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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第11話:前祭・二日目(4)

「おん?」

 モリヒトが、ある通りへ差し掛かった時だった。

 とある光景を見つけて、モリヒトは思わず声を上げていた。

「・・・・・・ふむ」

 ま、しょうがないか、とため息を吐いて、モリヒトはそこへ近づく。

 後ろから、ルイホウとクリシャも続いていた。

「よう。ミーナさん」

「あ、モリヒトさん」

 ここ数日、聞きなれた声だ。

「こんにちは。なんか困ってる?」

「ええと、ちょっと・・・・・・」

 ナンパに絡まれて困ってる人って、本当にいるもんだなあ、と妙な感心を得つつ、モリヒトはミーナに近づく。

 ミーナに詰め寄っていた若い男二人。

 どちらも、出で立ちからして、冒険者か傭兵の類か。

 どちらにせよ、この祭に雰囲気に浮かれた類だろう。

 顔が赤らんでいるし、酔ってもいるようだ。

 そういう輩が、ナンパの邪魔をされれば、どういう行動に出るかなど分かり切っている。

「ああ? なんだてめえは!?」

 大声を上げて恫喝しながら、詰め寄ってくる。

「お前らが声かけたそちらのお嬢さんの友人だよ、と」

 こちらに伸びてくる手が、襟首をつかんだ。

「俺らが、今、こちらのお嬢さんとお話してたよなあ?!」

「ナンパだろ? 迷惑がられてるんだから、諦めてもうちょっと軽くノってくれる女の子探せよ」

「ああ?!」

 はあ、とため息を吐く。

 そのまま、手を動かして、

「よ」

 軽い声とともに、襟首をつかんでいる腕をひねってねじり上げる。

 こういう手合いの相手は、なんだかんだで慣れている。

 何でもないのに絡まれるとか、前の世界でもよくあったからだ。

「いでででででっ!」

「もう一回言うけど、ナンパは数だ。手応え悪いな、と思ったら、さっさと次に行け。あと、酒に酔ってるなら、酒場でナンパしろ。素面で見知らぬ酔っ払いの相手を積極的にしたいと思う人間は、かなり奇矯で特殊だ」

 一人の腕をねじり上げていると、もう一人が殴り掛かってきたが、

「おっと」

 ねじり上げていた腕を引いて、その拳を避けると同時に、投げつける。

「喧嘩にするか? 祭で、そこら中を警備が歩いてるんだ。せっかくの祭の酔いに、頭か水ぶっかけられたいのか?」

「うるせええ!!」

 どっちがだ、と言いながら、ミーナの手を引いて後ろに下がる。

 そこまでやったところで、相手の二人が、それぞれに武器を抜いた。

「おいおい。喧嘩で済むところを、エモノ抜いたら、シャレじゃすまなくなるぞ?」

「黙れ!」

 叫んで、こちらに踏み込もうとした二人だったが、

「はい、そこまで」

 顎下から何かに打ち上げられて、宙に体が舞った。

「おや?」

「まったく、何をやっているんだい?」

 クリシャだ。

 杖を仕舞いながら、やれやれ、とため息を吐いたクリシャに、モリヒトは振り返る。

「ミーナさんが絡まれてたから、助けただけだぞ?」

「そういうことじゃないよ」

「意外です。モリヒトさん、結構喧嘩強いんですね」

 苦笑しているクリシャの横で、ミーナがモリヒトを見て、感心した口調でそう言った。

「そりゃ、こういう絡まれ方は、まあ、言っちゃなんだけど慣れててなあ・・・・・・。昔は、なんも関係ないのに、ちょっと見ただけでガンつけたとか言われて、よく喧嘩に巻き込まれて・・・・・・」

