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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第15話:悪いやつはどこにでもいる

 廃墟となったアジトを探索する。

 ふと思った。

「あれ? こんな荒れようで、果たして俺の目的のものはあるのか?」

「あるかもって話でしょ。・・・・・・まあ、残り一か所だけど」

 探索の結果、中にはほぼ何もなかった。

 倉庫らしい場所にも、がらがらの棚が残っているだけだった。

「紙一枚残ってないってのも、妙なもんだ」

「そうだねー。逃げ出した、にしては綺麗すぎ」

「ま、最後のあれを開ければ、分かるだろう」

 二人の目は、頑丈そうな扉に向く。

「焼く?」

「やめとけ。下手なことして、俺らが酸欠にでもなったらどうする」

 壊れかけのアジトとはいえ、入り口以外には、外へつながる場所は内容だった。

 見えない通風孔ぐらいはあるかもしれないが、すでに埋まっている可能性もある。

 空気は、埃っぽい、というか、古っぽいし、風が流れているようには思えない。

 下手に火を使おうものなら、酸欠の危険がある。

「つうか、開かないかね?」

 重たそうなもので叩いて壊す、というのも考えたら、よく考えたら普通に開ければいい。

 取っ手はちゃんとあるわけだし、と手をかけて引いてみる。

「んー。開かん」

「鍵でもかかってるのかな?」

「・・・・・・いや、どっちかっていうと、なんか引っかかってるか、建付けが悪くなってるか」

「古い場所だからねえ。ゆがんだとか?」

 ありそうだな、と言いながら、上と下を見る。

「下が、埋まってる」

 砂が積もっているように見える。

 軽く掘ってどけてみたが、

「んー、だめか」

 鍵がかかっているような引っかかり方ではなく、ぴくりとも動かない、という感じだ。

「・・・・・・引き戸とか?」

「そんなありきたりな・・・・・・」

 いや、まさかな、と思いながらも、横に引いてみる。

 びくともしない。

 ちょっとほっとした。

「・・・・・・うん。ありきたりな仕組みじゃないな」

「あれー?」

 クルワと二人、しばらく悩んで、

「よし、ぶっ壊すか」

「結局それかよ」


** ++ **


 とりあえず、廃墟の中から、扉を破るのに使えそうなものを集めてみた。

 重たい机とか、椅子とか、石とか。

「どうせ誰も使ってないんだしさー」

 扉は、木造のようだから、とりあえず硬くて重いものをぶん投げてぶち当てていけば、いずれ壊れるだろう、という考えを持っている。

 言いながら、とりあえず、机を投げつけてみる。

「・・・・・・んー、ちょっと傷入ったか」

「頑丈ね。この扉」

 扉の表面が、軽くへこんだ程度の傷がついた。

 とはいえ、まだまだ足りていない。

「生む。もう一回。あそーれ!」

 持ち上げ、ぶんぶん、と振り回して、投げつける。

 轟音とともに、扉が揺れた。

「お、今度はいったか?」

「ちょっといい音」

 覗き込む。

 机はバラバラになっていたが、扉の方は、と言えば、

「・・・・・・あ、これ見ろこれ」

 扉の表面が砕け、ぱらぱらと落ちた。

「ん? ・・・・・・これ、石?」

 モリヒトが、そこに開いた穴に指を突っ込み、ひっかけて引っ張ると、さらにぱりぱりと木が剥がれる。

「扉の表面を木でコーティングしてるけど、これ、石の扉だぞ」

「・・・・・・面倒なことしてるわー」 

 内側にあるのは、若紫色の石。

 この山で取れる石だろう。

 それを板状に加工し、扉として設置。

 さらに、その表面を木で覆ってカモフラージュしている。

「・・・・・・なんでこんなことをしたんだか」

 扉とするだけなら、石の扉だけで十分なはずだ。

 若紫色の石の方が、木よりも圧倒的に硬いのだ。

「カモフラージュじゃないの?」

 クルワは首を傾げるが、モリヒトは首を振る。

「誰に対して?」

「ん・・・・・・」

 ここは、アジトの一番奥だ。

 例えば、侵入者に対してこの扉の存在を気付かせないなら、木の扉の覆いこそ邪魔だ。

 このアジトは、山の中に掘られて作られている。

 当然、壁は全部若紫色の石なのだ。

 扉もその石で作ったなら、そのままにしておいた方が目立たない。

 では、誰か。

「・・・・・・むしろ、目立たせるために、木の扉をつけた、か?」

「どういうこと?」

「この奥が、こう、魔術の儀式とかで重要な場所で、扉は閉じておかないといけないとする。だが、扉を石のままにしておくと、目立たない。ここにそういう場所があるってことを分からせるために、あえて木の表面を設置したって可能性」

