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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第18話:金色杖『サラヴェラス』

 杖を手に取った瞬間。

「む」

「ん?」

 一つ唸ったことで、クルワが首を傾げた。

 杖を握った瞬間の、自分の手から感じた違和感。

 それは何か、と考える。

 手から感じたのは、何かが流れ込んでくる感触だ。

「・・・・・・クルワ。もし知ってたら教えてほしいんだが」

「うん? なーに?」

「魔術具を触った相手に、なんかする魔術具ってある?」

「そりゃあるでしょ。トラップ系の・・・・・・」

 そこまで口にして、クルワがモリヒトを見ながら一歩引いた。

「なんか仕掛けられてた?」

「たぶん」

 よ、と杖を持ち上げる。

 金色の杖は、長さの割には重い。

 三十センチほどの長さで、握るには少し太い太さだ。

 金の装飾で表面はでこぼこしているのに、どうにもとっかかりが少なく、握って振るにはすっぽ抜けそうで少々心許ない造りだ。

「・・・・・・んー。触ってみた感じだな」

 何かが、腕を伝って入ってこようとした感覚はあった。

「たぶん、これを手に入れたやつが、こう、乗っ取られる感じ?」

「・・・・・・頭大丈夫?」

「聞き方によっては、正しいのにひでえ言い方だ」

 ともあれ、

「平気」

 これに関しては、相手が悪い。

 もし、これを手にしたのが、クルワだったならば、もうちょっと焦るべきかもしれない。

 ただ、手にしたのはモリヒトだ。

 ぶっちゃけ、モリヒトの場合、魔術具を下手に触れると魔術具が壊れる。

 モリヒトの魔力吸収体質は、魔術に使われる魔力を吸収してしまう。

 それゆえ、動いている魔術具。魔力が通っている魔術に直接触れた場合、その魔術を魔力切れによって無力化してしまう。

 それでも、新たに魔力を注ぎ続けるならば、効果を発揮させることはできる。

 かつて、ミュグラ・ミケイルと接触した時、魔力吸収体質の範囲内にいながら、ミケイルの体質が完全に無力化されなかったのは、ミケイルが自前で発生させる魔力が、ミケイルの体の魔術を起動し続けていたからだ。