 ははは、とモリヒトは笑う。

 毎回巻き込まれるおかげで、いやがおうにも喧嘩に関しては鍛えられた。

 そのままだとどうしようもないので、ちょっと喧嘩強い友人に鍛えてもらったりもしたが、

「街中で、人同士の喧嘩なら、最終的にものをいうのは、気合と根性と負けん気だ」

「何を偉そうに言っているんですか。はい」

 ルイホウは、後ろに警邏の兵を連れて来ていた。

「酔っ払いです。はい」

「はい。ご協力感謝します」

 兵たちも、この手の騒動が多いのか、ちょっと疲れ気味だ。

 引っ立てられて連れていかれた男二人を見送って、モリヒトはミーナを見た。

「こんにちは」

「こんにちは、モリヒトさん」

 にっこりと笑みを浮かべたミーナに、ルイホウとクリシャも挨拶を返した。

「ふむ。・・・・・・元気そうだな」

「はい。調子いいですし、後遺症の類もないです」

「そりゃよかった」

 退院した時点で、体調に問題がないことは聞いていたが、本人からも問題ないことを聞ければ、安心する。

「一人かい?」

「はい。・・・・・・モリヒトさんは、・・・・・・両手に花?」

 ルイホウとクリシャと二人いれば、そういう反応もあるか、とは思うけれど、

「一人だと寂しくない?」

「・・・・・・モリヒトさんも、ナンパですか?」

 くすくすとミーナに笑いながら言われて、モリヒトは肩をすくめる。

「そんなつもりはないんだけどね」

「まあ、トキトさん。祭の間は忙しいでしょうし」

 ミーナが少し寂しそうにしているように感じられて、ふむ、とモリヒトは顎をさする。

「『竜殺しの大祭』の本番が終われば、暇もできると思うけどね」

「ああ、多分それはそうなんだろうなって思ってます。この時期、お城に勤めている人は、お祭り楽しめないのは分かってるので」

 城に勤める者にとっては、『竜殺しの大祭』が終わった後の、後祭こそ、祭の本番、となる。

 この時期になれば、政務を一時止めてでも、祭に参加することも許される。

 つまり、それだけ、後祭の方が派手である。

「トキトさんも、後祭なら来るでしょうし」

「約束したのか?」

「・・・・・・・・・・・・」

 ミーナがにっこり笑った。

 なんか迫力があるのは、

「・・・・・・あー、約束してないのか?」

「はい。前祭が始まるまで、何度かお店に顔見に来てくれているのに、そういうお話、一回も出ませんでした」

 ふふふふふふふ、とミーナが笑っている。

「ヘタレだなあ、あいつ」

「まったくです。明らかに誘いに来ておいて、待っているのに、一切誘いの言葉を言わずに帰るとか、どうなんですか?!」

「・・・・・・想像以上にダメだろう、あいつ」

 というか、

「待ってたのか」

「そりゃ・・・・・・!」

 む、とした顔をしたミーナが、気付いたようで顔を赤くした。

「あうう・・・・・・」

「ふうん?」

 やっぱり、なんだかんだナツアキは上手くやっているのかもしれない。

 それはそれとして、

「だとすると、今日は一人で?」

「いえ、他の友達と待ち合わせを」

「ほう?」

「・・・・・・女の子ですよ?」

 そんなモリヒトの頷きをどう思ったか、ミーナがそう付け足した。

「男友達はおらんのかい?」

「んー、モリヒトさんくらいですかね」

「トキトの方は?」

「・・・・・・トキトさんは、私とお友達以上になりたいと思ってると思いませんか?」

「嫌なのか?」

「ふふ。それは、トキトさんが言ってくれるまで待ちます」

「なるほど」

 ミーナの方は、もう決めてる感じがするし、

「見てて一番楽しい時期はすでに終わってるか」

「その反応は趣味が悪いと思うんですよ」

 ミーナが苦笑した。

 ただ、

「・・・・・・んー、で? いつまでトキトって呼ぶんだ?」

「あ、それ聞きますか?」

「やっぱ気づいてるか」

「というか、何だったら最初に会った時から気づいてますよ? 本人が隠しておきそうだったので突っ込みませんでしたけど」

「気づいてて、あんだけ『守護者ナツアキ』を持ち上げてたのか?」

「見てて面白かったので」

 くすくすと笑うミーナを見て、モリヒトはルイホウへと顔を向ける。

「このお嬢さん、かなりいい性格してるぞ」

「普通では? はい」

「・・・・・・あ、そうすか」

 どう反応を返せというのだ、と思うが、クリシャの方は、にこにこしている。

「幸せそうでいいじゃないか」

「まあ、平和ではある」


** ++ **


 ミーナが友人と合流したので、モリヒトはそこで別れた。

「ナツアキは、どうする気なのかね?」

「何がだい?」

「うん。まあ、あいつ、最初のころは、こっちに残るかどうか迷ってたからよ」

「ああ、そういうこと」

 ミーナのことがあるから、残る選択をするかもしれないが、

「振られたから帰るかね」

「今の様子を見ている限り、振られるってことはなさそうだけど?」

 クリシャの言う通りではあるが、

「実際、けじめつけるのにどんくらいかかることやら」

「なんだか、保護者目線だね」

「・・・・・・うーむ」

 そんな風に言われてしまうと、モリヒトとしてもどう返したものか、と思ってしまう。

 それほど面倒を見たわけではないし、そんな目線になる理由もないはずだが、

「ま、放っておいてもうまくはいくだろう、あっちは」

「そうですね」

 屋台から飲み物を買って、ルイホウとクリシャのそれぞれに渡す。

「やっぱり、平和だよなあ」

 見回りだなんだ、と出歩いてはいるが、取り越し苦労だったか、と思わなくもない。

「祭りで遊び歩くのが目的かと思っていたけれど?」

「それも目的ではあるけれど、表向きの言い訳の方も、決して軽視していたわけではないのだぞ?」

「ぞ? じゃないよ。遊んでいるようにしか見えないよ」

 やっていることは、遊び歩くだけだから、それは当たり前だ。

 ルイホウやクリシャと一緒に、屋台を歩いて、甘いものを食べたり、飲み物を飲んだり。

 見た目のいい二人を引きつれているおかげで、モリヒトに向くヘイトじみた視線もあるが、モリヒトは気にしても仕方ないと思っている。

 ルイホウと二人で歩いている時ですら、そういう視線は向けられていたので、もう気にしても仕方がない。

「・・・・・・目立ってるから、見つかってないってことはないだろうし、やっぱり何もないかな」

「一応、前祭は、明日まであるけど?」

「でもよ。儀式場まで、馬車で移動して、半日以上かかるんだぞ? 『竜殺しの大祭』に何か仕掛けるなら、もうあっち行ってるだろうし、逆にこっちで何か仕掛けるつもりなら、なんか引っかかると思うんだよなあ・・・・・・」

 いくら警備が薄くなるとしても、王都は王都だ。

 何の準備もなしに、何かできるようなことはないだろう。

「・・・・・・今のところ、異常はない、と」

「そうなりますね。はい」

 ルイホウの頷きを受け、空を見やる。

「ま、日が沈むまではまだ時間あるし、もう少し見回りするか」

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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