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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第6話:どうするか、と足止め

 雨が降らない。

 この土地の特性だな、とモリヒトは思う。

「黒の森だと、一応雨降ったけどなあ・・・・・・」

 不思議なものである。

 ヴェルミオン大陸の黒の山は、海からの湿気を含む風を受け止め、黒の森に雨を降らせる。

 だが、この土地は違う。

 大陸中央にある若紫色の山は、その高さは、黒の山の半分ほどだ。

 その中央にいる真龍の巨体は、黒の山の標高に匹敵する巨大さではあるが、それくらいだ。

 なんかあるのかね、とモリヒトは、遠目に真龍の姿を見ながら思う。

「案外? 真龍にとっても、『守り手』は存在している価値があるのかもしれんね」

 黒の森にも、森守という守り手がいた。

 その役割のため、黒の真龍は彼らに護りを与えていた。

 水気を苦手とする『守り手』の住む土地に、雨が降らないことは、もしかすると若紫の真龍の加護なのかもしれない。

「・・・・・・てことは、俺らは招かれざる客か?」

「そりゃそうでしょうよ。むしろ、黒の真龍みたいに、手続き踏んだら会えるっていう方が珍しいからね?」

 真龍を見るモリヒトの隣に立って、クルワは肩をすくめた。

 『守り手』に挑んだ後、山小屋に帰ってきて、二日が経っている。

 水気が有効、というのは確かだろうが、それでも決め手が足りていない。

 水気で、その剛毛を弱くし、攻撃が通じるようにすることはできる。

 どうやら、水で冷やすことで、その動きを鈍らせることもできるらしい。

 だが、防御と速度を落としても、攻撃力が下がらない。

「もう、あの力がなあ・・・・・・」

 その性質は、ミュグラ・ミケイルのそれに似ている。

 違いは、そこまで無理をしていない、ということと、自分の魔力ではなく、周囲に満ちている真龍の魔力を消費しているために、消耗がほとんどない、ということだろう。

「多少攻撃入っても、多分すぐ治ってる。切り落としでもすれば別かもしれないけど、アタシ、そこまでの腕はないわ」

 クルワは、魔術による攻撃力の強化はできるが、それを上回って、相手の身体が頑丈すぎる。

 ただ、一番の問題は、

「結局、俺が足を引っ張ってるよなー」

 モリヒトだ。

 戦闘経験の少なさ。

 それに加えて、単純に戦う技術が足りていない。

 遠間から魔術を撃つ援護のみに徹しても、『守り手』の攻撃力はその間合いを簡単に詰めてくる。

 具体的には、投石だ。

 油断して一か所にとどまっていると、すぐに石が飛んでくる。

 それも、拳大のような石ではない。

 一抱えもありそうな岩だ。

 そんなものを、片手で投げ飛ばしてくる。

 回避しても、その着弾の衝撃は、決して無視できないし、砕けた破片が飛び散ることもあって、気が抜けない。

 結果として、モリヒトは、魔術に完全には集中しきれない。

 ここで、集中力を高めるサラヴェラスの性質が裏目に出ていた。

 魔術を放つことに集中すると、回避がおろそかになる。

 回避することに集中すると、今度は魔術が弱くなる。

「せめて、もう一人いればなー」

 前衛で、敵の注意を引き付ける役でもいい。

 あるいは、後衛で魔術をもう一人放つのでもいい。

 どちらでもいいから、手数が欲しい。

「仲間探しするか?」

「今更? アタシ、モリヒト一人見つけただけでも、結構ラッキーだったんですけど?」

 クルワの言うこともわかる。

 真龍との謁見を目指すようなものは、この大陸では愚か者扱いだ。

 真龍と会話が成功した、という記録もない。

 何せ、そうして挑んだ者たちで、帰還したものの記録がないからだ。

「・・・・・・どうする?」

「領域から出てこないっていうのも、奇襲し放題で有利かと思ったけど、こちらからするとあんまり利がないわね」

「うん。なんだかんだ、結局毎回待ち伏せ食らうようなものだからなあ」

 参った、とモリヒトは頭をかく。

「普通に、強い」

「面倒ね」

「発動体の問題だけじゃないなあ」

 モリヒトとしては、発動体の所有は、結局最低限でしかなかった。

「結局、『守り手』用の作戦がいるな」

「ええ。・・・・・・なんとかなる?」

 クルワが、モリヒトを窺うように見る。

 それに対し、モリヒトは、むー、と一つ唸り、

「実は、一つ考えがある」

「え? 何があるの?」

「ものすごい速足で『守り手』の領域を駆け抜ける」

「・・・・・・マジで言ってる?」

「半分本気だけどなー」

 結局は、逃げの一手、というやつだ。

 ただ、

「領域の奥側に限りがあれば、だよなあ、この作戦は」

 正直、領域のこちら側の端は分かっても、奥側の端は分からないため、どこまで進めば『守り手』が追撃を諦めるのかが読めない。

 そうである以上は、作戦としては不確かだ。

「真龍の真下まで行っても、それでも襲ってくる、みたいなのも考えられるし」

「場合によっては、真龍の足元は、複数の『守り手』が守ってるって可能性も、まあ、あり得るわ」

 クルワの予測も頷ける。

「情報収集するか?」

「どうやって? 『守り手』の領域を抜けた人の記録なんてないのに」

「むう」

 困った、打つ手なしじゃないか、と二人で落ち込んでいると、アバントが小屋を出てきた。

「ふむ。儂は少々出てくるが、二人はどうするかの?」

「うん? 山を下りるのか?」

「うむ。少々、仕事に使う道具に目減りがあるのでの。補給してくるよ」

 そういうアバントを見て、むむ、とモリヒトは唸る。

 ここに来て、一回くらいは街まで下りてみるべきだろうか。

 そう思ったが、

「今は、下に下りてもすることがないしな」

 やめておくことにした。


** ++ **


 カン、カン、と鎚がノミを打つ音がする。

 街で多い職業と言えば、石工。あとは、石細工師、というところか。

 建材に使うような、大き目の石は、石切り場で取ってくる。

 とはいえ、石切り場の位置は、山の麓の方にあるため、石自体の質はあまり高くない。

 質の高い石が転がっている辺りは、『守り手』の領域に近いため、回収は危険で、拾い屋が集めてくるわずかな量だけだ。

 ともあれ、産業としては、やはり石を加工するものが多くなるから、鎚の音が多くなる。

 この大陸では、金属製品より石器製品の方が人気が高いこともある。

 街の中を、フードをかぶって歩いている小柄な人影がある。

 白っぽいローブに身を包み、フードを被っている人影だ。

 フードが妙に膨らんでいるのは、その下に帽子をかぶっているからだ。

 ともあれ、

「やあれやれ、だ」

 そんな口調でつぶやいて、遠目に山を見る。

 大陸の端ではさすがにかすんでいたが、麓の街までくれば、その中央にいるであろう、真龍の影がぼんやりとでも見えてくる。

「はあ、あの竜は、のんびり屋だからねえ」

 やれやれ、とため息を吐いて、ローブの人影は、肩をすくめる。

「ま、行ってみようか」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


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