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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
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第1話:『守り手』の領域へ

 若紫色の岩と砂の山。

 砂塵の色で、遠目の景色がぼんやりすることも多い土地。

 今日は、風が強め。

 おかげで、視界がすこぶる悪い。

 そんな砂塵の舞う風の吹き荒れる山の途中に、くぼみがあった。

 そこから、モリヒトは少しだけ頭を出して、遠くに目をやっている。

「・・・・・・・・・・・・どうよ?」

 モリヒトが声を発すると、どこからともなく、クルワが近くに降り立った。

「姿は見えず。・・・・・・近場にはやっぱり何もいないみたい」

「そうか」


** ++ **


 アジトの探索から、二日。

 拾ってきた発動体や、アバントが回収してきた剣の使い心地などを確かめて、問題はないと思えるようになった。

 鉈か小型の斧かのような形状の『ハチェーテ』は、量産品、ということもあって、特に癖もないいい品だ。

 少々刃先に重心が寄っているが、その分振りやすいし、威力も乗せやすい。

 刃を強化し、使用者の能力を強化するタイプの魔術に適性があるらしく、近接戦向けの仕様だが、むしろ使い方が限定されている分、モリヒトとしては迷いなく使えて使いやすい、とも思える。

 金色の装飾過多な杖である『サラヴェラス』は、逆に放出するタイプの魔術向けだ。

 近接で使うには向かないが、魔術を放って使うには、威力が増幅されるようで、使いやすい、とも言える。

 何より、握っていると魔術具としての機能で、握っているモリヒトの精神に干渉してくる。

 本来なら、それで精神をミュグラ教団の思想に汚染されてしまうのだろうが、モリヒトには効かず、それどころか、集中力を上げる役に立っている。

 おかげで、魔術を使う時のイメージ力が上がっており、魔術自体が使いやすくなっている。

 最後に、アバントがワニの魔獣の中から出てきた、と持ってきた、黒い針のような形状の剣。

 それほど長さもなく、切り合いをするには向かない形状のスティレットだ。

 これも、発動体だった。

 質もいい。

 性質として、発動した魔術を剣の周囲に留めようとする。

 そのため、魔術を使用すると、剣にまとわりついて、ちょっとかっこいい。

 ともあれ、これで両手に剣を握る形にできるようになった。

 少々使い方に癖は必要だが、そもそも剣術などあまりうまくないモリヒトである。

 逆に戸惑うことなく馴染んでいた。

 そうして、クルワを相手にある程度使えるように訓練して、二日。

 それから初めて山小屋から離れたモリヒトは、少々過剰とも言える警戒心を持って、山の中を歩いていた。



** ++ **


「やっぱり、ビビリすぎじゃない?」

「お前は、あの男の面倒くささを知らんのだ」

 クルワが呆れをにじませた声を出すが、モリヒトは渋面を作って首を振る。

 思い出すのは、ミュグラ教団のアジトを探索した帰りに、ミケイルと遭遇してしまったことだ。

 モリヒトとしては、正直勝てない相手、としての印象が強い。

 加えて、短い間に何度も遭遇した上、その都度モリヒトに執着じみたものを見せている。

 今、追いかけて来ていても、まったくおかしくない、とモリヒトは思っている。

 実際は、ミケイルはモリヒトには負けた、と思っており、勝算ができるまでは戦うつもりはないのだが、モリヒトは知らない。

 とにかく、モリヒトは、ミケイルには会いたくない一心で、周囲を過剰に警戒していた。

「どんなやつなのよ?」

「硬い、強い、速い、しぶとい」

「面倒くさそうな相手」

「全身に、強力な肉体強化と再生強化の魔術が常時かかってるらしくてな。下手に斬り付けると剣が折れる。傷をつけてもすぐ治る」

「そんなの、すぐ魔力切れで体力切れでしょうに」

「ところが、どうも聞いた話だと、それで使う魔力量より、回復する魔力量が極めて多い上に、魔力の使用、回復で減る体力も相当少ないらしくてな」

「どんな魔術使ってるのよ」

「ずっと同じ魔術を常時使いっぱなしだから、自然と鍛えられたんだとさ」

 ふざけた話だ、と吐き捨てる。

 おかげで、非常に面倒な相手になってしまっている。

「ただ、その魔術は、ミュグラ教団の人体実験の後付けで、肉体が常時発動している魔術がないと、実験の副作用で肉体が崩壊して死ぬんだと」

 そのため、魔力を吸収し、魔術を弱体化、ないし無効化するモリヒトは、ミケイルの天敵であった。

「それもあって、俺は狙われてんだよ。あっちは、その肉体を駆使した戦闘のプロ。俺はド素人。鍛えて使い物になる前に、俺を殺したいんだろうさ」

「なるほど」

 ミケイルとの因縁について話しながら、モリヒトは歩く。

 目的地は、いつもより少し奥地だ。

 いくつかの発動体が手に入り、十分に戦えるようになった。

 もともと戦闘は素人であるモリヒトだから、どこまで戦えるのか、というものはあるが、少なくとも自衛程度は困らないようになったわけだ。

 そこで、偵察である。

 モリヒトとしては、一度若紫の真龍のもとへ向かい、漆黒の真龍と同じように謁見をしたい、と考えていた。

 クルワも、もともとはそういう目的でここにきていた、というのもあり、協力してくれる。

 その場合の、最大の障害となるのが、『守り手』である。

 だから、『守り手』の様子を探りに来たのである。

 『守り手』は、縄張りとなる領域から出てこない。

 戦闘中であったとしても、領域から出てしまえば追ってこない。

 だから、軽く攻撃して、どこまでやれるかやってみよう、というわけである。

「ていうか、そんな怖いんだったら、そっちの対策先にやった方がいいんじゃない?」

 クルワはそう言うが、モリヒトとしては、対策する方がいやだ。

 できればミケイルには会いたくないのである。

 仮に戦闘になってしまえば、痛い思いをすることになるんだから。

「わざわざ探すのとか、絶対嫌だ」

 どこにいるか分からないのもある。

 だから、見つからないなら、それでいい、とも思っている。

 なんだかんだ、帰ってくるまでに追跡を撒くために遠回りをしたくらいだし、おそらくは大丈夫なはずだが、確証はない。

「ただ、『守り手』の領域の向こう側なら、そうそう簡単に追っかけては来ないだろうしな」

「逃げるためとはいえ、もっと危ないのに立ち向かおうとしてるように思うんだけどねえ」

「まあ、真龍に会いたいのは確かだしな。そっちの方を優先したい」

 ともあれ、

「ほれ、見えてきた」

「・・・・・・いるねえ」

 砂埃の舞う、広い平地となった場所。

 その中央に、それはいる。

 剛腕とたてがみを持った、熊のような上半身。

 ワニか蜥蜴かのような、平たい四足の下半身。

 巨躯の怪物だ。

「・・・・・・さて、軽く一当て、いってみるかね」

「アタシが前衛ってことよね?」

「俺も、気を引くために、ちょいちょい前には出るけどね」

「・・・・・・結構早いよ? あいつ」

「知ってる」

 軽く動きを打ち合わせて、モリヒトとクルワは頷きあう。

「よし、やるか」

 そして、二人は、『守り手』へと向かった。

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