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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第26話:対策会議

 頭を拭いていた布を下ろし、がしがしと髪をかき乱す。

「まあ、その間に入ったやつのものを、もろに浴びちまってな」

「なるほどのう・・・・・・」

 入れてもらった熱い茶をすすって、はあ、とため息を吐く。

 二人の間に割り込んだ魔獣は、互いに挟んで攻撃した結果、爆散した。

 その内容物を互いに浴びたわけだが、

「その直後くらいに、クルワが割り込んできてね」


** ++ **


 ぼん、と破裂し、ばっしゃあ、というか、びちゃあ、という音がした。

「ぐあ、け、ぺっ!」

 距離を開け、目をぬぐい、口に入った分を吐き出す。

「おお、やっちまった」

 ミケイルはミケイルで、同じようにしている。

 互いに、びっちゃりとした状態で、

「うお!」

 さらに、横からまだ後続が来ている。

「ち、しゃらくせえ!」

 体にまとわりついた汚れもそのままに、ミケイルはその迎撃に入った。

 モリヒトの方は、しのぐのでやっとだ。

 そこに、明るさが来る。

「あ?」

 二人が疑問に思ったものの、その明るさは、炎をまとったまま、モリヒトの方へと走り込む。

 そのまま、モリヒトとミケイルの間へと走り込むと、炎が散った。

「クルワか!?」

「無事ね? モリヒト!」

「おう」

 クルワは、モリヒトの状態を見て、一瞬顔をしかめたものの、そのままミケイルの方へと目をやって、

「で、あっちは?」

「敵」

「そ、じゃあ、助けなくていいね」

「あ? なんだよ!? その女! あれか?! お前のアートリアかなんかかよ!?」

 クルワの姿を見たミケイルが、魔獣の迎撃をしながらそんなことを叫んできたが、クルワは取り合わない。

 そのまま、クルワは両手の剣を振り上げ、振り下ろす。

 クルワの足元を基点にして、炎が噴き上がり、二人の姿を周囲から隠した。

「あ、くそ?! 逃げる気か!!」

「逃げるよ。面倒な」

 モリヒトは言い置いて、二人はそのまま離脱した。


** ++ **


「クルワに先導されて、一応魔獣の群れから外れてな。で、距離を取ること優先で走って・・・・・・」

 汚れを落とす間もなく、とにかく走った。

 そのくらい、林の中での魔獣の暴走がひどかった、というのもある。

 ある程度落ち着いたところで、身を隠すことも考えたのだが、

「水もないのに、全部洗い流すとか無理だし? 安全そうな場所まで逃れた時点で、山小屋まで半日ぐらいのものだったしさ」

 それで、そのまま山小屋まで戻ってきた、というのは、二人の状況であった。

「一応撒いてきたが、はたして大丈夫かね・・・・・・?」

 追跡の形跡はなかったし、何かの痕跡を残すこともしていない。

 一応、途中で、『守り手』の領域に踏み込んで、『守り手』と接敵する前に、別の場所から脱出する、というちょっと危険も冒している。

 追跡封じ、としては、十分なことをやったはずだ、とは思う。

「あいつ、そこまで追ってこれると思ってるの?」

「ミケイル、ああ、あの男の方な。あっちは、そういう技術はないと思う」

 近づいて殴る、がモットーの男だ。

 できなくはないだろうが、本職の狩人とか、そういうレベルのものが持っている技量はあるまい。

「ただ、あいつ一人、とは思えないんだよな」

 モリヒトが知る限り、ミケイルは、相方の女と二人で行動していた。

 そして、ミケイルに足りない技術は、その相方が補っていたように思う。

 だとすると、あの相方の方には、追跡の技術があってもおかしくない。

 それだけに、モリヒトとしては、この山小屋に襲ってこないか、と不安を感じていた。

「ねー、モリヒトー?」

 顔をしかめ、首をひねっているモリヒトに、クルワが声をかけた。

「うん、なんだ?」

「昔の知り合いって、なんでこっちの大陸来てるの?」

 クルワやアバントには、モリヒトが地脈のあれこれのせいで、別の大陸からこの大陸に来てしまったことは言ってある。

 地脈は、真龍由来の人知を超えた力である、ということもあって、そうなのか、と二人は納得していた。

