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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第6話:訓練

 モリヒトは、ぶん、ぶん、と棒きれを振り回している。

 山小屋でリハビリを兼ねて金稼ぎをする、と決めた後、どうするかと考えている時に、クルワから提案があったことだ。

 クルワは、以前モリヒトがメインで使っていた発動体が双剣であるレッドジャックであったことを知り、鍛えることを提案してきたのだ。

 何かしら体を動かすことは必要だ、といのと、どうせならちょっとでも使い慣れている方がいい、ということ。

 加えて、双剣ならば、クルワも教えられる、ということだ。

「はいはい、右だけで五十回素振りしたら、次は左だけで五十回」

 ぱんぱん、と手を打つクルワの拍子に合わせて、モリヒトは剣に見立てた棒を振る。

 その速度は、既に風を切る音が聞こえるくらいだ。

「右手と左手を同時に振らないように気をつけて。それぞれを個別に振る」

 いろいろな振り方をしながら、互いの手を同時に動かさないようにしながら、棒を振っていく。

「双剣だからって、二つの剣を同時に使う、とは考えないように」

「同時に使うものじゃないのか?」

「違う。個別に使う」

 クルワは首を振った。

 自分の剣を抜いて、両手に構えた。

 右の剣で斬りかかり、振り終わったところで次は左を振る。

 左を振り終わるかどうかというところで、右を振る。

 あとは、その繰り返しだ。

 それぞれの剣の振り終わりに近いところで、次の剣が振るわれる。

 そうして、切れ目なく剣が振るわれていく。

 それが早くなっていくと、両方の剣がほぼ休みなく動いているように見える。

「分かる? 早くすれば早くするほど、両方同時に振るっているように見えるけれど、実際には、交互に振ってるの」

 クルワは、動きを止めた。

「同時に両手を制御しようとするのは、相当器用じゃないと、ちょっと無理がある。だから、右と左を素早く切り替えていくのね」

「クルワは上手だなあ」

「あのね」

 腰に手を当て、クルワは呆れの息を吐いた。

「モリヒトは、ちょっと適当にやりすぎ。きちんと振る」

 うん? とモリヒトが首を傾げると、クルワは右、左、と剣を振った。

「双剣は、手数が多いけれど、片手で振る分、一回一回の攻撃が軽くなる」

 だから、それぞれの腕で個別にしっかりと振るための訓練をする。

「大事なのは、振るイメージを強く持つこと」

「イメージ?」

「モリヒト。結構魔力があるでしょ?」

「ああ、まあ」

 自分で使える魔力量、というなら、条件次第では無限、ともいえるのがモリヒトだ。

 クルワの思うところとは違うと思うが、魔力量、という点ではそう変わらない。

「そういう人って、自分の動きをちゃんとイメージしてると、無意識での魔術もどきが発動して、一撃の威力が高くなるの」

 へえ、とモリヒトは唸る。

 魔術というのは、かなり自由でむちゃくちゃ、という認識はある。

 イメージ次第で、なんでもできるそれは、身体の動きにだって、当然適用される。

「魔力量の多い人にとって、イメージっていうのは、本当に大事。イメージをしっかりとできていれば、ありとあらゆる動きが強化されるの。・・・・・・ちゃんとイメージして」

