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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第43話:祭の後

 『竜殺しの大祭』は完了した。

 その知らせとともに、『竜殺しの大祭』のために移動していた、新女王を含めた一群が帰還したのは、『竜殺しの大祭』の翌日のことであった

 知らせは、先行してもたらされたものの、今回の儀式はイレギュラーが多すぎた。

 その影響を調査するため、また、出現する魔獣の対処に追われていた、随行した騎士達の疲労や消耗などを鑑みて、一日を休んだ後、帰還する、ということになったのだ。

 そして、王都正門から、その一団が列をなして入ってくる。

 先頭は、テュール異王国の騎士達だ。

 それに先導される形で、国軍の兵士が続く。

 そして、巫女衆を乗せた馬車が入り、

「お、来た!」

 民衆から声が上がった。

 一際豪奢は馬車が、進んでくる。

 テュール異王国の国章を付け、豪華に飾られたそれは、『竜殺しの大祭』のため、王都から出ていったそれと同じもの。

 すなわち、新たなる異王の乗る馬車である。

 ゆっくりと大通りを進む一団に、歓声が降り注ぐ。

 花びらがまかれ、歌と音楽が奏でられた。

 新たなる異王の凱旋は、こうして、盛大に迎えられるのであった


** ++ **


「・・・・・・・・・・・・」

 外の賑わいに反して、馬車の中の空気は重い。

 ユキオは、難しい顔で黙り込んでいた。

 その隣に座るアヤカは、心配そうな顔で、ユキオの手を握っている。

「・・・・・・頭を切り替えろ」

 そして、対面にはセイヴが座っていた。

「何をですか?」

「今、お前にはやることがある。そして、問題の対応には、専門家がいる。お前がするべきは、任せるべき人間に役目を任せ、自分の役目を果たすことだ」

 にらむようなユキオの視線に、セイヴは感情を乗せない声で、諭すように言う。

「・・・・・・今回の件、どういうことだと思いますか?」

 ユキオが思い出すのは、『竜殺し』を放ち、『竜』が消えた直後のことだ。


** ++ **


「モリヒト様が、いない?」

 呆然とした、いつもの語尾すら消えるほどの驚きを、ルイホウが受けていた。

「・・・・・・それは、どういうことですか? はい」

 数度の深呼吸の後、ルイホウは、問いを発した。

 答えたのは、セイヴだ。

「言葉通りだ。『竜殺し』が放たれ、『竜』が消えた直後、モリヒトも消えた」

 セイヴの顔もかなり険しい。

「消えた瞬間を見ていた者はいない。ただ、『竜殺し』が放たれる前に、その射線となる場所からは俺様が引き離している」

 放り投げた後、ごろごろと転がってはいたが、見失うほど遠くには投げていない。

 セイヴは、モリヒトが立ち上がって、無事な姿を見せるのを確認している。

「・・・・・・では」

「可能性としては、『竜殺し』の衝撃で吹き飛んで、儀式場の外に飛ばされた可能性」

 これが一番あり得そうではある。

 衝撃はそれなりにあったし、モリヒトには魔力吸収体質がある。

 あれは、魔力を周囲から吸収する体質ではあるが、その他に周囲の魔力の影響を受けやすくなる副作用がある。

 儀式場には、界境域に開いた穴に流れ込む魔力の作用で風が吹いていたが、モリヒト個人に対しては、風以上に強い力がかかっていたように思う。

 おそらくは、穴へと流れ込む魔力を吸収しようとして、その流れに引き込まれかけていたのだろう。

 ならば、『竜殺し』によってはじけた魔力に、吹き飛ばされることは十分に考えられる。

「周囲へ捜索を出せ。『竜殺しの大祭』が完了したとはいえ、あれだけの規模の異変だ。魔獣なりなんなりが生まれていてもおかしくない」

 セイヴは近寄ってきていた帝国兵へ向かって指示を飛ばす。

 それを受け、ユキオも近くにいた者たちへと指示を飛ばす。

「・・・・・・ルイホウ君」

 それらを呆然と聞いていたルイホウは、クリシャに袖を引かれて、はっとした。

「あ・・・・・・」

「モリヒト君を探すなら、君が一番上手だよ?」

 そう言われて、ルイホウは、杖を抱えた。

「大丈夫かい? 魔力量は・・・・・・」

「大丈夫です。まだ、探すくらいなら、あります。はい」

 ルイホウは、杖を構え、魔術の詠唱を開始する。


「―サロウヘイヴ・メイデン―

 水よ/波紋をなせ」


 それは、簡易の探知魔術だ。

 周囲にあるものを簡易的に探すだけで、本来ならさほど精度の高いものではない。

 だが、モリヒトを探すには便利だ。

 魔力を薄く広く広げるこの魔術は、モリヒトの周囲に差し掛かるとモリヒトの体質に魔術を構成する魔力を軒並み吸収される。

 結果として、反応の全くない地点が分かる。

 それがあれば、そこにモリヒトはいる。

 だが、

「・・・・・・もう一度やります。はい」

 ルイホウは、杖を構えた。


「―サロウヘイヴ・メイデン―

 水よ/波紋をなせ/広く/広く」


 今度は、さらに範囲を広げて魔術を行使した。

 先ほどのものは、儀式場の周辺まで。

 今度のものは、岬のほぼ全域を覆う。

「・・・・・・・・・・・・」

