしい」

 うむ、と満足そうに頷いた男は、ふと背後を振り返る。

「そうですね。どうせ放棄するのですし、目くらましに、あれを解き放ってしまいなさい」

「よろしいのですか? まだ研究が途中のはずですが」

「構いません。今の進捗なら、もう一度作るくらい容易な話ですし、うまく組み合わされば、何かいい結果を発揮するやもしれませんからね」

「はい。では、そのように」

 伝令役が去っていったのを見送り、男は、背後のうごめくものへと目をやる。

「そうですね。お前にも働いてもらいましょうか」

 壁際に置いてあった箱。

 その中から、一掴みほどの石を手に取る。

 奇妙に赤黒く輝く石だ。

 それをうごめくものへと放り投げ、男は部屋を後にする。


 部屋を後にした男の背後で、何かが砕ける音がした。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


新しいのをはじめました。

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