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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第42話:竜殺し・完遂

「おや?」

 モリヒトの体が傾いた。

 溜めていた魔力を全て解放し、『竜』へと送り込んだ。

 おかげで、最初に出現したものほどではないにしても、『竜』はかなりの大きさとなっている。

 そこはいい。

 多少の大きさに育ったおかげで、『竜殺しの大祭』自体の儀式が再稼働し、『竜』自体が周囲の魔力を回収し始めている。

 儀式場のある岬の先端に『竜』がいるおかげで、魔力が流れていくことは変わらないが、その収束先は『竜』へと変わった。

 穴へと流れ込む魔力は失われ、穴自体の縮小が始まっている。

 そこまでは、モリヒトの知覚で確認できる。

 ところが、モリヒトの体から力が抜けていく。

「・・・・・・むう」

 体力切れだ。

「ああ、お前体力切れか! アホめ!!」

 セイヴに怒鳴られた。

 既に『竜殺し』の輝きは強い。

 いつでも撃てる。

 だからこそ、急ぎで退避する必要がある。

「ええい!!」

 セイヴは手を伸ばし、モリヒトの襟首をつかむ。

 そのまま、地面を強く蹴って、跳んだ。

「ぐえ」

 襟首を引っ張られたモリヒトがうめきを上げるが、セイヴは構わずに跳ぶ。

 身体強化で肉体能力をかなり強化しての跳躍は、それなりに勢いを持っていたが、モリヒトの方もアートリアを呼び出しての身体強化状態だ。

 なんとか耐えられる。

 ぶん投げられ、地面を転がっていくモリヒト。

「いいぞ! やれ!!」

 そんなモリヒトから視線を外し、セイヴはユキオ達の方へと叫んだ。

 その叫びを聞いて、ユキオは頷く。

「ユエル!」

「行けます!」

 ユキオは、『竜殺しの剣』を振り上げる。

 ユエルの詠唱が響き、その『剣』は輝きを増した。

 そして、ユキオは裂帛の気合を叫びに乗せる。

「いけぇっ!!」

 『竜殺しの剣』が振り下ろされた。


** ++ **


 王都では、二度目の『竜』の出現に、ざわついていた。

 それは、例年の『竜殺しの大祭』では、起こり得なかったことだ。

 一度目の出現よりも小さいそれではあるが、それでも王都からはしっかりと観測できていた。

 一度目の『竜』の出現が、妙に長時間続いたことが、民衆に不安を与えていたのは事実だ。

 その『竜』が出現してから以降、儀式場方面で爆音がいくつか響いたこともある。

 小規模な揺れが断続的に発生し、王都全体が鳴動していた。

 王都で暮らす感覚の鋭いものなどは、地脈を流れる魔力の感覚の変化をなんとなくでも感じ取って、不安を感じてもいた。

 そんな中で、一度は『竜』が消えて、喝さいが上がった。

 光ではなく、銀の炎が噴き上がったという、例年との違いはあったが、『竜』が消えたことは間違いない。

 『竜殺しの大祭』は終わったのだ、と誰もが思った。

 だが、それからしばらくして、風が『竜殺しの大祭』の儀式場方向へと強く流れていった。

 それからしばらくして、再度の『竜』の出現である。

 そして、それは、より強く輝く光によって、消し飛ばされた。

 今度こそ終わったのだ、と、王都は湧いた。


** ++ **


「ふむ。終わったようだ」

 ベリガルが遠方を見て、そう言った。

 立ち上がった二匹目の『竜』は、光に飲まれて消えていった。

「へえ、終わったのか・・・・・・」

 その言葉を聞いて、ミケイルはぽつん、とつぶやいた。

「うむ。計測も正常値に戻っているな」

 ベリガルは、手元の計器を見ながら言う。

 儀式場近辺に大量に設置された計測用魔術具を利用した計測結果は、ベリガルの手元に余すところなく届いている。

 いくらかは、儀式中に破壊されたようだが、それ以上に用意された大量の魔術具によって、計測はしっかりできていたらしい。

 それらを見ながら、儀式の流れをベリガルは解析を始めていた。

「ミケイル? 大丈夫かしら?」

 サラに覗き込まれて、ミケイルは問題ない、と首を振った。

 実際、身体の調子はいい。

 モリヒトから離れ、魔力はもう回復したし、肉体の調子も回復した。

 せいぜいで、さんざっぱら切り刻まれた痛みがあり、重い負傷と何度も重ねた休息な回復によって、肉体の感覚にちょっと違和感を感じる程度だ。

「・・・・・・しかし、これからどうするかね?」

 ミケイルは、ぼやいた。

 目的だったモリヒトとの戦闘も、あれは明らかに負けだろう。

 見逃されたか、あるいは生きたか。

 どちらにせよ、準備をしないと勝てそうにない。

「ふむ? なんだったら、私の仕事を手伝うかね?」

 その言葉に、ミケイルはしばし考えた。

 やることがないなら、そういう手伝いもいいだろう。

 手伝い、とはいうが、ベリガルならば報酬をけちることはないだろう。

「・・・・・・いや、ちょっとやめとく」

 だが、ミケイルは首を横に振った。

「ほう?」

 ミケイルの返答に、ベリガルは眉を片方上げ、ミケイルを見た。

「ちょっと鍛え直す。・・・・・・少し、闘い方が雑になってたかもな」

「そうかね?」

「少なくとも、モリヒトにいいようにやられまくったのは、単純に俺が身体能力任せに戦ったからだ。ちょっと、技とか磨き直したいな」

「ふむ。・・・・・・負けたことによる、一過性の精神変調だと思うが、分かった」

