表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
197/436

第33話:救出と召還

 モリヒトは、前へと踏み込んだ。

 地脈と魔力を接続しているおかげで、ある程度戦えるのは幸いだ。

 今までのモリヒトだったら、剣を振りかぶるセイヴの下へと突撃したところで、間に合う前に振り下ろされて終わりである。

 だが今なら、

「?! ちっ!」

 瞬きする間に間合いを詰められ、セイヴは舌打ちをする。

 そのセイヴに向かって、剣を振る。

 狙いは、剣の振り下ろしの妨害だ。

 いまだ、セイヴの剣には銀の炎が宿っている。

 思い切り振って魔術として撃たれれば、それだけで『竜殺し』になりかねない。

「モリヒト!」

 名前を呼ばれても、モリヒトは返せない。

 振り下ろすのはやめ、近くまで来たモリヒトを狙うのに切り替えたセイヴは、大剣を振るってモリヒトの迎撃に動いた。

 周囲の魔力は、モリヒトの味方をする。

 モリヒトが高速で動くイメージをするだけで、それに応じて周囲の魔力がそれを補助してくれる。

 通常なら、無詠唱で魔術を放ちつつ、高速で縦横無尽に動くことのできるモリヒトに対応できる存在はいないだろう。

 それに対し、セイヴはさすがだった。

 銀の炎の宿った大剣を一振りすれば、周囲の魔術がまとめて銀の灰に変わる。

 それは、魔術だけでなく、魔力すらも例外ではなかった。

 周囲に溢れかえった魔力。

 魔獣が湧出する一歩手前のそれすらも、銀の炎が炙れば灰に変わる。

 これによって、セイヴの周囲には、モリヒトの魔術が通らない空間が発生していた。

 その中に踏み込めば、セイヴの剣と直接打ち合わなければならなくなる。

 だが、モリヒトにそこまでの技量はない。

 結果として、大剣の届かない距離を保ちつつ、四方八方からセイヴに向かって魔術を放つモリヒトと、それを迎撃するセイヴ、という構図が出来上がっていた。

 『竜殺し』を実行するため、セイヴが円形の台座から動けない、というのも大きい。

 加えて、両者ともに本気にはなり切れていない、という理由もある。

 互いに、相手に対して致命となるような攻撃は避けているからだ。

「どけ!」

「ちょっと待ってろ」

「待ってどうなる!」

「・・・・・・解決する?」

「そこはせめて言い切らんか!!」

「そりゃその通りなんだがなあ・・・・・・」

 それこそ言ってどうなる、という具合だ。

 うまくいく保証なんてないのだ。

「というか、何をやらかす気だ?!」

 攻防が膠着しているためか、セイヴはモリヒトへと問いを投げる気になったようだ。

 それに対して、モリヒトは一度足を止めた。

 応じるように、セイヴもまた剣を振る動きを止める。

「・・・・・・賭けではあるんだが」

「早く言え」

「召還だよ」

「・・・・・・何?」

 モリヒトの答えに、セイヴは眉をひそめた。

「今、ユキオは『竜』の中にいる。あの中は、この世界のちょっと外だ」

「・・・・・・だからどうした?」

「だが、地脈のつながる先ではある。・・・・・・今のユキオは、半端に『竜に呑まれた』状態なわけだが」

「だから、召還が通じるとでも?」

 あり得ん、とセイヴは首を振った。

「そもそも、召還の儀式はそこまで簡単に実行できるものではあるまい」

「通常ならな」

 通常の『王の召還』は、異世界にいる異王候補者の捜索と召還を同時に行う。

 このうち、多大なリソースが必要になるのは、捜索の方だ。

 見つけてしまえば、それを引っ張ってくるのはそれほど難しくはないのだ。

「完全に世界の外に行ってしまっていたら無理だろうな。だが、今なら、捜索は要らない。なにせ、あそこにいる」

 くわえて、

「守護者の縁を使えば、召還に必要な縁も補強できる。儀式はだいぶ簡略化できる」

「・・・・・・・・・・・・」

 一考の余地はあると踏んだか、セイヴが剣先を下げた。

 それに対し、モリヒトも構えを解く。

「ルイホウとクリシャは可能と踏んだし、俺のカンでもいけると出てる。・・・・・・あとは、時間の問題ってわけだ」

「お前のカンは知らんが、あの二人が可能というなら、確かに待つ意味は、あるかもしれん」

 むう、とセイヴは考え込んだ。

 そうして考え込むセイヴを、モリヒトは邪魔しないように黙って見守るのだった。


** ++ **


「というわけです。はい」

「なるほど。・・・・・・で? 私たちはどうすれば?」

 ルイホウの説明を聞いて、アトリは問い返した。

「陣を敷きました。皆様は、三方に三角形を描くように立ってください。はい」

 ルイホウの指示に従い、アトリ、アヤカ、ナツアキの三人は、それぞれの場所に立った。

「ユエル。大丈夫ですか? はい」

「せ、先輩・・・・・・」

 儀式場からここまでアトリに連れてこられたユエルは、動揺が抜けきっておらず、視線がふらふらと揺れ、突き出た耳が力なく垂れている。

「・・・・・・しっかりしなさい。ここからは、貴女にも手伝ってもらいます。はい」

「で、でも。・・・・・・私じゃ・・・・・・」

「貴女がしなければなりません。次期巫女長である貴女が。いいですね? はい」

