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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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閑話:花火

 テュール異王国の名物の一つに、花火がある。

 空にひゅーとあがって、どかんとはじけるやつだ。

 一応言っておくと、似たようなものは、どの国にもある。

 テュール発祥ではあるのだが、どの国でも似たようなものは作られている。

 ただ、基本的にそれは魔術で代用される。

 要は、火薬を利用した、一切の魔術を使わない物理的な花火、というと、テュール異王国ぐらいでしか使われない。

 軍事面でなら、まだ火薬は使い道も多い。

 だが、それ以外の場面では、安全性と利便性から、魔術の方が使いやすいのだ。

 だからか、そもそも火薬の需要自体が少ないため、火薬の生産量は少ない。

 結果として、楽しみに火薬を使う、ということも少なくなり、魔術でやる方が多いのだ。

 だから、

「おお」

 どん、と夜空に上がった花火を見て、モリヒトは感嘆の声を上げる。

 前祭の間、花火が打ちあがる、ということは聞いていた。

 『竜殺しの大祭』の後祭の終わりにも打ち上げられるらしいが、その時に打ち上げられるのは、魔術の花火も半々だという。

「・・・・・・火薬の花火ねえ。・・・・・・違うの?」

「そうですね。前祭で打ち上げられたあれをお手本に、後祭でどれだけ似た花火を打ち上げられるか、という競技会もありますので。はい」

 ルイホウから説明を受けて、ふんふん、とモリヒトは頷く。

 単純に、祭の賑やかしのためにあげている、というわけでもないらしい。

 ともあれ、一発ごとに、王都の夜空に大輪の花が咲く。

「・・・・・・大したものだ。・・・・・・ていうか、火薬とかどうやって作ってるんだ?」

「ほとんど、伝統工芸の範囲です。かつての異王の中に、火薬の作り方を知っている方がいたらしく、そこから製法が伝わったということです。はい」

 その異王は、当初は魔獣討伐のために作ろうとしたらしい。

 だが、最終的に魔術の方がよほど有用、ということが分かって、花火に使うくらいになったという。

「魔術の利便性が高すぎる」

 魔力さえあれば、イメージだけで使える、というのが、汎用性が高すぎるのだ。

 割と当たり前の話だが、魔術による作業、というのは、本当に便利なのだ。

 例えば、鉱山での採掘などで、とても固い岩盤に当たったとする。

 火薬を使っての発破の場合は、安全性に精一杯気を使った上、坑道の崩落などにも注意しつつ、爆発させる。

 だが、その爆発の衝撃で怪我をすることは考えられるし、破片や粉じんによる怪我や病気の可能性も上がる。

 これに対して、魔術を使った場合、その岩盤が崩れるところさえイメージできれば、爆発もなにも必要ない。

 上級者ともなれば、硬い岩盤を運びやすい大きさのブロックに変えて切り出し、さらには坑道の強度補強まで行ってしまう。

 そういうのが、魔術師一人いれば、余計な荷物もなくできてしまうのが、この世界だ。

 結果として、火薬を使う、ということ自体が、需要が少ないのである。

「ただ、魔術で爆発させるイメージを掴む際には、重宝されます。おかげで、魔術師には、多少の需要はありますね。はい」

 なるほど、と思う。

 どん、と夜空にまた花火が開く。

「・・・・・・あれも、魔術の訓練?」

「伝統工芸です。はい」

 かつての異王への敬意を示す、ということらしい。

 ふうん、と頷き、モリヒトは窓の外を見つつ、グラスの中の酒をすする。

「・・・・・・祭ってのは、いいねえ」

 『竜殺しの大祭』は、決して見かけだけではない、重要な儀式だ。

 それでも、祭として、国民は楽しんでいる。

 そのことは、とても良いことなのだろう。

「この国は、平和で、悪く言えば退屈です。・・・・・・歴代の異王の方々も、自分の退屈を紛らわせるのに、ずいぶんと熱心だったようですよ? はい」

「うーわ。暇人の国か。ここ」

「基本的に、王を含めて、政府の仕事が少ないですから。はい」

 戦争はない。

 それほど大きな問題も発生しない。

 そうなってくると、日々の仕事は、ほぼルーティンだ。

 それに飽きてくる、というのは、どの異王でも共通していたらしい。

「この国の最初の花火職人は、異王様であったらしいですし。はい」

「何やってんだか・・・・・・」

