第17話:量産品と特注品
奥まった部屋。
暗がりの廊下を抜け、一瞬、部屋が広くなる。
「・・・・・・ん。行き止まりだな」
松明が照らす先が、壁になっている。
それを見て、うむ、とモリヒトは頷いた。
「暗い」
「ああ、ちょっと待て、ここに・・・・・・」
壁を照らしていくと、何か所か壁にかける松明の名残のようなものがある。
そこに松明を近づけると、火が点いた。
「・・・・・・なんで燃え残っているのか」
「入り口を閉じたから、空気がなくなって火が消えた?」
クルワの推測に、そうだな、とモリヒトは頷いた。
「さっきの、空気の入れ替えの魔術、まだいけるか?」
「効果は、まだ持続してるかな」
「だったら大丈夫だろ」
奥まった場所だ。
火を使っていると、酸欠になりかねない。
ただ、
「ここで松明を使ってたっていうなら、空気を入れ替える仕掛けの一つや二つはありそうなものだが・・・・・・」
「あ、これじゃない?」
クルワが示したのは、天井から垂れている鎖のようなものだ。
先端に、丸い輪がついた、細い鎖である。
「あ」
見ている間に、クルワがくい、と鎖を引いてしまった。
と、
「うわ!」
ぱらぱら、と音がした。
鎖に引かれて、天井にあった蓋が開き、そこから砂かほこりが落ちてきたのだ。
真下にいたクルワは、もろにそれをかぶってしまった。
「なあにー、これ?」
「空気穴じゃないか? 風が通ってるみたいだし」
「・・・・・・うえー」
クルワは、ぺっぺ、と吐き出している。
大した量ではないにしろ、数十年分のほこりが溜まっていたのだろう。
ともあれ、
「これで風が通るなら、魔術はもういいかな」
「りょーかーい。止めるよ」
クルワが魔術で風を起こすのをやめ、モリヒトは壁にかかっている松明にすべて火をつける。
「さて、何が出るかな、と」
** ++ **
「で? クルワ。なんかあったか?」
「割と大量?」
言いながら、クルワがごとごと、と物を床に落とす。
「何があったよ?」
「普通の武器がいくらか。あと、宝石とか?」
クルワが抱えている箱から指先でつまんで、一粒の宝石を取り出す。
「お宝?」
「・・・・・・んー? どうだろ?」
宝石を覗き込んだクルワが、首を傾げる。
モリヒトも、一粒持ってみるが、
「なんかあるのか? 俺からしてみると、普通の宝石に見えるんだが・・・・・・?」
「これ、価値がない方の宝石っぽいのよ」
「何だそりゃ? 価値がない宝石って・・・・・・」
「要は、天然で採掘されたやつじゃなくて、魔術で作ったやつってこと」
む、とモリヒトは唸る。
魔術で宝石を作ることができる、というのは、理解できる。
「そういうのって、判別できるものなのか?」
「天然ものの宝石はね。地脈の魔力が宿ってる。でも、魔術で作った方はそうじゃない。この違いって、何か分かる?」
「利用できる魔力が中にあるのか」
「そう。で、天然ものの宝石は、発動体の部品に使われたりもする。・・・・・・でも、ここに入ってるのは、そういうのには使えない宝石。・・・・・・つまりは」
「ちょっと綺麗な石、ぐらいってことか?」
「そういうこと。少なくても、この部屋の壁を削っていった方が、多分、お金になるかな」
クルワの説明を聞いて、むう、とモリヒトは唸った。
なんというか、もったいない、という感じを得るのは、単純に見た目は悪くないからだ。
だが、聞けば、無価値なガラス玉と同じ。
「ともあれ、俺が欲しいものとは違うってことな」
「ほしいのは、何かしらの発動体だものね」
クルワは、さらにがさがさと探す。
一番奥のこの部屋は、どうやら武器庫か何かであったらしい。
あるいは、儀式に使う何かを保存しておいたか。
「・・・・・・もしかして、ここ抜け道あるか?」
「あってもおかしくないかも。ここが、アジトが襲われた時の逃げ道だったとしても、おかしくないし」
入り口は、『守り手』の領域の中だ。
逃げ道、とするには不安があるだろう。
この辺りは、クルワの言う通りなら、『守り手』の領域の外だ。
逃げ道、とするならこちらのはずだ。
