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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第25話:魔獣の暴走の中で

「ほう? 昔の知り合いかね」

 体を洗い終わったモリヒトは、布でがしがしと髪を拭きながら、アバントの問いに頷く。

「前にいた場所で、ちょっと殺し合いした」

「物騒じゃのう・・・・・・」

 アバントが呆れたようにぼやくが、

「しかし、それでは決着はつかなかったのかね?」

「あー、大概、水入りで決着が流れてる、って感じなのかね?」

 ミケイルが聞かれれば、否定するかもしれない。

 黒の森での戦闘はともかく、『竜殺しの大祭』へと向かう途上での戦いは、明確にモリヒトの勝ちだ。

 ただ、モリヒトは、あの戦闘の時は、正気を失っていたのもあり、何が起こったかよく覚えていないので、勝ちに数える気にならない。

 いつの間にか終わっていた、という感覚なのだ。

 とはいえ、この場に、ミケイルはいない。

「・・・・・・で、まあ、ちょっとかちあってなあ」


** ++ **


 面倒なことになった、とモリヒトは内心でうめいた。

 まさかこんなところで、こんなやつを会うとは、という感じだ。

「ほお? ・・・・・・なんだよ、元気そうじゃねえの」

 しばらく向き合った無言の後、先に口を開いたのはミケイルの方だった。

 モリヒトよりも困惑を顔に出していたが、それはともあれ、と切り替えたらしい。

「そっちこそ。・・・・・・あいも変わらず、無駄に元気そうだな」

「は! 言いやがる!」

 ふん、と言いながら、ミケイルは構えを取った。

 かつて、破壊された手甲と脚甲は、やはり新しいものになっている。

 かつては鉄塊、それから、魔術具、と変わっていた。

 最後に見たのは、洗練されたデザインのものだったように思うが、今ミケイルが装着しているのは、やはり無骨なものだ。

 ぐ、と拳を握った直後、箱型の甲が降りて、握った拳を覆う。

 全体的に、箱のような形の、無骨でごつい手甲。

 脚甲は、逆に鋭さがある。

「・・・・・・新しいのかよ」

「おうよ。こっち来てから新調したんだがよ。てめえと会うってわかってたら、前のやつを持っとくんだったぜ」

 前のやつ、というのは、『竜殺しの大祭』の時期に身に着けていた、対モリヒト用の魔術具が仕込まれた品だろう。

 だが、あれは結局、モリヒトの魔力吸収体質に対抗するためのものであり、モリヒト相手でなければ、消費する魔力量と効果のつり合いが取れないだろう。

 それなりに壊れていたし、モリヒトがいない以上は、それほど直す意味もなかったはずだ。

「ま、こっちはこっちで、それなりよ」

「は、それなり、で、また俺をやるってか?」

 精一杯に挑発してみるものの、モリヒトとしては避けたい相手だ。

 何せ、単純に強い。

 おまけに、今モリヒトが持っているのは、使い慣れていない発動体だ。

 戦うことになれば、苦戦は免れない。

 だが、

「・・・・・・」

 周囲、魔獣の流れができていて、安易に脱出できる雰囲気ではない。

 クルワとも魔獣の流れによって分断されている状況で、どうにも都合が悪い。

「はは! さあて、ここで会ったがなんとやらってやつよ」

 明らかに戦闘態勢を取っているミケイルに対して、モリヒトは嫌気を前面に出す。

「何だよ。うるせえな。なんでここにいるんだお前は」

「あ? いろいろあんだよ」

「なんだいろいろって」

 避けられない、と踏んで、モリヒトはハチェーテを握り直す。

 腰の後ろに吊るしたサラヴェラスに手を伸ばすかどうかを悩み、

「・・・・・・」

 背に腹は代えられない、と握りこんだ。

「お? なんだやる気か!」

 はは、いいねえ、とミケイルは笑うと、全身に力を籠める。

「おらああ!」

 ど、と地面が爆発する勢いで踏みこみ、ミケイルはモリヒトへと襲い掛かった。


** ++ **


 クルワは、まずい、と思いながらも、踏み込めずにいた。

 魔獣の群れによる流れによって、モリヒトと分断され、今モリヒトの場所がつかめない。

 林の中は、魔獣たちが上げる騒音が激しく、気配もつかめない。

「なんでこんなにいるの!?」

 悲鳴じみた叫びをあげるほどには、魔獣の群れに切れ目が訪れない。

 だが、ある意味で仕方のないことでもあった。

 魔獣たちは、ミケイルに追い立てられるように逃げ出した。

 それに合わさる形で走り出してしまったモリヒト達だが、林の中の魔獣は、普段とは違うほかの魔獣たちの暴走に巻き込まれる形で、ミケイルと出会わなかった魔獣たちまで、暴走に入っているのだ。

