表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第7章:白という
254/436

第7章:プロローグ

7章開始

  風が吹いている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 じっと、岬の先端に立って、まるで風を見るように先を見ている。

 風に髪を揺らしながらも、目はじっと岬の先を見据えていた。

 そして、衣を風に揺らし、しばらく風を浴びている。

「・・・・・・気は済んだかい? ルイホウ君」

 その後ろから、白い影が声をかけた。

「クリシャさん。はい」

 岬の先端に立つルイホウは、後ろに立っているクリシャへと振り返る。

「今年は、うまくいったねえ」

「そうですね。はい」

 ルイホウが振り返るのは、テュールの先端ともいえる場所。

 すなわち、竜殺しの儀式場だ。

 ユキオの最初の仕事であった竜殺しは、様々なトラブルが発生したものの、一応は成功した。

 軽傷者は幾人か出たものの、儀式中というタイミングでトラブルが発生したにしては、その数は少なかった。

 死者も出ていない。

 ただ、公的に記録に残らない、行方不明者が一名いる。


 それが、去年の話だ。


 そして、年が巡って今年のこと。

 トラブルによって荒れていた儀式場は、きちんと修復された。

 そして、今年の『竜殺しの大祭』は、順調に終了した。

 新女王ユキオの存在は、今度こそ盤石のものとなったといっていい。

 ルイホウは、その儀式には参加していない。

 新しく巫女長の任を継いだユエルが、しっかりとやり遂げた。

 ルイホウは、今度こそ、王都でそれを見守った。

 そして、今日である。

 儀式が終わり、澄んだ匂いのする空気となった、岬の突端。

 あの日、一人の人間が消えたそこに、ルイホウは立っていた。

 伴っているのは、クリシャである。

「クリシャさん。戻ってたんですね」

「うん。いろいろ回ってみたけど、やっぱりこの大陸には影も形もないね。そっちは? オルクトの方に出向するって聞いたんだけど?」

 クリシャは、髪を風に流しながら、ルイホウへと聞いた。

 ルイホウは、去年の『竜殺しの大祭』の事件の後、巫女衆を辞して、魔術研究の道に進んでいる。

 ユエルが巫女長となった巫女衆に、深く関わらずに距離を置きたいためだ。

 もともと、ユエルが巫女長に就任した時点で、ルイホウが巫女衆を辞することは決定していた。

 その後の進路については、いろいろ候補があったものの、結局魔術研究の道に進んでいる。

 地脈関連魔術の技術交換が主な目的ではあるが、それ以外にも理由はある。

「研究の結果は?」

「何も分かっていません。はい」

 クリシャの問いに、はあ、とため息を吐きながら、ルイホウは応えた。

 ルイホウが魔術研究に進んだのは、あの日消えたモリヒトの行方を追うためだ。

 状況からして、モリヒトが消えた理由には、地脈が大きくかかわっているものと思われる。

 だが、テュール側で調べられることは調べ尽くしてしまった。

 以前の事件で使われ、水没した地下の石堂の陣なども、もう調べ尽くしてしまった。

 押収した資料の解読も完了して、テュール側でできることは終わった、と言ってもいい。

 そのため、今年からルイオウはオルクトに出向すると決めている。

 オルクトには、テュールにはない資料などもたくさんある。

 それに、黒の真龍に近いオルクト国内ならば、テュールとは違う技術も得ることができる。

 地脈関連の技術でいえば、テュールの方が進んでいるとはいえ、今回必要なのは、違う技術と踏んでいた。

「・・・・・・見つかると思うかい?」

「少なくとも、あの時何が起こったのか、ということは分かるのではないか、と踏んでいます。はい」

「追いかけるねえ」

「・・・・・・・・・・・・諦めきれていないだけかと。はい」

「ふふ・・・・・・」

 ルイホウは、クリシャのその笑い顔を見て、ふう、と息を吐いた。

「・・・・・・疲れてるね」

「・・・・・・少しだけ。はい」

「見つからないのなら・・・・・・」

「いえ・・・・・・」

「うん?」

 諦めるべきじゃないのか、とクリシャは言おうとした。

 だが、ルイホウは首を振る。

「・・・・・・痕跡はあるのです。・・・・・・つかめそうでつかめない、か細いものが、あるのです。はい」

 ぐ、と何か、こぼれそうなものをこらえるように、ルイホウは言う。

「なるほど、見つかりそうだから、諦めきれないのか」

「・・・・・・はい。・・・・・・縁が、切れたわけではありませんから。はい」

 だから、ルイホウは、まだまだ動く。

 オルクト魔帝国に移り、テュールでは調べきれない情報を調べ、モリヒトに連なる情報を探す。

「そっか」

 しょうがないなあ、とクリシャは笑う。

「クリシャさんは・・・・・・、どうされるのですか? はい」

「ボクは、ちょっと大陸の外に行ってみようかと思ってる」

 その言葉に、ルイホウはクリシャの顔を見た。

「外、ですか?」

「うん。まあ、この大陸は、全域回ったからね。他の大陸にも行ってみようかなって」

「・・・・・・クリシャさんも、探すんですか? はい」

「ううん」

 ルイホウの問いかけに、クリシャは首を振った。

「申し訳ないけれど、ボクはモリヒト君が、見つかるとは思ってない」

 クリシャには、モリヒトに対して、そこまでの思い入れはない。

 一年、大陸中を探しただけでも、やり切った、と思っている。

 一方で、気になっていることはある。

「・・・・・・ただ、モリヒト君の体質は気になるからね」

「あ、はい」

 モリヒトには、魔力を吸収する体質があった。

 それは、真龍にのみ備わる体質だ。

「黒の真龍にも聞いてきたんだけど、どうにも要領を得なくて」

 はあ、とため息を吐いた。

「仕方ないから、ちょっと隣の大陸に行ってくるよ」

「・・・・・・そんな気軽に行けるんですか? はい」

 どこまでも軽い口調のクリシャだが、手はあるのだろう。

 なんだかんだ、百年以上にわたって、他の大陸から、混ざり髪の孤児を保護してきたクリシャである。

「ちょっと、あっちの伝手を辿ってみるよ。もしかしたら、何か分かるかも」

「・・・・・・お願いします。はい」

「はは。あんまり期待しないでね」

 ルイホウは、そっと遠くの空を見る。

 その空は、モリヒトが消えた日と同じく、澄んだ青空であった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