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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第24話:遭遇(接敵)

 ミケイルとサラの二人は、山を見上げていた。

「で、あれに登れ、と」

「そういうこと」

「行き先は?」

「地図に印、ここね」

 サラに見せられた地図を見て、それから目の前の山を見て、

「・・・・・・わからん」

「私が分かっているから」

「おう。案内任せるぜ」

 からから、とミケイルは笑っていた。


** ++ **


 ミケイルとサラは、ヴェルミオン大陸にはいられなくなった。

 さすがに、有名になり過ぎた、というところだ。

 オルクト魔帝国の敵国側へと逃れてもよかったのだが、そちらはそちらで、ミケイルには過ごしづらい環境であった。

 基本的にオルクトの脅威に対抗しつつも、小国同士でやり合っている紛争地帯でもある。

 ごたついている地域なので、身をひそめるにはいいのだが、文化水準が低いのだ。

 普通の街、と言っていいレベルの平穏さがない。

 基本的に街の酒場で過ごしていると、そこらで傭兵が、昨日はこっち、明日はあっちで戦争がある、などと話しているような地域だ。

 村々は常に、盗賊や敵国の軍隊の略奪に備えなければならないし、街だって、おおまかには変わらない。

 争いがあるから、退屈しないだろう、と思えるが、実際のところは、そうでもない。

 明日の暮らしに余裕がないから、どこもかしこも、基本的に貧しいのだ。

 おかげで、生活のレベルが低い。

 おまけに、基本的に戦いになっても、敵のレベルが低い。

 要は、普通に退屈だった。

 この辺りの具合が、実はオルクトの工作であることは分かっている。

 それくらいのことは、両方の国を行き来していれば、なんとなくわかる。

 それが全部、オルクトと他の国との国境線の護りを預かる、魔皇近衛の序列第一位の仕事であることも。

 つまり、敵国でも、オルクトの追手を警戒する必要はあって、あまり派手なことはできない。

 となれば、別の大陸に渡る他なかったのである。

 もし、モリヒトがこちらの世界に残っていれば、もう少し迷ったかもしれない。

 だが、『竜殺しの大祭』の事件で、モリヒトは行方不明になった。

 それの帰還は、おそらくは絶望的、と、ベリガル・アジンは結論を出した。

 だから、ミケイルはほぼ迷いなく、ヴェルミオン大陸を後にした。


** ++ **


 そうして、カラジオル大陸へと渡ったミケイルとサラは、傭兵のようなことをして生計を立てていた。

 カラジオル大陸は、やはりあまり戦争のない国ではある。

 ただ、この国は、ヴェルミオン大陸に比べると、魔獣が強かった。

 正確には、魔獣区域において地脈から噴出する魔力が、ウェルミオン大陸のそれより濃いのだ。

 そのためか、魔獣区域内の魔力が濃く、かつ範囲が広かった。

 おかげで、ヴェルミオン大陸に比べると、魔獣の質そのものがよく、戦うには退屈しない上、狩りのあがりも上々である。

 案外、こっちで定住する方がいいんじゃね、などと、ミケイルは思っていた。

 そんな折、二人の元に、カラジオル大陸で活動するミュグラ教団が接触を図ってきた。

 その依頼内容は、ミケイルが狩った魔獣素材の融通がほとんどで、たまに危険地帯を抜けての運送などがある程度で、違法な依頼はなかった。

 ただ、ミケイルとしても、自分の体質に合わせたいい武具を手に入れられるのはよかったし、サラの方も質のいい装備を整えられるようになり、メリットがあった。

 そんな折、お得意さまとなったミュグラ教団の幹部から、調査の依頼が来た。

 山へ登っての調査は、実は今までにも何度かあった。

 『守り手』に対するものだ。

 さすがに、『守り手』の討伐までは依頼されなかったが、一時的に『守り手』を抑えておいて、その間に依頼者が目的を達成する、などといった依頼はあった。

 今回も、その一つ。

 山の中にある、放棄したはずのアジト。

 そこで、異常があった。

 異常の調査と、可能ならそこに残されているものの回収。

 それが、ミケイル達への依頼である。


** ++ **


 ミケイルは、林の中で魔獣と戦っていた。

 別に好んで戦っているわけではなく、目的地へと向かう途中にあった林に踏み込んだ結果、絡まれた魔獣を追い払っているだけである。

 腕を振れば、魔獣の首がおかしな方向へと吹き飛ぶ。

 胴体へと叩き込めば、肉が陥没し、動かなくなる。

 ミケイルの存在は、今この林の中に限っては、間違いなく最強だった。

 だから、魔獣はミケイルから逃げる。

 ミケイルは、その中から目的地の方角へと逃げるものを追う。

 というか、向かう先が同じだから、進む、という感じだ。

 そうして、ずんずん、と林を横断していくミケイルの後を、サラが嘆息しながらついていく。

 こちらはこちらで、ミケイルの後をついていくだけだが、先を行くミケイルがどんどん蹴散らしてしまうため、割と安全な道を進んでいた。

 とはいえ、

「・・・・・・ミケイル。ちょっと先行くわ」

「あん? 何かあったかよ?」

「目的地の確認よ」

 言いながら、サラは道具袋の中から、魔獣除けの魔術具を取り出す。

「ちょっと方向がずれてるっぽいんだけど、周りがごちゃごちゃしすぎてて、方角がつかめないの」

「ああ? ・・・・・・俺のせいかよ」

「そうよ」

 はっきりと頷かれて、かはは、とミケイルはむしろおかしそうに笑った。

 言っている間にも、また魔獣を殴って殺す。

 その死体と、あちらこちらで暴れまわる魔獣と、その二つのせいで、周囲の環境がつかめなくなってしまっている、とサラは言う。

「だから、あんたはこのまま林の外を目指しなさい。私の方で、先に目的地を見つけて、合図上げるから」

「ここから出て、それが見えたら来い、ってことだな」

「そうよ」

 言うなり、サラは魔術具を起動させ、ミケイルから離れて走っていく。

 林の中を、障害物など何もないように走り、すぐにミケイルからは見えなくなった。

「やあれやれ。じゃあ俺はさっさと外へ出ねえとな」

 は、と笑いながら、ミケイルはさらに足を踏み出す。

 周りを走る魔獣の群れの流れに乗るように、だ。

 そうしていたところで、進行方向に別の魔獣の群れと交差する場所が見えてきた。

「おっと」

 そのおかげで、横合いから魔獣の突進を受け、とっさにそれをかわして、ミケイルは殴り飛ばす。

 瞬間、ミケイルの脇を何かが周り込み、その存在にミケイルは本能的な怖れを抱いた。

 迫る魔獣を殴り飛ばして、それぞれの魔獣の流れを割った間。

 そこで、振り返ったミケイルが見たのは、テュールにいた時に追いかけ、そして負けた男。

 いつの間にか、姿を消していた敵の姿だった。

「「なんでお前がここに?」」

 そして、二人の声が重なる。

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