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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第14話:前祭・三日目(1)

 翌朝、モリヒトは、起き抜けにセイヴの訪問を受けていた。

「・・・・・・暇なの?」

「もう暇がないから、ここで会いに来たんだよ」

 朝食を摂りつつ、モリヒトは、セイヴと会話する。

 この後、セイヴは、飛空艇に乗って、『竜殺しの大祭』儀式場がある、テュール異王国の北西端に向かう。

 儀式場の周囲には、毎年のこの時期のために、滞在施設が完備されているという。

「金かけてるんだな」

「北西端は、岬になっている。その先は海で、そして、この大陸の地脈が終わる場所でもある」

 海の中にも地脈ってないのか、と思わなくもないが、この世界ではないらしい。

 大陸は、真龍の座所。

 人間や、その他の生物は、皆、その一部に勝手に間借りしているだけ、ということになる。

 地脈を通った魔力は、大陸端の地脈の終点から海に流れ込む。

 海に流れ込んだ魔力は、海水の蒸発に乗って上空へと昇り、大気の循環に乗る。

 これらの魔力は、地脈から溢れて大気へと混ざった魔力や、人をはじめとした動植物が使った魔力などと混ざり、循環して、やがて真龍に吸収される。

 そして、次に新しい魔力が地脈に流れてくる。

 魔力の循環は、そのようになっている。

 地脈は、この魔力の循環の中で、明確に筋となっている流れだ。

 流れる場所と流れない場所が明確に分かれている。

 そのためか、その流れには詰まりや淀みが発生することがある。

 それが大規模になると、『瘤』という形で表出する。

「本来、地脈の終点となるのは、大陸の海岸沿いに無数に存在する。だが、その無数に存在するものの内、大陸西側に流れる地脈のほぼ九割以上が、テュールにある終点にも流れている」

 地脈の流れは、一本ではない。

 複雑に枝分かれし、合流したり、分岐したり、と繰り返しているのだ。

 テュール異王国への地脈の流れを順にさかのぼると、ほぼヴェルミオン大陸の西半分を網羅する。

 それが、テュール異王国で『竜殺しの大祭』が行われる理由でもある。

「要は、ヴェルミオン大陸西部、ひいては、オルクト魔帝国の大半で起こる地脈の淀みやらなんやらを一か所にまとめるのに、テュールの地は最適だった、というわけだ」

「うん? なんか昔、テュールの土地は界境域って呼ばれている場所で、異空間の向こう側に繋がりやすい土地、とかなんとか聞いたが?」

「その界境域発生の理由だよ。つまりこれが」

「・・・・・・ああ、なるほど」

 セイヴの説明を聞きながら、モリヒトは、ふむ、と唸る。

「でもよ。『竜殺しの大祭』って、魔力のそのよどみとかを異世界に送っちまうんだろ?」

「理屈の上ではな」

「・・・・・・いつか、この世界から魔力がなくなったりしないか?」

「・・・・・・ほお?」

 食事を摂る手を止め、セイヴが眉を上げた。

 その表情は、モリヒトがそこに気づくとは、と素で感心しているように見える。

「その、よく気づいたな、みたいな顔はやめい」

「まあ、俺様も、『竜殺しの大祭』の仕組みを聞いた時には、似たようなことを思ったよ。・・・・・・で、直接『黒の真龍』に聞いたことがある」

 セイヴとしては、

「俺様の国が極めて多大な利益を得ている儀式だ。それが、世界に多大な悪影響を与えているとしたら、大変なことだからな」

「で? 返答は?」

「問題ないらしい。空間の向こう側に吹っ飛ばされた魔力も、めぐりめぐって最終的には子の世界に帰ってくるんだとさ。・・・・・・むしろ、異世界からこっちの世界に流れ着く物品なんかは、その流れに乗ってしまったもの、ということらしい」

 肩をすくめているが、

「『竜殺しの大祭』で異世界に魔力を吹っ飛ばすから、それに巻き込まれて、こっちの世界から人があっちに行っちゃってるって言う可能性は?」

「あるだろうな。・・・・・・『竜に呑まれる』っていうのは、理論的には地脈の魔力の流れに飲み込まれて消えるってことだが、その魔力を異世界側に吹っ飛ばした場合、どっか別の世界に流れ着くってのは、十分にあり得る話だ。・・・・・・もっとも」

「うん?」

「『竜に呑まれた』存在が、地脈から取り戻せた前例は一切存在しない。そう言う意味では、異世界側で復活出来るというなら、そちらの方が幸運かもしれん。『竜に呑まれる』ことを予防する方法は、今のところ見つかってはいないしな」

