第24話:遭遇(接敵)
ミケイルとサラの二人は、山を見上げていた。
「で、あれに登れ、と」
「そういうこと」
「行き先は?」
「地図に印、ここね」
サラに見せられた地図を見て、それから目の前の山を見て、
「・・・・・・わからん」
「私が分かっているから」
「おう。案内任せるぜ」
からから、とミケイルは笑っていた。
** ++ **
ミケイルとサラは、ヴェルミオン大陸にはいられなくなった。
さすがに、有名になり過ぎた、というところだ。
オルクト魔帝国の敵国側へと逃れてもよかったのだが、そちらはそちらで、ミケイルには過ごしづらい環境であった。
基本的にオルクトの脅威に対抗しつつも、小国同士でやり合っている紛争地帯でもある。
ごたついている地域なので、身をひそめるにはいいのだが、文化水準が低いのだ。
普通の街、と言っていいレベルの平穏さがない。
基本的に街の酒場で過ごしていると、そこらで傭兵が、昨日はこっち、明日はあっちで戦争がある、などと話しているような地域だ。
村々は常に、盗賊や敵国の軍隊の略奪に備えなければならないし、街だって、おおまかには変わらない。
争いがあるから、退屈しないだろう、と思えるが、実際のところは、そうでもない。
明日の暮らしに余裕がないから、どこもかしこも、基本的に貧しいのだ。
おかげで、生活のレベルが低い。
おまけに、基本的に戦いになっても、敵のレベルが低い。
要は、普通に退屈だった。
この辺りの具合が、実はオルクトの工作であることは分かっている。
それくらいのことは、両方の国を行き来していれば、なんとなくわかる。
それが全部、オルクトと他の国との国境線の護りを預かる、魔皇近衛の序列第一位の仕事であることも。
つまり、敵国でも、オルクトの追手を警戒する必要はあって、あまり派手なことはできない。
となれば、別の大陸に渡る他なかったのである。
もし、モリヒトがこちらの世界に残っていれば、もう少し迷ったかもしれない。
だが、『竜殺しの大祭』の事件で、モリヒトは行方不明になった。
それの帰還は、おそらくは絶望的、と、ベリガル・アジンは結論を出した。
だから、ミケイルはほぼ迷いなく、ヴェルミオン大陸を後にした。
** ++ **
そうして、カラジオル大陸へと渡ったミケイルとサラは、傭兵のようなことをして生計を立てていた。
カラジオル大陸は、やはりあまり戦争のない国ではある。
ただ、この国は、ヴェルミオン大陸に比べると、魔獣が強かった。
正確には、魔獣区域において地脈から噴出する魔力が、ウェルミオン大陸のそれより濃いのだ。
そのためか、魔獣区域内の魔力が濃く、かつ範囲が広かった。
おかげで、ヴェルミオン大陸に比べると、魔獣の質そのものがよく、戦うには退屈しない上、狩りのあがりも上々である。
案外、こっちで定住する方がいいんじゃね、などと、ミケイルは思っていた。
そんな折、二人の元に、カラジオル大陸で活動するミュグラ教団が接触を図ってきた。
その依頼内容は、ミケイルが狩った魔獣素材の融通がほとんどで、たまに危険地帯を抜けての運送などがある程度で、違法な依頼はなかった。
ただ、ミケイルとしても、自分の体質に合わせたいい武具を手に入れられるのはよかったし、サラの方も質のいい装備を整えられるようになり、メリットがあった。
そんな折、お得意さまとなったミュグラ教団の幹部から、調査の依頼が来た。
山へ登っての調査は、実は今までにも何度かあった。
『守り手』に対するものだ。
さすがに、『守り手』の討伐までは依頼されなかったが、一時的に『守り手』を抑えておいて、その間に依頼者が目的を達成する、などといった依頼はあった。
今回も、その一つ。
山の中にある、放棄したはずのアジト。
そこで、異常があった。
異常の調査と、可能ならそこに残されているものの回収。
それが、ミケイル達への依頼である。
** ++ **
ミケイルは、林の中で魔獣と戦っていた。
別に好んで戦っているわけではなく、目的地へと向かう途中にあった林に踏み込んだ結果、絡まれた魔獣を追い払っているだけである。
腕を振れば、魔獣の首がおかしな方向へと吹き飛ぶ。
胴体へと叩き込めば、肉が陥没し、動かなくなる。
ミケイルの存在は、今この林の中に限っては、間違いなく最強だった。
だから、魔獣はミケイルから逃げる。
ミケイルは、その中から目的地の方角へと逃げるものを追う。
というか、向かう先が同じだから、進む、という感じだ。
そうして、ずんずん、と林を横断していくミケイルの後を、サラが嘆息しながらついていく。
こちらはこちらで、ミケイルの後をついていくだけだが、先を行くミケイルがどんどん蹴散らしてしまうため、割と安全な道を進んでいた。
とはいえ、
「・・・・・・ミケイル。ちょっと先行くわ」
「あん? 何かあったかよ?」
「目的地の確認よ」
言いながら、サラは道具袋の中から、魔獣除けの魔術具を取り出す。
「ちょっと方向がずれてるっぽいんだけど、周りがごちゃごちゃしすぎてて、方角がつかめないの」
「ああ? ・・・・・・俺のせいかよ」
「そうよ」
はっきりと頷かれて、かはは、とミケイルはむしろおかしそうに笑った。
言っている間にも、また魔獣を殴って殺す。
その死体と、あちらこちらで暴れまわる魔獣と、その二つのせいで、周囲の環境がつかめなくなってしまっている、とサラは言う。
「だから、あんたはこのまま林の外を目指しなさい。私の方で、先に目的地を見つけて、合図上げるから」
「ここから出て、それが見えたら来い、ってことだな」
「そうよ」
言うなり、サラは魔術具を起動させ、ミケイルから離れて走っていく。
林の中を、障害物など何もないように走り、すぐにミケイルからは見えなくなった。
「やあれやれ。じゃあ俺はさっさと外へ出ねえとな」
は、と笑いながら、ミケイルはさらに足を踏み出す。
周りを走る魔獣の群れの流れに乗るように、だ。
そうしていたところで、進行方向に別の魔獣の群れと交差する場所が見えてきた。
「おっと」
そのおかげで、横合いから魔獣の突進を受け、とっさにそれをかわして、ミケイルは殴り飛ばす。
瞬間、ミケイルの脇を何かが周り込み、その存在にミケイルは本能的な怖れを抱いた。
迫る魔獣を殴り飛ばして、それぞれの魔獣の流れを割った間。
そこで、振り返ったミケイルが見たのは、テュールにいた時に追いかけ、そして負けた男。
いつの間にか、姿を消していた敵の姿だった。
「「なんでお前がここに?」」
そして、二人の声が重なる。
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