 とはいえ、海を渡る、というのは、基本的に命がけの大事業だ。

 オルクト魔帝国では、飛空艇があるからまだハードルは低いものの、他の国だと、国家に認められないと船を出すことはできない。

 許可が云々、という話ではなく、国家レベルの予算と技術がなければ、大陸間を航行できるだけの船を作るのは困難である、ということだ。

「・・・・・・あー、なんで、と言われれば、多分、犯罪者だから逃げて来たんだろ」

 大陸をまたいで活動している、ミュグラ教団、という組織がある。

 ミケイルはそこの所属だから、国家の目をかいくぐって大陸を渡ったとしても、不思議はない。

 あるいは、以前聞いた話だと、クリシャなどは単独で大陸間を渡る力を持っている。

 魔術で空を飛ぶ、というめちゃくちゃな力技だが、クリシャにはできるらしい。

 あるいは、ミケイルのバカげた魔力回復速度なら、それ相応の魔術具さえあれば、単体で海を渡る、という真似も不可能ではないだろう。

「で? それがどうかしたか?」

「うん? だって、あっちの大陸帰りたいんでしょ? そいつら、犯罪者でまともな手段が使えないって言うんなら、アタシ達でも使えるかもじゃん」

「・・・・・・・・・・・・なるほど。その視点はなかった」

 モリヒトが、ヴェルミオン大陸に帰る、と決めながら、この山小屋にとどまっているのは、金を稼ぐためだ。

 海を渡る手段が見つかっていないとはいえ、大金がかかる可能性は、決して否定できないからだ。

「なるほど。捕まえて聞き出すか」

「物騒じゃの。それに、聞き出せる相手なのかの?」

「・・・・・・あー」

 聞き出す、と言っても、手段がない、というのは確かだ。

 体は硬いし、回復力は高いし、で痛みは通じない。

 かといって、交渉しようにも材料はない。

「それに、その手段は、非合法であろう? だとするならば、逆にリスクの方が大きいだろうて」

 アバントの言うことはもっともだ。

 ふう、とため息を吐いた。

「ともあれ、あいつがいる限り、あんまり安心はできんなあ」

「先手必勝する?」

 クルワが頼もしいことを言ってくれるが、

「無理。俺、あいつに勝てるイメージがない」

 結局、そこに尽きる。

 モリヒトの体質は、ミケイルにとって天敵ではあるが、対抗は可能なのだ。

 ミケイルの体質を完全に無効化するには、それなりに長い時間ミケイルに触れている必要があるのだから。

「あー、面倒くさい相手だ・・・・・・」

「そうじゃのう。そも、その相手、犯罪者でなければ、下手に襲撃をかけると罪に問われるのはこちらとなるぞい?」

「あり得るのか? それ」

「別の大陸で犯罪者であったから、というて、こちらの大陸にその情報はまず伝わらぬよ」

 なるほど、と頷いてしまう話だ。

 大陸間を渡るのは、困難だ。

 だからこそ、海を渡ってしまうと、国家間の交流などほとんどないし、犯罪者の情報のやり取りなどもないと言っていいだろう。

 だとすると、海を渡ってしまえば、どんな犯罪者も手配されなくなる、というのは、あり得る話だ。

「あー、つまり、公的などっかに通報しても、相手にされないってことか」

 さて、どうしたものか、と考える。

「先手必勝? 山の上でなら、まあ、バレなきゃだいじょぶ」

「物騒だなあ、おい。・・・・・・ともあれ、しばらくは警戒だな」

「慎重ね」

「前にあいつとやり合った時、あいつ大陸で一番強い軍に正面切って一人で喧嘩売ってたんだぞ? おまけに、それである程度被害出すようなこともやってた。・・・・・・そんなやつ相手に、慎重になり過ぎってこともねえよ」

 そっかあ、と頷いたクルワは、首を傾げた。

「じゃあ、あいつ、なんでこの山来たんだろ?」

「・・・・・・あいつ、ミュグラ教団の一員らしいからな。その関係だろ?」

「てことは、あのアジトとか?」

「別にアジトあるかもしれんがな」

 ともあれ、今のモリヒト達に、その目的は推察できない。

 そこまでで、話が一段落ついた、と判断したか、アバントがテーブルの上に布に包まれた、棒状のものを差し出す。

「うん? 何だこれ?」

「まあ、戻ってきたところで、これの話をしておこう、と思っておったのじゃがの」

 布を解く。

 そこにあったのは、一振りの剣だ。


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