 結果として、予想外に大規模な魔獣の暴走と化している。

 今はまだ林の周辺でとどまっているが、下手に外部から刺激を加えると、魔獣の群れは、林の外へ向かって大暴走しかねない。

 それだけに、流れを下手に乱すようなことはできず、クルワは林の木々の上に上がって、群れをやり過ごすことを選んでいた。

 できるだけ急いでモリヒトを探したいところだが、居場所がつかめない。

「もう!」

 腹立ちまぎれに木の幹を殴り、枝から枝へと跳ぶ。

 とはいえ、地揺れがするほどの魔獣のうねりだ。

 安定して跳ぶには、慎重にならざるを得ず、どうしても進みは遅い。

「モリヒト!」

 呼ぶも、返事はなく。

「く・・・・・・!」

 なんとかしないと、と思うクルワだったが、不意にその時、掴まっていた気が大きく揺れた。

 魔獣の一頭が、木へと体当たりをした衝撃だ。

「っ! う、わぁ!!」

 下からの跳ね上げるような衝撃に、足が枝から外れ、下へと滑る。

「・・・・・・!」

 剣の柄を握る手に、力がこもる。


** ++ **


 林の一角が光った。

 直後に、ごう、とすさまじい勢いの火柱が上がる。

 立ち上がった火柱は、だが、すぐさま下へと落ち、そこから四方八方へと炎の波が起きる。

 それに巻き込まれて、魔獣の多くが焼き殺される。

 中心部では、火がいまだ渦巻いていて、

「!!!!」

 だが、その中央から、何かが飛び出して行った。


** ++ **


 一撃一撃をしのぐ。

「はっは! なんだその鉈! かってえ」

「うるせ」

 ハチェーテの刃を魔術で強化して、鈍器である拳と渡り合う。

 こちらは一刀で、向こうは両手だが、

「なんだそりゃ! はははは!!!」

 モリヒトがハチェーテを振るう度、そこから発生する衝撃が、ミケイルの体にダメージを与える。

 一撃ごとにその衝撃を受けて後退し、だがすぐさま飛びかかる。

 その繰り返しだ。

 モリヒトの方には、目立ったダメージはない。

 だが、ミケイルの方も、一旦後退した瞬間にすべての傷が治ってしまうため、それほど消耗があるようには見えない。

 とはいえ、ミケイルは、傷を治す都度、体力を消費しているはずで、直せる傷には限界がある。

 まして、魔力を吸収し、魔術を無力化するモリヒトの前だ。

 ミケイルを支える、超速での回復と、絶対の硬化も、その威力は落ちている。

 一見すれば、傷を多く与えているモリヒトの方が有利そうではあるが、押しているのはミケイルだ。

 一合ごとに、モリヒトの方が後ろへと下がっている。

 ハチェーテを打ち合わせる際に発する衝撃は、決してモリヒトにとってもノーダメージとはいかないからだ。

 千日手、ではない。

 ただの削り合いであり、先に体力が尽きた方が倒れる、という泥沼だった。

 そこに、遠目に二人は、立ち上る炎の柱を見た。

「あ?」

 火の色は、強く見えた。

 直後、

「ち!」

 魔獣の流れが、その火の上がった方角から押されるように変わって、二人に向かって魔獣が突っ込んできた。

 とっさに殴り飛ばしたミケイルに対して、モリヒトはその突進から逃れるため、後退した。

 二人の間を魔獣が走り抜け、

「逃がすか!」

 ミケイルが、ちょうど間に入ってきた魔獣を、モリヒトの方へと殴り飛ばした。

「くそ」

 混乱に紛れて逃げようとしていたモリヒトは、勢いよく宙を飛んでくる魔獣に対し、ハチェーテを向けて振るう。

 だが、

「おおらああ!!!」

 その魔獣を挟み込むように、ミケイルも飛びかかってきていた。

 魔獣を、上からミケイルの拳が、下からすくい上げるようにハチェーテの刃が挟み込み、

「あ」

 二つの衝撃をその身に浴びて、魔獣の体がはじけ飛んだ。

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