「なるほど」

 ともあれ、

「火で焼かなくてよかったな。さすがに、石まで焼き切る威力だと、俺が熱で死ぬ」

 術者であるクルワはともかく、モリヒトの方は石から跳ね返った熱で焼け死ぬだろう。

 うんうん、と頷くモリヒトは、

「どれ、これを破るか」

「いいの? モリヒトの推測通りなら、この奥ってやばいんじゃ」

「おいおい。俺の何の根拠もない妄想を本気で信じるのか? ぶっちゃけ、扉を目立たせた理由はそれほど外れてないと思うけど、今更この奥にヤバイものがあると思わん」

 とにかく、開けてみよう、とモリヒトは石の剣を抜いた。

「・・・・・・それでどうするの?」

「・・・・・・ちょっと、そこらへんを調べ直すか」

「ん?」

「この石の扉、押すなりなんなりで開けるには、ちょっと重いだろ。多分、開けるための仕掛けかなんかあるんじゃないか?」

「ほほう・・・・・・?」

 モリヒトの推測に、クルワは面白そう、と声を挙げた。


** ++ **


 周囲を調べた結果。

「この本棚の後ろ」

 あからさまなボタンがある。

「本が入ってた時は、分からなかっただろうに」

 背板のない本棚のため、壁際に置かれた本棚の奥には、その壁が見える。

 だが、そのボタンのある壁には、上の段の板を折って見えなくなるように隠されていた。

「誰かが、隠したって感じだな」

「押す? 押しちゃう?」

「・・・・・・押したいのか?」

「うん」

 クルワに、押してもらうことにした。

「よし、押しまーす」

 ぐい、とクルワがボタンを押す。

「・・・・・・・・・・・・?」

「・・・・・・・・・・・・?」

 しばらく、何も起こらず、

「お」

 ごご、と音がした。

 扉の方を見ると、

「あ、ちょっと隙間空いてる」

 クルワの言う通り、壁と扉との間で、少しばかり隙間が空いている。

「でも、止まったな」

「どういう仕掛けだろ・・・・・・」

「魔力かなんかで動く仕掛けかね? 魔力を流してみたら?」

「・・・・・・だめ、変わらない」

 クルワが首を振ったのを見て、うん、とモリヒトは唸る。

「じゃ、あとは力仕事だな」

 空いた隙間に指を引っかけ、思い切り引っ張っていく。

 しばらく、そうして力をかけていったところで、少しずつ、動く感触が伝わってくる。

 それは、確実に隙間が広がっていく。

「お? 開くかも」

 クルワが、空いた隙間に手を入れて、さらに扉を押した。

 二人が力を合わせた結果、なんとか扉は開いた。

「・・・・・・一苦労だな。これは」

 なんとか通れる程度の隙間が空いたところで、モリヒトは息を吐いた。

「ほら。行きましょ」

 クルワの誘いに頷き、モリヒトは、隙間の中へと体を滑り込ませた。


** ++ **


「・・・・・・・・・・・・やれやれ」

 奥に入って、中を見る。

 それは、あまり広くはない部屋だった。

 丸い部屋の形。

 でこぼことした壁。

 掘り進んだ先の突き当り、という感じだ。

 窓などはなく、閉じ込められた部屋。

 だが、明るい。

 明りなどはないのに、だ。

「壁が、光ってる?」

「壁に、明りの魔術具がかかってる。おそらく地脈から流れる魔力で勝手に起動するようになっているんだろう」

 ともあれ、注目するべきは、部屋の中央だ。

「・・・・・・死んでるね。あの人」

「見りゃ分かる」

 白骨化した死体がある。

「たぶん、こいつがアジトの中のものを片付けたんだろう。見ろ、部屋の隅に、何か燃やした後がある」

「あら」

 おそらくは、ここにあった機密資料か何かだろう。

「で、こいつは」

「それで酸欠になって死んだんじゃねえの?」

 モリヒトにとって気になるのは、部屋の状況や死体ではない。

 その死体が纏っている、衣服の方だ。

 その意匠には、少々見覚えがある。

「・・・・・・あり得る話かもしれんが、別の大陸に来てまで、こいつら何をしてるんだか・・・・・・」

 その衣服の意匠は、かつて、テュールの地下の石堂で相対した、ミュグラ教団の主教、ジュマガラが着ていたものと、同様のものであった。

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