「はいはい」

 右だけで振る。

 左だけで振る。

 そういうことを繰り返す。

「あとは、足さばき」

「足」

「そう。手数っていうのは、厄介なの」

 クルワは、右手を構えて、振った。

「力を入れて剣を振るには、足さばきがすごい重要。ちゃんと踏みしめてないと、力が乗らないから」

 だから、きちんとした足さばきで、姿勢を綺麗に保たないといけない。

「一個ずつ順番ね」

「はいよー」

 ともあれ、モリヒトは、クルワに言われるままに訓練をしていた。


** ++ **


 骨が折れたり、寝込んだりして、結構なまった、と思っていたが、

「割と戻って来たか?」

 体の調子には、もう違和感がほとんどない。

 ひきつるような感触は多少あるが、痛みはだいぶ和らいできているし、体が疲れる感覚もだいぶ薄れてきている。

「あー・・・・・・」

 自分の体の調子を確かめるモリヒトに、クルハは、うーん、と唸った。

「正直、気分の違いでしかないと思うよ?」

「なんと?」

 クルワの言葉に、モリヒトは疑問を浮かべる。

「ええっとね・・・・・・」

 んー、とクルワは言葉を選ぶ。

 それから、両手を広げて、

「この辺は、真龍がいる場所に近いから、当然空間中の魔力もかなり濃いワケ」

「おう。それは分かる」

「そういう場所で怪我を治すとね。怪我の治りは確かに速い」

「うん」

「ただ、筋肉とかはなまりやすいの」

「・・・・・・なんで?」

 治ってきて、身体の動きもしっかりとしてきている。

 十分に思った通りの動きができるようになってきているし。

「・・・・・・と」

 そこまで考えたところで、モリヒトは止まった。

 そうか、と思いつく。

「イメージを魔力で補強するから、前の動きに合わせて魔力で強化しちゃうのか」

「そう。・・・・・・魔力の強い魔獣が美味しくないのと同じ理屈。魔力が強いと、イメージに増強されちゃうせいで、体への負荷が小さくなって、鍛えられなくなっちゃうってワケ」

 肩をすくめるクルワに、モリヒトはなるほど、と頷いた。

「つまり、魔力で体を強化しないようにしながら鍛えないと、下手すると逆に体がなまる、と」

「そういうこと。気をつけなさい」

 なるほどなー、とモリヒトは唸った。

「・・・・・・むう」

 少し、目を閉じる。

 周囲にまとわりつくように存在する魔力を感じとる。

「・・・・・・ああ、なるほど」

 あえて、押さえていた魔力吸収能力を開く。

 この能力では、真龍の魔力は吸えなくなるから、

「うえ、きっつ・・・・・・」

 膝から崩れた。

 だいぶ、弱っていたらしい。

「あらら。魔力抑えたら、そうなっちゃうか」

「あー、これはきつい・・・・・・」

「筋トレにも、まあ、魔力使えないこともないけど、それをやるなら、コツがいるわよ?」

「・・・・・・んー。まあ、何とかしてみる」

「できるの?」

「たぶん」

 魔力を戻して、モリヒトは頷く。

 ともあれ、まずは怪我を治してから、だろう。


** ++ **


「ほっほっほ、難しい訓練をしておるのう」

「む。爺さん」

 いつの間にか、アバントが来ていた。

「戻ってたのか」

「うむ」

 数日前、一度麓まで戻ると言って、石の入った籠を持って山を下りたが、どうやら戻って来たらしい。

「ちょうどよい。こいつを使うとええ」

 そう言って、アバントは腕輪を渡して来る。

「うん? 何これ」

「訓練用の腕輪じゃの」

「訓練?」

 はめてみよ、と言われたから、はめる。

 瞬間、ずしん、と手足に重みがかかった。

「ぬ・・・・・・」

 ふんばらないと、足が崩れそうだ。

「それは、魔術具よ。装着者の魔力を使って、身体全体に重みを与えるものでのう」

「・・・・・・ぬ」

 立っているだけでも、かなりきつい。

「訓練する時は、それをつけることじゃ。効率があがるぞ?」

「おお。・・・・・・いいのか? もらっても」

「構わぬよ。儂が自分で作った安物よ」

「爺さん。魔術具作れるのか」

「一応の」

 うむ、と頷いたアバントに礼を言い、モリヒトは腕輪をはめたまま走り出す。

「・・・・・・・・・・・・きっつい」

 五分ほど走ったところで、息が切れた。

「なさけな」

 容赦のないクルワの物言いに、言い返す気力も浮かばない。

「なんていうか、マジきつい」

「はいはい。がんばりなさいなー」

「へいへい」

 クルワの声援を受けながら、しばらく山の上を走ってみるのであった。


** ++ **


 夜の山は、静かである。

 一時は、真龍が動いて、多少の騒ぎにはなったが、今は静かだ。

 その山中。

 のっそりと動き出す、巨大な影がある。

 ぐう、と頭を持ち上げ、巨大な口を開き、鋭い牙を見せつける。

 それから、ずしんずしん、と歩き出した。

 影は夜の闇の中へと消えていき、しばらくして闇の中から何かが引き千切られる音が聞こえるのであった。

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