 目を閉じ、魔術の反応に集中するルイホウだが、その顔がしかめられた。

 血の気が引き、唇が引き結ばれた。

 その表情から、結果を推測できたのだろう。

 クリシャの顔がしかめられる。

「ルイホウ君・・・・・・」

「・・・・・・もう一度、行います。はい」

「やめなさい」

 再度、魔術を行使しようとしたルイホウを無理やり止めるため、クリシャがその腕から杖を奪った。

「あ・・・・・・」

 杖を取られるのに合わせて腕を引かれ、反射的に取り戻そうとして、ルイホウが膝から崩れ落ちる。

「魔力消費と回復に伴う体力の消耗。・・・・・・完全に体力切れだ。これ以上は命に関わる」

 ルイホウの杖を持ったまま、クリシャはルイホウへと告げた。

「ですが、モリヒト様がいません! 探さないといけません!! はい」

「今の魔術、範囲はどこまで広げたの?」

「・・・・・・ここを中心に、海辺までは・・・・・・。はい」

 ルイホウの言葉を聞いたクリシャは腕を組んだ。

「じゃあ、残りの範囲は、それこそ海の中だね?」

「!」

 クリシャの確認に、ルイホウは顔をうつむかせる。

「分かってるはずだよ? 海の中に、探知魔術は届かない。海全体に含まれる魔力が、魔術を阻害するからね」

 だから、海に人が落ちると、その捜索は困難を極める。

「・・・・・・海にいるかもしれないなら、それはもう探す頭数を増やすほかないな。・・・・・・飛空艇も出そう。捜索範囲が広がる」

 セイヴがそう言って、周囲の人間たちに指示を出しに向かう。

「・・・・・・ルイホウ君。ボクたちは戻ろうか。・・・・・・まず、どうするにせよ。消耗した今の状態じゃあ、何もできない」

 クリシャが、地面に座り込んで立ち上がれないルイホウの前にかがみ込み、視線を合わせて、優しい口調でそう言う。

 それに対し、ルイホウは、

「・・・・・・」

 弱弱しく頷くのであった。


** ++ **


 飛空艇を捜索に出したため、セイヴはユキオの馬車に同乗して戻ってきた。

 他、来賓となっていた者や非戦闘員などは馬車で戻り、代わりに行きに乗っていた兵士などは現地に残って周囲の捜索に当たっている。

「・・・・・・ルイホウ。大丈夫かしら?」

 ユキオが漏らした声に、セイヴはふむ、と一つ唸る。

「お前はどうなんだ?」

「え?」

 ユキオは、自分に向けられた問いに、きょとん、とした顔を返す。

「いや、お前の方は、モリヒトが行方不明になっていることについて、問題はないのか?」

「どうして?」

「モリヒトがいなくなったのは、お前が『竜殺し』を放った直後だ。あいつの特異な体質を考えると、あの流れに巻き込まれた可能性はないとは言えん」

「え・・・・・・?」

 セイヴの言葉に、ユキオは呆然とした顔をした。

「・・・・・・私が、モリヒトを?」

「お前が、とは言わん。そもそも、そういう危険性があることを見越して、モリヒトは儀式場に近づかないようにしていたしな」

 儀式を乱す危険性だけでなく、『竜殺しの大祭』という大規模に魔力を扱う儀式そのものが、モリヒトに影響を与える可能性はあった。

 そういうところは、事前にモリヒトに警告されていたからこそ、モリヒトは儀式には出向かない、という結論を出していたのだ。

「・・・・・・でも、私のせいで・・・・・・?」

「重ねて言うが、お前のせいではない。誰がやっても今回の可能性はあったし、そもそもあの時のあの場は不安定に過ぎた。・・・・・・モリヒトでなくとも、誰かが行方不明になっていた可能性は否定できない」

 ユキオの顔色が悪くなっていくのを見て、さすがにセイヴはフォローを入れる。

 『竜に呑まれる』という現象がある。

 地脈の魔力の流れに、人間が飲まれてしまう現象だ。

「過去に一度、モリヒトはそれに近い状態になっている。今回も、同じことになった、と見るのはおかしい話ではない」

 むしろ、モリヒトにその現象が引き寄せられた結果、他の人間は無事だった、という可能性もあった。

「・・・・・・ともあれ、心の隅には置いておけ。モリヒトは見つからない可能性の方が高い」

「そんな・・・・・・」

「事実だ。そして、お前にはこれから役目がある。・・・・・・まずそれを果たせ」

「・・・・・・ひどい言い草ね」

「何とでも言え。今回のこれは想定外の事態が多すぎた。その辺りを含めて、事後処理を正確に終わらせないと、混乱が長引くことになるぞ」

「・・・・・・・・・・・・」

 セイヴの忠告を受け、ユキオは顔を上げた。

 まだ、血の気の引いた白い顔ではあるが、

「分かったわ。・・・・・・もう、決めていることだもの」

「ならばいい。こちらでできる手助けはできる限りする。・・・・・・オルクトとしても、テュールには穏やかでいてもらいたいのでな」

 セイヴは、ふん、と鼻を鳴らすと、外の声に耳を澄ませる。

「そろそろ城に着く。準備が済んだら、即位式だ」

「・・・・・・」

 セイヴの言葉に、ユキオは覚悟を決めて頷いた。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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