「・・・・・・そうかい」

 ユキオのように、『竜に呑まれた』結果、めぐりめぐって異世界の王になる者もいる。

 あるいは、気付かれていないだけで、異世界から流れ着いて、向こうで生きている者もきっといるだろう。

「ま、そんなことはともかく、だ」

「おん?」

「モリヒトは、儀式場にはいかないんだな?」

「ああ。俺の体質が、儀式に妙な影響を与えないとも限らんしな。念のため、こっちにいる」

「結構、派手なもんだから、見ると楽しめるんだがな」

「今回は見送るさ。来年以降も機会はあるだろ」

 少なくとも、対策はできていると聞いている。

 ただ、今回は、規模が数年分をまとめてやるだけに規模が大きくなりそうだし、そこに初めての余計なものを混ぜることもないだろう、という判断だ。

「なんだ。お前は、こっちに残るの確定か」

「今のところ、うまく帰れるかどうかも定かじゃないんでね」

 別に、向こうの世界に未練があるわけでもなし、こちらにはルイホウがいるし、と内心でだけ呟いて、

「ま、お前らがお仕事してる間、じっくりと祭を楽しんでいるよ」

「気楽に言ってくれやがる」

 は、とセイヴは笑った。


** ++ **


 朝食を終え、食後の茶を飲んでいると、セイヴはふむ、と考えた。

「なんか、リューディアもイザベラも、お前のことを妙に気に入っているんだよな」

 リューディア、というのは、今回は同行していない、セイヴの第一妃である。

 モリヒトとは、オルクト魔帝国にいた時に、面識がある。

 イザベラ同様、かなり観察はされた覚えがあるが、気に入られる心当たりはない。

「お? なんだ嫉妬か?」

「ざけんな。あいつらが俺様以外に惚れるか」

「へいへい。惚気惚気」

 それはともかく、

「妙な話だが、モリヒトをオルクト魔帝国に士官させたらどうか、みたいな話を言っている」

「そりゃ妙な話だな」

 オルクト魔帝国に士官、と出たあたりで、同じ部屋にいたルイホウが軽く反応したが、モリヒトが肩をすくめて、

「でもないね。過ごすなら、テュールの方が気楽」

 そう言ったことで落ち着いた。

 ちなみに、現在イザベラの方は、別に朝食を摂っている。

 なんで二人じゃないのかといえば、あちらは今日の準備ということで、飛空艇でいろいろやっているらしい。

 セイヴはいいのか、と思わないでもないが、セイヴにはセイヴの役割があるという。

 朝食を一緒に摂れないのは、珍しい話ではないとは言うが、

「それでいいのか、と一応聞いておく」

「いいんだ。今回はな」

 打ち合わせ済みだという。

「何せほれ。俺は目立つだろう?」

「・・・・・・・・・・・・まあ、そうだな」

 こういう自慢をさしはさまれると、どう反応するべきか時々分からなくなることがある。

「で? 誰に対する目くらました?」

「テュールは友好国だし、その仲は極めて良好ではあるが、仲がいい、ということは、喧嘩する時も派手になる、ということだ」

「は?」

「ま、主に政治面でな。この国の大臣は、狸どころか、妖怪でなあ・・・・・・」

 遠い目をして、何を思っているのか。

 とりあえず、セイヴがベルクートのことを言っているのは分かる。

「今日やるのは簡単なことなんでな。俺様がこうやって、余裕を見せておかんと、どう馬鹿にされるか」

「大変だな」

「マジできつい。・・・・・・宰相連れて来たかった」

 はああああ、と深いため息を吐くセイヴを見て、ほう、と思う。

 いつも不遜なほどに余裕たっぷりでいるセイヴとしては、珍しい姿だ。

「それより、モリヒト。お前の方こそどうなんだ?」

「何が?」

「酒飲んで祭を楽しんで、というのは分かるが、それ以外に進展はないのか?」

「一昨日の夜も言ったな。特にない。・・・・・・いや、マジでねえんだよなあ?」

 何かあるんじゃないか、と疑いながら王都を出歩いている身としては、何も起こらないことに、本当に首を傾げている。

 モリヒトの言葉を聞いて、セイヴはふむ、と唸ってから、

「この祭の間、動かない気か?」

「だったらいいんだけどねえ」

「だが、動くとしたら、今日だぞ?」

「そうかい?」

「王都から儀式場までの間に、大きな街はないし、警戒はかなり厚い。何かよからぬ輩が動くとすれば、王都で、だ」

 実際、テュール異王国の王都、というのは、国内でも割と北西寄りにある。

「そして、王都から儀式場まで向かうには、陸路なら馬車でも半日はかかる。・・・・・・今日中に何も動きがなければ、明日の『竜殺しの大祭』が始まるまでには間に合わん」

「・・・・・・なるほど」

 移動、ということを考えると、確かにそうなんだろう。

 とはいえ、

「俺とルイホウで、魔術全開で移動したら、もうちょい早く移動できそうなもんだが」

「そりゃ、魔術全開で移動するならな」

「ですが、ものすごく疲労しますよ。はい」

 ルイホウに補足を入れられて、確かに、と唸る。

「それに、そういう移動方法を計算に入れるのは、不確定に過ぎる」

「それもそうか。前にやった時は、俺はぶっ飛ばすだけぶっ飛ばして、方向の制御とかルイホウ任せだったもんなあ・・・・・・」

「大変でした。はい」

「ごめんね?」

 しみじみと頷かれてしまうと、さすがに少し申し訳ない。

「ま、狙いがお前だけだっていうなら、一番警備が薄くなるだろう、明日、っていう可能性もあるけどな」

「どっちにしろ、気は抜けない、と」

「・・・・・・お前、そんな警戒できるのか?」

「はっはっは。人間には、できることとできないことがある」

「自慢気に言うことではないぞ」

 それはそれとして、

「ま、今日も一日、祭を楽しむさ」

「気楽でいいねえ・・・・・・」

 セイヴの心底うらやましそうな声を耳にして、モリヒトはけらけらと笑うのであった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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