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竜殺しの国の異邦人  作者: 比良滝 吾陽
第5章:竜殺しの大祭
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第8話:前祭・二日目(1)

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 顔をしかめるモリヒトを見て、ルイホウは、はあ、と大きくため息を吐いた。

「・・・・・・二日酔いですか? はい」

「頭痛い・・・・・・」

 あー、と唸りながら、モリヒトは長椅子の背もたれに背を預けて、ぐだー、と伸びる。

「・・・・・・水」

「はい、どうぞ。はい」

 ルイホウから差し出された水を口に含み、

「水が甘い・・・・・・」

「ただの水なので、味はないはずですよ。はい」

 酒で荒れた舌と喉には、甘く感じるのだ。

「朝食、食べられますか? はい」

「食うよ。・・・・・・ちょっと無理するけど」

 言いながら、モリヒトはあうー、と唸るのであった。


** ++ **


「よし、ちょっとすっきりした」

 朝ごはんとして出てきたご飯に、お茶をかけて流し込む。

 温かいお茶を、ゆっくりと口に運んで、はふ、と息を吐く。

 少し食休みを取ったところで、少しは体調が戻ってきた。

 とりあえず立ち上がり、あまり頭を振らないように歩く。

「また、今日も街に出るんですか? はい」

「ん。ちょっとふらふらするけど、外に出て風に当たった方がましな気がする」

「まあ、お付き合いしますけれど。はい」

「たのんだー・・・・・・」

 顔を洗おう。

 外に出て、動いて多少の汗をかけば、マシにはなるだろう。

「ともあれ、今日、ぐらいかね?」

 明日は前日。

 『竜殺しの大祭』の二日前である今日こそ、なにかしら起こる、かもしれない。


** ++ **


 酒宴は、壺の酒を飲み干したところで終わった。

 モリヒトも、あれからツマミとの相性の良さに杯を重ねたし、セイヴもイザベラもなんだかんだとモリヒトの倍は飲んでいる。

 ルイホウは控えめではあったが、それでもなんだかんだと飲んでいる。

 結構呑んだなあ、と思いつつ、モリヒトが一番飲んでいない。

 四人の中で、一番モリヒトが酒が弱かったようだ。

「モリヒトよ」

 去り際、立ち上がるのも困難になる程度には酔っぱらったモリヒトに、セイヴは声をかけた。

 多少赤らんではいても、しっかりと自分の足で立って歩ける程度には、無事な様子である。

 壺の中身は空となり、皿の上にももう残りはない。

 呼んだ侍女たちが、それらの片付けを終えた後、水を入れた杯を傾けていたセイヴは、モリヒトを見ていた。

「お前、何を狙っている?」

 声をかけられた方は、テーブルに突っ伏して、首だけ曲げて、セイヴを見た。

「何って、なにがー・・・・・・」

 声に力はない。

 顔の前に置かれた杯には、少し冷ました白湯が置かれている。

「・・・・・・あめー・・・・・・」

 その白湯を飲んでの、モリヒトの感想である。

「こら、聞け」

「だから、なにがー・・・・・・さ?」

「だめだ。完全に酔ってる」

「飲ませ過ぎなのですわ」

「俺様の半分も飲んでないぞ? こいつ弱すぎるだろう?」

「いいえ。セイヴ様は、強いですわよ? わたくしとて、決して弱くはありませんが」

 イザベラは、セイヴを見てそう言った。

 責めるような口調はなく、どちらかというとモリヒトを労わるような視線を向けた。

 ルイホウは、そのモリヒトの口元へと杯を運び、ちびちびと白湯を飲ませている。

「はあ。・・・・・・貴様、今日の昼、王都に出て成果はなかったのだろう?」

「あったぞー? ルイホウが可愛かった」

「それはさっき聞いた」

「あとなー。何もなかった」

「そうか」

「中に敵がいるはずなのになー」

 ぼう、とモリヒトは声を上げる。

 その声に、セイヴの視線は鋭くなる。

「敵だと?」

「べりがーる? あと、みけーるな?」

 酔っているから、口調がぐだぐだなモリヒトが上げた名を聞いて、セイヴは、うむ、と唸る。

「なるほど。確かに、今この国、というか王都にいるらしい、とは聞いているが」

