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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第37話:竜玉

 ルイホウは、詠唱を重ねていく。

 ユエルによって、ユキオとは縁がつながった。

 守護者たちによって、縁は強化されている。

 これで、ユキオを引っ張りだすための必要な要素は揃っている。

 ユエルとの相乗効果でひたすらに高まっていく魔力の圧。

 さらには、周囲に漂う魔力もあって、魔力操作はかなり繊細だ。

 必死な集中で、視界が暗くなるようだ。

 大きく息を吸い直して、詠唱をさらに重ねる。

「・・・・・・捉えました」

 ユエルが、ぽつりと口にした。

 目を合わせ、頷く。

 行きますよ、と口にはしないままに、ルイホウは召還の詠唱を続けていく。


** ++ **


 ユキオは、自らに触れるものの感触に気づいた。

 全身がゆるい水の中にいるような感触の中、それでもその感触は、弱弱しくユキオに触れる。

 ぼんやりと開いた目。

 そこに見える光の糸がある。

 ぼんやりとしたままに、その糸を掴む。

 のばした左手に、わずかに光る数珠がある。


** ++ **


 状況の変化は、唐突であった。

 『竜』の喉元、とも見える場所で、唐突に光が弾けた。

「・・・・・・なんだ!?」

 セイヴの疑問に、モリヒトはにや、と笑う。

「うまくいったんだろうさ」

「・・・・・・・・・・・・」

 一瞬、その言葉にセイヴの攻め手が緩む。

 うまくいった、ということは、ルイホウの召還が成功した、ということだ。

 背後を振り返ったモリヒトの視界に、『竜』の喉元で光が見える。

「あれか」

 セイヴから感じる圧力が揺らぐ。

 セイヴとしても、これでユキオが助かるなら、それでいいのだ。

 その光へと、伸びる糸がある。

 糸がぴんと張った。

「・・・・・・おうおう。セイヴよ。俺の目に、なんか魔術っぽいのが見えるんだけど」

「奇遇だな。俺様にも見える。・・・・・・召還の糸か。これだけの魔力環境だと、それも可視化されるか」

 セイヴは、どこか感嘆とした声を漏らす。

 ともあれ、

「ここまで来て、邪魔するとか言うなよ?」

 モリヒトが言えば、セイヴは顔をしかめた。

「この状況でそんなことを言うか」

 とはいえ、剣は納めない。

 モリヒトは、ぐ、とにらみ据える。

 視界の中、糸がぴんと張られて、『竜』の喉元から何かが引きずり出されてくる。

「・・・・・・竜玉、とでも名付けるかね?」

「ふざけている場合か。・・・・・・なんだあれは?」

 それは、光の玉だ。

 人が一人入るには十分な大きさのものである。

「ユキオのアートリアだな。あれは、所有者に身体強化って言われていたが、能力はユキオの防御だな」

「ほう?」

「というか、やはりあれか」

「何がだ?」

「何でもないさ」

 それよりも、モリヒトは構える。

「セイヴ!」

「む!?」

 呼びかけとともに、モリヒトは『流域』を操作する。

 水景の『流域』は、モリヒトの手元へと一気に収束していく。

 そして、その足元で、今までにないサイズの蓮の花のつぼみが育っていく。

「なるほど! こうくるか!!」

 セイヴが、モリヒトの収束に合わせ、自らも燎原の火を自らの剣へと収束させた。

 剣に宿った焔が一気にその勢いを増す。

 二人が準備を終えた時だ。

 ずるん、とユキオを内包する光の玉が抜け落ちる。

 それと同時に『竜』が動いた。

 糸に引かれて動く玉を、『竜』が大口を開けて飲み込む動きを見せる。

「ここまで引っ張って、今更それはねえだろうよ」

 広がったのは、蓮の花。

 巨大に咲いた蓮の花が、その『竜』の口を塞ぎ、

「ここまで邪魔された。うっぷん晴らしをさせてもらう!」

 セイヴが振りぬいた大剣から放たれた炎が、『竜』の頭を打ち上げる。

 その間に、玉が糸に引かれたまま、儀式場の外へと運ばれていった。

「おうし!」

 ぐ、とガッツポーズを決めるモリヒトに、セイヴが呆れた目を向ける。

「で? ここからどうする?」

「ユキオが戻ってこれるかどうか、だな」

「あの状態からか?」

「タマが守ってたんだ。ユキオの体に影響はないだろう」

 収束させた水景の『流域』は、再展開は難しい。

 単純に、それだけの体力がモリヒトに残っていない。

 そして、それはセイヴの方にも同じことが言えた。

「俺様の方も、ここから『竜殺し』をやるだけの溜めは、少々きついな」

「魔力はあるぞ?」

 モリヒトが、足元から蓮の花を拾い上げる。

「・・・・・・だめだな」

