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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第20話:抜け道を抜けた先

 岩の一部が動く。

 ずず、と横に少し動き、止まった。

 しばらくして、岩が裏側からごんごん、と音がした後、

「・・・・・・・・・・・・!!」

 爆発音。

 内側から、岩が吹き飛んだ。

 そして、その内側から、のっそりと二人が出てくる。

 モリヒトとクルワだ。

「・・・・・・うーむ」

「埃だらけ・・・・・・」

 クルワがぼやく通り、二人の恰好は埃だらけだ。

 数十年閉ざされていた道だから、仕方ないことではある。

 風の通りも何もなくとも、魔力が強く流れる地脈に近い土地。

 加えて、この山は真龍の身動ぎや、『守り手』が領域へ侵入したものと戦闘する際などで、よく衝撃が発生する。

 そう言ったもののおかげで、地下にあるような施設は、軒並みダメージを受ける。

 埃というより、壁が風化して落ちた砂が、二人にまとわりついた埃である。

 それらを体から叩き落としながら、モリヒトは周囲を見回す。

「わーお。見覚えのあるようでない光景」

「どこに行ったって似たようなもんでしょ」

 クルワの方も、ぱんぱん、と体から埃を叩き落としている。

 そうしながら見回す周囲は、やはり若紫色の光景だ。

 それ以外は見えない。

 ただ、

「・・・・・・ちょっと珍しい地形だな」

「そうね。こういう光景があるっていうのは、ちょっと想定してなかったかも」

 若紫色のこの山は、山麓から山地の中央へと向かうに従って、段々に高くなっていく地形となっている。

 そして、段々の中で平らな部分は、大体水平である。

 大体、という言葉通り、ゆるやかなだけで、ある程度は麓へ向かって下る傾斜がある。

 だから、モリヒトが見慣れたこの山の風景というのは、若紫色の傾斜の強い崖、その反対には、見晴らしのいい石原、という光景である。

 だが、

「・・・・・・あっちに崖があるし、上を見れば真龍が見える。なら、あっちが山の中央部。だったら、反対側は麓側、と思うんだが・・・・・・」

「麓へ向かって、ちょっとずつ上がっていってる。・・・・・・こっちが低くて、向こうが高い」

「・・・・・・ふむ」

 おかげで、若紫色と、空の色で視界が占拠されている。

 なんだか、脳がバグりそうだ。

「・・・・・・山小屋から麓側を見た時は、遠くに海とか、緑の植物が生えてるところとか、一応はちらっと見えたもんだったけどな」

「まったく見えないね」

「む」

 なんとなく、気にかかる地形だ。

「クルワ。この辺、どこかわかるか?」

「わかんない。だって、周り見えないし」

「・・・・・・だな」

 高いところに上がらないとだめだろう。

 だから、モリヒトは麓側へと足を踏み出す。

「あっちの方が高いけど?」

「山の中央の方へ向かうと、『守り手』の領域に踏み込みかねないだろ?」

「それもそっか」

 クルワも頷いて、モリヒトの後に続く。

 少々の距離を登り切り、高いところに立って、周囲を見回す。

「・・・・・・・・・・・・この場所だけ、へこんでるのか」

「ほんとだ。なんでだろ?」

「この抜け道を隠すためだろ。こうしておけば、下から見る限りでは抜け道の場所は見えないから、誰かが出入りしたとしても見えないし」

「なるほど」

「たぶん、入り口の方も似たような仕掛けがあったんじゃないか? ただあっちは多分、『守り手』となんかやり合ったかなんかで、入り口が見えるようになってたんだろ」

 ともあれ、

「で、ここがどの辺か、ってことだな」

「んー・・・・・・」

 周囲をきょろきょろと見回し、クルワは首を傾げる。

「分かる?」

「俺に聞くな。分かるわけねーだろ」

 だよねえ、とクルワは頷いた。

 モリヒトは、最初に『守り手』にやられて怪我をした後は、クルワのあとをようようついて歩いただけ。

 その後も、怪我が治るまでは、山小屋に引きこもり。

 外に出るのだって、山小屋の近くで石掘りだ。

 それほど遠くまで離れていないし、麓までの行き来もしていない。

 その点で言うなら、クルワの方が地形には詳しい。

「そっちは?」

「とりあえず、この辺にアタシは来たことないね」

「まあ、抜け道の抜け先だからなあ。あんまり人気のない方向へ向いてたんじゃないか、とは思うけど」