「というか、この国発祥の文化があったら、それは大概異王陛下が持ち込んだものです。はい」

「・・・・・・ほんと、何をやってんだか」


** ++ **


 ふと、街中を歩いていた時に、筒を荷車に載せて運んでいる一団を見つけた。

「花火師か」

「そうですね。あれは、これから今夜の打ち上げ場所に運ぶ荷車でしょう。はい」

 ルイホウが、こくり、と頷いた。

「・・・・・・ふむ」

 モリヒトがふらふら、と近づいていこうとして、くい、と袖を引かれる。

「モリヒト様? どこに行こうとしておられますか? はい」

「いや、ちょっと興味が・・・・・・」

「モリヒト様。こんなことは言いたくありませんが、モリヒト様は不幸体質、と自覚しておられますね? はい」

「・・・・・・はい」

 確かに、と思う。

 魔力吸収体質由来、と分かってきたものの、モリヒトの不幸体質は解消はされていない。

 歩いていれば、何か降ってくるとか、何か飛んでくれば、狙ったようにモリヒトのところに飛んでくるとか、そういうのは起こりうる。

「ああ、そうだね」

 くく、と隣を歩いていたクリシャが笑った。

「目に見えるようだ。列に突っ込むモリヒト。飛び散る火薬。そして爆発。・・・・・・大炎上」

「さすがにそこまではいかん」

 というか、それは不幸関係なくただのドジである。

 どちらかと言えば、

「俺が近づいた表紙に突然荷車の車輪が外れて、荷台に乗った花火が転がりだし、その中の一つが俺の近くで突然着火して・・・・・・」

 どかん、と、口にする。

「俺の不幸だったら、こういう感じだ」

「いや、自慢げに言うことではないよ?」

「だとしても、自分から危険地帯に突っ込むのはやめてください。はい」

 ルイホウの疲れたような口調に、ははは、とモリヒトは笑う。

「まあまあ」

「一応、この辺りにいる間は、モリヒト様の周囲は私が守っているんですから。はい」

「おお。それはありがとう」

 とモリヒトが頭を下げたところで、足元にころころと転がってきたものがある。

 それは球形で、真ん中に線が入っている。

 おそらくは、半球状の器を組み合わせたのだろう。

「・・・・・・おや」

 ひょい、と拾い上げる。

 結構な重さがある。

「・・・・・・・・・・・・モリヒト君?」

「いや待て。俺は何もしていない」

「・・・・・・こうなるんですねえ。怖いものです。はい」

 はあ、とため息を吐いて、ルイホウがモリヒトの手からそれを取り上げた。

「返してきます。はい」

「ああ、うん。俺はここから離れるわ」

「そうした方がよさそだね。うん」

 クリシャと二人、そっとその場を後にするのだった。


** ++ **


 その夜、空に、どん、と花火が上がる。

「・・・・・・あの中のどれかが、ルイホウが手に持って運んだやつなのだろうか」

「私は関係ありませんよ。はい」

「なんだ? 何かあったか?」

 対面に座るセイヴに聞かれたので、昼間のことを話しておく。

「ふむ。まあ、大したことがなくてよかったな」

「おや、セイヴにしては大人しい言葉だな」

「ふん。火薬を使った魔術の訓練は、わが国でもよくやる。それで手指を吹っ飛ばす、というのも、まあ、よくある光景でな」

 治癒の魔術があるから、それほど大きな問題になることは少ないそうだが、事故そのものは恐ろしい。

「それで、爆発系の魔術が使えなくなる魔術師も多いからな」

「なるほど」

 それは大変だ、と思ったところで、

「おや?」

 外を眺めていると、一発の花火が妙な軌道を描いている。

「うん?」

 くねくね、っと曲がったと思ったら、次に打ちあがった花火の近くで爆発し、

「お?」

 その爆発に押されたのか、一発の花火が城の方に飛んできた。

「おいおい・・・・・・」

 こっち来るんじゃ、と思ったモリヒトだったが、結局は王都を囲む壁の上空当たりで、何かに当たって爆発した。

「王都の結界ですね。はい」

「おお・・・・・・」

 花火が当たったところから、波のように光が伝い、結界の反対側へと抜けていく。

 その光景は、なかなかに幻想的だった。

 王都の民も、今のを見上げて、歓声が上がっている。

「ま、ちょっと変わった花火かね?」

「今のも、お前の不幸体質か?」

「・・・・・・そうだとは、思いたくないな」

 モリヒトは苦笑して、酒杯を煽った。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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