 モリヒトは、決して、魔術に対して無敵、というわけではない。

 ただし、こういう金色の杖のような、あらかじめ蓄えられていた分の限界のある魔力量で動くものは、ほぼ完全に無効化ができるのだ。

「・・・・・・まあ、俺の手に渡ったのが、運の尽きってことで」

「あらまあ」

 クルワが、肩をすくめた。

 実際、モリヒトの手にずしりとくるそれは、発動体としては結構な力を持っているように感じられる。

 魔力の通りはいいし、持っている分には、不足はない。

「派手なのがなあ・・・・・・」

「使い道なさそうだよね」

「あとで、皮を巻いて、紐をくくって、持ちやすくしたほうがいいか」

「それもそうだねー」

 ともあれ、発動体は二つ。

 量産品の『ハチェーテ』。

 それから、

「で? それは?」

「ん? 箱に名前書いてあるぞ」

「ええっと、金色杖『サラヴェラス』、だって」

「どれ」

 こほん、と一つ咳払い。

「―サラヴェラス―

 光よ/明りとなれ」

 詠唱を終えると、杖の先端の金剛石が光を放つ。

 眩しくはなく、周りを照らす、明るい光だ。

「おお。いい感じいい感じ」

「そう?」

「発動体自体の質がいいんだな」

 うん、と使いやすい、とモリヒトは笑う。

 ハチェーテの方は、ぶんぶん、と振り回して、

「うん。こっちはこっちで、片手で振り回すにはいいもんだ」

 丁度良く、武器に使える発動体と、魔術発動に向いた発動体を手に入れた、というわけだ。

「・・・・・・来たかいはあったか」

「よかったねえ」

 さて、とモリヒトはそこらにあったボロ布を取ると、『サラヴェラス』を適当に巻く。

 巻いた上で、持ちやすいように取ってとなるように結び目を作る。

「よし、ちょっと持ちやすくなった。小屋に戻ったら、ちゃんと作ろう」

「鞘とか、そういうのもなさそうだものね」

「ていうか、多分、手から放すことを想定されてないな。手に入れたやつは、ずっと手に入れっぱなしっていうか」

「ああ、乗っ取るんだっけ?」

 モリヒトの感覚から言うと、そうだ。

 それも、

「乗っ取るのか。・・・・・・もしくは、これを持った人間が、これを作った人間にとって、都合がいい感じに洗脳される、とか、そんな感じ?」

「洗脳かー。よく作るねー」

「もしくは、催眠術みたいなものかもしれん。まあ、正体は分からんが」

 発動前に無効化してしまったので、正体は不明だ。

「俺以外には使えんだろうしな」

「なんで?」

「魔術具としての効果は無効化してるけど、普通に握っていると、魔力を勝手に吸い込んで自動で発動する」

「・・・・・・まあ、魔術具って、魔力を流せば動くものだものね」

 モリヒトの場合は、モリヒトが魔力を吸う勢いの方が強いから、魔術具としての効果は発動していない。

 まあ、発動したとしても、効果を発揮する前にモリヒトに無効化されるだろうが。

 加えて、

「発動体としての造りがかなり丁寧だからなあ・・・・・・」

「どうしたの?」

「あくまでも、多分っていうレベルの推測だけどなあ」

 おそらく、『サラヴェラス』は、ミュグラ教団としての思想にどっぷり浸っている人間には、効果を発揮しないのではないだろうか。

「なんで?」

「『サラヴェラス』の魔術具としての効果は、おそらく発動体の効果を高めるためのものだ」

「うん?」

「要は、これを持った人間が、ミュグラ教団に従いたくなるのは、おそらくついでの副産物」

 実際には、ミュグラ教団としての思想を純粋に持たせることで、魔術のイメージをより純粋なものに変える。

 魔術は、イメージが強く、純粋であればあるほど、効果が高まる。

「狂信は、魔術の効果を高くする」

 それは、以前、モリヒトが実際に味わった効果だ。

 もし、『サラヴェラス』が同じだけの能力を持つとしたら、

「こいつを持ったミュグラ教団員は、三流の魔術師でも、一流の魔術師になるだろうな」

「それは怖い」

「まあ、俺には関係のない効果なわけだが」

 ともあれ、この『サラヴェラス』を作った人間は、ある種の発想の天才と思う。

 イメージをそこまで純粋を求める、というのも、なかなか難しいだろう。

 ただ、ミュグラ教団ならば、あってもおかしくはないか、とも思う。

 以前、モリヒトが狂信状態になったのも、結局は魔術でそうされたからだ。

「ああ、そうだ。この魔術具の効果、あれに近いものを感じるんだな・・・・・・」

 そう思うと、少々複雑なものを感じるモリヒトである。

「まあ、ここでの用は、済んだし、帰ろうか」

「そうね・・・・・・。どうする? この部屋の抜け穴探す?」

「いらんだろ」

「そう?」

「だって、ここから出たとして、そこから現在位置を把握して、小屋まで戻るんだぞ? 面倒だろ?」

「・・・・・・あー・・・・・・」

 クルワは、なるほど、と頷いた。

 入ってきた入り口からならば、帰り道は分かりやすい。

 だが、この先に抜け穴があるとして、どこに通じているかはわからない。

 現在位置の把握は困難になるだろうし、そこから帰るとなると、遅くなる。

 できれば、それは避けたい。

「目的は達した。帰ろう」

「そうね」

 二人は頷き合い、アジトの廃墟を後にするのであった。


** ++ **


 ともあれ、『サラヴェラス』は持ち出された。

 様々な仕掛けが施されたアジトの廃墟だ。

 そこで、棚に安置されていた『サラヴェラス』の箱。

 それを動かしたことで、モリヒト達が感知しなかった仕掛けが動いた。

 そのことにモリヒト達は、最後まで気づかなかった。

 もっとも、数十年前の仕掛け。

 いまさら、それが動いたところで、そこに影響を受けるものなど、どれほどあるのか、という話ではある。

 だが、

「・・・・・・ほうほう」

 おやおや、と、壁がかたりと音を立てたのを見て、頷く人がいた。

 顔を頭巾で隠したその人影は、仕掛けが動いた壁を見て、ふむふむ、と頷く。

「あんなところの仕掛けが今更ねえ・・・・・・」

 さて、と頷く。

「どうしたものでしょうか?」

 ともあれ、不気味で不吉な謀は、えてしてこうして動き出す。

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