 さて、と唸る。

「・・・・・・あ、でもさー」

 クルワがちょっと遠くを見た。

「あのへん、見える?」

「む?」

 クルワが指さす先は、若紫の色とは違う色がある。

「・・・・・・街?」

 モリヒトの言葉通りのものがある。

 麓にある、人の住んでいる場所、と思しき場所だ。

「あれは、見たことある」

「行ったことは?」

「ない! ただ、いつも買い出しに行ってる麓の村じゃあ、あそこに卸された石は、あの街に持っていくって話」

 クルワの話によると、クルワはいつも、一度大きく山を回り込むという。

 そうして、麓の村に下りる。

 つまり、

「・・・・・・アバントの山小屋とは、反対方向か?」

「・・・・・・見える位置的には、四分の一くらいかな?」

「まあ、進む方向は分かったか」

「そうだね。帰り道の方向は分かったと思う」

「案内してくれ」

「はいはーい」

 先導するクルワの後について、モリヒトは歩き出すのだった。


** ++ **


 ともあれ、二人は山小屋へと向かう。

 その途中で、妙なものに出くわすことになるとも知らずに。


** ++ **


「・・・・・・ははは!」

 笑いながら、撲殺の音が響く。

 重たい拳が、肉をまとった骨を打ち砕いた音だ。

 それを成した存在は、高笑いとともに、拳を広げて五指を立て、さらにもう片方の手を突っ込んで、その身体を両へと裂いた。

 噴き上がる血を浴びながらも、その存在は、次の獲物を探す。

「おらよ!」

 ぐん、としなやかに地面へと低く沈み、そこから今度は地面が陥没するほどの踏み込みをして、前へ。

 ド!、と爆ぜるような音とともに、一気に加速する。

「ふん!」

 そして、振りぬかれた拳は、その移動の軌道上にいたものを薙ぎ払う。

「・・・・・・よし! こんなもんかね」

 はあ、とため息を吐いて、ぶるぶると頭を振り、被ってしまった血しぶきを払う。

 もっとも、そんなもので落ちるものでもない。

 そこへ、投げつけられた布。

「おっと・・・・・・」

 受け止めれば、びしゃり、と水が滴る。

 濡れた布で顔を拭きながら、彼は布が投げられた方へと目をやる。

「乱暴だなあ、おい」

「うるさい。一人で無茶しちゃって」

 はあ、とため息を吐きながら、脇に抱えた桶から、さらに一枚、布を放る。

 放ったそれと交代するように投げ返された布は、血に濡れている。

 それを桶に汲んだ水につけて洗い、よく絞る。

 そして、投げた。

「おう。ありがとよ」

 最後に絞った布で拭いて、ようやく血がおおよそぬぐえた、とすっきりした表情をした男へ、腰に手を当てて、女は苦言を呈した。

「暴れすぎ。・・・・・・素材が欲しいんだから、あんまり壊すとだめじゃないの?」

「は! 俺に頼むのが、どういうことかって話だよ!」

 け、と吐き捨て、こきこきと首を鳴らす。

「こちとら、退屈を持て余してんだ。このくらいの憂さ晴らしはさせろっての」

「憂さ晴らし、ね」

 周囲、血まみれになった場を見て、はあ、と女はため息を吐いた。

「やれやれ、ね」

 いいながらも、ナイフを取り出し、辺りに散らばった魔獣から皮をはいだり、骨を回収したり、と作業をしていく。

 男の方は、女が置いた桶に入っている水を使って、身体に浴びた返り血を洗い流していた。

「こっちだと、まだまだやれることあるもんだ。俺の顔も売れてねえしな」

 ははは、と、男は笑う。

「そういえばだけど・・・・・・」

 手元の作業をしながら、女が男へ声をかけた。

「どうかしたか?」

「仕事、来てたわ」

「・・・・・・へえ」

「まだ、どっちつかずって感じだけどね」

「あん?」

「放棄したアジトに、ちょっと異変があったから、調べてきてほしいだってさ」

「なんだそりゃ?」

「詳しいことは、後で使いを送るって言ってたけど」

 女の言葉に、男は、ほーん、と気のない返事を返した。

 それから、まだ濡れていた布で、長い髪を赤く染める血をぬぐっていく。

 その下に現れるのは、白い髪だ。

 そして、その白い髪の中に混じる、青、緑、黒の色。

「ミケイル」

「なんだ? サラ」

「ちょっとは、気は晴れた?」

「・・・・・・さてな」

 ウェルミオン大陸から、カラジオル大陸へと渡った、ミュグラ・ミケイルは、最後に乾いた布で体をぬぐい、へ、と吐き捨てるように笑った。

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