「我々に事件以前に接触してきましたし、事件の中でも姿を見ています。『竜殺しの大祭』があることですし、必ずまだこの国に潜伏しているでしょう。はい」

 ルイホウの確信を持った頷きに、セイヴは唸った。

「多少は、警戒が必要か」

「じゃまはー、しねーと思うのよなー?」

「根拠は?」

「・・・・・・んー、かん?」

 白湯を飲んでいる内に、多少はマシになったか、モリヒトはテーブルに突っ伏していた身を起こした。

 また、杯をちびちびと傾けつつ、

「ベリガルの方は知らん。ただ、俺のことは嫌いだと思うし、俺の体質には興味あるだろう。・・・・・・ミケイルの方はな。俺は、あいつの天敵だからな」

 天敵ではあるが、正面から対峙したら倒せないこともない天敵だ。

 魔力を奪われれば、ミケイルは死にかねないが、死ぬ前に致命の一撃をモリヒトに叩き込むぐらいは、ミケイルにはたやすい。

 それに、ベリガルが何かしらの対策を施す可能性もある。

「まあ、街中で仕掛けるほどには、向こう見ずってわけでもないだろうけど」

 だが、街中で接触してくる、ぐらいはありえそうだというのが、モリヒトが街をうろついていた理由だったのだが。

「来なかった」

「そうか」

 一応、何も考えていないわけではないのか、とセイヴはモリヒトを見やった。

「・・・・・・ふむ」

 モリヒトを見たまま、セイヴはしばらく考え込んだ。

「いいか? 俺様は今回、やつらが何か仕掛けてきたとしても、おそらく助けには動けん」

「む?」

「『竜殺しの大祭』の儀式場にいることになる。そちらに何か仕掛けに来るならともかく、直接そちらを狙われでもせん限り、俺様は動けんぞ」

「いいよー」

 モリヒトは、気楽に言う。

「想定してたしー」

「そうか」

「むしろ、お前がいると出てこない可能性高いから、一緒に来なくていいしー」

「おいおい。それで対抗できるのか?」

 モリヒトは、危機感のない顔でへらりと笑う。

「対抗はしねえよ。戦っても勝てねえし?」

 そこは、もうモリヒトの方にも自覚がある。

 やり合うとしたら、ルイホウとクリシャに助けてもらわないとダメだろう。

 できれば、近接でミケイルを押しとどめられるのが、一人いるともっといいが。

「もし、あいつが本気で仕掛けてくるとしたら、『竜殺しの大祭』の最中だよ。・・・・・・ただ、そうなる前に、何か仕掛けられたら困るなーってんで、餌と見回りやってんだ」

「・・・・・・そうか」

 餌になっているかどうか、は、モリヒトにもわかっていない。

 実際には、ただ遊びまわっているだけでもあるからだ。

 ただ、出歩くことが無駄、ということもないだろう、と思っている。

 ベリガルにとって、モリヒトは、いろいろな想定外の塊だ。

 本番前に、何かしらの対処を狙う可能性は、十分にある、と思っている。

「・・・・・・こらー!」

 そんなことをのんきに言い合っていたら、モリヒトの部屋に声が響いた。

 そこにいたのは、クリシャだ。

「もうだいぶ遅いってのに、いい大人が何やってんの!?」

「酒盛り」

「なんでボクを呼ばない!? じゃなくて・・・・・・」

 横に置いて、

「そっちの魔皇様は、明日も早いでしょ! モリヒト君も、酔っぱらってるなら、さっさと寝なさい」

「お母さんか」

「やかましい」

 何はともあれ、それで解散となった。


** ++ **


「・・・・・・今日は、ボクもついて行くからね?」

 ルイホウを伴って、城の入り口まで行くと、そこにクリシャが待っていた。

「何か用でもあるのか?」

「護衛だよ。何かあると大変だからね」

「俺の?」

「一応ね。・・・・・・ボクもいた方が、間違いはないでしょ?」

「まあね」

 いてくれる分には、心強い。

「まあ、じゃあ、よろしく頼む」

「任せておいてよ」

 どん、と胸を叩くクリシャに笑みを向け、モリヒトは門の外へと視線を向けるのだった。

評価などいただけると励みになります。

よろしくお願いします。


別作品も連載中です。

『犯罪者たちが恩赦を求めてダンジョンに潜る話』

https://ncode.syosetu.com/n5722hj/

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