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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第6章:山水の廓
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第5話:回復と、今後の方針

「・・・・・・んおーーーー」

 伸びをする。

 山小屋の外の空気を吸い、とんとん、と地面を蹴る。

 体を曲げ伸ばしし、肩を回し、首を回し、腰をひねって、前後ろ、とねじる。

「・・・・・・ふむ」

 時折、ぴりっとした痛みが走るものの、我慢できないほどでもないし、立っていてつらい、というほどでもない。

 だいぶ、よくなった、と言える。

「そのくらい動けるならば、とりあえず下りるには問題ないであろうの」

 山小屋から出てきたアバントが、準備体操の動きで体をほぐすモリヒトを見て、そう言った。

 そろそろ寝台から出て動いてみよ、と言ったのも、アバントである。

 その言葉通りに、外に出て、いくらか体を動かしてみた。

 アバントの言う通りだな、とモリヒトも感じている。

 この状態で戦闘までするのは、少々不安がある。

 だが、歩いて動くだけならば、問題はなさそうだ。

「あとは、装備じゃの」

「む」

 現在のモリヒトは、普通の服と靴だけである。

 山登りに適した服装、とは言い難い。

「まあ、その辺はおいおいだな」

 うん、と頷き、ぴょんぴょん、と跳んでみる。

 それからしばらく、山小屋の周りで体を動かしてみるのであった。


** ++ **


 ひょい、ひょい、とクルワは山肌を跳んでいる。

 魔術を使って身を軽くして、とったった、と走っているのだ。

 見る人が見れば、それがかなり高い技術によってなされているのが分かるだろう。

 魔術で無理なく身体能力を強化するだけではない。

 身体強化は、強化後の体を自在に操るだけの能力も必要だ。

 その二つを高いレベルで持ち合わせていないと、身軽な動き、というのは難しい。

 それをこなすクルワが、高い技量を持っているのは明らかだ。

 ひょい、と跳躍したクルワは、眼下を走る魔獣を見つけた。

 小さい獣だ。

 若紫色の体毛を持つ、ウサギである。

 剣を抜き、下りる勢いで、

「よ」

 とん、と投げ放った剣が、そのままウサギの首を貫き、縫い留める。

 近くに着地して、首を切り裂いて血抜きをするとともに、持っていた紐で足を縛って、頭を下にして吊るす。

 ぽたぽたと血が垂れているが、それをそのまま抱えたまま、クルワは歩いて、山小屋へ到着した。

「買い出しから帰ってきたよー」

「おう。お帰り」

 山小屋前で体を動かしていたモリヒトが、クルワを出迎える。

「動けるようになったんだ?」

「おう。このくらいならな」

 ふうん、と頷き、クルワは山小屋の端にウサギを吊るす。

 それから、背負っていた荷物を置いた。

「じゃあ、ちょうどよかったじゃん」

 クルワが、そう言いながら革袋から取り出すのは、男性用の服などである。

 山登りに向いた、厚手の服や、足裏に溝の深い靴などだ。

 それ以外にも手袋や革製の背負い袋など、いろいろである。

「・・・・・・おお。金かかったろ?」

「別に? 上り下りの途中で狩った魔獣とか換金できるし。なんだったら、アバント爺さんの石を売るお金とかもあるし」

「・・・・・・今更だけど、よかったのか? じいさん」

 モリヒトがアバントを見るが、アバントはクルワから受け取ったお金を数えている。

「構わんよ? 儂は見ての通りの足腰での、正直、持って帰ることのできる石の量には限りがある。クルワが毎度ある程度の量を持って帰って換金してくれとるおかげで、今回の稼ぎは、通常の倍以上じゃ。その中から、主らの装備を買う金を出しても、ちっとも痛くないぞ? なにせ、それでも儲かっておる」