 首を振ったセイヴが、大剣を一閃。

 背後から寄っていた魔獣が斬られる。

「あっちの仕掛けも体力切れか」

 魔獣の出現を抑えていたのは、ベリガルの魔術だ。

「仕掛けではないな。・・・・・・核、竜玉か。あれが抜けたせいで『竜』の構成が不安定になっている」

 そのために、『竜』が急速に『瘤』へと変わりつつある。

 ベリガルの抑えるよりも、『竜』が魔獣を生成する速度の方が早くなっているのだ。

 セイヴは、大剣で周囲の魔獣を薙ぎ払う。

「・・・・・・この状況で、『竜殺し』を成すだけの魔力集中は、さすがに無理だ」

 万全なら、できるんだがな、とにらむセイヴに、モリヒトは、苦笑を返す。

「俺の『流域』をもう一度広げる。・・・・・・それで、魔獣の出現は抑えられるはずだ」

「・・・・・・大丈夫か?」

「体力切れで、倒れる前にケリをつけてもらうしかないな」

 欲を言えば、ユキオの復活を待って、再度の『竜殺し』をしたいところだが、

「これ以上は、さすがにもたない」

「そういうことだ。・・・・・・まったく、こんな限界ぎりぎりまで引っ張りやがって」

 悪態をつきながらも、精神集中の構えを取るセイヴに、モリヒトは笑い返す。

「は! おかげで、最上の結果ってやつだろ?」

 同じように、モリヒトも精神を集中させていく。


** ++ **


「来ました! はい」

 ルイホウが顔を上げる。

 光の玉が、守護者である、アトリ、アヤカ、ナツアキを頂点とする三角形の中心に降りてくる。

 地面に着地した直後、その玉がほどけて、

「ユキオ!」

「姉さま!!」

 ユキオが現れた。

 アトリに抱き起され、アヤカが覗き込む中で、ユキオは穏やかに寝息を立てている。

「はあ! はあ、はあ・・・・・・」

 糸が切れたように崩れ落ち、ユエルが荒く呼吸を繰り返す。

 ルイホウもまた、滝のように流れる汗を煩わしいと感じながら、息を整える。

「ユキオ様を起こしてください。可能ならば、再度の『竜殺し』を行います。はい」

「・・・・・・できるの?」

「ユエル、できますね? はい」

「・・・・・・できる、と思います。その、先輩が助けてくれるなら」

 ルイホウの問いかけは厳しくても、ユエルは荒い呼吸のまま、だがしっかりと頷いた。

「でも、先輩、あれは・・・・・・」

「ユエル。疑問は全部後です。今はとにかく、ユキオ様を起こして、準備を整えてください。はい」

 ユエルが問いたいことを、ルイホウは自覚している。

 だが、すべては後だ。

 ルイホウは、儀式場へと振り返った。

「私は、先に儀式場に向かいます。はい」

 もしかすると、ユキオが間に合わず、セイヴが『竜殺し』を成すかもしれない。

 その場合でも、ルイホウが儀式場にいれば、いくらかは余波を防ぐこともできる。

 それに、儀式場にいるはずのモリヒトのことも気がかりだ。

「頼みます。はい」

 ルイホウは、走り出した。


** ++ **


「・・・・・・これ以上は無理だな。抑えきれん」

 ベリガルは、地面についていた左腕を離し、立ち上がる。

 かいた汗でじっとりと濡れた額を、袖でぬぐう。

「ち!」

 舌打ち一つ。

 クリシャが放った魔術が、周囲の魔獣を吹き飛ばす。

「状況が変わったね」

「おそらく『竜』が『瘤』に変わろうとしている。儀式はもう破綻寸前だ。『竜殺し』を完遂しないと、ここに集まった魔力はすべて魔獣に変わるぞ」

「まったく!」

 杖を一振り、二振り、とする都度、周囲で魔獣が吹き飛ばされる。

「・・・・・・で? 君はどうする気だい?」

「ここまでだ。私は逃げる」

「・・・・・・そう」

「止めないのかね?」

「そんな余裕ないよ!!」

 魔獣の群れの中へと飛び込んで、クリシャは魔獣を吹き飛ばす。

「今すぐ吹っ飛ばして、魔獣の餌にしないだけ、ありがたいと思ってもらいたいね!!」

「そうか。ならば、感謝しよう」

 慇懃無礼に礼をした後、ベリガルはその場から消えた。

「・・・・・・まったく!」

 クリシャは、周囲から迫る魔獣を見据える。

 つい先ほどまで、ベリガルを守ると同時に、非戦闘員の避難経路も守っていたが、もう非戦闘員はいない。

 この場を守る理由もなく、では、やるべきことは、と言えば、

「このまま放っておくと、王都の方に流れるんだろう? この魔獣は」

 だったら、やることは決まっている。

「もう少し、がんばるしかないね!!」

 クリシャは、杖を振り上げた。


評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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