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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第25話:竜殺し・前夜祭(7)

 サラは、ミケイルの戦況が変化したことを見ていた。

 先ほどまで、一進一退、というか、どちらも決め手に欠けた戦闘となっていた。

 攻撃が当たらないミケイルと、攻撃が通らないモリヒト。

 有効な一撃がどちらかにできれば、それで戦況が傾きかねない状況ではあったが、どちらにもそれを見出すことはできていなかった。

 そこに、互いに一撃を叩き込み合った。

 結果は、かろうじてミケイルの勝利、だろう。

 互いに、攻撃の威力は同等に近かったはずだ。

 直撃を受けたミケイルと、一応は防御をしていたモリヒトと。

 だが、結果は、当人自身の防御力がものを言った。

 ミケイルの勝ちだ。

 ミケイルが、トドメを指すためにモリヒトに近づくまでを見て取って、サラは、意識せず、ほっと息を吐いた。

 だが、すぐに状況は変化した。

 ミケイルのトドメの一撃を退け、モリヒトが立ち上がり、そして、モリヒトの攻撃がミケイルに通じるようになった。

 そこからは、先ほどと一見は同じ流れだった。

 ミケイルの攻撃は当たらない。

 だが、モリヒトの攻撃は通じている。

 ミケイルの攻撃をかいくぐり、モリヒトの攻撃が行われ、その度にミケイルの血が飛ぶ。

 ミケイルが負う傷自体は、持ち前の再生能力ですぐさま治っている。

 だが、ミケイルの再生能力は無尽蔵ではない。

 魔力的には問題なくとも、再生時には、微弱ながら体力は消耗する。

 永遠と繰り返し続ければ、どこかで体力は尽きる。

 一応、食事を摂れば問題ないし、そのための非常用の栄養食も持っている。

 だが、あれだけの連撃の中ではそれを口にする余裕はないだろう。

 それ以前に、先ほどのモリヒトが放った魔術で、それらの備蓄は焼き尽くされている可能性もある。

 加えて、先ほどの重傷からの回復による体力回復は、確実に体力を削っているし、その後に連続で傷を負わされては、まずいはずだ。

 それは、ミケイルも自覚しているはずだ。

 だが、ミケイルは楽しそうな笑みを浮かべたまま、延々モリヒトと打ち合っている。

「おらおら!!」

「・・・・・・」

 勢いよく拳を打ちまくっているミケイルに対し、モリヒトは落ち着いた様子で攻撃をしかけている。

 最初は、軽い切り傷程度だったものが、数を重ねるごとに徐々に深くなりつつあるように見える。

 飛び散る血の量が増えているのだ。


** ++ **


 ミケイルは、状況を楽しんでいた。

 自分と明確に打ち合っている。

 ミケイルに対し、モリヒトの攻撃が一方的に通じているように感じるが、それだけではない。

 モリヒトに対して、ミケイルの攻撃も結構入っている。

 かするような当たりもあれば、真正面からの当たりもある。

 だが、そのすべてが手応えはあっても、攻撃として成立していない。

 すべて、防御されている。

「は、なんだそりゃ?!」

 ミケイルは疑問の声を上げた。

 ミケイルが攻撃を打ち込むと、ライトシールドによるものと思われる障壁が発生し、それを防ぐのだ。

 撃ち抜けるはずのそれが、撃ち抜けない。

 時折、小規模にでも手甲の衝撃を解放しているが、それはすべて防がれている。

 明らかに、先ほどまでの障壁とは強度が違う。

 そもそも、色が違った。

 もともと、モリヒトが持つライトシールドが発生させる障壁は、ほとんど透明の薄い青色をしている。

 だが今、その障壁は、明確に赤かった。

 血の色だ。

 先ほど、モリヒトが流した血。 

 さらには、今ミケイルが流している血。

 それらが、飛び散る先からモリヒトのところへと向かい、周囲を揺蕩って、ライトシールドの障壁を強化している。

「・・・・・・ここで新技かよ!」

 力を込めて殴っても、赤黒い障壁がそれを防いでしまう。

 それでも、時折ガードをすり抜けて当たる攻撃はあるが、

「・・・・・・」

 モリヒトは、その攻撃を気にしないように前へ出る。

 いや、実際気にしていないのだろう。

 人間ではなく、まるで人間大の岩石でも殴っているかのような手応え。

 そして、ついた負傷は、どうやらすぐに再生しているようだ。

 まるで、ミケイルの体質である。