「となると、いざというときのための物資かね? これは」
「この宝石が? お金の価値ないのに?」
「もしかしたら、そんな宝石を、きちんとした宝石にする手段を研究していたのかもしれんぞ?」
「えー? 無駄じゃない? これだけのアジト作れるなら、石売った方が早いし」
「そうだな・・・・・・」
うーん、と考えて、
「もしかしたら、その宝石を使って、発動体を作ろうとした、とか?」
「・・・・・・んー?」
まあ、そういう想像をしたところで、正解は不明だ。
「で? 他には何もなさそうか?」
「そっちはどうなの? 結構有望そうな宝箱」
「入ってたのは布っていうか、服ばっかだな」
モリヒトが調べていた箱には、ミュグラ教団のものと思しき服が大量に入っていただけだった。
一応全部出してみたが、服以外に入っていたものはない。
「武器の中に、発動体が混じっていたりは?」
「見つけたのは、ただの武器ばっかり。・・・・・・質もそれなりだから、正直あんまり価値なし」
「そうか」
とはいえ、まだ調べる場所は残っている。
「あとは、あの棚」
「なんていうか、見るからになんかありそうだから、後回しにしたんだけどなあ・・・・・・」
おどろおどろしい装飾が施された箱が、どん、と置いてあるのだ。
「他にも入ってるものあるんだし、そっちから見たら?」
「そうな」
明らかに他と違う装飾のものは、できれば触りたくない。
「それに、ここまで来て最後まで開けないってのもないでしょ。全部開けてかないと」
「うーむ。やだなあ」
言いつつも、モリヒトは、まずは普通の箱を開けた。
「・・・・・・お?」
「うん?」
中身には、
「鉈、かな?」
「あ、当たり」
「お?」
「ハチェーテっていう、量産品の発動体」
「おお!」
よっしゃ、とモリヒトは喜ぶ。
先端に重心の寄った、鉈の形状の発動体。
長さとしては、五十センチほど、と短いが、その分扱いやすい。
軽く振り回し、うむ、と頷く。
「武器としてはともかく、発動体として使えるならよし」
「性能はそんな高くないけどね。どっちかというと作業用だし」
本来は、魔術を加えて作業効率を高めるために使うらしい。
そのためか、魔術の適性は、武器部分の硬度を上げたり、重量を増したり、といった鉱物の強化方面に向いているらしい。
「ないよりまし!」
「それは分からなくもないけどねえ」
とりあえず、無駄足にならなかったのはよし、とモリヒトはテンション高く頷く。
鞘も一緒に箱に入っていたから、取り出して、さっそく腰に吊るす。
「うむ。よし」
「うれしそーねー」
「今までの心許なさを考えれば、なんとありがたいかってことだよ!」
ははは、と笑う。
「じゃ、そのテンションのまま、残りの箱行ってみよー!」
「・・・・・・・・・・・・えー」
あからさまにテンションの落ちたモリヒトを見て、クルワは苦笑する。
「もう目的果たしたし、帰りませんか?」
「だめ。もったいない」
「くっそぅ・・・・・・」
ぶちぶちと不満を漏らしつつ、モリヒトは箱に手をかけた。
** ++ **
箱の蓋を開け、モリヒトは顔をしかめた。
箱は、その中に赤い布を敷き詰められていて、見るからに豪奢な造りとなっていた。
その中央に納められていたのは、一本の短い杖だ。
金の装飾が全体に施されている。
杖の先端には、ダイヤモンドのような透明な宝石。
逆端には、紅い宝石がはめられている。
ただ見ると、芸術性の高い、豪奢な杖、という感じだが。
「なんだろう。金色で綺麗に装飾されている、というのに、その金色が不気味だ」
「分かる。なんか、趣味が悪い?」
「ああ、それ」
全体的に、どうにも雰囲気が悪い。
センスも何も悪くないはずなのに、やたらと不気味な雰囲気が漂っている。
「・・・・・・見なかったことにして帰らないか?」
「えー?」
「だって、手に取ったら呪われそうじゃないか」
「言いたいことはわかるけどね」
ともあれ、
「むう、仕方ないか」
モリヒトは、杖を手に取った。
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