 そうなると、

「俺が、一方的にクルワに借りがある、と」

「ふふん。いつか返してよ」

「はいはい。絶対返すさ」

 ともあれ、クルワが手に入れてきた装備に袖を通す。

 サイズは、多少緩いものの、服の各所にあるベルトを絞れば、大体ピッタリになる。

 これは、服の構造としては多いものだ。

 テュールでよく着ていたものに比べると、多少タイトな造りになっている。

 多少引っ張られる感じはあるが、動きづらい、ということもない。

 着た状態で、いくらか動いて、各所のベルトを調整する。

「・・・・・・服と靴、手袋ね。・・・・・・どう?」

「問題なし。動けるしな」

 ふむ、と唸りながら、身体をひねる。

 とはいえ、

「武器はなし、と」

「この辺の魔獣を相手にできるような武器ってなると、それなりにね」

 山に生きる魔獣は、真龍からの豊富な魔力を受けているため、普通の魔獣より強い。

 それに対して有効な武器、となると、それ相応の品質が必要だ。

 発動体、とまでなれば、なおさらだ。

 基本的に、発動体は高価である。

 そこまで手を出してしまえば、さすがに石や魔獣を売る程度では足りないという。

「むう。それはきつい。・・・・・・俺、どっちかというと魔術系だからなあ。発動体がないと、ロクに戦力にならんぞ・・・・・・」

「ついでに言えば、寝てた分体が鈍ってるだろうから、そのリハビリもいるでしょうね」

「む」

 しばらく、モリヒトは考えて、アバントに向き直る。

「爺さん」

「む? なんじゃ?」

「俺、この山小屋をしばらく借りてもいいかな?」

 モリヒトの提案を聞いて、アバントはふむ、と首を傾げた。

「儂は構わぬが、お主、早めに行きたい場所があるのではなかったかの?」

「いや、俺もできればそうしたいんだけどねえ」

 はあ、とため息を吐いた。

 思い出すのは、この世界の旅行事情だ。

 同じ大陸の中なら、それほど難しいものではない。

 だが、別大陸、となると、そうもいかない。

 海に生息する生物は、怪獣と呼んで差し支えない大きさがあるという。

 船での移動は、かなり難しい。

 そもそも、大陸間を移動している船、というもの自体、ほとんどない。

「俺が行きたいのは、別の大陸なんだよ。ただ、どう行くにしても、武器も何もなしってのは、ちょっと心許ない」

「で、あろうの」

「だから、武器は用意したいんだよね。発動体」

 だが、それを買うとなると、かなりの金がかかる。

「今、下に下りたところで、俺が発動体を買えるまでの金を稼ぐってのは、ちょいときつい」

 ある程度回復したとはいえ、まだまだ本調子ではない。

 どう行くにせよ、安全なルート、というのはなさそうだし、ちゃんと万全にしないといけない。

 そのためには、元手がいる。

「ここで、いろいろやって金稼いでからにする方が、いろいろ万全そう」

「そういうことかの」

 うむ、とアバントは頷いた。

「構わぬよ。もともと、この山小屋は誰の所有物でもない。使う者が整備すればよいものじゃ」

 聞けば、この山には、こういう山小屋が何か所かにあるらしい。

 こちら側の山小屋は、危険度が高いために使う者は少ないが、反対側の山小屋はよく利用者がいるという。

 綺麗に使い、使った後掃除するなら、誰が使ってもいいのだそうだ。

 ともあれ、

「そういうことなら、遠慮なく」

「あら、そうするんだ?」

「ああ、急がば回れってなもんよ。今下に下りるより、しばらくここで準備を整えた方がいい」

 今、モリヒトは魔力吸収能力を意図的に抑えている。

 おかげで、周囲の濃い真龍の魔力を吸収することができている。

 その方が、傷の治りが早くなるし、体調もよくなるからだ。

「そういうことであれば、儂も少々協力してやろうかの」

「いいのか?」

「構わぬよ。儂も、お主らのおかげで、ずいぶんと儲かっておるからのう」

 ほっほっほ、とアバントは笑った。

 二人の様子を見て、クルワも、ふふ、と笑う。

「いいわね。アタシも付き合うわ」

「うん? いいのか?」

「いいのよ。アタシは、特に今は目的がないし」

 それに、とクルワが続ける。

「ここまで関わって、途中で放っていくのも、気分が悪いし」

「そうか。・・・・・・ありがとう」

「いいのよ。出世払いで」

「はいはい」

 モリヒトは、苦笑するのだった。

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