「俺の魔術を真似してんのかよ」

「そうでもない」

 返答があったことに、ミケイルは驚いた。

 モリヒトは、平坦な口調で続ける。

「どちらも、ただの体質だ」

 モリヒトの答えに、ミケイルは、は、と鼻で笑った。

「俺と同じじゃねえのかよ?!」

「ちがう。俺の体は、もともとこういう風に固くて、もともとこういう風に回復力が高いんだ」

 そんな思い込みでどうにかなるか、とミケイルは思うが、モリヒトの平坦な声は、それを一切疑っていない。

 ミケイルの拳に対して、モリヒトは直接剣を叩きつけ、はじき返す。

「おいおい・・・・・・!」

「俺は、もともとこれだけつよいんだ」

 口調は、相変わらず平坦だ。

 だが、その強化は明らかだった。

 確実に、モリヒトはミケイルより上回っている。


** ++ **


 狂信の魔術。

 効果は、異常を正常なものとして、心の底から信じる、洗脳系の魔術だ。

 地脈の中でアリーエ・ノクティスによってかけられたそれは、モリヒトの体質を相まって、効果を発揮していた。

 信じ込むことによって発生する強固なイメージが、モリヒトの体質を相まって、異常な強度の魔術として結実しているのである。

 洗脳には、こういう使い方もある、という見本のような使い方だ。

 モリヒトは、その力を感じながら、ずいぶんと単純に無敵の自分を信じていた。

 それで、魔術強度も何もかもが上昇するのだから、大したものである。

 イメージを、強く信じ込むのが強い。

 まさしく、魔術の原則であった。


** ++ **


 明らかに、ミケイルがモリヒトに押され始めている。

 最初は攻撃をかわし合っていたというのに、徐々にモリヒトからの攻撃の頻度が増え味めている。

「・・・・・・」

 その様子を見ていたサラは、まずい、と判断した。

 このままだと、負ける可能性が高い。

 だったら、とルイホウを振り返った。

 この時のために、ルイホウを捕まえておいたのだから。

「・・・・・・足りませんね。はい」

 だが、振り返ったと同時、ずるん、と足元をすくわれた。

「一つ、忠告をします。はい」

 サラが見上げた視界の中、ルイホウが立っていた。

「私は、毒物には耐性があります。はい」

 加えて、

「たとえ魔術の発動を阻害しようとも、私の服につけられた魔術具には、毒物の浄化作用があります。はい」

 ルイホウの武装解除には、杖を取り上げるだけではだめだ。

 着ている服を脱がし、装身具をはぎ取る必要がある。

 加えて、ルイホウの場合は、体に仕込んだいくつかの魔術式も、破棄する必要があった。

 すべて、巫女衆として、ルイホウが自分の体にしている備えである。

 水によってサラを捕らえ、ルイホウは杖を取り戻す。

「あちらは、大丈夫、とは言えないですね。はい」

 ルイホウは、モリヒトの現状を見る。

 明らかに、おかしい状態だ。

 モリヒトは、あんな天然で人間離れはしていない。

 どちらかというと、薬物か何かでトリップ状態にあるように見える。

「・・・・・・あれ、貴女たちの仕業ですか? はい」

「ふざけないで。だったら、なんでミケイルがやられてるの!?」

「それもそうですね。はい」

 やれやれ、とルイホウはため息を吐いて、サラを見た。

「敵対しないでください。勝負はもう着きました。はい」

「・・・・・・どうしろってのよ?」

「どうやら、地脈から何かの干渉を受けているようです。幸い、ここに地脈があります。はい」

 ルイホウが、砕かれたトーテムを見る。

 自分で砕いたトーテムではあるが、地脈の位置を確かめるにはいい目印だ。

「地脈に干渉して、モリヒト様にかかっている魔術を解除します。・・・・・・貴女は、貴女の相方を連れて去ってください。はい」

 もう、戦っている場合ではないだろう、とルイホウは判断しているのだ。

 サラも、それには賛成ではある。

 あそこまでぼこぼこにされておいて、負けていない、とは言わせない、と決意する。

「いいわ。私たちは撤退する」

「では、お願いします。はい」

 ルイホウは、サラを解放すると、モリヒト達へと向き直る。

「・・・・・・手間をかけてくれます。はい」


評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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