「私には・・・・・・!」

 不相応、と続けそうになったユエルの口を、ルイホウは押さえた。

「泣き言は聞きません。しっかりしなさい。はい」

「・・・・・・先輩」

「私が、きちんと補助をします。・・・・・・貴女ならできます。はい」

 肩をつかみ、ルイホウはユエルの目を覗く。

「できます。・・・・・・いいですね? 貴女がするべきは、ユキオ様の存在を探すこと。召還自体は、私が行います。はい」

「・・・・・・私に・・・・・・」

「これは、貴女の方が向いているんです。貴女は、魔力に敏感だから、この儀式場の荒れた魔力の中でも、ユキオ様の魔力を見つけられるはずです。はい」

 それに、

「貴女は今、『竜殺しの大祭』の実行のために、ユキオ様の魔力と近しい状態にあります。・・・・・・貴女にしかできないんです。はい」

 ルイホウの言葉を聞き、ユエルは不安を顔に浮かべながらも、頷いた。

「・・・・・・やり、ます!」

「よい子です。はい」

 ルイホウは微笑み、ユエルの肩を放す。

 それぞれに、儀式に必要な立ち位置に立つと、

「では、始めます! はい」

 二人は声を合わせて、詠唱を始めるのだった。


** ++ **


「・・・・・・間に合うか?」

「そこは賭け」

「・・・・・・・・・・・・不安だな。おい」

「じゃあ、どうする?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 しばし、セイヴは考えた。

 セイヴとしては、『竜殺し』を正当にできるならば、それが一番だ。

 正直、ここでユキオを失うことは、オルクトにとっては損が大きい。

 次の異王の召還は、そう簡単なことではない。

 先代異王の死後、ユキオを召喚するのに数年がかかったのだ。

 ここでユキオを失えば、同じだけの時間がかかると見るべきだ。

 地脈の問題だけではない。

 それによって引き起こされる様々な問題は、オルクト、テュールの両国において、国力の低下を招いている。

 セイヴのアートリアならば『竜』は殺せるが、『竜殺し』ではない。

 『竜殺し』によって発生する反動を抑えられないため、たとえ『竜』は殺せたとしても、最悪を防ぐだけで結果としてはよくない。

「・・・・・・少しなら、待ってやる」

「ありがたいね」

 セイヴのその答えを聞いて、モリヒトは、ほっと息を吐いた。

 正直、セイヴと戦闘をするなど、冗談ではない、と思うところで・・・・・・、


 ごおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!


 空間が震えた。

 それは、モリヒトの背後方向。

 岬の先端方向からの異常だった。

 『竜』だ。

 『竜』が、吼えている。

「・・・・・・なんだ?!」

「・・・・・・おいおい・・・・・・」

 セイヴが警戒に顔をしかめるのと、モリヒトが何が起ころうとしているのかを感じたのは、ほぼ同時。

 そして、地脈と接続しているモリヒトだからこそ、何が起ころうとしているのかを、ほぼ正常に察した。

 それは、

「まさか・・・・・・」

 空気が重みを増した。

 これまで、そこにいるだけであった『竜』が、明確に存在感を放ち始めている。

 その『眼』に、確かに意思が宿り始めている。

「・・・・・・まさか、『竜』そのものが魔獣化するのか?!」

 どちらが発した問いであったか、答えたのは、風の唸りにも似た咆哮であった。


** ++ **


 『竜』が吼えた。

 魔力の凝縮、偶然とはいえ、ユキオという『核』を得たこと。

 その二つにより、『竜』の具現化は加速した。

 『瘤』の段階を経ずに、魔獣となろうとしているのだ。

 だが、まだ『竜』は動かない。

 『竜殺しの大祭』の儀式魔術の効果は継続中だ。

 その効果によって、『竜』は『殺される』立場からは動けない。

 だが、

「時間切れだな」

 セイヴは、そう判断した。

 空間の泡立ちから出現した魔獣たち。

 すべてセイヴとリズが炎で薙ぎ払ったとはいえ、出現した際に儀式場の方にいくらかの傷がつけられることは避けられていない。

 『竜殺しの大祭』の儀式場としての役割は、破綻してもおかしくない。

 だからこそ、効果のあるうちに、『竜殺し』を成す必要がある。

 一方で、モリヒトも感じ取っていた。

 今、あの『竜』には、ユキオという『核』がある。

 あの『核』を引っこ抜ければ、あの『竜』は実体を失い、ただの魔力へと構造がゆるみ、それによって地脈の流れに押し流されるようにして世界の外へ押し出される。

 すなわち、『竜殺し』は完遂される。

 ユキオの振るった『竜殺し』の一撃による、世界の外へと魔力を押し出す流れは、まだ失われていないのだ。

 つまり、ユキオの召還が成功すれば、『竜殺し』は完了だ。

 勝算は、かなり高い。

「・・・・・・やれやれだな」

 モリヒトは、剣を構えた。

「・・・・・・モリヒト」

「まだ、だ」

「もう待てんよ」

 セイヴは、剣を構えた。

「どけ。次は、お前ごと斬る」

 その目には、覚悟が乗っていた。


評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