 言外に、負けて動揺した結果の気の迷いだ、と言われているようだが、ミケイルは、ふん、と唸った。

「そうだな。では、今回仕事を手伝ってもらった分の駄賃くらいは払っておこう」

「あん?」

 ベリガルは、サラに指示を出す。

 サラは、指示通り、倉庫から木箱を持って戻ってきた。

 開けたまえ、と手ぶりで示されて、ミケイルはその木箱を開けた。

 その中には、おがくずを緩衝材にして、武具が入っている。

 ミケリウの、手甲と脚甲だ。

「・・・・・・持って行きたまえ。今回君に持たせていたものより、おそらく安定性は高い」

「マジか・・・・・・」

 取り出し、矯めつ眇めつ、としているミケイルに、ベリガルは告げる。

「材質としての硬さはそれの方が上だが、魔術による硬化や修復の性能は劣る。あと、魔力のため込みもな。おかげで、武具としての安定性は上だがな」

「なんでまた」

「今回の件で君に渡していたものは、魔力吸収体質を持つモリヒトとの戦闘を想定したものだ。だが、あんな体質の持ち主がそうそういないし、武具として考えるなら、あれだけの性能は過剰だ」

 確かに、と唸る。

 そもそも、あの武具は、周囲に地脈から漏れた魔力があふれている、という環境が前提にあった。

 あの装備の性能を完全に発揮させるのは、ミケイル個人の魔力量では限界がある、とベリガルは言う。

「だから、君の魔力量でも、性能を発揮できる程度に、魔術の効果を落としている」

「なるほど」

 さっそく手甲と脚甲を取り付けたミケイルは、ぶんぶん、と手足を振り回す。

「ま、もらっとくぜ」

「そうか」

 そう言い置いて、ミケイルはサラを伴い、ベリガルの研究室を出て行った。

 それを見送り、ベリガルは、ふむ、と唸る。

 手元にあるのは、計測結果である。

「・・・・・・ふむ、まあ、これは別に伝える必要はないか」


** ++ **


「・・・・・・終わったか」

「まさか、二度も『竜殺し』が行われるとは」

 黒とクルムは、遠く、テュールの方を見て、『竜殺しの大祭』の終わりを知る。

「界境域に開いた穴も閉じたようだ。正当に『竜殺しの大祭』を終えた時の状態だな」

 終わった、と黒は言う。

 黒の知覚でも、地脈の流れは正常となっている。

 多少、穴へと魔力が流れたこともあって、少々、大陸のオルクト側の魔力が薄くなっているようにも見えるが、一ヶ月もしないうちにいい状態に戻るだろう。

「・・・・・・しかし、なるほど、こうなったか」

「?」

 黒の感知した結果に対する呟きを聞いて、クルムは首を傾げた。

「気にしなくてもいい」

 黒はそう言って、自らのねぐらとなる洞へと戻っていった。


** ++ **


「・・・・・・・・・・・・」

 ふう、とルイホウは深く深く息を吐いた。

 『竜殺しの大祭』は終わった。

 周囲の地脈の状態を魔術的に探査していく。

 それによって、地脈の状態が綺麗な状態に戻ったことを悟る。

「・・・・・・問題ない、ですね。はい」

 終わった、と息を吐く。

 正直、イレギュラーなことだらけで、とても気疲れをした。

 周囲の無事な巫女衆に指示を出し、儀式場の状態を整えていくように伝えていく。

「・・・・・・ルイホウ」

「巫女長。はい」

 ライリンに声をかけられ、ルイホウはライリンの方へと向き直る。

「どうしましたか? はい」

「今回は、来てくれて良い結果となりました」

「・・・・・・どうでしょう? 正直、今回の結果は想定外の事態が多すぎました。はい」

「それはそうですが、貴女が来てくれたおかげで、どうにかなったようなものです」

「・・・・・・過分です。ユエルが頑張ったおかげです。はい」

「ええ。そうですね。思っていたよりも頑張ってくれました。あとでほめておかないと」

「そうですね。・・・・・・私は、モリヒト様のところへ行きます。はい」

「ええ。けが人の収容などもありますが、そちらはこちらで指揮を執ります。貴女は、貴女のいるべきところに」

「はい」

 ルイホウは頷き、ルイホウは儀式場へと向かった。

「・・・・・・あ」

 その入り口付近で、ユキオとユエルがいた。

 ユエルは魔力を使い果たしたか、気を失っている。

 ユキオの方も相当に消耗しているのだろう。

 アトリに支えられてようやく立っている。

「陛下。お疲れ様でした。はい」

 ルイホウが頭を下げると、ユキオは、少々困った顔をした。

「・・・・・・どうか、なされましたか? はい」

 その顔を見て、ルイホウは首を傾げる。

「いえ・・・・・・。その」

 何か、言いたそうで、何かを言いあぐねている。

 そんな状態のユキオの後ろから、セイヴが姿を現した。

 隣に、アートリアのリズを連れた状態だ。

「・・・・・・む。ルイホウか」

 セイヴもまた、どこか戸惑った顔をしている。

「・・・・・・あの、何か・・・・・・? はい」

 ルイホウは、それらの仕草に、わずかな不安を感じつつ、問いかけた。

「・・・・・・ルイホウ。落ち着いて聞いて」

 そして、ユキオが口を開く。

「何か、ありましたか? はい」

 そう問いかけながらも、ルイホウは不安を感じている。

 今、この場にいない者について、だ。


「・・・・・・モリヒトがね、いないの・・・・・・」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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